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新たな再投資控除、製造業に朗報税制改正案、最大100%の控除も

マレーシア政府が13日に連邦議会下院に提出した2024年度国家予算案には、34項目にわたる税制改正案が盛り込まれた。日系の会計事務所、加藤ビジネスアドバイザリーの加藤芳之氏(日本国公認会計士)は、注目すべきポイントとして「新たな再投資控除の導入」、「電子インボイスの全面適用前倒し」「サービス税の引き上げ」を挙げた。中でも、最大100%の控除が受けられる再投資控除は、マレーシアで操業する日系製造業にとって朗報だと指摘している。

13日に2024年度国家予算案を発表したアンワル首相(アンワル氏の公式ソーシャルメディアより)

再投資控除は、事業拡大を計画する企業に対して、通常の税務上の減価償却とは別に適格資本的支出の通常60%の割合で認められ、各年度における法定所得の70%と相殺できる。
ただ、適用されるのは15年間という期限が設けられているため、新規進出企業に与えられるパイオニア・ステータスや投資控除(ITA)の5年間の税制優遇と合わせても最長20年しか恩恵を受けられず、「1990年代に進出のピークを迎えた日系製造業では、多くの企業が期限切れを迎えている」(加藤氏)。
今回の税制改正案では、製造業および農業関連企業が事業拡大する場合、既存の再投資控除の適用期間を満了した企業も、70%もしくは100%の控除が受けられるようになる。ただ、優遇措置の適用率は「事業の成果によって決定する」とのみ記載されており、対象となる事業の詳細も明らかになっていない。
加藤氏はまた、今回示された再投資控除の注意点として、◇24年1月1日から28年12月31日までの時限措置である◇マレーシア投資開発庁(MIDA)の事前承認が必要となる——の2点を挙げた。
加藤氏によると、既存の再投資控除はマレーシア投資開発庁の事前承認を受ける必要はないが、そのために税務監査で当局との認識のずれが問題になることが多いという。新たな再投資控除では、事前承認を受けるための申請手続きが加わるものの、あらかじめ承認を受けておくことで後のリスクを軽減できる。
■電子インボイスの全面適用は前倒し
電子インボイスについては、年間売上高が1億リンギ(約31億円)以上の企業約4,000社は24年6月から導入開始となっていたが、今回の予算案で同年8月に2カ月延期となった。
電子インボイスは段階的に導入される計画で、全面適用は27年1月とされていた。しかし、アンワル氏の演説によるとこれが1年半ほど早まり、25年7月からとなる見通し。
一方、予算案では24年から売上・サービス税(SST)のうち、サービス税のみ現行の6%から8%への引き上げが提案された。
外食、通信費は除外となるものの、物流、仲介、保険引き受けなどにも対象範囲を広げる。消費者向けのサービスだけでなく、企業間取引(BtoB)も対象だ。
SSTは、18年にアンワル氏が所属する希望連盟(PH)が政権交代を果たした際、消費税(GST)を廃止する代わりに導入された。そうした政治的な背景から消費税の再導入が困難とされる中、政府が歳入基盤を拡大できる余地はそれほど多くないとみられていた。
食品、サービスまで幅広い品目が課税対象となるGSTに比べて、SSTはもともと課税対象が狭い。課税範囲を広げたとはいえ、一般市民への影響が大きい外食、通信を除いた上で税率を上げる形となり、「有権者への配慮が感じられる」(加藤氏)格好だ。

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今回の税制改正案では、製造業および農業関連企業が事業拡大する場合、既存の再投資控除の適用期間を満了した企業も、70%もしくは100%の控除が受けられるようになる。ただ、優遇措置の適用率は「事業の成果によって決定する」とのみ記載されており、対象となる事業の詳細も明らかになっていない。
加藤氏はまた、今回示された再投資控除の注意点として、◇24年1月1日から28年12月31日までの時限措置である◇マレーシア投資開発庁(MIDA)の事前承認が必要となる——の2点を挙げた。
加藤氏によると、既存の再投資控除はマレーシア投資開発庁の事前承認を受ける必要はないが、そのために税務監査で当局との認識のずれが問題になることが多いという。新たな再投資控除では、事前承認を受けるための申請手続きが加わるものの、あらかじめ承認を受けておくことで後のリスクを軽減できる。
■電子インボイスの全面適用は前倒し
電子インボイスについては、年間売上高が1億リンギ(約31億円)以上の企業約4,000社は24年6月から導入開始となっていたが、今回の予算案で同年8月に2カ月延期となった。
電子インボイスは段階的に導入される計画で、全面適用は27年1月とされていた。しかし、アンワル氏の演説によるとこれが1年半ほど早まり、25年7月からとなる見通し。
一方、予算案では24年から売上・サービス税(SST)のうち、サービス税のみ現行の6%から8%への引き上げが提案された。
外食、通信費は除外となるものの、物流、仲介、保険引き受けなどにも対象範囲を広げる。消費者向けのサービスだけでなく、企業間取引(BtoB)も対象だ。
SSTは、18年にアンワル氏が所属する希望連盟(PH)が政権交代を果たした際、消費税(GST)を廃止する代わりに導入された。そうした政治的な背景から消費税の再導入が困難とされる中、政府が歳入基盤を拡大できる余地はそれほど多くないとみられていた。
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