ミャンマー国軍によるクーデターから3年がたった1日、最大都市ヤンゴンは平穏を装っていた。軍事政権への抵抗を示す「沈黙のストライキ」を午前10時から午後4時まで実施するよう呼びかけられたが、街中には何事もないかのような日常の風景が広がっていた。だが、長引く政情不安による疲弊と景気停滞による困窮で、市民の間には将来への不安が渦巻く。反軍感情も依然強い。市民は、民政復帰の願いと軍政下での生き残りという相克に揺れている。【小故島弘善】
スーレー・パゴダが見えるヤンゴン中心部の様子=1日、ミャンマー(NNA)
「開店しているが、日中はここから出ない。これが私の『沈黙のスト』だ」
ヤンゴン中心部にある楽器店の店主はこう語った。用事は早朝に済ませた。来る客は拒まず、昼前に訪れた若者2人組にも丁寧に応対した。
市庁舎など政府機関が集まる同地域ではいつものように多くが開店していた。軍政の「無言の圧力」があるからだ。2021年2月のクーデター直後に見られた大規模デモのような表立った抵抗運動は許されない。節目に合わせて行われていた沈黙のストに応じて閉店した店舗は治安部隊に追及された。「ささやかな反抗が精いっぱい」(同店主)という状況だ。
近くで飲食店を営む男性は「いつも通りの忙しさだ。ストの影響で午後には外出する人が減るだろう」と話した。平日ということもあって通勤する人や買い物客がおり、営業を休むわけにはいかないという。
野菜や肉、魚などが並ぶ路地の市場も午前中、平常営業していた。買い物客の一人は「なるべく安く買って家族に食べさせなければならない」と語った。
ヤンゴン中心部の路地に広がる市場=1日、ミャンマー・ヤンゴン(NNA)
■生き残りに必死
当日は、「子どもの登校を拒否した」「会社を休んで家にいた」など抵抗を続ける市民もいた。ただ、明らかな抵抗は抑え込まれている。経済活動より抵抗運動を優先すると家計に響くという事情もある。
軍政下での現地通貨チャット安の進行や地方での紛争激化に伴う物価高、国際的な圧力を受けた外資企業の撤退、新規投資や外国人観光客の急減などが経済をむしばみ、市民の生活を圧迫している。「家族のために平静を装う人が増えており、ストへの参加意欲は年々しぼんでいる」(ヤンゴン市民)との声も出る。
開店休業状態のボージョー・アウンサン市場=1日、ミャンマー・ヤンゴン(NNA)
かつて外国人でにぎわったボージョー・アウンサン市場は開店休業状態だった。東京・高田馬場で働いた経験がある翡翠(ひすい)販売店の店員は「店が支払うテナント料は月約300米ドル(約4万4,000円)。ほとんど客がおらず、赤字経営が続いている」と打ち明けた。新型コロナウイルス禍とクーデターで姿を消した外国人の客足は一向に戻らず、「沈黙のスト」当日も閑古鳥が鳴いていた。
この男性は、「昔は中国人や日本人で繁盛していた。誰か知人がヤンゴンに来る時はぜひとも連絡してくれ」とすがるような目を向けた。
親軍イベントの準備に集まる人々=1日、ミャンマー・ヤンゴン(NNA)
■軍政は平時演出
軍政は市民の抵抗を無視し、平時を装っている。
ヤンゴン中心部からやや離れた場所には1日朝、僧侶を含む数百人が集まっていた。現場ではバスや救急車が手配され、水や食料を積み込む様子が見られた。ヤンゴンに住む男性は「あれは軍政が金をばらまいて集めた人だ」と説明した。ストが行われていることは体裁が悪いと考える国軍による親軍イベント。市民の支持を得ていることを演出する、クーデター後の恒例行事だ。
一般市民は冷ややかな目を向けつつも、参加者に同情も寄せる。物価が上がる中で就職先は限られ、賃金はほとんど上がらない。「数時間参加するだけで数千から数万チャットを得られて食事ももらえる。貴重な収入源なのだろう」(同男性)。
国軍トップのミンアウンフライン総司令官は、1月31日に非常事態宣言を6カ月間再延長すると発表した際、少数民族武装勢力と民主派武装組織「国民防衛隊(PDF)」が社会経済を混乱させていると非難。ただ、自らの責任は認めず、「平和と安定」に努める立場だと主張している。
市民の胸中は複雑だ。国軍は憎いが、民主派が繰り広げる武装闘争に対する意見は分かれる。軍政への国際的な圧力を求めるが、米欧が強い制裁を発動すれば、生活がより苦しくなるためだ。
クーデター後にヤンゴンから首都ネピドーに移住した人はこう語った。「(国軍に対して)誰もが爆弾を投げ込んでやりたいと思っている。ただし、自宅から遠い場所に」。
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ヤンゴン中心部にある楽器店の店主はこう語った。用事は早朝に済ませた。来る客は拒まず、昼前に訪れた若者2人組にも丁寧に応対した。
市庁舎など政府機関が集まる同地域ではいつものように多くが開店していた。軍政の「無言の圧力」があるからだ。2021年2月のクーデター直後に見られた大規模デモのような表立った抵抗運動は許されない。節目に合わせて行われていた沈黙のストに応じて閉店した店舗は治安部隊に追及された。「ささやかな反抗が精いっぱい」(同店主)という状況だ。
近くで飲食店を営む男性は「いつも通りの忙しさだ。ストの影響で午後には外出する人が減るだろう」と話した。平日ということもあって通勤する人や買い物客がおり、営業を休むわけにはいかないという。
野菜や肉、魚などが並ぶ路地の市場も午前中、平常営業していた。買い物客の一人は「なるべく安く買って家族に食べさせなければならない」と語った。
[caption id="attachment_18104" align="aligncenter" width="620"]ヤンゴン中心部の路地に広がる市場=1日、ミャンマー・ヤンゴン(NNA) [/caption]
■生き残りに必死
当日は、「子どもの登校を拒否した」「会社を休んで家にいた」など抵抗を続ける市民もいた。ただ、明らかな抵抗は抑え込まれている。経済活動より抵抗運動を優先すると家計に響くという事情もある。
軍政下での現地通貨チャット安の進行や地方での紛争激化に伴う物価高、国際的な圧力を受けた外資企業の撤退、新規投資や外国人観光客の急減などが経済をむしばみ、市民の生活を圧迫している。「家族のために平静を装う人が増えており、ストへの参加意欲は年々しぼんでいる」(ヤンゴン市民)との声も出る。
[caption id="attachment_18105" align="aligncenter" width="620"]開店休業状態のボージョー・アウンサン市場=1日、ミャンマー・ヤンゴン(NNA) [/caption]
かつて外国人でにぎわったボージョー・アウンサン市場は開店休業状態だった。東京・高田馬場で働いた経験がある翡翠(ひすい)販売店の店員は「店が支払うテナント料は月約300米ドル(約4万4,000円)。ほとんど客がおらず、赤字経営が続いている」と打ち明けた。新型コロナウイルス禍とクーデターで姿を消した外国人の客足は一向に戻らず、「沈黙のスト」当日も閑古鳥が鳴いていた。
この男性は、「昔は中国人や日本人で繁盛していた。誰か知人がヤンゴンに来る時はぜひとも連絡してくれ」とすがるような目を向けた。
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■軍政は平時演出
軍政は市民の抵抗を無視し、平時を装っている。
ヤンゴン中心部からやや離れた場所には1日朝、僧侶を含む数百人が集まっていた。現場ではバスや救急車が手配され、水や食料を積み込む様子が見られた。ヤンゴンに住む男性は「あれは軍政が金をばらまいて集めた人だ」と説明した。ストが行われていることは体裁が悪いと考える国軍による親軍イベント。市民の支持を得ていることを演出する、クーデター後の恒例行事だ。
一般市民は冷ややかな目を向けつつも、参加者に同情も寄せる。物価が上がる中で就職先は限られ、賃金はほとんど上がらない。「数時間参加するだけで数千から数万チャットを得られて食事ももらえる。貴重な収入源なのだろう」(同男性)。
国軍トップのミンアウンフライン総司令官は、1月31日に非常事態宣言を6カ月間再延長すると発表した際、少数民族武装勢力と民主派武装組織「国民防衛隊(PDF)」が社会経済を混乱させていると非難。ただ、自らの責任は認めず、「平和と安定」に努める立場だと主張している。
市民の胸中は複雑だ。国軍は憎いが、民主派が繰り広げる武装闘争に対する意見は分かれる。軍政への国際的な圧力を求めるが、米欧が強い制裁を発動すれば、生活がより苦しくなるためだ。
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