インドネシア政府が東カリマンタン州に整備する新首都「ヌサンタラ」。2024年8月の独立記念式典をヌサンタラで開催することを目指すジョコ・ウィドド大統領の号令の下、新首都の中央行政地区(KIPP)の建設が急ピッチで進む。大統領宮殿などの建物は年内に進捗(しんちょく)率を70%とする計画だ。遷都という一大国家プロジェクトには日本の知見も生かされており、国際協力機構(JICA)は中央行政地区で海外勢初となる技術協力を行うなどしている。
7月末にJICAインドネシア事務所の企画で訪れたヌサンタラ中心地。巨大なクレーンが建ち並び、複数の重機やトラックが行き来する。一帯には絶えず工事音が鳴り響く中、24年8月の独立記念式典を開催する広場となる建設現場では、掲揚された紅白の国旗がはためいていた。
現在、インフラ整備が集中的に進められているのは、3つのエリアに分かれる中央行政地区(6,671ヘクタール)のうち1Aエリア(2,876ヘクタール)だ。ヌサンタラを案内してくれた公共事業・国民住宅省新首都インフラ開発タスクフォースのダニス氏は、24年8月までに大統領宮殿、大統領府、4つの調整省庁舎、電気・水道などの基礎インフラ、1Aエリアの基幹道路、アクセス高速道路の一部を整備すると説明した。
大統領府とその手前に位置する大統領宮殿の建設進捗率は、7月末時点でそれぞれ21%、23%。年末までに70%へ引き上げ、来年6月には建物の品質検証を開始する。ダニス氏は各建設業者間の連携やJICAによる施工品質の向上支援もあり、「建設は順調に進んでいる」と自信を示した。
中央行政地区の1B、1Cエリアについても整地を進めているという。このほか、首都移転に伴い移住する公務員が生活する高層集合住宅は、計画している47棟のうち12棟を先行して完成させるとした。
内陸にある新首都へのアクセス向上も必須だ。現在、ヌサンタラまでは、東カリマンタン州の州都サマリンダと港湾都市バリクパパンを結ぶ高速道路の最寄り出口を下りた後、約50キロメートルの起伏の激しい一般道を通る必要がある。
ダニス氏は、バリクパパンから新首都まで建設するアクセス高速道について、バラン島を通過する西回りの区間の整備を先に進めると説明した。アクセス高速道は全区間が開通した場合、バリクパパンからの所要時間を現在の約2時間から30分に短縮することができるという。
45年に移転完了を予定しているヌサンタラの長期的な開発計画のうち、22~24年の第1段階では、政府庁舎の整備や都市としてのエコシステムの初期段階を構築する。25~29年にはすべての政府庁舎の移転を終え、公共交通機関の整備などを進める段階に入る。
ダニス氏は、「ヌサンタラの開発は45年までのインドネシアの未来の姿を示したプロジェクトだ」と説明。首都法『22年第3号』として、国会で大多数の賛成をもって成立した法律が根拠となっており、長期プロジェクトとして事業の継続性に問題はないとの考えを述べた。
■現場に入り施工品質支援
こうした国を挙げた一大プロジェクトをJICAは側面から支えている。JICAの支援は22年6月に、公共事業・国民住宅省が実施する基礎インフラの整備計画・工事内容に関する情報収集や分析などの調査段階から始まった。同年12月以降は、調査員が建設現場に出向き、インフラの施工品質向上を支援している。
具体的には、起伏の激しい丘陵地帯にある新首都開発エリアに適したのり面対策、基礎くい打ち施工時のコンクリート品質を確保するための強度モニタリング策の提案などを行ってきた。JICAの調査員は7月までに計6回現地入りしており、監理コンサルタント、現地建設業者などに対応策の提案などを行っている。
JICA調査団の幹事を務める日本工営ジャカルタ事務所の坂下智慎所長は、「『質の高いインフラを建設する』という現場の意識は非常に高い」と話す。開発はまだ初期段階ではあるものの、中心施設となる大統領宮殿については、「24年8月に何とか形にするだろうという勢いだ」と、集中的に工事が進んでいるとの印象を語った。坂下氏は、首都移転自体は中長期的なプロジェクトにはなるが「必ず実現するだろう」と期待を込めた。
JICAインドネシア事務所によると、日本による施工品質向上支援は、バスキ公共事業・国民住宅相から直接要請を受けて実施。同事務所の安井毅裕所長は、日本とインドネシアは長年にわたり良好な関係を築いてきたとして、「インドネシアが決心した一大プロジェクトをサポートする存在であることが大事だ」と語った。
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