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火力発電の脱炭素、日系が模索混焼技術でネットゼロに前進(上)

インドは2070年までにネットゼロ達成を目指しているが、国際エネルギー機関(IEA)の試算では40年時点でも、化石燃料がエネルギー需要全体の70%以上を占める。そこで注目されているのが、化石燃料に水素やアンモニアを混ぜることで燃焼時の二酸化炭素(CO2)排出量を抑える混焼技術。この技術で先行する日本企業は地場企業と組み、実用化を模索し始めている。【榎田真奈】
昨年に人口が14億人に達したインドは、電力需要で世界3位。温室効果ガスの排出量でも世界3位だ。さらに21年から30年にかけて、「インドの電力需要は、年率3%と世界で最も急速に拡大する」とIEAは予測する。
こうした中、モディ首相は21年に、温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ」を70年までに達成する目標を示した。ただ、石炭をはじめとする化石燃料は、少なくとも40年までは主要なエネルギー源であり続ける見通しだ。
IEAによると、インドの一次エネルギー需要に関する実現可能性が最も高い「現行政策シナリオ」では、40年時点で石炭の占める割合が34%で最も高い。次いで石油が26%、天然ガスが11%と、化石燃料の割合は71%に上る。
石炭への依存が大きい理由は、インドが世界2位(21年時点)の石炭生産国であるからだ。埋蔵量が豊富で安定的に供給しやすく、安価な国産石炭は、インドの発電に欠かせない。石炭は19年時点で電力部門のエネルギー需要の78%を占める。
■IHIはアンモニアに注目
化石燃料に頼りながらネットゼロを目指していく過程で注目されるのが水素とアンモニアだ。日本の経済産業省の早田豪氏は、3月に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)ニューデリー事務所と地場シンクタンクのゲートウエイ・ハウスが主催したセミナーで、「インド、インドネシア、ベトナムは石炭利用の割合が高く、アンモニアと石炭の混焼にポテンシャルがある」と指摘した。
化石燃料とグリーン水素・アンモニアの混焼・専焼は、火力発電におけるCO2排出量を大きく削減できるが、世界的に見ても商業段階には達していない。ただ燃焼技術では日本企業が先行しており商機は大きい。インドではIHIや三菱重工業が実証や検討の動きを見せている。
IHIは、地場再生可能エネルギー大手アクメ(ACME)や電力大手アダニ・パワーと、グリーンアンモニアに関連して覚書を結んでいる。IHIニューデリー事務所の吉田尚志所長は、「グリーンアンモニアの生産や利用、販売で各国の企業と覚書を結び、どこで生産・活用・販売するかを見定めようとしている」と同社の狙いを語った。生産したグリーンアンモニアは、火力発電所での混焼の実証実験に活用することも視野に入れている 。
そもそもグリーンアンモニアは、再エネ由来のグリーン水素から生成するため、水素に比べて手間がかかる。吉田氏によるとIHIは、水素より輸送しやすく、大量に輸送できるという観点から、アンモニアに焦点を絞った。

IHIが、アンモニア混焼技術を適用するための検証を進めていくことで覚書を締結した、アダニ・パワーのムンドラ石炭火力発電所(IHI提供)

■三菱重工、納入済ガスタービンで検討
グリーン水素と天然ガスの混焼を進める動きもある。ガスタービンの開発に強い三菱重工業は、インド火力発電公社(NTPC)の発電所に1989年に納入した701D型ガスタービンで、混焼実証の検討を行う計画。水素と天然ガスを混焼した場合のガスタービンへの影響を検討する。
インド三菱重工業の木村玲社長は同事業の背景について「インドでの天然ガスの供給は限られており、国産の安価なものは都市ガスや工業向けに回され発電向けには入ってこない。インド火力発電公社が持つ稼働時間・頻度が少ないガスタービンでも、水素混焼や専焼ができるかを検討・実証する」と説明した。
発電システムを手がける三菱重工のインド子会社、三菱パワーインドの篠原博之副社長は「輸送・貯蔵を考えるとアンモニアに利点があると思われるが、当社は水素・アンモニア双方の燃焼技術の開発を進めている」と話した。水素であれば、天然ガスとの混焼が可能で、グリーン水素の利用可能性に合わせて混合率を柔軟に変更することも可能だ。
木村氏は「水素の燃焼ではアンモニアに比べて窒素酸化物(NOx)の排出が少ないことも利点」と説明した。
同社は、IHIと同様に、ボイラーでの石炭とアンモニアの混焼に向けてもインドの企業と協議を進めているという。

水素・アンモニア専焼に対応する開発が進められている小型のH25型ガスタービン。25年の実用化を見込む(三菱重工提供)

<メモ>
水素は、化石燃料を燃焼してガスにし、そのガスの中から取り出して生産する「グレー水素」が一般的。最近は再生可能エネルギーで発電した電力を使って水を電気分解する生産方法も出てきており、生産過程でCO2を排出しないため「グリーン水素」と呼ばれる。
一方、アンモニアは水素と窒素を化学反応させて合成する。グリーン水素と窒素から生産するものは「グリーンアンモニア」と呼ばれる。
水素とアンモニアは、どちらも燃焼する際にCO2を出さない特徴を持つ。発電所で石炭や天然ガスと混ぜて燃焼すると、CO2の排出量を大きく削減することができる。加えてアンモニアは、水素より輸送・貯蔵しやすいという利点がある。
発電所で石炭を燃やすボイラーのバーナーをアンモニア対応のものに取り換えることで、アンモニアと石炭の混焼や、アンモニアの専焼が可能になる。また、ガスタービンで水素を混焼・専焼するには、タービンの一部である燃焼器を換えることで対応可能。

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昨年に人口が14億人に達したインドは、電力需要で世界3位。温室効果ガスの排出量でも世界3位だ。さらに21年から30年にかけて、「インドの電力需要は、年率3%と世界で最も急速に拡大する」とIEAは予測する。
こうした中、モディ首相は21年に、温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ」を70年までに達成する目標を示した。ただ、石炭をはじめとする化石燃料は、少なくとも40年までは主要なエネルギー源であり続ける見通しだ。
IEAによると、インドの一次エネルギー需要に関する実現可能性が最も高い「現行政策シナリオ」では、40年時点で石炭の占める割合が34%で最も高い。次いで石油が26%、天然ガスが11%と、化石燃料の割合は71%に上る。
石炭への依存が大きい理由は、インドが世界2位(21年時点)の石炭生産国であるからだ。埋蔵量が豊富で安定的に供給しやすく、安価な国産石炭は、インドの発電に欠かせない。石炭は19年時点で電力部門のエネルギー需要の78%を占める。
■IHIはアンモニアに注目
化石燃料に頼りながらネットゼロを目指していく過程で注目されるのが水素とアンモニアだ。日本の経済産業省の早田豪氏は、3月に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)ニューデリー事務所と地場シンクタンクのゲートウエイ・ハウスが主催したセミナーで、「インド、インドネシア、ベトナムは石炭利用の割合が高く、アンモニアと石炭の混焼にポテンシャルがある」と指摘した。
化石燃料とグリーン水素・アンモニアの混焼・専焼は、火力発電におけるCO2排出量を大きく削減できるが、世界的に見ても商業段階には達していない。ただ燃焼技術では日本企業が先行しており商機は大きい。インドではIHIや三菱重工業が実証や検討の動きを見せている。
IHIは、地場再生可能エネルギー大手アクメ(ACME)や電力大手アダニ・パワーと、グリーンアンモニアに関連して覚書を結んでいる。IHIニューデリー事務所の吉田尚志所長は、「グリーンアンモニアの生産や利用、販売で各国の企業と覚書を結び、どこで生産・活用・販売するかを見定めようとしている」と同社の狙いを語った。生産したグリーンアンモニアは、火力発電所での混焼の実証実験に活用することも視野に入れている 。
そもそもグリーンアンモニアは、再エネ由来のグリーン水素から生成するため、水素に比べて手間がかかる。吉田氏によるとIHIは、水素より輸送しやすく、大量に輸送できるという観点から、アンモニアに焦点を絞った。
[caption id="attachment_13103" align="aligncenter" width="496"]IHIが、アンモニア混焼技術を適用するための検証を進めていくことで覚書を締結した、アダニ・パワーのムンドラ石炭火力発電所(IHI提供)[/caption]
■三菱重工、納入済ガスタービンで検討
グリーン水素と天然ガスの混焼を進める動きもある。ガスタービンの開発に強い三菱重工業は、インド火力発電公社(NTPC)の発電所に1989年に納入した701D型ガスタービンで、混焼実証の検討を行う計画。水素と天然ガスを混焼した場合のガスタービンへの影響を検討する。
インド三菱重工業の木村玲社長は同事業の背景について「インドでの天然ガスの供給は限られており、国産の安価なものは都市ガスや工業向けに回され発電向けには入ってこない。インド火力発電公社が持つ稼働時間・頻度が少ないガスタービンでも、水素混焼や専焼ができるかを検討・実証する」と説明した。
発電システムを手がける三菱重工のインド子会社、三菱パワーインドの篠原博之副社長は「輸送・貯蔵を考えるとアンモニアに利点があると思われるが、当社は水素・アンモニア双方の燃焼技術の開発を進めている」と話した。水素であれば、天然ガスとの混焼が可能で、グリーン水素の利用可能性に合わせて混合率を柔軟に変更することも可能だ。
木村氏は「水素の燃焼ではアンモニアに比べて窒素酸化物(NOx)の排出が少ないことも利点」と説明した。
同社は、IHIと同様に、ボイラーでの石炭とアンモニアの混焼に向けてもインドの企業と協議を進めているという。
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<メモ>
水素は、化石燃料を燃焼してガスにし、そのガスの中から取り出して生産する「グレー水素」が一般的。最近は再生可能エネルギーで発電した電力を使って水を電気分解する生産方法も出てきており、生産過程でCO2を排出しないため「グリーン水素」と呼ばれる。
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