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繊維市場、日系は技術武器に欧米アパレル向けに商機狙う

日本の繊維・衣料品メーカーがベトナム市場への売り込みに力を入れている。ベトナムは中国に代わる世界向け繊維製品の供給基地として、アパレル企業から高い技術が求められるようになっており、開発力を競う日系企業には商機になりえるからだ。各社は機能性や生産性の高い製品をベトナムの繊維工場に売り込み、欧米ブランド向けの供給拡大につなげたい意向だ。

衣料品・繊維・繊維技術に関するベトナム国際見本市に出展した村田機械のブースには、ボルテックス糸が使用された衣類が展示された=南部ホーチミン市、2月28日

ベトナム南部ホーチミン市で2月28日~3月1日に初開催された衣料品・繊維・繊維技術に関するベトナム国際見本市(VIATT)には、20社余りの日系企業がブースを構えた。
村田機械(京都市伏見区)は、毛羽が少なく洗濯に強いなどの特徴を持つ繊維素材「ボルテックス糸」を製造する精紡機を売り込んだ。同社で東南アジア営業を担当する寶谷俊哉氏は、高い生産性や省エネルギー、省人化が見込めることなどがアピールポイントだと説明し、「ベトナムでの販売台数を2倍以上に増やしていきたい」と目標を広げた。
大手繊維商社の豊島(名古屋市中区)は、和紙から作られた日本らしい生地や機能性が高い生地などを展示してバイヤーの反応を確かめた。ベトナム事業ではこれまで糸の仕入れが中心だったが、新たに生地の販売事業に乗り出す。
1月末に現地法人を設立した繊維メーカーのシキボウは、タイのJPボスコなどグループ会社とともにブースを出展し、高機能性の糸などを売り込んだ。
■ベトナムへの要求、高水準に
日系各社がベトナムに目を向けるのは、欧米などのアパレル会社の発注先が、中国からベトナムに急速に移行しているためだ。米中対立の激化などを受けた脱中国の動きと、中国の人件費上昇が背景にある。
シキボウの現地法人シキボウベトナムの藤井靖之社長は、これまでベトナムの繊維や生地、衣類の生産工場に求められていたのは安価であることで、高い技術力が必要なものは中国で生産されていたと説明しながらも、最近は「中国に代わるアパレルの生産地として急速に高い技術力が求められるようになっている」と指摘。ここに「日本企業にとってのチャンスがある」と強調した。
特に最近求められるようになっているのが「機能性」で、日系企業にとって追い風となっている。これまで機能性が求められなかったカジュアルウエアやビジネスウエアも、ユニクロの台頭などに伴って速乾性や吸水性などの機能を求める消費者が世界的に増えており、ベトナムの工場も対応を迫られる見通しだ。欧州企業からは生産工場に対する脱炭素化の取り組みも求められており、省エネ対応なども必要になってくる。
■多くのFTAが追い風
ベトナムが多くの国と経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)を締結していることも、日系企業がベトナム展開を強化する理由の一つだ。ある業界関係者は「特に欧州連合(EU)との自由貿易協定(EVFTA)を結んでいる国は東南アジアでは数少ない」と指摘し、EUを含めて多くの国と協定を結ぶベトナムでの事業拡大を通して、世界のアパレル企業やバイヤーからの受注拡大を期待していると説明した。
シキボウベトナムの藤井氏も、ベトナムの生産委託工場を通じて欧米アパレルへの供給を増やしていきたいと説明。同社の日本本社が欧米企業に直接製品を提案することに加えて、ベトナムに設立した現地法人が同国内の外注工場に働きかけ、欧米企業に同社製品を紹介してもらうといった営業チャネルの多角化にも取り組みたいと述べた。
豊島の担当者も、ベトナムの縫製工場に生地を売り込むだけでなく「欧米ブランド向けの縫製・加工メーカーへの生地販売で商機を見つけたい」と説明した。
■日本からの生産移管進む
円安が加速する日本の厳しい事業環境もベトナムに目を向ける理由になっているようだ。
藤井氏によれば、日本で円安が急速に進行した2022年以降、原材料やエネルギー、運送費、人件費が高騰して一部では繊維や生地、衣料品などの生産コストが2倍近くに跳ね上がった。これまで損益分岐点ぎりぎりで作っていた日本製品の採算が悪化し、コストの低いベトナムでの生産に切り替える動きが進んだ。昨年はベトナム工場も欧米からの受注が減少した分、日本の小ロットでの受注を受け入れる余地があり、生産移管が加速したという。
■縫製偏重の修正これから
各社がベトナムの繊維・衣料業界の課題として指摘するのは、原糸の生産・紡績・生地加工など生産工程で上流に位置付けられる産業が小さく、川下の縫製産業に比べて未発達なことだ。ベトナム最大の繊維関連企業である国営ベトナム繊維・衣料グループ(ビナテックス)でさえも「主力は縫製で、不均衡な体制だ」と指摘されている。
欧米などのアパレルブランドは、中国や台湾、日本などから生地を輸出し、ベトナムで最終工程の縫製加工を委託していることが多い。日系企業が川上工程に参入することで、一貫生産体制が整うことが期待できる。
人件費が上昇傾向にあることもベトナムの業界の課題だ。中国やタイよりは安いものの、今後はコスト面での競争力は弱まってくる。すでにより人件費の低いバングラデシュやカンボジアに目を向けているアパレル企業も多い。ベトナムの工場は生き残りをかけて、製品の高品質化や生産性向上に目を向け始めており、日系企業はそこに参入機会をうかがう構図となっている。

シキボウが展示した糸などの製品
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大手繊維商社の豊島(名古屋市中区)は、和紙から作られた日本らしい生地や機能性が高い生地などを展示してバイヤーの反応を確かめた。ベトナム事業ではこれまで糸の仕入れが中心だったが、新たに生地の販売事業に乗り出す。
1月末に現地法人を設立した繊維メーカーのシキボウは、タイのJPボスコなどグループ会社とともにブースを出展し、高機能性の糸などを売り込んだ。
■ベトナムへの要求、高水準に
日系各社がベトナムに目を向けるのは、欧米などのアパレル会社の発注先が、中国からベトナムに急速に移行しているためだ。米中対立の激化などを受けた脱中国の動きと、中国の人件費上昇が背景にある。
シキボウの現地法人シキボウベトナムの藤井靖之社長は、これまでベトナムの繊維や生地、衣類の生産工場に求められていたのは安価であることで、高い技術力が必要なものは中国で生産されていたと説明しながらも、最近は「中国に代わるアパレルの生産地として急速に高い技術力が求められるようになっている」と指摘。ここに「日本企業にとってのチャンスがある」と強調した。
特に最近求められるようになっているのが「機能性」で、日系企業にとって追い風となっている。これまで機能性が求められなかったカジュアルウエアやビジネスウエアも、ユニクロの台頭などに伴って速乾性や吸水性などの機能を求める消費者が世界的に増えており、ベトナムの工場も対応を迫られる見通しだ。欧州企業からは生産工場に対する脱炭素化の取り組みも求められており、省エネ対応なども必要になってくる。
■多くのFTAが追い風
ベトナムが多くの国と経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)を締結していることも、日系企業がベトナム展開を強化する理由の一つだ。ある業界関係者は「特に欧州連合(EU)との自由貿易協定(EVFTA)を結んでいる国は東南アジアでは数少ない」と指摘し、EUを含めて多くの国と協定を結ぶベトナムでの事業拡大を通して、世界のアパレル企業やバイヤーからの受注拡大を期待していると説明した。
シキボウベトナムの藤井氏も、ベトナムの生産委託工場を通じて欧米アパレルへの供給を増やしていきたいと説明。同社の日本本社が欧米企業に直接製品を提案することに加えて、ベトナムに設立した現地法人が同国内の外注工場に働きかけ、欧米企業に同社製品を紹介してもらうといった営業チャネルの多角化にも取り組みたいと述べた。
豊島の担当者も、ベトナムの縫製工場に生地を売り込むだけでなく「欧米ブランド向けの縫製・加工メーカーへの生地販売で商機を見つけたい」と説明した。
■日本からの生産移管進む
円安が加速する日本の厳しい事業環境もベトナムに目を向ける理由になっているようだ。
藤井氏によれば、日本で円安が急速に進行した2022年以降、原材料やエネルギー、運送費、人件費が高騰して一部では繊維や生地、衣料品などの生産コストが2倍近くに跳ね上がった。これまで損益分岐点ぎりぎりで作っていた日本製品の採算が悪化し、コストの低いベトナムでの生産に切り替える動きが進んだ。昨年はベトナム工場も欧米からの受注が減少した分、日本の小ロットでの受注を受け入れる余地があり、生産移管が加速したという。
■縫製偏重の修正これから
各社がベトナムの繊維・衣料業界の課題として指摘するのは、原糸の生産・紡績・生地加工など生産工程で上流に位置付けられる産業が小さく、川下の縫製産業に比べて未発達なことだ。ベトナム最大の繊維関連企業である国営ベトナム繊維・衣料グループ(ビナテックス)でさえも「主力は縫製で、不均衡な体制だ」と指摘されている。
欧米などのアパレルブランドは、中国や台湾、日本などから生地を輸出し、ベトナムで最終工程の縫製加工を委託していることが多い。日系企業が川上工程に参入することで、一貫生産体制が整うことが期待できる。
人件費が上昇傾向にあることもベトナムの業界の課題だ。中国やタイよりは安いものの、今後はコスト面での競争力は弱まってくる。すでにより人件費の低いバングラデシュやカンボジアに目を向けているアパレル企業も多い。ベトナムの工場は生き残りをかけて、製品の高品質化や生産性向上に目を向け始めており、日系企業はそこに参入機会をうかがう構図となっている。
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