タイで14日に実施された下院総選挙の結果が明らかになり、革新系の野党第2党の前進党がトップとなった。最大野党のタイ貢献党は僅差で2位となり、両党の獲得議席数は合わせて292議席となる。前進党のピタ党首は15日、同党とタイ貢献党を中心とする6党による連立政権構想を打ち出し、自身が首相に就任する意欲があると明言した。
前進党のピタ党首(写真中央)は15日、タイ貢献党を含む6党による連立政権構想を打ち出した。写真は12日の党大会=タイ・バンコク(NNA撮影)
タイの選挙管理委員会(EC)は15日の午前11時過ぎ、前日に実施された下院総選挙(小選挙区の定員400、比例区100)の結果を発表した(開票率100%)。トップは前進党で151議席(小選挙区112議席、比例区39議席)、タイ貢献党は141議席(小選挙区112議席、比例区29議席)で2位となった。このほか、アヌティン副首相兼保健相が党首を務めるタイ名誉党が71議席で3位。プラウィット副首相が党首を務め、連立与党の中核を担っていた国民国家の力党が40議席、プラユット首相が所属する国家建設タイ合同党(UTN)が36議席でこれに続いた。投票率は75.2%。これら主要6政党で全体の93%にあたる合計464議席を獲得している。
主要政党の得票率を地域別に見ると、前進党は首都バンコクで44%と圧勝。中部・東部・西部でも31%でトップに立った。タイ貢献党は北部で29%、東北部で36%とともにトップとなったものの、前進党も北部で28%、東北部で21%で2位となり善戦した。南部では与党系の政党が強く、民主党が21%でトップとなったほか、タイ名誉党が18%、UTNが16%、国民国家の力党が14%で1~4位を独占した。
14日午後5時の開票後には、前進党のピタ党首が「タイ貢献党との連立に向けて協議する」と発言。タイ貢献党の首相候補でタクシン元首相の娘のペートンタン氏は「最も票を獲得した政党が、次の政権を率いるべきだ」とコメントした。同党の首相候補であるセター氏は「前進党が連立政権の中核となり、民主主義政党であるタイ貢献党も協力する」とし、前進党との連立政権に意欲を示した。同党の他の幹部も、「まずは前進党との協議内容を検討する」としている。
ピタ氏は15日午後、前進党とタイ貢献党に加え、9議席を獲得した国民党、6議席を獲得したタイ建設タイ党、1議席ずつを獲得したセーリールアムタイ党とペンタム党を合わせた6政党と連立を組む意向を表明。合計議席数は309議席になるとした。
対照的に、プラユット氏は14日夜、「民主的なプロセスと選挙を尊重する」と敗北宣言とも取れる声明を発表した。国民国家の力党の党首で現職の副首相であるプラウィット氏も「選挙の結果にかかわらず、支持者には感謝している」とし、前進党の躍進についてメディアに問われた際には、無言を貫いた。獲得議席が22議席にとどまった与党第3党の民主党は、15日未明にジュリン党首が辞任を表明している。プラユット政権は2014年のクーデターを通じて成立し、19年の総選挙で民政移管を果たした。実質的に9年近く続いた親軍政権に、国民は明確に変化を求めたことになる。
■上院で割れるスタンス
タイでは選挙結果の発表後、15日以内に国会を召集し、議会を開く必要がある。このため、遅くとも今月末には国会が開かれる見通しとなる。首相選出を巡っては、現政権が任命した上院議員250人も参加する。上院議員のなかには、「次期首相は下院の多数派の支持を得るべきで、大筋では下院の意向に従うべきだ」という意見がある一方、「下院と全く同じ判断をするのであれば、上院の存在意義がない」との考えも根強い。
ただ、首相指名に上院が加わる仕組みは2017年憲法で規定された5年間の「経過的措置」。上院の意向が強く反映された首相が選出された場合でも、24年には下院の多数派が不信任決議を提出した後、下院のみで首相を選出する状況に持ち込むことは確実な情勢だ。
選挙戦で勝利を収めた前進党だが、連立の形成に向け各党と協議を進める上では障壁もある。不敬罪にあたる刑法112条について改正を求めている点だ。選挙期間中、前進党の会合には現政権が解党した新未来党の元党首、タナトーン氏など当時の幹部が出席。ピタ党首ら前進党の幹部にとって新未来党の幹部は「先輩」にあたり、前進党にとっても欠かせない存在。新未来党の路線を前進党が完全に放棄することは考えづらい。タイ貢献党をはじめとする他党にとっても、前進党と組むことは、王制を含む政治改革に協力すると見られかねず、リスクになる側面もある。
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主要政党の得票率を地域別に見ると、前進党は首都バンコクで44%と圧勝。中部・東部・西部でも31%でトップに立った。タイ貢献党は北部で29%、東北部で36%とともにトップとなったものの、前進党も北部で28%、東北部で21%で2位となり善戦した。南部では与党系の政党が強く、民主党が21%でトップとなったほか、タイ名誉党が18%、UTNが16%、国民国家の力党が14%で1~4位を独占した。
14日午後5時の開票後には、前進党のピタ党首が「タイ貢献党との連立に向けて協議する」と発言。タイ貢献党の首相候補でタクシン元首相の娘のペートンタン氏は「最も票を獲得した政党が、次の政権を率いるべきだ」とコメントした。同党の首相候補であるセター氏は「前進党が連立政権の中核となり、民主主義政党であるタイ貢献党も協力する」とし、前進党との連立政権に意欲を示した。同党の他の幹部も、「まずは前進党との協議内容を検討する」としている。
ピタ氏は15日午後、前進党とタイ貢献党に加え、9議席を獲得した国民党、6議席を獲得したタイ建設タイ党、1議席ずつを獲得したセーリールアムタイ党とペンタム党を合わせた6政党と連立を組む意向を表明。合計議席数は309議席になるとした。
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■上院で割れるスタンス
タイでは選挙結果の発表後、15日以内に国会を召集し、議会を開く必要がある。このため、遅くとも今月末には国会が開かれる見通しとなる。首相選出を巡っては、現政権が任命した上院議員250人も参加する。上院議員のなかには、「次期首相は下院の多数派の支持を得るべきで、大筋では下院の意向に従うべきだ」という意見がある一方、「下院と全く同じ判断をするのであれば、上院の存在意義がない」との考えも根強い。
ただ、首相指名に上院が加わる仕組みは2017年憲法で規定された5年間の「経過的措置」。上院の意向が強く反映された首相が選出された場合でも、24年には下院の多数派が不信任決議を提出した後、下院のみで首相を選出する状況に持ち込むことは確実な情勢だ。
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