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グリーン水素、課題はコスト混焼技術でネットゼロに前進(下)

2070年までにネットゼロの達成を目指すインド。電源構成の7割を占める化石燃料への依存を減らすため、日本企業と地場企業の間では、再生可能エネルギーから生成したグリーン水素・アンモニアを使った混焼技術の実証に向けた動きが出ている。インドで実用化するには低コストであることが重要だが、日射量の多い同国には太陽光発電で安く再エネを生産できる利点がある。【榎田真奈】

IHIニューデリー事務所の吉田尚志所長がNNAの取材に応じた=3月、首都ニューデリー(NNA撮影)

再エネを使ってグリーン水素とグリーンアンモニアを生産し、化石燃料と混焼することで、火力発電での二酸化炭素(CO2)排出量削減を図る。日本とインドの企業が進めるこの取り組みに事業化の可能性はあるのか。インド政府は、価格の手頃さが重要との考えだ。電力省エネルギー効率局(BEE)のアバイ・バクレ事務局長は、首都ニューデリーで3月に開かれたセミナーで「新たな燃料や技術は、競争力を持つために手頃な価格でなければならない」と話した。グリーン水素・アンモニアを利用した発電コストは、従来の石炭や天然ガスのみを利用した発電より大幅に高いと試算される。
コストを抑えてグリーン水素・アンモニアを生産するためには、再エネを安価かつ大量に確保することが必要になる。中でもインドで積極的に導入されている発電は太陽光だ。IHIニューデリー事務所の吉田尚志所長は、「太陽光発電の潜在性は日射量の多さで決まる。東南アジアでは厳しいが、インドなら西部のラジャスタン州やグジャラート州、南部のタミルナド州やカルナタカ州の一部地域は潜在性が大きい」と話した。
さらに、将来的に太陽光発電による電力や混焼・専焼技術の導入コストが十分に安くなれば、「グリーン水素・アンモニアを日中に生産して貯蔵し、太陽光での発電ができない夜間は、日中に生産したグリーン水素・アンモニアによる発電で補うという方法もある」と三菱重工業のインド子会社、三菱パワーインドの篠原博之副社長は話す。
■印で生産し、日本へ輸出も
インドでグリーン水素の生産が軌道に乗れば、輸送しやすいアンモニアに合成して、日本をはじめとする他国へ輸出もできる。パイプライン網に接続されている欧州各国と異なり、天然ガスの安定的な確保が難しい日本はアンモニアと石炭の混焼を通じた脱炭素化に前向きだ。ただ自国でグリーン水素・アンモニアを生産するポテンシャルが低いため、混焼を実施するには他国からの輸入が必要となる。ここに着目した興和(名古屋市)は、グリーンアンモニアの生産を目指すインドのアダニ・グループと、日本での販売に向け覚書を締結している。事業化すれば、インドで生産したグリーンアンモニアを日本で活用する道が開ける。
■補助金や電力選択制度など必要
今後のグリーン水素・アンモニアの利用拡大について、インド三菱重工業の木村玲社長は、「上流(生産)・中流(輸送・貯蔵)・下流(使用)が一緒に成長する必要がある」と話した。例えば発電会社は、どれくらいグリーン水素・アンモニアを入手できるのかが分からなければ、設備投資に踏み切りたくても踏み切れない。
安さを重視するインドでは「世界的にグリーン水素・アンモニアの混焼・専焼が活発になって、コストが十分に安くなってから導入するのではないか」(木村氏)と、同国でのグリーン水素・アンモニアの利用は遅れるとの見方もある。

NNAの取材に応じたインド三菱重工業の木村玲社長(左)と三菱パワーインドの篠原博之副社長=3月、首都ニューデリー(NNA撮影)

ただグリーン水素・アンモニアの需要が増えて経済性が成り立ち、発電所の設備交換サイクルが一巡すれば、「最終的にはグリーン水素・アンモニアの専焼による発電が世界的に主流になる」(篠原氏)可能性もある。
IHIの吉田氏は「グリーン水素やアンモニアの活用を推進するには、発電会社が導入に踏み切るための補助金や排出権取引の導入、グリーン水素やアンモニアを使用した環境に良い電力を消費者が選べるようにするなどの対策が必要だ」と述べた。

<メモ>
グリーン水素・アンモニアの活用以外でネットゼロに近づくための選択肢としては、再エネのほか、二酸化炭素回収(カーボンキャプチャー)技術や原子力発電の活用がある。ただ二酸化炭素回収技術は発電所などに追加の設備投資をする方法である一方、グリーン水素・アンモニアは新たなエネルギー源となる可能性があることから、エネルギーミックスの多様化の面でも活用を促進する意義は大きい。

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コストを抑えてグリーン水素・アンモニアを生産するためには、再エネを安価かつ大量に確保することが必要になる。中でもインドで積極的に導入されている発電は太陽光だ。IHIニューデリー事務所の吉田尚志所長は、「太陽光発電の潜在性は日射量の多さで決まる。東南アジアでは厳しいが、インドなら西部のラジャスタン州やグジャラート州、南部のタミルナド州やカルナタカ州の一部地域は潜在性が大きい」と話した。
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■印で生産し、日本へ輸出も
インドでグリーン水素の生産が軌道に乗れば、輸送しやすいアンモニアに合成して、日本をはじめとする他国へ輸出もできる。パイプライン網に接続されている欧州各国と異なり、天然ガスの安定的な確保が難しい日本はアンモニアと石炭の混焼を通じた脱炭素化に前向きだ。ただ自国でグリーン水素・アンモニアを生産するポテンシャルが低いため、混焼を実施するには他国からの輸入が必要となる。ここに着目した興和(名古屋市)は、グリーンアンモニアの生産を目指すインドのアダニ・グループと、日本での販売に向け覚書を締結している。事業化すれば、インドで生産したグリーンアンモニアを日本で活用する道が開ける。
■補助金や電力選択制度など必要
今後のグリーン水素・アンモニアの利用拡大について、インド三菱重工業の木村玲社長は、「上流(生産)・中流(輸送・貯蔵)・下流(使用)が一緒に成長する必要がある」と話した。例えば発電会社は、どれくらいグリーン水素・アンモニアを入手できるのかが分からなければ、設備投資に踏み切りたくても踏み切れない。
安さを重視するインドでは「世界的にグリーン水素・アンモニアの混焼・専焼が活発になって、コストが十分に安くなってから導入するのではないか」(木村氏)と、同国でのグリーン水素・アンモニアの利用は遅れるとの見方もある。
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<メモ>
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