気候変動対策として石炭火力発電からの脱却が世界的な課題となる中、インドネシアの石炭会社が2022年に排出した二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス(GHG)は、21年の減少傾向から一転、大幅に増加したことが分かった。ロシアのウクライナ侵攻に対する経済制裁の影響で日本を含む各地の石炭需要に応えて増産したことが主因。22年は石炭価格の高騰もあり各社の業績は急伸したが、インドネシアの国際公約である60年までにGHG排出量を実質ゼロとする目標達成には、主要輸入元である先進国の脱炭素化の加速も求められる。
インドネシア証券取引所(IDX)に上場する主要石炭企業の2022年の温室効果ガス排出量は大幅に増加した(エネルギー・鉱物資源省提供)
NNAは、インドネシア証券取引所(IDX)に上場する主要石炭会社10社が開示した22年のGHG排出量を調べた。その結果、データが前年と比較できる9社のうち7社の排出量が増加し、2社は減少していた。1社は22年の情報のみ開示した。21年の排出量は9社中6社が前年比で減少していたが、22年は一転して増加企業が大半を占めた。
GHG排出量の計算の基準や範囲は企業によって異なるため、スコープ1(自社が直接排出したGHG)とスコープ2(他社から供給を受けた電力などによる間接排出したGHG)の増減率を比較した。スコープ3(スコープ2以外の間接排出を指し、原材料の生産から製品の使用、廃棄、従業員の出張・通勤など自社事業にかかわるすべての間接的なGHGが対象)まで算入していた企業は3社にとどまった。
GHG排出量の増加率が最も高かったのは、複合企業シナールマス・グループ傘下のゴールデン・エナジー・マインズの前年比86%で、続いて国営ブキット・アサムの49%、シナールマス・グループ傘下のディアン・スワスタティカ・セントサの40%などとなった。ゴールデン・エナジーは、ディアンの孫会社に当たる。
一方、減少した2社はインディカ・エナジーとタイの石炭大手バンプーの子会社インド・タンバンラヤ・メガで、減少率はそれぞれ14%と6%。両社は2年連続で排出量を削減している。
GHG排出量が増加した主因は、国内経済の回復に加えて、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁として、ロシア産の石炭輸入を欧州連合(EU)や日本を含めた世界各国・地域が禁輸や取引停止したことを受けて、インドネシア産の石炭需要が高まり生産量を増やしたためだ。
石炭生産量が前年比で増加したのは、10社中7社に上った。生産量が最大だったのは、デルタ・ドゥニア・マクムールで、前年比61%増の8,670万トンだった。以下は、財閥サリム・グループ傘下企業が筆頭株主のブミ・リソーシズが9%減の7,190万トン、アダロ・エナジー・インドネシアが19%増の6,288万トンなどとなった。ブミは生産量が減少したものの、GHG排出量は14%増加した。
エネルギー・鉱物資源省によると、インドネシアの22年の石炭生産量は前年比12%増の6億8,700万トンで、うち国内需要は1億9,300万トンだった。
■各社が2桁以上の増収増益
増産に伴う石炭産業のGHG排出量が増加する一方、「石炭価格の歴史的な上昇」(インディカ・エナジー)により、22年12月期の各社の決算は、いずれも2桁以上の増収増益を記録した。売上高・純利益ともにアダロ・エナジーが最大で、それぞれ前期比2倍の81億米ドル(約1兆1,400億円)、同2.7倍の24億9,000万米ドルだった。
これらの企業は、売上高の7~9割を輸出で稼いでおり、22年は海外売上高の伸び率が軒並み2~3桁を記録した。このうち、アダロ・エナジーは、台湾向けが前期比7.2倍、インド向けが2.9倍、日本向けが2.7倍などだった。ディアン・スワスタティカ・セントサも、韓国向けが9.5倍、日本向けが5.8倍などとなった。
脱石炭への移行の加速化が求められる中、石炭は依然としてインドネシアの主要な外貨獲得源でもある。22年のインドネシアの品目別輸出額(HSコード6桁)では石炭が最大だった。
中央統計局によると、22年の石炭輸出量は前年比4%増の3億6,029万トン、輸出額は76%増の467億米ドル。新型コロナウイルス禍の影響で中国経済の正常化が遅れたため、21年の最大の輸出先だった同国向け輸出量は36%減となったが、同年の第2市場のインドが56%増で1位となったほか、日本が15%増で第4市場となった。
一方、今年は中国の経済がコロナ禍から正常化していることから輸出増が予想され、エネ鉱省は国内の石炭生産量が、前年比1.1%増の6億9,450万トンになると見込む。既に1~3月の石炭・歴青炭の輸出額は、前年同期比36%増の102億米ドルで推移している。
国際環境非政府組織(NGO)350.org Japanの伊与田昌慶・チームリーダー代理はNNAに対して「日本のような先進国の石炭需要を満たすために、インドネシアでの石炭増産による炭鉱開発が進められ、自然生態系の破壊や炭鉱周辺地域の水質汚染などの環境汚染、グローバルな気候危機の悪化を招くことは大きな問題だ」と指摘。
またインドネシアの場合は、石炭を国内で消費するよりも輸出が優先されがちで「日本のような国が自国のエネルギー需給を満たすためにインドネシアから石炭を買い増すことで、インドネシア国内のエネルギー需給に悪影響が出る懸念もある」とした。その上で、「いずれも省エネルギーと再生可能エネルギーへの転換が進めば状況は改善されるため、省エネと再エネへの転換が急がれる」とコメントした。
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一方、減少した2社はインディカ・エナジーとタイの石炭大手バンプーの子会社インド・タンバンラヤ・メガで、減少率はそれぞれ14%と6%。両社は2年連続で排出量を削減している。
GHG排出量が増加した主因は、国内経済の回復に加えて、ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁として、ロシア産の石炭輸入を欧州連合(EU)や日本を含めた世界各国・地域が禁輸や取引停止したことを受けて、インドネシア産の石炭需要が高まり生産量を増やしたためだ。
石炭生産量が前年比で増加したのは、10社中7社に上った。生産量が最大だったのは、デルタ・ドゥニア・マクムールで、前年比61%増の8,670万トンだった。以下は、財閥サリム・グループ傘下企業が筆頭株主のブミ・リソーシズが9%減の7,190万トン、アダロ・エナジー・インドネシアが19%増の6,288万トンなどとなった。ブミは生産量が減少したものの、GHG排出量は14%増加した。
エネルギー・鉱物資源省によると、インドネシアの22年の石炭生産量は前年比12%増の6億8,700万トンで、うち国内需要は1億9,300万トンだった。
■各社が2桁以上の増収増益
増産に伴う石炭産業のGHG排出量が増加する一方、「石炭価格の歴史的な上昇」(インディカ・エナジー)により、22年12月期の各社の決算は、いずれも2桁以上の増収増益を記録した。売上高・純利益ともにアダロ・エナジーが最大で、それぞれ前期比2倍の81億米ドル(約1兆1,400億円)、同2.7倍の24億9,000万米ドルだった。
これらの企業は、売上高の7~9割を輸出で稼いでおり、22年は海外売上高の伸び率が軒並み2~3桁を記録した。このうち、アダロ・エナジーは、台湾向けが前期比7.2倍、インド向けが2.9倍、日本向けが2.7倍などだった。ディアン・スワスタティカ・セントサも、韓国向けが9.5倍、日本向けが5.8倍などとなった。
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中央統計局によると、22年の石炭輸出量は前年比4%増の3億6,029万トン、輸出額は76%増の467億米ドル。新型コロナウイルス禍の影響で中国経済の正常化が遅れたため、21年の最大の輸出先だった同国向け輸出量は36%減となったが、同年の第2市場のインドが56%増で1位となったほか、日本が15%増で第4市場となった。
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またインドネシアの場合は、石炭を国内で消費するよりも輸出が優先されがちで「日本のような国が自国のエネルギー需給を満たすためにインドネシアから石炭を買い増すことで、インドネシア国内のエネルギー需給に悪影響が出る懸念もある」とした。その上で、「いずれも省エネルギーと再生可能エネルギーへの転換が進めば状況は改善されるため、省エネと再エネへの転換が急がれる」とコメントした。"
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