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エンプラ需要、電動化で拡大東レなど日系、商機を虎視眈々

タイをはじめとする東南アジアで各国政府が電動車の普及に力を入れる中、高機能樹脂であるエンジニアリングプラスチック(エンプラ)の需要が拡大しそうだ。エンプラは、汎用(はんよう)プラスチックよりも耐熱性や強度に優れているのが特長。日系樹脂メーカーは商機を取り込もうと、虎視眈々(たんたん)と市場を注視。東レは生産能力の増強も検討する。【坂部哲生】

EVへの需要拡大が期待されているPPS樹脂(東レ提供)

東レはタイで現地法人、タイ・トーレ・シンセティックスを通じて、◇ナイロン樹脂「アミラン」◇ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂「トレコン」◇ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂「トレリナ」——といったエンプラを生産。タイの日系自動車メーカーを中心に、機能品としてエンジン部品向けなどに供給している。
タイ・トーレ・シンセティックスの山見純裕ディレクターは「タイで自動車の電動化が進めば、エンプラのビジネスチャンスが拡大する。中国メーカーを含めた市場の動向をモニタリングしている」と話す。
日本ではすでに、電動車へのエンプラの採用実績がある。例えば、車載電池に蓄えられた直流電力を交流電力に変換し、モーターを駆動させる役割を担う「インバーター」にはPPS樹脂が使われている。インバーターは、リチウムイオン電池とモーターと並ぶ主要装置の1つだ。PPS樹脂はほかにも、センサー部品や冷却部品、コンデンサー向けにも供給されている。
冷却部品は、電動車の空調やモーター、バッテリーなどを適切な温度に保ち続けるための熱マネジメントシステムに必要だ。
センサーに関しては、電動化の進展に伴い◇圧力センサー◇磁気センサー◇温度センサー——などが伸びるとみられる。調査会社の富士キメラ総研(東京都中央区)によると、車載向けのセンサー世界市場は22年の1兆7,296億円から35年には2兆6,691億円に拡大する見通しだ。
コンデンサーは電圧や電流をコントロールする役割を担う。特に積層セラミックコンデンサー(MLCC)の場合、EVは電圧や電流のコントロールがより必要となるため、1台当たり内燃機関車の10倍に相当する1万個ほどが使われる場合もあるという。

「タイのEV市場を注意深くモニタリングしている」と話す山見ディレクター=9月19日、タイ・バンコク(NNA撮影)

一方、PBT樹脂はコネクターやレーダー部品、電子制御ユニット(ECU)向けケース、ナイロン樹脂は水素タンクなどに、それぞれ採用実績がある。
山見ディレクターは「需要を見ながらタイ工場の生産能力の増強を検討していきたい」と話す。事業拡大に向け、タイに進出する中国メーカーとの取引も模索していく考えだ。
■東南アジア各拠点とも協力
自動車の電動化に伴い、東レでは東南アジア各国にある拠点との連携を強化していく。電動化が進展すれば、航続距離を伸ばすために車体を軽くしたいという需要が生まれる。東レがマレーシアで生産している高耐熱のABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂の内装材向け需要も、タイなどで高まりそうだ。
タイと同様に電動車の普及に政府が力を入れているインドネシアでは、東レの現地法人インドネシア・トーレ・シンセティクスが、ナイロン樹脂とPBT樹脂の生産を手がけている。
成長著しいベトナムでは、タイ・トーレ・シンセティックスが18年にベトナム・ハノイに設立した駐在員事務所を拠点にタイで生産するエンプラの拡販に一層の力を入れる。
エンプラの技術面では、東レがタイに設置した技術センターが重要な役割を担う。日本で生産している樹脂のコンパウンド製品を東南アジアでも生産しようとする場合、迅速に材料を移管できるようになっている。タイの需要に合わせて、独自でコンパウンド製品も開発する。
■旭化成は電動バイクに採用
旭化成は、中部アユタヤ県のハイテク工業団地内にある現地法人、旭化成プラスチックス(タイランド)の工場で、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂「ザイロン」やポリアミド66樹脂「レオナ」といったエンプラを生産している。
旭化成は9月、シンガポールのエンジニアリング大手のGSSエナジー傘下のギケン・モビリティーがザイロンとレオナを「Iso」ブランドの電動二輪車に採用したと発表した。ザイロンはリチウムイオン電池カバー向け、レオナはモーターカバー向けとなる。
旭化成プラスチックス(タイランド)の関係者は今後について「ザイロンとレオナを中心にタイのEV需要を取り込んでいきたい」と意気込んだ。EV向けでは、ザイロンは電池のセル間に使用する絶縁部品であるスペーサーや高圧大電流が流れる導体の絶縁保護カバー向け、レオナはバッテリーモジュールの両端面で積層しているバッテリーセルを押付・固定するエンドプレート向けに、それぞれ用途があるという。

旭化成のエンプラの採用が決まった電動バイク「Iso UNO-X」(旭化成提供)

クラレは今年、東部ラヨーン県の新工場でナイロン系エンプラである「ジェネスタ」の生産を始めた。製品の小型化を実現できる利点があることから、EV向けには高電圧の電気回路を接続するための高電圧コネクターや熱マネジメント部品に加工されるケースが多い。すでに多くの納品実績がある。
東洋紡のタイ法人、東洋紡ケミカルズ(タイランド)はタイ現地で共重合ポリエステル樹脂「バイロン」を生産している。バイロンは主に接着剤やコーティング剤、電線被覆などの原料として使われているが、EV向けとしては今後電子部品の封止材としての需要が高まる可能性がある。
タイの樹脂メーカーも素早い対応を見せる。タイ国営石油PTT傘下で、国内最大のABS樹脂メーカーのIRPCは25年までにはEV向けを中心にABS樹脂を年産能力を9,800トン増強する計画だ。同社の現在の年産能力は17万9,000トンとなっている。

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タイ・トーレ・シンセティックスの山見純裕ディレクターは「タイで自動車の電動化が進めば、エンプラのビジネスチャンスが拡大する。中国メーカーを含めた市場の動向をモニタリングしている」と話す。
日本ではすでに、電動車へのエンプラの採用実績がある。例えば、車載電池に蓄えられた直流電力を交流電力に変換し、モーターを駆動させる役割を担う「インバーター」にはPPS樹脂が使われている。インバーターは、リチウムイオン電池とモーターと並ぶ主要装置の1つだ。PPS樹脂はほかにも、センサー部品や冷却部品、コンデンサー向けにも供給されている。
冷却部品は、電動車の空調やモーター、バッテリーなどを適切な温度に保ち続けるための熱マネジメントシステムに必要だ。
センサーに関しては、電動化の進展に伴い◇圧力センサー◇磁気センサー◇温度センサー——などが伸びるとみられる。調査会社の富士キメラ総研(東京都中央区)によると、車載向けのセンサー世界市場は22年の1兆7,296億円から35年には2兆6,691億円に拡大する見通しだ。
コンデンサーは電圧や電流をコントロールする役割を担う。特に積層セラミックコンデンサー(MLCC)の場合、EVは電圧や電流のコントロールがより必要となるため、1台当たり内燃機関車の10倍に相当する1万個ほどが使われる場合もあるという。
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一方、PBT樹脂はコネクターやレーダー部品、電子制御ユニット(ECU)向けケース、ナイロン樹脂は水素タンクなどに、それぞれ採用実績がある。
山見ディレクターは「需要を見ながらタイ工場の生産能力の増強を検討していきたい」と話す。事業拡大に向け、タイに進出する中国メーカーとの取引も模索していく考えだ。
■東南アジア各拠点とも協力
自動車の電動化に伴い、東レでは東南アジア各国にある拠点との連携を強化していく。電動化が進展すれば、航続距離を伸ばすために車体を軽くしたいという需要が生まれる。東レがマレーシアで生産している高耐熱のABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂の内装材向け需要も、タイなどで高まりそうだ。
タイと同様に電動車の普及に政府が力を入れているインドネシアでは、東レの現地法人インドネシア・トーレ・シンセティクスが、ナイロン樹脂とPBT樹脂の生産を手がけている。
成長著しいベトナムでは、タイ・トーレ・シンセティックスが18年にベトナム・ハノイに設立した駐在員事務所を拠点にタイで生産するエンプラの拡販に一層の力を入れる。
エンプラの技術面では、東レがタイに設置した技術センターが重要な役割を担う。日本で生産している樹脂のコンパウンド製品を東南アジアでも生産しようとする場合、迅速に材料を移管できるようになっている。タイの需要に合わせて、独自でコンパウンド製品も開発する。
■旭化成は電動バイクに採用
旭化成は、中部アユタヤ県のハイテク工業団地内にある現地法人、旭化成プラスチックス(タイランド)の工場で、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂「ザイロン」やポリアミド66樹脂「レオナ」といったエンプラを生産している。
旭化成は9月、シンガポールのエンジニアリング大手のGSSエナジー傘下のギケン・モビリティーがザイロンとレオナを「Iso」ブランドの電動二輪車に採用したと発表した。ザイロンはリチウムイオン電池カバー向け、レオナはモーターカバー向けとなる。
旭化成プラスチックス(タイランド)の関係者は今後について「ザイロンとレオナを中心にタイのEV需要を取り込んでいきたい」と意気込んだ。EV向けでは、ザイロンは電池のセル間に使用する絶縁部品であるスペーサーや高圧大電流が流れる導体の絶縁保護カバー向け、レオナはバッテリーモジュールの両端面で積層しているバッテリーセルを押付・固定するエンドプレート向けに、それぞれ用途があるという。
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東洋紡のタイ法人、東洋紡ケミカルズ(タイランド)はタイ現地で共重合ポリエステル樹脂「バイロン」を生産している。バイロンは主に接着剤やコーティング剤、電線被覆などの原料として使われているが、EV向けとしては今後電子部品の封止材としての需要が高まる可能性がある。
タイの樹脂メーカーも素早い対応を見せる。タイ国営石油PTT傘下で、国内最大のABS樹脂メーカーのIRPCは25年までにはEV向けを中心にABS樹脂を年産能力を9,800トン増強する計画だ。同社の現在の年産能力は17万9,000トンとなっている。
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