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【新首都】開発の管理体制、移行期にJICA報告会、段階的に移住へ

インドネシア東カリマンタン州で開発が進む新首都「ヌサンタラ」は、プラボウォ・スビアント政権下でも建設が継続され、2028年までに政治都市としての機能を完成させる方針が示された。ジョコ・ウィドド前政権の終盤およそ2年の間に急速に開発が進んだヌサンタラは現在、管理体制の面で移行期にある。調査などで開発を支援してきた、国際協力機構(JICA)が開催した報告会では、公務員の段階的な移住を受け入れるインフラ準備が進みつつある点や今後の展望、日本企業の技術の活用機会などが示された。

ヌサンタラの象徴的な建物である大統領宮殿と大統領府「イスタナ・ガルーダ(ガルーダ宮殿)」=2024年10月、東カリマンタン州(NNA撮影)

JICAは2月27日、新首都開発や、新首都を含む東カリマンタン州での地域・都市開発支援に向けた情報収集・確認として実施してきた調査2件に関するセミナーを首都ジャカルタで開いた。
これまでの公共インフラの開発動向について、JICA調査団のテディ正典氏(日本工営)は、中央行政地区(KIPP、6,672ヘクタール)のうち大統領宮殿などのある1Aエリア(2,877ヘクタール)を中心に開発が進められたと説明した。
公共事業省が2020~24年に契約したプロジェクト数は109件(総契約額89兆700億ルピア=約8,000億円)あり、これらが完工することで「2万人の国家公務員が働き、生活に対応できるインフラが整う」と述べた。家族の帯同も想定しているといい、基礎インフラ面で2万人以上の受け入れが可能となる見込みだ。ただ公務員以外の移住を加速させるには、未整備のショッピングモールなど生活インフラが充実する必要があるとの考えを述べた。
ヌサンタラでは、行政機関ヌサンタラ首都庁の職員が3月から本格的に勤務を開始した。同庁のダニス次官代行(インフラ担当)がNNAに明らかにしたところによれば、公務員向け集合住宅47棟が建設済みで、うち29棟が入居可能な状態となっている。

国家公務員が利用する集合住宅=2月、東カリマンタン州(JICA調査団提供)

テディ氏は「大統領の移住は28年を予定しているものの、先行してヌサンタラ首都庁職員をはじめとして国家公務員を段階的に移転させながら都市の生活環境を整えていくものと考えられる」との見方を示した。
これまで開発全体のマネジメントを担ってきた公共事業省(旧公共事業・国民住宅省)のタスクフォースがなくなり、ヌサンタラ首都庁によるプロジェクト調整・管理に移行している。テディ氏は25年以降の新規プロジェクトの契約・管理に加えて、公共事業省によって建設されたすべての案件の運用と維持管理はヌサンタラ首都庁が担うことになっているため、同庁の体制強化が必要だと述べた。

JICAは「インドネシア新首都開発の動向」に関するセミナーを開催し、これまでの調査などを通じて得た情報を日系企業に共有した=2月、ジャカルタ特別州(NNA撮影)

ヌサンタラではこれまでに、大統領宮殿のほか、ホテル運営大手アコーホテルズ系ホテル「スイスホテル・ヌサンタラ」、民間病院メディカロカ・ヘルミナ、シンガポールの政府系コングロマリット(複合企業)セムコープ・インダストリーズと国営電力PLNによる太陽光発電施設(容量50メガワット)などが完成した。
■日本の参画、自然共生や水管理で
日本の技術を今後どのように生かしていくかという点について、テディ氏は「山を切り開いて開発がなされているため、のり面を保護する技術や、自然と人の共生型の都市づくりという観点は、『フォレストシティー』をコンセプトに掲げるヌサンタラではこれからも求められるものだ」と述べた。「水資源が潤沢ではない地域であることから治水・利水の両方にアプローチできるソリューションも必要になる」との考えも示した。

コンセプトとする「スマートシティー」に関しては、すでに上水インフラをモニタリング室のダッシュボードで管理しているなどの実例を紹介。水道の監視システムには日系メーカーが納品した実績もあるなど、スマート関連技術の領域は海外企業の参画余地があるとした。またインフラ施設では、統合廃棄物処理施設(TPST)に韓国メーカーの設備が使用されていると付け加えた。
■カリマンタン、3都市広域で支援
JICAはこれまでに、新首都のインフラ施工品質向上支援や、新首都を含む地域・都市開発支援に向けた調査を実施してきた。今後は、東カリマンタン州のバリクパパン市、サマリンダ市とヌサンタラの3都市を合わせた広域の都市計画策定を技術協力プロジェクトとして実施する。
政府は、3都市を戦略都市として「経済スーパーハブ」に発展させ、新しい経済圏とする構想を掲げている。
JICA調査団の神波泰夫氏(パシフィックコンサルタンツ)は、3都市圏について「45年にヌサンタラの人口が190万人に達した場合には、周辺2都市と合わせて450万~500万人の都市圏が形成される計画がある」と説明した。一方、「45年にヌサンタラで190万人の人口を目指す計画に変更はないが、当局からは達成までの段階的な人口予測については修正が必要になると聞いている」と述べた。
新首都開発の方向性については、8分野24種類の重要達成度指標(KPI)が定められており、これらが国家開発企画庁(バペナス)やヌサンタラ首都庁との協議の中でも重視されていると解説した。

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[caption id="attachment_25351" align="aligncenter" width="620"]ヌサンタラの象徴的な建物である大統領宮殿と大統領府「イスタナ・ガルーダ(ガルーダ宮殿)」=2024年10月、東カリマンタン州(NNA撮影)[/caption]
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これまでの公共インフラの開発動向について、JICA調査団のテディ正典氏(日本工営)は、中央行政地区(KIPP、6,672ヘクタール)のうち大統領宮殿などのある1Aエリア(2,877ヘクタール)を中心に開発が進められたと説明した。
公共事業省が2020~24年に契約したプロジェクト数は109件(総契約額89兆700億ルピア=約8,000億円)あり、これらが完工することで「2万人の国家公務員が働き、生活に対応できるインフラが整う」と述べた。家族の帯同も想定しているといい、基礎インフラ面で2万人以上の受け入れが可能となる見込みだ。ただ公務員以外の移住を加速させるには、未整備のショッピングモールなど生活インフラが充実する必要があるとの考えを述べた。
ヌサンタラでは、行政機関ヌサンタラ首都庁の職員が3月から本格的に勤務を開始した。同庁のダニス次官代行(インフラ担当)がNNAに明らかにしたところによれば、公務員向け集合住宅47棟が建設済みで、うち29棟が入居可能な状態となっている。
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テディ氏は「大統領の移住は28年を予定しているものの、先行してヌサンタラ首都庁職員をはじめとして国家公務員を段階的に移転させながら都市の生活環境を整えていくものと考えられる」との見方を示した。
これまで開発全体のマネジメントを担ってきた公共事業省(旧公共事業・国民住宅省)のタスクフォースがなくなり、ヌサンタラ首都庁によるプロジェクト調整・管理に移行している。テディ氏は25年以降の新規プロジェクトの契約・管理に加えて、公共事業省によって建設されたすべての案件の運用と維持管理はヌサンタラ首都庁が担うことになっているため、同庁の体制強化が必要だと述べた。
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ヌサンタラではこれまでに、大統領宮殿のほか、ホテル運営大手アコーホテルズ系ホテル「スイスホテル・ヌサンタラ」、民間病院メディカロカ・ヘルミナ、シンガポールの政府系コングロマリット(複合企業)セムコープ・インダストリーズと国営電力PLNによる太陽光発電施設(容量50メガワット)などが完成した。
■日本の参画、自然共生や水管理で
日本の技術を今後どのように生かしていくかという点について、テディ氏は「山を切り開いて開発がなされているため、のり面を保護する技術や、自然と人の共生型の都市づくりという観点は、『フォレストシティー』をコンセプトに掲げるヌサンタラではこれからも求められるものだ」と述べた。「水資源が潤沢ではない地域であることから治水・利水の両方にアプローチできるソリューションも必要になる」との考えも示した。

コンセプトとする「スマートシティー」に関しては、すでに上水インフラをモニタリング室のダッシュボードで管理しているなどの実例を紹介。水道の監視システムには日系メーカーが納品した実績もあるなど、スマート関連技術の領域は海外企業の参画余地があるとした。またインフラ施設では、統合廃棄物処理施設(TPST)に韓国メーカーの設備が使用されていると付け加えた。
■カリマンタン、3都市広域で支援
JICAはこれまでに、新首都のインフラ施工品質向上支援や、新首都を含む地域・都市開発支援に向けた調査を実施してきた。今後は、東カリマンタン州のバリクパパン市、サマリンダ市とヌサンタラの3都市を合わせた広域の都市計画策定を技術協力プロジェクトとして実施する。
政府は、3都市を戦略都市として「経済スーパーハブ」に発展させ、新しい経済圏とする構想を掲げている。
JICA調査団の神波泰夫氏(パシフィックコンサルタンツ)は、3都市圏について「45年にヌサンタラの人口が190万人に達した場合には、周辺2都市と合わせて450万~500万人の都市圏が形成される計画がある」と説明した。一方、「45年にヌサンタラで190万人の人口を目指す計画に変更はないが、当局からは達成までの段階的な人口予測については修正が必要になると聞いている」と述べた。
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