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中間層の一家「幸せな生活」世界最多14億人の国(1)

インド人口は今年半ば、14億2,860万人に達し、中国を抜いて世界最多になったもようだ。経済成長をけん引する中間層も増え続け、その比率は国内人口の3割を超えた。「中間層」と一口に言っても、彼らはどんな人々で、どんな暮らしぶりなのか。「幸せな生活を送っている」と話す、デリー首都圏の一家を訪ねた。【鈴木健太】

(左から)マニー・アイランさん、夫タルンさん、長男キヤンシュ君。2024年4月には第2子が生まれる予定だ=23年11月、インド北部ウッタルプラデシュ州ノイダ(NNA撮影)

「いつかは持ち家がほしい」——。デリー首都圏(インド北部ウッタルプラデシュ州ノイダ)の会社員、タルン・アイランさん(38)は9年前に結婚した際、妻マニーさん(37)に懇願された。タルンさんも家を持つことは大学時代からの夢だった。夫婦は2020年4月、賃貸で住んでいたマンション一室の別部屋を約850万ルピー(約1,500万円)で買い、同8月から住んでいる。
購入した16階(全20階)の一室(3BHK=日本でいう3LDK)は、入居に合わせて至る所をリフォームした。玄関を有するリビングは壁の一面を青緑色に塗り、ピンク色の桜をあしらった。子ども部屋の壁は、車が好きな長男キヤンシュ君(7)のため、青・赤・黄色のクラシックカー3種類を数十台描いた。ベランダ2カ所は室内スペースに改装。一つは台所を拡張し、もう一つはヒンズー教徒として祈りをささげる祭壇にした。

ベランダを改装して設けた祭壇スペース=11月、ノイダのタルンさん宅(NNA撮影)

マニーさんは、周囲一帯を見下ろせるリビングの大窓がお気に入りだ。オートリキシャ(三輪タクシー)が行き交う大通りを一望でき、マンション敷地内のヒンズー教寺院も眺められる。リキシャのクラクションは、路上なら耳をふさぎたくなるほど騒がしいが、この大窓だと心落ち着くBGMに様変わりする。

タルンさん宅の窓から見た風景。周囲を一望できる=11月、ノイダのタルンさん宅(NNA撮影)

「大学を出たら、良い会社に入って、結婚して、家を持つ。食べ物や服と同様、家は当たり前に必要なもの」(タルンさん)で、賃貸部屋に住み続ける考えは夫婦ともになかった。また、賃貸部屋に住んで家賃・月約2万ルピーが「掛け捨て」になるより、住宅ローン・月約3万8,000ルピーを頑張って払った方が「積み立て」になり、お得だと思った。
■新車購入、長男は私立で英語授業

居住マンションと7月に買ったばかりの新車の前で写真撮影に応じるタルンさん一家=11月、ノイダ(NNA撮影)

今年7月には車も買い替えた。結婚当初からスズキのハッチバック「スイフト」(約60万ルピー)を愛用していたが、古くなり、韓国・現代自動車のハッチバック「i20 」(約100万ルピー)を購入した。元々はスズキのスポーツタイプ多目的車(SUV)「ブレッツァ」が第一希望だったものの、納車まで1カ月半待ちだった。予約翌日に入手でき、性能や評判が良いi20に心を決めた。来年後半には、マニーさん用に、国内メーカー故に親近感があり価格も手頃なタタのSUV「ネクソン」を買うことを検討している。
キヤンシュ君は今、公立学校ではなく、ノイダの私立学校(学費年約15万ルピー)に通う。英語での授業実施やダンス・水泳など教育内容の充実度を踏まえ、私立校を選んだ。「子どもが大きくなり仕事を探すようになったら、英語が必要。職業によっては、頭が良くても、英語が話せないと職位が上がらない」とマニーさんが話すように、英語での授業実施は学校を選ぶ決め手の一つだった。
タルンさんの年収は約180万ルピーで、円に換算すると約310万円だ。10年前は約48万ルピーだったが、インドの経済成長や転職を繰り返す中で4倍近くに上昇した。「インドは今、世界5位の経済大国。これからもインド経済はどんどん成長する。インド人であることが誇らしい」(タルンさん)。
マニーさんも以前は働いていたものの、現在は子育て優先で仕事をしていない。本来は働くことが好きで、終業時間など融通が利く環境があれば仕事をしたいと思う。

■来年4月に第2子誕生へ
タルンさん一家は、「お見合い結婚」「信仰にあつい」などインドの伝統的な要素を持ちつつ、「世帯年収90万~540万ルピー(地場シンクタンクPRICEの定義)」「マンション居住」「車所有」「子どもは私立校で英語による授業」「核家族」といった特徴を持ち、インドの中間層の代表的な家庭だ。インドはこの十数年、こうした中間層が増えている。 
タルンさん一家の主要家電は外国製で、テレビは韓国・LG電子製の55インチ(購入額5~6万ルピー)、冷蔵庫は米ワールプール製の2ドア(購入額約2万8,000ルピー)。来年4月には第2子が生まれる予定だ。まさに今、輝かしい日々を送っている。
ただ、家や車のローン返済について、タルンさんは「問題ない」と言う一方、マニーさんは少々心配している。「インドは毎年、給料が上がる一方、物価も上がる。家計支出は結局、給料と同じぐらい上がる」。テレビなど長く使う商品は価格をあまり気にせず買うものの、日用品は無駄遣いを避けるなど、メリハリ支出を心がけている。
今後の暮らしについて、タルンさんは「ローンを早く払い終わって、子供の教育に力を入れたい。子供には好きな仕事に就いてほしい。軍を含む公務員から起業、会社員、歌手まで何でもいい」と話した。マニーさんは「私たち3人は今、幸せな生活を送っている。この先も、子どもが健康に過ごし、夫の給料や職場でのポジションが順調に上がればうれしい」と語った。

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「いつかは持ち家がほしい」——。デリー首都圏(インド北部ウッタルプラデシュ州ノイダ)の会社員、タルン・アイランさん(38)は9年前に結婚した際、妻マニーさん(37)に懇願された。タルンさんも家を持つことは大学時代からの夢だった。夫婦は2020年4月、賃貸で住んでいたマンション一室の別部屋を約850万ルピー(約1,500万円)で買い、同8月から住んでいる。
購入した16階(全20階)の一室(3BHK=日本でいう3LDK)は、入居に合わせて至る所をリフォームした。玄関を有するリビングは壁の一面を青緑色に塗り、ピンク色の桜をあしらった。子ども部屋の壁は、車が好きな長男キヤンシュ君(7)のため、青・赤・黄色のクラシックカー3種類を数十台描いた。ベランダ2カ所は室内スペースに改装。一つは台所を拡張し、もう一つはヒンズー教徒として祈りをささげる祭壇にした。
[caption id="attachment_17113" align="aligncenter" width="620"]ベランダを改装して設けた祭壇スペース=11月、ノイダのタルンさん宅(NNA撮影)[/caption]
マニーさんは、周囲一帯を見下ろせるリビングの大窓がお気に入りだ。オートリキシャ(三輪タクシー)が行き交う大通りを一望でき、マンション敷地内のヒンズー教寺院も眺められる。リキシャのクラクションは、路上なら耳をふさぎたくなるほど騒がしいが、この大窓だと心落ち着くBGMに様変わりする。
[caption id="attachment_17114" align="aligncenter" width="620"]タルンさん宅の窓から見た風景。周囲を一望できる=11月、ノイダのタルンさん宅(NNA撮影)[/caption]
「大学を出たら、良い会社に入って、結婚して、家を持つ。食べ物や服と同様、家は当たり前に必要なもの」(タルンさん)で、賃貸部屋に住み続ける考えは夫婦ともになかった。また、賃貸部屋に住んで家賃・月約2万ルピーが「掛け捨て」になるより、住宅ローン・月約3万8,000ルピーを頑張って払った方が「積み立て」になり、お得だと思った。
■新車購入、長男は私立で英語授業
[caption id="attachment_17112" align="aligncenter" width="620"]居住マンションと7月に買ったばかりの新車の前で写真撮影に応じるタルンさん一家=11月、ノイダ(NNA撮影)[/caption]
今年7月には車も買い替えた。結婚当初からスズキのハッチバック「スイフト」(約60万ルピー)を愛用していたが、古くなり、韓国・現代自動車のハッチバック「i20 」(約100万ルピー)を購入した。元々はスズキのスポーツタイプ多目的車(SUV)「ブレッツァ」が第一希望だったものの、納車まで1カ月半待ちだった。予約翌日に入手でき、性能や評判が良いi20に心を決めた。来年後半には、マニーさん用に、国内メーカー故に親近感があり価格も手頃なタタのSUV「ネクソン」を買うことを検討している。
キヤンシュ君は今、公立学校ではなく、ノイダの私立学校(学費年約15万ルピー)に通う。英語での授業実施やダンス・水泳など教育内容の充実度を踏まえ、私立校を選んだ。「子どもが大きくなり仕事を探すようになったら、英語が必要。職業によっては、頭が良くても、英語が話せないと職位が上がらない」とマニーさんが話すように、英語での授業実施は学校を選ぶ決め手の一つだった。
タルンさんの年収は約180万ルピーで、円に換算すると約310万円だ。10年前は約48万ルピーだったが、インドの経済成長や転職を繰り返す中で4倍近くに上昇した。「インドは今、世界5位の経済大国。これからもインド経済はどんどん成長する。インド人であることが誇らしい」(タルンさん)。
マニーさんも以前は働いていたものの、現在は子育て優先で仕事をしていない。本来は働くことが好きで、終業時間など融通が利く環境があれば仕事をしたいと思う。

■来年4月に第2子誕生へ
タルンさん一家は、「お見合い結婚」「信仰にあつい」などインドの伝統的な要素を持ちつつ、「世帯年収90万~540万ルピー(地場シンクタンクPRICEの定義)」「マンション居住」「車所有」「子どもは私立校で英語による授業」「核家族」といった特徴を持ち、インドの中間層の代表的な家庭だ。インドはこの十数年、こうした中間層が増えている。 
タルンさん一家の主要家電は外国製で、テレビは韓国・LG電子製の55インチ(購入額5~6万ルピー)、冷蔵庫は米ワールプール製の2ドア(購入額約2万8,000ルピー)。来年4月には第2子が生まれる予定だ。まさに今、輝かしい日々を送っている。
ただ、家や車のローン返済について、タルンさんは「問題ない」と言う一方、マニーさんは少々心配している。「インドは毎年、給料が上がる一方、物価も上がる。家計支出は結局、給料と同じぐらい上がる」。テレビなど長く使う商品は価格をあまり気にせず買うものの、日用品は無駄遣いを避けるなど、メリハリ支出を心がけている。
今後の暮らしについて、タルンさんは「ローンを早く払い終わって、子供の教育に力を入れたい。子供には好きな仕事に就いてほしい。軍を含む公務員から起業、会社員、歌手まで何でもいい」と話した。マニーさんは「私たち3人は今、幸せな生活を送っている。この先も、子どもが健康に過ごし、夫の給料や職場でのポジションが順調に上がればうれしい」と語った。
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