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生産コスト増、見えぬ収束原料・物流費に人件費上昇も重く

原材料の不足や国際的な燃料価格の上昇、米ドルの独歩高など、国をまたいだサプライチェーン(調達・供給網)を活用するメーカーにとって、生産や輸送コストの高騰は頭の痛い問題だ。NNAは8月、東南アジアとインドに製造拠点を持つメーカーにアンケートを実施。回答した9割以上の企業が、生産・物流コスト上昇に直面していることが分かった。大半の企業は状況が沈静化するまでには最低でも半年はかかり、長期化は避けられないとの認識を持っている。
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アンケートは8月8~12日に東南アジアとインドに工場を持つメーカーに実施し、有効回答数は278件だった。1年前と比べて生産コストが上昇したかを質問したところ、実に98%が「上昇している」と回答。国・地域に関係なく、生産コストの上昇が東南アジアとインドを覆う問題であることが明確になった。
生産コスト上昇の要因(複数回答)として、95%の企業は「原材料・部品の価格上昇」を挙げた。今年に入り、自動車や電機メーカーなど日本を代表する企業が相次いで生産の一時停止や調整を発表したが、アンケート結果からは業種や生産品目、生産国を問わず、ほぼ全ての企業が原材料や部品の価格上昇に直面していることが分かった。
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価格が上昇した原材料・部品は、原油価格などの高騰を反映してか「化学品」が20%で多かった。以下、「自動車関連の部品」が17%、「機械関連の部品」が9%。「産業のコメ」と呼ばれる半導体は7%だった。「その他の原材料」は40%を占めている。
また、生産コスト上昇の要因として、燃料価格の高騰やコンテナ不足の影響による「輸送費の上昇」を挙げた企業も76%に上った。原材料・部品価格と輸送費の上昇との回答は、「電力コストの上昇」(37%)や「為替要因」(27%)を大きく上回っている。生産コスト全体の上昇幅としては、「5~20%未満」が最も多く68%。「20~30%未満」が15%でこれに続いた。
また、物流コストも94%の企業が「1年前と比べて上昇した」と回答。上昇幅は「5~20%未満」が57%で最も多く、「20~30%未満」が14%だった。「30%以上」の大幅な上昇に直面している企業も15%に上っている。生産・物流コストが上昇していることで、現地の利益率が1年前と比較して「5~10%」圧迫されると回答した企業は40%。「5%未満」と回答した企業が27%、「11~20%」も13%あった一方、「利益率に影響は出ない」と答えた企業は10%にとどまる。程度の差はあれ、9割の企業の業績が圧迫されていることになる。
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■継続的な合理化が必要に
各社にとって、現在の複合的な生産コストの上昇は、一時的な現象とは捉えられていないようだ。コスト上昇がある程度収束するタイミングとして、「6カ月以内」と回答した企業は12%ほどにとどまった。一方、「7~12カ月後」と回答した企業が37%と最も多く、「2~3年後」と回答した企業も35%あった。
「その他」と答えた13%の企業のなかには、「基本的にコスト上昇は継続」(インド、四輪・二輪車・部品)、「今後に落ち着くことはなく、この先ずっと上昇し続けていく」(インドネシア、同)、「実質的に、恒久的な値上げ」(シンガポール、石油・化学・エネルギー)など、多少の波はあったとしてもコストの上昇トレンドは続いていくものとの意見が目立った。
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また、燃料や原材料などだけでなく、「人件費の上昇も続いている」(インド、鉄鋼・金属)と指摘する声も一定数あり、ロシアのウクライナ侵攻など国際情勢が落ち着いたとしてもコスト上昇はついて回る問題との見方は根強いようだ。
コスト高への対応策(複数回答)では、多くの企業が「販売価格の引き上げ」(74%)や「効率化などによるコスト削減」(69%)、「調達先の見直し」(40%)に取り組んでいる。なかには「コスト上昇要因が多過ぎ、何から手をつけていいのか分からない」(マレーシア、電機・電子・半導体)との声もある。また、値上げに踏み切った場合、「原材料価格が落ち着いた場合の値下げのタイミングが難しい」(タイ、その他)点も悩みの種だ。
生産コスト上昇の収束時期についての回答で見られたように、コスト上昇が中長期的、あるいは恒久的なトレンドと見込まれるなかでは、これらの取り組みも一時的なものではなく、継続的なものになっていきそうだ。一方で、「人員の整理・削減」は17%、「自動化への投資」は15%と、販売価格の引き上げや効率化といった取り組みと比較するとそれほど多くはない。人員の整理は企業にとって最後の手段ともいえることに加え、コストの圧縮を迫られる中で大型投資に踏み切るのは難しい状況なのかもしれない。コストそのものの問題に加え、サプライチェーンの混乱による「納期の延期や不安定化といった影響も大きい」(マレーシア、機械・機械部品)ため、対応に追われているメーカーも多いようだ。
■円安はプラスとマイナスが混在
7月と比較するといくらか落ち着いたものの、日本円の対米ドル為替レートは130円台半ばで推移しており、依然として年初の水準とはかけ離れている。アジアに生産拠点を置く日系メーカーにとって、円安はどのような影響を及ぼすのか。アンケート結果(複数回答)からは「輸送費の上昇」(27%)や「海外事業全般のコスト増」(17%)でマイナス面が顕在化していることがわかった。
「円建てのため、円安の影響で日本に同じ数の商品を出荷しても売り上げが減る」(インドネシア、機械・機械部品)など、海外で生産して日本に輸出するという事業モデルのメーカーにとってはマイナスの影響が大きい。また、米ドルがアジアの大半の通貨に対して独歩高とも言える状況にあることで、「円安はともかく、米ドルでの取引が多くあるので厳しい状況」(インド、機械・機械部品)という企業も一定数あるとみられる。
反対に、円安の影響は「特にない」との回答が22%となったほか、「日本から原材料・部品を輸入するコストが減る」(27%)や「円建ての業績が押し上げられる」(22%)といった利点を指摘する声が多かった。「円安と各国のインフレの影響で、日本が世界でいちばん材料を安く仕入れられるようになった」(インド、機械・機械部品)との声もあり、「モノによっては、対現地通貨の円安を生かした調達を検討したい」(インドネシア、四輪・二輪車・部品)と前向きな材料にもなっている。ほとんどの日系メーカーにマイナスの影響を与えている生産・物流コスト上昇の問題と比べると、円安にはメリットとデメリットが混在しているようだ。

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■円安はプラスとマイナスが混在
7月と比較するといくらか落ち着いたものの、日本円の対米ドル為替レートは130円台半ばで推移しており、依然として年初の水準とはかけ離れている。アジアに生産拠点を置く日系メーカーにとって、円安はどのような影響を及ぼすのか。アンケート結果(複数回答)からは「輸送費の上昇」(27%)や「海外事業全般のコスト増」(17%)でマイナス面が顕在化していることがわかった。
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