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日本での就労目指し学ぶ若者徴兵制、無事出国できるか不安も

ミャンマーでは、政情不安もあって日本など海外での就労に人気が集まっている。軍事政権による徴兵制の導入発表もあり、海外人気は一段と高まる見通しだ。こうした中、現地では海外への脱出を目指して語学学校の門をたたく若者が増えるとみられる。だが、海外就労は苦労も多い。日本では、技能実習生などの「失踪」が社会問題化している。語学学校は、こうした問題にどう対応しているのか。最大都市ヤンゴンの日本語学校「夢行き」を取材した。【丹下詩織】

ヤンゴンの日本語学校「夢行き」で学ぶ学生たち=1月26日、ミャンマー(NNA)

80人が一度に学べる大教室に入ると、ミャンマー人の日本語講師の問いかけに学生たちが声をそろえて答える。熱気のこもった満員の教室に教科書を音読する声が反響する。
この学校には二つの校舎があり、600~700人が日本語能力試験(JLPT)のN4、約160人がより難易度の高いN3の合格を目指すコースでそれぞれ学んでいる。学生の多くは18歳から30歳までの人が多い。男女比は4対6。他の教育機関には通わず、この学校での授業に専念する人がほとんどだ。
全くの初学者がN4の取得を目指すコースでは、6カ月半にわたり週5回、1日2時間の授業が行われる。N4は在留資格「特定技能」や介護分野の技能実習生に求められるレベル。コース終了後にN4を受験すると、およそ85~90%が合格するという。
シンガポールやマレーシアでの就業向けの英語・中国語を学ぶコースもあるが、学生数は日本語コースが圧倒的に多い。
N4コースをトップの成績で修了し、現在はN3コースで学んでいるミャッニンウェイさん(23)に話しかけると、流ちょうな日本語で回答が返ってきた。学習歴は7カ月。毎日の学習時間は5時間で、昨年12月にN4の試験に合格した。祖父母が亡くなったのをきっかけに、介護の仕事に興味を持ったという。

■職業教育の実習も
この学校では語学のコースに加えて、介護や外食、飲食品製造、農業など職業知識を身に付け、特定技能試験の合格を目指すコースも併設している。日本語コースで学ぶ学生の約3割が並行して受講するという。
校舎内には介護実習用のベッドや飲食実習用のキッチン設備も備わっている。屋上には建設現場をイメージした実習場所もあり、資材の取り扱い方や、溶接などの技術も教えている。屋上には、周囲を取り囲むように手すりが設置されているが、これは実習を通して学生が取り付けたものだ。

■理想と現実とのギャップを埋める
技能実習生として岡山県の弁当工場に行くことが決まり、出国を待つキンスースートゥエさん(19)は、「電子レンジを使ったことがない」と話した。電車やエレベーターの乗り方などを知らない学生も多い。
同校代表取締役のチョウサンティンさんは、「先進国の日本では楽に働けるというイメージを持つ学生が多いものの、実際には苦労も多いと知っていてほしい」と語った。日本での生活知識を身に付けるための一環として、校内では日本式のごみの分別ルールを実施している。
職業実習や、訪日後に感じるギャップを避けるための学習は、日本での「失踪」を出さない点でも役立つという。チョウサンティンさんは、学校の創立以来、「失踪者はゼロです」と胸を張った。
この学校は19年9月に送り出し機関の認定を受け、同年12月に男性4人を最初の技能実習生として送り出した。4人とも建設分野で3年の期間を満了。3人は帰国して建設業を続け、1人は在留資格を特定技能に切り替えて日本で働き続けているという。

■徴兵制で先行きを心配
ミャンマーで今月施行された徴兵制は、日本の生活を夢見る学生たちに水を差す結果を招いている。同校マネジャーのモーサンダーさんによると、在留資格認定証明書(COE)と査証(ビザ)を保持する人は徴兵制施行後も引き続き出国できる。だが学生の間には、これからパスポートを申請する際、「先に兵役を求められるように国の規則が変更される恐れがあるのでは」という不安が広がっているという。
徴兵制に対する反応は、学生の出身地によっても異なるようだ。ヤンゴン出身の学生は不安を抱えながらも通学を続ける人が多い一方、中部エヤワディ地域や北部ザガイン地域、西部ラカイン州など地方出身者には家族を心配して帰郷を検討する人もいる。親などが心配して帰郷を促すケースもあるという。

日本語の教科書を音読しながら書いて覚える=1月26日、ミャンマー(NNA)

校舎内には外食業の実習ができるキッチン設備も=1月26日、ミャンマー(NNA)
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80人が一度に学べる大教室に入ると、ミャンマー人の日本語講師の問いかけに学生たちが声をそろえて答える。熱気のこもった満員の教室に教科書を音読する声が反響する。
この学校には二つの校舎があり、600~700人が日本語能力試験(JLPT)のN4、約160人がより難易度の高いN3の合格を目指すコースでそれぞれ学んでいる。学生の多くは18歳から30歳までの人が多い。男女比は4対6。他の教育機関には通わず、この学校での授業に専念する人がほとんどだ。
全くの初学者がN4の取得を目指すコースでは、6カ月半にわたり週5回、1日2時間の授業が行われる。N4は在留資格「特定技能」や介護分野の技能実習生に求められるレベル。コース終了後にN4を受験すると、およそ85~90%が合格するという。
シンガポールやマレーシアでの就業向けの英語・中国語を学ぶコースもあるが、学生数は日本語コースが圧倒的に多い。
N4コースをトップの成績で修了し、現在はN3コースで学んでいるミャッニンウェイさん(23)に話しかけると、流ちょうな日本語で回答が返ってきた。学習歴は7カ月。毎日の学習時間は5時間で、昨年12月にN4の試験に合格した。祖父母が亡くなったのをきっかけに、介護の仕事に興味を持ったという。

■職業教育の実習も
この学校では語学のコースに加えて、介護や外食、飲食品製造、農業など職業知識を身に付け、特定技能試験の合格を目指すコースも併設している。日本語コースで学ぶ学生の約3割が並行して受講するという。
校舎内には介護実習用のベッドや飲食実習用のキッチン設備も備わっている。屋上には建設現場をイメージした実習場所もあり、資材の取り扱い方や、溶接などの技術も教えている。屋上には、周囲を取り囲むように手すりが設置されているが、これは実習を通して学生が取り付けたものだ。

■理想と現実とのギャップを埋める
技能実習生として岡山県の弁当工場に行くことが決まり、出国を待つキンスースートゥエさん(19)は、「電子レンジを使ったことがない」と話した。電車やエレベーターの乗り方などを知らない学生も多い。
同校代表取締役のチョウサンティンさんは、「先進国の日本では楽に働けるというイメージを持つ学生が多いものの、実際には苦労も多いと知っていてほしい」と語った。日本での生活知識を身に付けるための一環として、校内では日本式のごみの分別ルールを実施している。
職業実習や、訪日後に感じるギャップを避けるための学習は、日本での「失踪」を出さない点でも役立つという。チョウサンティンさんは、学校の創立以来、「失踪者はゼロです」と胸を張った。
この学校は19年9月に送り出し機関の認定を受け、同年12月に男性4人を最初の技能実習生として送り出した。4人とも建設分野で3年の期間を満了。3人は帰国して建設業を続け、1人は在留資格を特定技能に切り替えて日本で働き続けているという。

■徴兵制で先行きを心配
ミャンマーで今月施行された徴兵制は、日本の生活を夢見る学生たちに水を差す結果を招いている。同校マネジャーのモーサンダーさんによると、在留資格認定証明書(COE)と査証(ビザ)を保持する人は徴兵制施行後も引き続き出国できる。だが学生の間には、これからパスポートを申請する際、「先に兵役を求められるように国の規則が変更される恐れがあるのでは」という不安が広がっているという。
徴兵制に対する反応は、学生の出身地によっても異なるようだ。ヤンゴン出身の学生は不安を抱えながらも通学を続ける人が多い一方、中部エヤワディ地域や北部ザガイン地域、西部ラカイン州など地方出身者には家族を心配して帰郷を検討する人もいる。親などが心配して帰郷を促すケースもあるという。
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