これまで完成車メーカーが主役だった中国の大型モーターショーで、自動車部品メーカーやIT大手が存在感を高めている。18日に開幕した上海モーターショーでは、車載電池大手の寧徳時代新能源科技(CATL)をはじめとする関連業界の企業が大規模なブースを構えて出展。世界の自動車業界でCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)が大きな潮流となる中、その流れが不可逆的なものになっていることを改めて印象付けた。【上海・川杉宏行】
CATLはブース内に電池交換ステーションを設置し、実演も行った=18日、上海市
複数の部品メーカーやIT企業が中国の大型モーターショーで完成車メーカーと同じホールにブースを設け、発表会まで行うのは今回が初めて。
大規模なブースを構えたのはCATLやドイツ自動車部品大手ボッシュなどのメーカーのほか、通信機器大手で車載ソフトウエアも手がける華為技術(ファーウェイ)、スマート運転用人工知能(AI)チップメーカーの北京地平線機器人技術研発(ホライズン・ロボティクス)、車載用システム・オン・チップ(SoC)や視覚センサーを手がける黒芝麻智能科技(ブラック・セサミ・テクノロジーズ)など。
このうちCATLは約900平方メートルのブースを設け、車載電池などを展示。開幕日から2日連続で発表会を行う力の入れようだ。18日は温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの戦略発表会、19日は「凝聚態電池」と名付けた新型電池の発表会を開いた。世界最大手のCATLの発表会は高い関心を呼び、会場に入りきれないほどの報道陣や関係者が詰めかけた。
凝聚態電池はリチウムイオン電池の一種で、高い性能と安全性を両立させた。電池セル単体のエネルギー密度は1キログラム当たり500ワット時で、従来の三元系リチウムイオン電池の水準350ワット時から4割高めた。年内に量産を始める見通しだ。
CATLはモーターショーに先立つ16日、自主開発したナトリウムイオン電池を中国自動車メーカーの奇瑞汽車の車両に搭載すると発表した。ナトリウムイオン電池はコストの安さが魅力で注目を集めている次世代電池だ。奇瑞汽車への搭載時期は明らかにしていない。
ブースではナトリウムイオン電池のほか、今年に入って量産を開始した新型電池「麒麟電池」などを展示。自社で展開する電池交換ステーションをブース内に設置し、実演も行った。
ボッシュはCATLよりもやや広めのブースを設け、車載部品を披露。展示内容はCASEそのもので、「電動化」「自動化」「コネクテッド」といったコーナーを設けて製品をアピールした。
電動化のコーナーでは、モーターのステーター(固定子)やローター(回転子)など電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)関連の部品を展示。来場者はブースのスタッフに熱心に質問するなど、関心の高さがうかがえた。
日系メーカーの関係者によると、CASEの動きが強まる以前の自動車業界は「走る、曲がる、止まる」といったクルマのメカニカルな機能を追求してきた。ただCASEの流れが広まって以降、自動車メーカー単独では完成車を生み出せない状況になっている。
部品メーカーの上海モーターショーへの出展拡大もこうした業界の方向性を反映しているとの見立てだ。
■垂直統合型メーカーに勢い
中国では昨年、半導体不足やサプライチェーン(供給網)の混乱による部品調達の遅れなどが発生。こうした流れを受けて、グループ内で重要部品を調達できる垂直統合型メーカーが勢いを増している。
その筆頭が「新エネルギー車(NEV)」大手の比亜迪(BYD)だ。BYDは今回、傘下の部品メーカー、弗迪科技(フィンドリームズ・テクノロジー)も出展。弗迪科技は熱管理システムやエアスプリング、ショックアブソーバー、固定型キャリパーなど多種多様な部品を展示した。
これらの部品は自社供給のほか、外販も行っている。対外的に売れ行きが良いのは熱管理システムという。業界に詳しい関係者は、「熱管理システムは日系メーカーが生産する同タイプの製品と比べて性能は同程度かやや劣るが、価格競争力があるため、価格重視の取引先からの引き合いが強い」と話す。
BYDはグループ内で車載半導体を含めたさまざまな部品を内製することで、価格競争力のあるNEVを販売することができる。
BYDが18日の発表会で披露した新型EV「海鴎」も内製化により価格を抑えた車種の一つ。海鴎はハッチバックタイプの小型車で、会場で発表された予約販売価格は7万8,800~9万5,800元(約150万~190万円)。エントリーグレードの価格が10万元を大きく下回ったことが、業界では驚きをもって受け止められたようだ。
BYD傘下の弗迪科技のブースで、来場者に車載製品の説明をするスタッフ(左から2人目)=18日、上海市
自動車大手の広州汽車集団(広汽集団)も垂直統合型を目指して動き出している。広汽集団のブースでは、自社開発の車載電池「弾倉電池」を展示。弾倉電池は三元系リチウムイオン電池で、「針を突き刺す実験でも発火しない」(同社関係者)と安全性を強調した。ブース内では、リチウム鉱石をはじめ電池原料の実物を数十種類並べ、素材分野にも強いことを印象付けた。
広汽集団傘下のNEVメーカー、広汽埃安新能源汽車(AION)は弾倉電池を搭載したNEVを売り出しており、足元の販売は好調だ。AIONの3月の新車販売台数は前年同月比97.0%増の4万25台。有力新興NEVメーカーの月間販売は最近5,000~1万5,000台程度で推移しており、競合他社との差を広げている。
■新興NEV勢は失速気味
一方、中国で18年あたりから自動車市場を盛り上げてきた新興NEVメーカーは失速気味だ。上海モーターショーでの存在感も相対的に低下しつつある。
中国NEV市場では19~20年ごろ、上海蔚来汽車(NIO)、理想汽車(Liオート)、威馬汽車科技集団(WMモーター)、広州小鵬汽車科技(Xpeng)の4社が頭角を現し、「4強」と称されたが、威馬汽車の販売が伸びなくなり、経営難に陥って先頭集団から脱落した。
小鵬汽車の月間販売台数は昨年後半からたびたび前年同月を下回っており、今年に入ってからは3月まで節目の1万台を3カ月連続で割り込んだ。今回のモーターショーでは新型スポーツタイプ多目的車(SUV)「G6」を発表したが、巻き返しの起爆剤になるかは不透明だ。
NIOの3月販売も3.9%増の1万378台と勢いを欠く。今回のモーターショーに合わせた新型車の発表はなかった。
かつての4強で、唯一気を吐いているのが理想汽車。3月販売は88.7%増の2万823台と好調だった。今回のモーターショーでは、25年までの経営戦略を打ち出すなど、存在感を見せた。
小鵬汽車が発表した新型EV「G6」=18日、上海市
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このうちCATLは約900平方メートルのブースを設け、車載電池などを展示。開幕日から2日連続で発表会を行う力の入れようだ。18日は温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの戦略発表会、19日は「凝聚態電池」と名付けた新型電池の発表会を開いた。世界最大手のCATLの発表会は高い関心を呼び、会場に入りきれないほどの報道陣や関係者が詰めかけた。
凝聚態電池はリチウムイオン電池の一種で、高い性能と安全性を両立させた。電池セル単体のエネルギー密度は1キログラム当たり500ワット時で、従来の三元系リチウムイオン電池の水準350ワット時から4割高めた。年内に量産を始める見通しだ。
CATLはモーターショーに先立つ16日、自主開発したナトリウムイオン電池を中国自動車メーカーの奇瑞汽車の車両に搭載すると発表した。ナトリウムイオン電池はコストの安さが魅力で注目を集めている次世代電池だ。奇瑞汽車への搭載時期は明らかにしていない。
ブースではナトリウムイオン電池のほか、今年に入って量産を開始した新型電池「麒麟電池」などを展示。自社で展開する電池交換ステーションをブース内に設置し、実演も行った。
ボッシュはCATLよりもやや広めのブースを設け、車載部品を披露。展示内容はCASEそのもので、「電動化」「自動化」「コネクテッド」といったコーナーを設けて製品をアピールした。
電動化のコーナーでは、モーターのステーター(固定子)やローター(回転子)など電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)関連の部品を展示。来場者はブースのスタッフに熱心に質問するなど、関心の高さがうかがえた。
日系メーカーの関係者によると、CASEの動きが強まる以前の自動車業界は「走る、曲がる、止まる」といったクルマのメカニカルな機能を追求してきた。ただCASEの流れが広まって以降、自動車メーカー単独では完成車を生み出せない状況になっている。
部品メーカーの上海モーターショーへの出展拡大もこうした業界の方向性を反映しているとの見立てだ。
■垂直統合型メーカーに勢い
中国では昨年、半導体不足やサプライチェーン(供給網)の混乱による部品調達の遅れなどが発生。こうした流れを受けて、グループ内で重要部品を調達できる垂直統合型メーカーが勢いを増している。
その筆頭が「新エネルギー車(NEV)」大手の比亜迪(BYD)だ。BYDは今回、傘下の部品メーカー、弗迪科技(フィンドリームズ・テクノロジー)も出展。弗迪科技は熱管理システムやエアスプリング、ショックアブソーバー、固定型キャリパーなど多種多様な部品を展示した。
これらの部品は自社供給のほか、外販も行っている。対外的に売れ行きが良いのは熱管理システムという。業界に詳しい関係者は、「熱管理システムは日系メーカーが生産する同タイプの製品と比べて性能は同程度かやや劣るが、価格競争力があるため、価格重視の取引先からの引き合いが強い」と話す。
BYDはグループ内で車載半導体を含めたさまざまな部品を内製することで、価格競争力のあるNEVを販売することができる。
BYDが18日の発表会で披露した新型EV「海鴎」も内製化により価格を抑えた車種の一つ。海鴎はハッチバックタイプの小型車で、会場で発表された予約販売価格は7万8,800~9万5,800元(約150万~190万円)。エントリーグレードの価格が10万元を大きく下回ったことが、業界では驚きをもって受け止められたようだ。
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自動車大手の広州汽車集団(広汽集団)も垂直統合型を目指して動き出している。広汽集団のブースでは、自社開発の車載電池「弾倉電池」を展示。弾倉電池は三元系リチウムイオン電池で、「針を突き刺す実験でも発火しない」(同社関係者)と安全性を強調した。ブース内では、リチウム鉱石をはじめ電池原料の実物を数十種類並べ、素材分野にも強いことを印象付けた。
広汽集団傘下のNEVメーカー、広汽埃安新能源汽車(AION)は弾倉電池を搭載したNEVを売り出しており、足元の販売は好調だ。AIONの3月の新車販売台数は前年同月比97.0%増の4万25台。有力新興NEVメーカーの月間販売は最近5,000~1万5,000台程度で推移しており、競合他社との差を広げている。
■新興NEV勢は失速気味
一方、中国で18年あたりから自動車市場を盛り上げてきた新興NEVメーカーは失速気味だ。上海モーターショーでの存在感も相対的に低下しつつある。
中国NEV市場では19~20年ごろ、上海蔚来汽車(NIO)、理想汽車(Liオート)、威馬汽車科技集団(WMモーター)、広州小鵬汽車科技(Xpeng)の4社が頭角を現し、「4強」と称されたが、威馬汽車の販売が伸びなくなり、経営難に陥って先頭集団から脱落した。
小鵬汽車の月間販売台数は昨年後半からたびたび前年同月を下回っており、今年に入ってからは3月まで節目の1万台を3カ月連続で割り込んだ。今回のモーターショーでは新型スポーツタイプ多目的車(SUV)「G6」を発表したが、巻き返しの起爆剤になるかは不透明だ。
NIOの3月販売も3.9%増の1万378台と勢いを欠く。今回のモーターショーに合わせた新型車の発表はなかった。
かつての4強で、唯一気を吐いているのが理想汽車。3月販売は88.7%増の2万823台と好調だった。今回のモーターショーでは、25年までの経営戦略を打ち出すなど、存在感を見せた。
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