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新規生産の最有力は炭素繊維印南部の事業用地で、東レ社長

東レは、同社の新規生産の最有力候補である炭素繊維について、インドでの生産を遅くとも2026~28年度(26年4月~29年3月)が対象の次期中期計画で決定する見通しだ。各国が再生可能エネルギーの導入を加速するなか、軽量化素材として採用が進む「風力発電ブレード(翼)向け」を有望視している。東レはインド南部アンドラプラデシュ州に約35万平方メートルの新規事業用地を保有し、強みを持つ商材の需要拡大に合わせて生産拠点を立ち上げていく戦略を取っており、炭素繊維工場の立地は同地を想定している。東レの大矢光雄社長が16日、NNAの単独インタビューに応じ、明らかにした。

東レの大矢光雄社長(左)とインドの東レ代表を務める末永繁一氏(東レ・インディア会長)。東レはインドでの新規生産品目として炭素繊維とRO膜を有力視する=16日、首都ニューデリー(NNA撮影)

大矢氏は、東レのインド法人、東レ・インダストリーズ(インディア)(TID)が中核のインド東レグループが16日、首都ニューデリーで開催した「東レフォーラムインディア2024」に出席するためインドを訪れた。同フォーラムは、東レグループの企業戦略や研究開発、先端材料を紹介する内容で、今回で3回目となる。
大矢氏は同日、NNAに対し、インドで生産の可能性がある商材として、「炭素繊維」と「逆浸透(RO)膜」を挙げた。炭素繊維は強度と硬度が高い一方で軽い特質があり、航空機や自動車、ワイヤの中間財として主に用いられる。RO膜はろ過膜の一種で海水や排水などで浄水機能を持つ。
大矢氏は「炭素繊維は現行の中期経営計画(23~25年度)で計画をまとめ、次期(26~28年度)で生産の判断を下す。炭素繊維は経済安全保障上の観点から、(最終製品を特定した形での)加工事業が中心になる」と述べた。
東レは、大型化に伴って軽量化が求められる風力発電のブレード向け炭素繊維を生産している。世界的な再エネによる電力の普及を見据え、「炭素繊維は風車が対象になる見通しだ」(大矢氏)。
■電解質膜に埋もれる商機
東レフォーラムインディア2024では「持続可能な水素社会」をテーマに掲げ、東レが開発に取り組む製品を展示した。参加者の注目を集めたのは、水電解技術だ。同社が開発した「炭化水素系電解質膜」を使用し、水を電気分解して水素をつくる仕組みを紹介したもので、電力を再エネ由来にすれば、生産過程で二酸化炭素(CO2)を排出しない「グリーン水素」を製造できる。
東レのHS事業部門の高橋弘造部門長はフォーラムのセッションで炭化水素系(HC)電解質膜と水電解用途への取り組みを説明した。次世代エネルギーとして期待が集まるグリーン水素の製造(水電解)から輸送・貯蔵(水素圧縮)、利用(燃料電池)まで各プロセスで東レの電解質膜を活用できる強みを「サステナビリティー」として強調した。電解質膜は25年の量産を見込む。
東レは22年にHS事業部門を立ち上げた。インドでは、東レが25%を出資するやまなしハイドロジェンカンパニーとスズキの子会社でインドの乗用車最大手マルチ・スズキが共同でNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の国際事業として、グリーン水素技術の実証を進める。マルチ・スズキのマネサール工場(北部ハリヤナ州)で実施し、東レは同社の電解質膜を使った水電解装置などを提供する計画だ。
東レは、「実証実験を通じて得られた結果とノウハウをマルチ・スズキの他工場にも展開していただけるようにしたい」と話し、企業の水素エネルギーの導入を支援する考えだ。
■志は中国事業より速いスピードで
インド政府は21年に「国家水素エネルギーミッション」の策定を発表し、翌22年に具体的な計画を公表した。23年には内容をより強化し、30年までに少なくとも年間500万トンのグリーン水素の生産能力を構築するとしている。初期予算として、パイロット事業や研究開発などに計1,974億ルピー(約3,600億円)を計上した。
化石燃料から再エネやグリーン水素への置換を図り、モビリティーや航空、海運分野でエネルギーの代替を推し進める。
東レは売上高の61%を海外が占め、内訳はアジアが40%、欧米・その他が21%となる。アジアは中国が4,000億円で大半を稼ぎ出し、インドは200億円程度にとどまる。
中国には1990年代に進出し、約30年かけて売り上げ4,000億円の市場に育てた。大矢氏は、「インドを中国と同規模の市場に拡大するという志がある。インドの人口と内需、ハイエンド商品のポテンシャル(成長性)を踏まえれば、時間軸として中国で要した30年よりも早く達成したい」と話す。
東レは16年のエアバッグ素材の生産を皮切りにインドに参入した。現在は、自動車の電装部品などに使われる「樹脂コンパウンド(エンジニアリングプラスチック)」と紙おむつ素材の「ポリプロピレン(PP)スパンボンド」も手がける。インド政府のグリーン水素戦略に絡む商材を幅広く持つだけに、大矢氏は、工場などの資産の保有を抑えて経営効率を上げる「アセットライト」も売り上げ拡大のスピードアップになるとみている。地場企業との合弁などで「共創」体制を敷き、生産の外部委託や商品の技術で稼ぐといったリソースの活用も視野に入れている。

電解質膜を通して水から水素を取り出す仕組みを分かりやすく説明した模型。太陽光を想定した電灯を発電パネルに当て電力を生み出し、水が触媒層付きの電解質膜(左側の黒い正方形のセル)を通ると水素と酸素に分解される。水素は次に燃料電池の役割を果たす触媒層付きの電解質膜(右側の黒い正方形のセル)に送られ酸素と結合し電力を生み出す=16日、首都ニューデリー(NNA撮影)

東レが18年に取得した南部スリシティーの用地(赤枠部分)。敷地面積は約35万平方メートル。青い屋根の建屋は紙おむつ素材「PPスパボンド」工場、その右隣が樹脂コンパウンド(エンジニアリングプラスチック)」工場、画面中央の通りの右側最も奥の建屋がエアフィルター工場となる(TID提供)
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大矢氏は、東レのインド法人、東レ・インダストリーズ(インディア)(TID)が中核のインド東レグループが16日、首都ニューデリーで開催した「東レフォーラムインディア2024」に出席するためインドを訪れた。同フォーラムは、東レグループの企業戦略や研究開発、先端材料を紹介する内容で、今回で3回目となる。
大矢氏は同日、NNAに対し、インドで生産の可能性がある商材として、「炭素繊維」と「逆浸透(RO)膜」を挙げた。炭素繊維は強度と硬度が高い一方で軽い特質があり、航空機や自動車、ワイヤの中間財として主に用いられる。RO膜はろ過膜の一種で海水や排水などで浄水機能を持つ。
大矢氏は「炭素繊維は現行の中期経営計画(23~25年度)で計画をまとめ、次期(26~28年度)で生産の判断を下す。炭素繊維は経済安全保障上の観点から、(最終製品を特定した形での)加工事業が中心になる」と述べた。
東レは、大型化に伴って軽量化が求められる風力発電のブレード向け炭素繊維を生産している。世界的な再エネによる電力の普及を見据え、「炭素繊維は風車が対象になる見通しだ」(大矢氏)。
■電解質膜に埋もれる商機
東レフォーラムインディア2024では「持続可能な水素社会」をテーマに掲げ、東レが開発に取り組む製品を展示した。参加者の注目を集めたのは、水電解技術だ。同社が開発した「炭化水素系電解質膜」を使用し、水を電気分解して水素をつくる仕組みを紹介したもので、電力を再エネ由来にすれば、生産過程で二酸化炭素(CO2)を排出しない「グリーン水素」を製造できる。
東レのHS事業部門の高橋弘造部門長はフォーラムのセッションで炭化水素系(HC)電解質膜と水電解用途への取り組みを説明した。次世代エネルギーとして期待が集まるグリーン水素の製造(水電解)から輸送・貯蔵(水素圧縮)、利用(燃料電池)まで各プロセスで東レの電解質膜を活用できる強みを「サステナビリティー」として強調した。電解質膜は25年の量産を見込む。
東レは22年にHS事業部門を立ち上げた。インドでは、東レが25%を出資するやまなしハイドロジェンカンパニーとスズキの子会社でインドの乗用車最大手マルチ・スズキが共同でNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の国際事業として、グリーン水素技術の実証を進める。マルチ・スズキのマネサール工場(北部ハリヤナ州)で実施し、東レは同社の電解質膜を使った水電解装置などを提供する計画だ。
東レは、「実証実験を通じて得られた結果とノウハウをマルチ・スズキの他工場にも展開していただけるようにしたい」と話し、企業の水素エネルギーの導入を支援する考えだ。
■志は中国事業より速いスピードで
インド政府は21年に「国家水素エネルギーミッション」の策定を発表し、翌22年に具体的な計画を公表した。23年には内容をより強化し、30年までに少なくとも年間500万トンのグリーン水素の生産能力を構築するとしている。初期予算として、パイロット事業や研究開発などに計1,974億ルピー(約3,600億円)を計上した。
化石燃料から再エネやグリーン水素への置換を図り、モビリティーや航空、海運分野でエネルギーの代替を推し進める。
東レは売上高の61%を海外が占め、内訳はアジアが40%、欧米・その他が21%となる。アジアは中国が4,000億円で大半を稼ぎ出し、インドは200億円程度にとどまる。
中国には1990年代に進出し、約30年かけて売り上げ4,000億円の市場に育てた。大矢氏は、「インドを中国と同規模の市場に拡大するという志がある。インドの人口と内需、ハイエンド商品のポテンシャル(成長性)を踏まえれば、時間軸として中国で要した30年よりも早く達成したい」と話す。
東レは16年のエアバッグ素材の生産を皮切りにインドに参入した。現在は、自動車の電装部品などに使われる「樹脂コンパウンド(エンジニアリングプラスチック)」と紙おむつ素材の「ポリプロピレン(PP)スパンボンド」も手がける。インド政府のグリーン水素戦略に絡む商材を幅広く持つだけに、大矢氏は、工場などの資産の保有を抑えて経営効率を上げる「アセットライト」も売り上げ拡大のスピードアップになるとみている。地場企業との合弁などで「共創」体制を敷き、生産の外部委託や商品の技術で稼ぐといったリソースの活用も視野に入れている。
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