香港政府で直接投資の誘致と促進を担当する投資促進署(インベスト香港)の劉凱旋(アルファ・ラウ)署長がこのほど東京を訪れ、香港のPRや誘致活動、企業との交流を行った。署長に就任して以降では初めての訪日となる。日本企業に香港進出の利点を呼びかけるとともに「より積極的に、アジアへ目を向けてほしい」と語る劉氏に、NNAが話を聞いた。
就任後初めて東京を訪れ、企業の誘致活動や関係者との交流に臨んだ劉署長=19日、東京(NNA撮影)
——インベスト香港は今年で設立から25年を迎える。
政府の中では比較的若い部署だが、既に海外34カ所に拠点を開設しており、各地に専門の担当官を置いている。中でも東京は特に重要な場所だと考えており、拠点の開設も2011年と比較的早かった。
主な役割は域外からの企業誘致と、香港のビジネスチャンスの紹介などだ。各業界の異なる要件、異なるニーズを満たすため、署内には産業別の担当チームを有しており、香港での事業立ち上げと事業拡大を支援する専門的なノウハウと知識を提供している。今年はマレーシアのクアラルンプールと、サウジアラビアのリヤドにも新たに拠点を開設する計画だ。
——今回の訪日における日系企業との交流については。
既に香港で事業を展開している大手企業に加え、今回はスタートアップ企業やインキュベーターとの交流も積極的に行った。またアナリストと一緒に経済関連のイベントに登壇しての講演も行った。
フィンテック(ITを活用した金融サービス)やバイオテクノロジー、グリーンテクノロジーといった分野での新たな協業を模索した。日本の中小企業の中には、海外のマーケットに進出したいものの支援がなければ難しいという声も多い。その手助けができればと考えている。
業界団体の関係者とも交流した結果、香港に興味を抱いてくれる人は多かった。どのスタートアップも資金調達や新規株式公開(IPO)を目指していると思うが、香港にはそれができる条件がある。
関係者の中には、日本のテクノロジー関連企業には他国と比べユニコーン(企業価値が高い新興企業)がまだ少ないとの声があった。ユニコーンになるにはグローバルで成功する必要がある。そのためにも香港に人員を派遣し、ビジネスチャンスを模索することを強く進めたい。香港では毎年、スタートアップ向けのイベント「スタート・ミー・アップ香港フェスティバル」やフィンテックイベントの「香港フィンテックウイーク」などを開催しており、世界中からの参加を歓迎している。
——昨年のデータを見ると、香港に進出した企業の大半は中国本土からだった。日本企業の存在感は薄まっていないか。
香港にはさまざまな国・地域から多くの企業が進出してくる。昨年に本土企業の数が大きく増えたのは指摘の通りだ。本土企業が国策を追い風に積極的に海外に打って出ていること、また海外進出の際にまず香港を経由していくケースが多いことが背景にある。
しかし国・地域別で見ると、本土以外も大半の企業数が前年から増えており、日本企業の数も上向いている。本土企業が数で目立つだけで、全体で見れば穏健な成長を続けている。
——香港と本土との一体化が進む中、企業が直接本土へ進出する動きもある。
香港は中国の一部だが、知っての通り本土とは法制度や資金の流れに関する制度、公用語からライフスタイルまで多くが異なる。本土には依然として資金や情報の流れに厳しい規制が残る。交通やインフラなどでの一体化は進んでいるが、中央政府は香港をゲートウエーとして扱っており、特別な権利を与えている。
香港を経由して本土に進出する場合、税制面のみならず拠点設立からモノ・人の流れ、製品の輸入や販売などについてもさまざまな優遇策が適用される。本土との経済・貿易関係緊密化協定(CEPA)に基づいた各種優遇措置もある。
日本企業にとっては、香港がコモン・ロー(英米法)に基づく司法制度を採用していることの意義も大きいだろう。
体力のある大手を中心に、本土に直接進出している企業も確かに多い。ただ彼らは、香港に管理や財務を担うオフィスを持つことの重要性もまた理解している。日本や欧州の大手企業の中には、上海に置いていた地域本部を香港に戻す動きもある。中国だけでなくアジア全体のビジネスの管理を視野に入れての決定だ。
地理的にアジアのほぼ中心に位置し、シンプルで低税率な税制、交通の利便性の高さ、資本やモノの流れに関する規制の少なさなど、アジア最大の金融センターである香港自体が持つ優位性にも変化はない。
だからこそ自身の真の役割は、企業の誘致だけではなく、香港を世界中とつながった「スーパーコネクター」として整えることだと考えている。世界中から資金が集まり、世界中の企業がここで出会い、ビジネスチャンスを探して事業を拡大できるようにしたい。
——日本企業にインベスト香港署長として伝えたいことは。
日本企業はより積極的に、アジアへと目を向けてほしい。香港には既に多くの日本企業が進出し、グレーターチャイナで成功を収めている。ただ企業の関係者と話すと、日本側の中華圏やアジアに対する理解が浅く誤解も多いため、本社の説得が大変だとこぼすのをよく聞く。
一方、本社側の関係者と話しても「海外でより多くの収益を得る必要がある」という見解は一致している。だからこそ日本を離れて、変化するアジアのいまを自分の目で確認し、理解できている人材をもっと増やすべきだ。でないと不確かな情報だけが一人歩きしてしまう可能性もある。香港についても「(情報漏えいの危険性があるから)渡航の際は使い捨て携帯電話を持参せねばならない」などとした分析があると聞いたが、現地の状況を知っていればあり得ない話だ。
最後にメッセージとして3点。まず1つ、香港はハブとしての機能だけでなく、市場としても多くのチャンスがある場所だということ。政府が新都心として開発する新界地区の「北部都会区」プロジェクトなども抱えており、IT分野などでも大きな商機がある。
2つ目は、もし日本企業が前に進みたいのであれば、国内市場とともに後退する道ではなく、海外へ、特に香港へと行く道を勧めたいということ。香港はグレーターチャイナだけでなくアジア全体、さらに世界中とつながるハブであり、活用できる要素は多い。
そして3つ目。本筋からはそれるが、香港は何より来て楽しい場所だと強調しておきたい。海外から来た企業関係者の中には、香港がビジネスの場所として優れているだけではなく「帯同した家族も楽しんでいる」と言ってくれる人が多い。ハイキングやグルメ、エンターテインメントに旅行まで。老若男女問わず何か楽しめる要素を見つけられるはずだ。個人的な旅行でも、インベスト香港のイベントに参加するためでも構わない。より多くの人々に香港を訪問して、理解を深めていただきたい。(聞き手=菅原湖)
<プロフィル>
劉凱旋(アルファ・ラウ)
オックスフォード大学卒業後、北京の清華大学で高等教育修了証を取得。中国のほか多国籍の金融機関で要職を歴任した後、香港政府に加わる。貿易産業諮問会や国際事業委員会、メガイベント調整部会、対外関係タスクフォースなどの委員も務める。23年11月から現職。
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——今回の訪日における日系企業との交流については。
既に香港で事業を展開している大手企業に加え、今回はスタートアップ企業やインキュベーターとの交流も積極的に行った。またアナリストと一緒に経済関連のイベントに登壇しての講演も行った。
フィンテック(ITを活用した金融サービス)やバイオテクノロジー、グリーンテクノロジーといった分野での新たな協業を模索した。日本の中小企業の中には、海外のマーケットに進出したいものの支援がなければ難しいという声も多い。その手助けができればと考えている。
業界団体の関係者とも交流した結果、香港に興味を抱いてくれる人は多かった。どのスタートアップも資金調達や新規株式公開(IPO)を目指していると思うが、香港にはそれができる条件がある。
関係者の中には、日本のテクノロジー関連企業には他国と比べユニコーン(企業価値が高い新興企業)がまだ少ないとの声があった。ユニコーンになるにはグローバルで成功する必要がある。そのためにも香港に人員を派遣し、ビジネスチャンスを模索することを強く進めたい。香港では毎年、スタートアップ向けのイベント「スタート・ミー・アップ香港フェスティバル」やフィンテックイベントの「香港フィンテックウイーク」などを開催しており、世界中からの参加を歓迎している。
——昨年のデータを見ると、香港に進出した企業の大半は中国本土からだった。日本企業の存在感は薄まっていないか。
香港にはさまざまな国・地域から多くの企業が進出してくる。昨年に本土企業の数が大きく増えたのは指摘の通りだ。本土企業が国策を追い風に積極的に海外に打って出ていること、また海外進出の際にまず香港を経由していくケースが多いことが背景にある。
しかし国・地域別で見ると、本土以外も大半の企業数が前年から増えており、日本企業の数も上向いている。本土企業が数で目立つだけで、全体で見れば穏健な成長を続けている。
——香港と本土との一体化が進む中、企業が直接本土へ進出する動きもある。
香港は中国の一部だが、知っての通り本土とは法制度や資金の流れに関する制度、公用語からライフスタイルまで多くが異なる。本土には依然として資金や情報の流れに厳しい規制が残る。交通やインフラなどでの一体化は進んでいるが、中央政府は香港をゲートウエーとして扱っており、特別な権利を与えている。
香港を経由して本土に進出する場合、税制面のみならず拠点設立からモノ・人の流れ、製品の輸入や販売などについてもさまざまな優遇策が適用される。本土との経済・貿易関係緊密化協定(CEPA)に基づいた各種優遇措置もある。
日本企業にとっては、香港がコモン・ロー(英米法)に基づく司法制度を採用していることの意義も大きいだろう。
体力のある大手を中心に、本土に直接進出している企業も確かに多い。ただ彼らは、香港に管理や財務を担うオフィスを持つことの重要性もまた理解している。日本や欧州の大手企業の中には、上海に置いていた地域本部を香港に戻す動きもある。中国だけでなくアジア全体のビジネスの管理を視野に入れての決定だ。
地理的にアジアのほぼ中心に位置し、シンプルで低税率な税制、交通の利便性の高さ、資本やモノの流れに関する規制の少なさなど、アジア最大の金融センターである香港自体が持つ優位性にも変化はない。
だからこそ自身の真の役割は、企業の誘致だけではなく、香港を世界中とつながった「スーパーコネクター」として整えることだと考えている。世界中から資金が集まり、世界中の企業がここで出会い、ビジネスチャンスを探して事業を拡大できるようにしたい。
——日本企業にインベスト香港署長として伝えたいことは。
日本企業はより積極的に、アジアへと目を向けてほしい。香港には既に多くの日本企業が進出し、グレーターチャイナで成功を収めている。ただ企業の関係者と話すと、日本側の中華圏やアジアに対する理解が浅く誤解も多いため、本社の説得が大変だとこぼすのをよく聞く。
一方、本社側の関係者と話しても「海外でより多くの収益を得る必要がある」という見解は一致している。だからこそ日本を離れて、変化するアジアのいまを自分の目で確認し、理解できている人材をもっと増やすべきだ。でないと不確かな情報だけが一人歩きしてしまう可能性もある。香港についても「(情報漏えいの危険性があるから)渡航の際は使い捨て携帯電話を持参せねばならない」などとした分析があると聞いたが、現地の状況を知っていればあり得ない話だ。
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2つ目は、もし日本企業が前に進みたいのであれば、国内市場とともに後退する道ではなく、海外へ、特に香港へと行く道を勧めたいということ。香港はグレーターチャイナだけでなくアジア全体、さらに世界中とつながるハブであり、活用できる要素は多い。
そして3つ目。本筋からはそれるが、香港は何より来て楽しい場所だと強調しておきたい。海外から来た企業関係者の中には、香港がビジネスの場所として優れているだけではなく「帯同した家族も楽しんでいる」と言ってくれる人が多い。ハイキングやグルメ、エンターテインメントに旅行まで。老若男女問わず何か楽しめる要素を見つけられるはずだ。個人的な旅行でも、インベスト香港のイベントに参加するためでも構わない。より多くの人々に香港を訪問して、理解を深めていただきたい。(聞き手=菅原湖)
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劉凱旋(アルファ・ラウ)
オックスフォード大学卒業後、北京の清華大学で高等教育修了証を取得。中国のほか多国籍の金融機関で要職を歴任した後、香港政府に加わる。貿易産業諮問会や国際事業委員会、メガイベント調整部会、対外関係タスクフォースなどの委員も務める。23年11月から現職。"
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