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経済政策、86%が否定的評価専門家に調査、インドネシア大学

インドネシア大学経済社会研究所(LPEM)が14日に発表した「プラボウォ・スビアント政権発足100日間の評価」と題したLPEM経済専門家調査の結果によると、回答した経済専門家42人のうち、86%に当たる36人が現政権の経済政策を「効果的でない」と評価した。回答者の一部はNNAに、政権の経済運営に対する懸念として政府支出の遅れや、政策の不透明感、説明責任の不十分さなどを挙げた。

インドネシア大学経済社会研究所(LPEM)が公表した「プラボウォ・スビアント政権発足100日間の評価」と題した調査では、政権の経済政策の方向性に厳しい見方が示された。写真は経済政策を協議するプラボウォ氏(中央)と閣僚ら=16日(大統領府提供)

LPEMは、大学、研究機関、シンクタンク、民間企業、国際機関などに所属するオーストラリア、英国、米国出身者を含む国内外の経済専門家42人を対象に、2月14~24日にオンライン調査を実施した。
その結果、2024年10月のプラボウォ政権発足から100日間の経済政策の方向性については、21人が「効果的でない」、15人が「全く効果的でない」と回答した。「どちらでもない」が4人で、「効果的」と回答したのは2人だけだった。
「社会・経済面で最もポジティブな影響があった政策」を3つまで選択するように尋ねた項目では、「電気料金の割引」が17票で最も多かった。このほか、◇「中小零細企業の不良債務帳消し」が13票◇「最低賃金の6.5%引き上げ」が11票◇「付加価値税(VAT)関連政策」が11票◇「該当なし」が10票——だった。
「最初の100日間における新政権の組織機構改革への評価」を尋ねた項目では、「悪化した」が22人、「わずかに悪くなった」が13人だった。残る7人は「どちらでもない」で、「改善した」はゼロだった。

「3カ月前と比較した現在の労働市場環境の評価」について尋ねた設問では、「かなり悪化した」が9人、「悪い」が19人、「変わらない」が13人、「改善した」が1人、「かなり改善した」はゼロだった。こうした結果からLPEMは厳しい雇用環境が示されていると指摘した。また、「今後の事業環境の見通し」は、半数以上が悪化するとの見方を示した。


インフレ圧力の予測と金融政策の効果については、見方がやや分かれた。「現状と比較した際のインフレ圧力の見通し」を尋ねたところ、「さらに弱まる」が3人、「弱まる」が8人、「変わらない」が8人となった一方、「強まる」が20人、「さらに強まる」が3人だった。
「安定的な経済成長に向けた現在の金融政策の効果」を聞いた設問では、「全く効果的でない」と「わずかに非効果的」の回答が計14人だった。一方、「非常に効果的」と「わずかに効果的」が計12人だった。「影響はない」の回答は16人だった。
■一貫性欠く経済政策、透明性も悪化
同調査に回答した、インドネシア国際イスラム大学の経済学PhDプログラム責任者のトゥグ・ユド・ウィチャクソノ氏は、NNAに対し、プラボウォ政権の取り組みについて、「目玉政策の1つである無償給食事業は実施段階で課題もあるものの、総じて順調に進んでおり、電気料金の割引政策は家庭の負担軽減や物価上昇抑制の効果があった」と評価した。
一方でユド氏は、これまでの経済政策は一貫性を欠いていると指摘。具体的には、25年1月からのVAT税率の12%への引き上げを巡って、増税対象の品目が直前に決定されたほか、関係者との調整なしに最低賃金の引き上げ幅を決定したことなどを挙げた。年300万戸の住宅供給計画といった野心的なプログラムも達成は不可能とみられ、「政府は全ての政策が効果的に機能するように調整が必要だ」との考えを述べた。
政権の透明性と説明責任についても、「前政権から悪化した」と指摘。国家予算の歳出の月次報告の発表が明確な理由なく延期されたことや、投資会社ダヤ・アナガタ・ヌサンタラ投資運用庁(BPIダナンタラ)の設立プロセスや方向性が不明瞭な点を問題視した。

またユド氏は、政府の掲げる年8%の経済成長は、海外直接投資(FDI)なしでは達成が不可能であるにもかかわらず、「プラボウォ大統領が投資家や株式市場への影響を十分に気にかけているように見えない」とも指摘した。ただ一方で、財務省が財政政策で慎重な姿勢を保っている点はプラスの材料だとし、「市場に対しポジティブなシグナルとなる」と説明した。
経済協力開発機構(OECD)が公表した最新の経済見通しで、インドネシアの25年の経済成長率は4.9%に下方修正されたものの、他国と比較して相対的に良好な位置にあり、5.1%程度の経済成長はまだ可能だと見通した。
■経済浮上、政府支出の回復が鍵
同調査に回答した、民間銀行最大手バンク・セントラル・アジア(BCA)のチーフエコノミスト、ダフィッド氏は、無償給食事業や年300万戸の住宅供給は経済的な波及効果が高いと考えられるものの、「必要な資金が多額のため政策の実行が難しい」との見方を示した。
また、予算効率化のために国家予算の組み替えが行われたことで、1月末時点で資本支出や物品・サービス支出が前年から大幅に減少しているため、高成長を達成するには政府支出の正常化が鍵になると指摘した。「政府支出が滞る傾向が続けば、25年の経済成長率は4.8~4.9%にとどまる」と予測した。
ジャカルタ退役軍人国家開発大学(UPN)の経済学者インドリ・アラフィ・ジュリアニサ氏は、政府は国際競争力ある人材の育成に注力するべきだと主張。国内の就労環境に不安を感じ、海外で就労機会を見つけようとする人が増える中、インドネシアで教育機会を確保し、教員の待遇も改善すべきだと述べた。「外国投資に依存し、経済成長を目指すだけで社会・経済的な根本課題に対処しないのであれば、経済成長率の目標は意味をなさない」と主張した。
【関連記事】プラボウォ政権発足100日<https://www.nna.jp/web_contents/articles/21845>

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「最初の100日間における新政権の組織機構改革への評価」を尋ねた項目では、「悪化した」が22人、「わずかに悪くなった」が13人だった。残る7人は「どちらでもない」で、「改善した」はゼロだった。

「3カ月前と比較した現在の労働市場環境の評価」について尋ねた設問では、「かなり悪化した」が9人、「悪い」が19人、「変わらない」が13人、「改善した」が1人、「かなり改善した」はゼロだった。こうした結果からLPEMは厳しい雇用環境が示されていると指摘した。また、「今後の事業環境の見通し」は、半数以上が悪化するとの見方を示した。


インフレ圧力の予測と金融政策の効果については、見方がやや分かれた。「現状と比較した際のインフレ圧力の見通し」を尋ねたところ、「さらに弱まる」が3人、「弱まる」が8人、「変わらない」が8人となった一方、「強まる」が20人、「さらに強まる」が3人だった。
「安定的な経済成長に向けた現在の金融政策の効果」を聞いた設問では、「全く効果的でない」と「わずかに非効果的」の回答が計14人だった。一方、「非常に効果的」と「わずかに効果的」が計12人だった。「影響はない」の回答は16人だった。
■一貫性欠く経済政策、透明性も悪化
同調査に回答した、インドネシア国際イスラム大学の経済学PhDプログラム責任者のトゥグ・ユド・ウィチャクソノ氏は、NNAに対し、プラボウォ政権の取り組みについて、「目玉政策の1つである無償給食事業は実施段階で課題もあるものの、総じて順調に進んでおり、電気料金の割引政策は家庭の負担軽減や物価上昇抑制の効果があった」と評価した。
一方でユド氏は、これまでの経済政策は一貫性を欠いていると指摘。具体的には、25年1月からのVAT税率の12%への引き上げを巡って、増税対象の品目が直前に決定されたほか、関係者との調整なしに最低賃金の引き上げ幅を決定したことなどを挙げた。年300万戸の住宅供給計画といった野心的なプログラムも達成は不可能とみられ、「政府は全ての政策が効果的に機能するように調整が必要だ」との考えを述べた。
政権の透明性と説明責任についても、「前政権から悪化した」と指摘。国家予算の歳出の月次報告の発表が明確な理由なく延期されたことや、投資会社ダヤ・アナガタ・ヌサンタラ投資運用庁(BPIダナンタラ)の設立プロセスや方向性が不明瞭な点を問題視した。

またユド氏は、政府の掲げる年8%の経済成長は、海外直接投資(FDI)なしでは達成が不可能であるにもかかわらず、「プラボウォ大統領が投資家や株式市場への影響を十分に気にかけているように見えない」とも指摘した。ただ一方で、財務省が財政政策で慎重な姿勢を保っている点はプラスの材料だとし、「市場に対しポジティブなシグナルとなる」と説明した。
経済協力開発機構(OECD)が公表した最新の経済見通しで、インドネシアの25年の経済成長率は4.9%に下方修正されたものの、他国と比較して相対的に良好な位置にあり、5.1%程度の経済成長はまだ可能だと見通した。
■経済浮上、政府支出の回復が鍵
同調査に回答した、民間銀行最大手バンク・セントラル・アジア(BCA)のチーフエコノミスト、ダフィッド氏は、無償給食事業や年300万戸の住宅供給は経済的な波及効果が高いと考えられるものの、「必要な資金が多額のため政策の実行が難しい」との見方を示した。
また、予算効率化のために国家予算の組み替えが行われたことで、1月末時点で資本支出や物品・サービス支出が前年から大幅に減少しているため、高成長を達成するには政府支出の正常化が鍵になると指摘した。「政府支出が滞る傾向が続けば、25年の経済成長率は4.8~4.9%にとどまる」と予測した。
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