総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」などを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は、香港で同社初のコメ専門店「安田精米」を開業した。店内に精米機を設置し、北海道産「ななつぼし」を注文を受けてから精米する。日本のコメ輸出の約4割を占め、国・地域別で最大の仕向け先である香港で、「精米したてのおいしさ」を家庭に届ける。【天野友紀子】
尖沙咀で開業した「安田精米」1号店。香港法人社長の竹内氏は「精米したてのおいしさ」にこだわる=4日、尖沙咀(NNA撮影)
安田精米は6月24日、「ジャパンブランド専門店」をコンセプトにした海外向けのブランド「ドンドンドンキ」の美麗華広場2(ミラ・プレイス2)店(九龍地区・尖沙咀)内で開業した。すし専門店「鮮選寿司」に続き香港法人の泛亜零售管理(香港)が主導して取り組む、PPIHグループ内の初業態だ。
■すし店の反響がきっかけ
PPIHグループの常務執行役員(香港・台湾・マカオ事業責任者)で、香港法人社長の竹内三善氏は「日本米の本当のおいしさを香港の人に知ってもらいたい」という思いから安田精米を開業したと話す。
日本のスーパーで売られるコメは精米から1カ月以内のものが多いが、香港では「精米から数カ月、半年以上たった日本米も店頭に並んでいる」と竹内氏。コメは精米してから1カ月以上たつと「酸化が進んで味が落ちる」ことから、まずは香港に自社精米所を持つことを決めた。
日本から精米機を輸送し、昨年9月に精米所を整備した。香港のドンドンドンキ全店で扱うコメを自社精米へと切り替え、昨年10月に1号店を開いた鮮選寿司でも自社精米をシャリに使用。すると鮮選寿司の客から「コメがおいしい」という大きな反響があったため、コメ専門店の開業を決めた。
消費者が精米日を気にすることがほとんどない香港で、安田精米は「精米したてがおいしい」という事実の周知に注力する。店頭には業務用の精米機に加え小型の卓上精米機を設置。コメは2合(300グラム)から購入可能で、2合の注文には卓上精米機を使い、コメが磨かれていく様子を消費者が見られるようにした。
日本から輸送した精米機を店内に設置。手前にある卓上の小型精米機で、精米体験もできる=4日、尖沙咀(NNA撮影)
扱う品種は「冷めてもおいしい」こと、香港消費者への訴求力の高い「北海道産」であることなどから道産ななつぼしに決定。値段は1キロで59HKドル(約1,000円)だ。コメの輸出拡大を推進する日本政府から補助金を得ているほか、玄米の状態で輸入することで「競争力のある価格で提供できる」と胸を張る。
健康志向の高い香港の消費者を意識し、白米より栄養価が高いとされる一分づき(一分精米)や三分づき、七分づきの注文にも対応。安田精米ができたことを知らずにドンドンドンキを訪れた女性客の羅さんは「普段は玄米を食べているけど、お試しで三分づきを300グラム買ってみることにした」と話すなど、早くも店の狙い通りに購入していく客が現れ始めている。
■おにぎりから家庭内消費へ
香港に輸出される日本米は約5割が飲食店向けで、約2割がおにぎりなどの加工商品向けとなっている。一般消費者向けは3割以下と、一般家庭に日本米を炊いて食べる習慣はほとんどないが、安田精米が目指すのは「一般家庭への普及」だ。
最初から精米を買ってもらうのはハードルが高いとの認識から、店頭では7種類の具材のおにぎりも販売。夕方ともなると、レジ前はおにぎりを買い求める家族連れや学生でにぎわう。竹内氏は「おにぎりがおいしかったから次はコメを買ってみよう、というサイクルが生まれれば」と期待する。
精米したて、炊き立ての日本米で作るおにぎり。一番人気の具材は和牛焼肉だ=4日、尖沙咀(NNA撮影)
■月内に台湾店も
安田精米は1号店で消費者の反応を見ながら、「ショップ・イン・ショップ」形式で店舗数を増やしていきたい考え。今後開業予定の香港のドンドンドンキ新店舗に、2店舗目を出すことを見据えている。
取り組みは香港以外にも広げる。台湾のドンドンドンキ既存店で今月にも、同様のコメ専門店を開業する計画だ。
コメをはじめとする日本の食の豊かさを世界に広めることは「自社のビジネスだけでなく日本の産業の活性化にもつながるはずだ」と竹内氏。「香港や台湾を皮切りに、東南アジアにも日本米を広げていきたい」と力を込めた。
<メモ>
農林水産省によると日本から香港への2021年のコメ輸出量は前年比28.1%増の8,938トン、輸出額は17.9%増の21億1,800万円だった。21年の世界全体へのコメ輸出量は2万2,833トン、輸出額は59億3,300万円で、香港は数量ベースで全体の39.1%、金額ベースで35.7%を占め、いずれも国・地域別で1位。
日本政府は25年にコメ輸出額を21年比2.1倍の125億円、うち香港向けを同1.7倍の36億円に高めることを目指している。
object(WP_Post)#9817 (24) {
["ID"]=>
int(5183)
["post_author"]=>
string(1) "3"
["post_date"]=>
string(19) "2022-07-07 00:00:00"
["post_date_gmt"]=>
string(19) "2022-07-06 15:00:00"
["post_content"]=>
string(7051) "総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」などを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は、香港で同社初のコメ専門店「安田精米」を開業した。店内に精米機を設置し、北海道産「ななつぼし」を注文を受けてから精米する。日本のコメ輸出の約4割を占め、国・地域別で最大の仕向け先である香港で、「精米したてのおいしさ」を家庭に届ける。【天野友紀子】[caption id="attachment_5184" align="aligncenter" width="620"]尖沙咀で開業した「安田精米」1号店。香港法人社長の竹内氏は「精米したてのおいしさ」にこだわる=4日、尖沙咀(NNA撮影)[/caption]
安田精米は6月24日、「ジャパンブランド専門店」をコンセプトにした海外向けのブランド「ドンドンドンキ」の美麗華広場2(ミラ・プレイス2)店(九龍地区・尖沙咀)内で開業した。すし専門店「鮮選寿司」に続き香港法人の泛亜零售管理(香港)が主導して取り組む、PPIHグループ内の初業態だ。
■すし店の反響がきっかけ
PPIHグループの常務執行役員(香港・台湾・マカオ事業責任者)で、香港法人社長の竹内三善氏は「日本米の本当のおいしさを香港の人に知ってもらいたい」という思いから安田精米を開業したと話す。
日本のスーパーで売られるコメは精米から1カ月以内のものが多いが、香港では「精米から数カ月、半年以上たった日本米も店頭に並んでいる」と竹内氏。コメは精米してから1カ月以上たつと「酸化が進んで味が落ちる」ことから、まずは香港に自社精米所を持つことを決めた。
日本から精米機を輸送し、昨年9月に精米所を整備した。香港のドンドンドンキ全店で扱うコメを自社精米へと切り替え、昨年10月に1号店を開いた鮮選寿司でも自社精米をシャリに使用。すると鮮選寿司の客から「コメがおいしい」という大きな反響があったため、コメ専門店の開業を決めた。
消費者が精米日を気にすることがほとんどない香港で、安田精米は「精米したてがおいしい」という事実の周知に注力する。店頭には業務用の精米機に加え小型の卓上精米機を設置。コメは2合(300グラム)から購入可能で、2合の注文には卓上精米機を使い、コメが磨かれていく様子を消費者が見られるようにした。
[caption id="attachment_5185" align="aligncenter" width="620"]日本から輸送した精米機を店内に設置。手前にある卓上の小型精米機で、精米体験もできる=4日、尖沙咀(NNA撮影)[/caption]
扱う品種は「冷めてもおいしい」こと、香港消費者への訴求力の高い「北海道産」であることなどから道産ななつぼしに決定。値段は1キロで59HKドル(約1,000円)だ。コメの輸出拡大を推進する日本政府から補助金を得ているほか、玄米の状態で輸入することで「競争力のある価格で提供できる」と胸を張る。
健康志向の高い香港の消費者を意識し、白米より栄養価が高いとされる一分づき(一分精米)や三分づき、七分づきの注文にも対応。安田精米ができたことを知らずにドンドンドンキを訪れた女性客の羅さんは「普段は玄米を食べているけど、お試しで三分づきを300グラム買ってみることにした」と話すなど、早くも店の狙い通りに購入していく客が現れ始めている。
■おにぎりから家庭内消費へ
香港に輸出される日本米は約5割が飲食店向けで、約2割がおにぎりなどの加工商品向けとなっている。一般消費者向けは3割以下と、一般家庭に日本米を炊いて食べる習慣はほとんどないが、安田精米が目指すのは「一般家庭への普及」だ。
最初から精米を買ってもらうのはハードルが高いとの認識から、店頭では7種類の具材のおにぎりも販売。夕方ともなると、レジ前はおにぎりを買い求める家族連れや学生でにぎわう。竹内氏は「おにぎりがおいしかったから次はコメを買ってみよう、というサイクルが生まれれば」と期待する。
[caption id="attachment_5186" align="aligncenter" width="620"]精米したて、炊き立ての日本米で作るおにぎり。一番人気の具材は和牛焼肉だ=4日、尖沙咀(NNA撮影)[/caption]
■月内に台湾店も
安田精米は1号店で消費者の反応を見ながら、「ショップ・イン・ショップ」形式で店舗数を増やしていきたい考え。今後開業予定の香港のドンドンドンキ新店舗に、2店舗目を出すことを見据えている。
取り組みは香港以外にも広げる。台湾のドンドンドンキ既存店で今月にも、同様のコメ専門店を開業する計画だ。
コメをはじめとする日本の食の豊かさを世界に広めることは「自社のビジネスだけでなく日本の産業の活性化にもつながるはずだ」と竹内氏。「香港や台湾を皮切りに、東南アジアにも日本米を広げていきたい」と力を込めた。
<メモ>
農林水産省によると日本から香港への2021年のコメ輸出量は前年比28.1%増の8,938トン、輸出額は17.9%増の21億1,800万円だった。21年の世界全体へのコメ輸出量は2万2,833トン、輸出額は59億3,300万円で、香港は数量ベースで全体の39.1%、金額ベースで35.7%を占め、いずれも国・地域別で1位。
日本政府は25年にコメ輸出額を21年比2.1倍の125億円、うち香港向けを同1.7倍の36億円に高めることを目指している。"
["post_title"]=>
string(78) "ドンキが「お米屋さん」展開店頭で精米、日本米を家庭へ"
["post_excerpt"]=>
string(0) ""
["post_status"]=>
string(7) "publish"
["comment_status"]=>
string(4) "open"
["ping_status"]=>
string(4) "open"
["post_password"]=>
string(0) ""
["post_name"]=>
string(198) "%e3%83%89%e3%83%b3%e3%82%ad%e3%81%8c%e3%80%8c%e3%81%8a%e7%b1%b3%e5%b1%8b%e3%81%95%e3%82%93%e3%80%8d%e5%b1%95%e9%96%8b%e5%ba%97%e9%a0%ad%e3%81%a7%e7%b2%be%e7%b1%b3%e3%80%81%e6%97%a5%e6%9c%ac%e7%b1%b3"
["to_ping"]=>
string(0) ""
["pinged"]=>
string(0) ""
["post_modified"]=>
string(19) "2022-07-07 04:00:05"
["post_modified_gmt"]=>
string(19) "2022-07-06 19:00:05"
["post_content_filtered"]=>
string(0) ""
["post_parent"]=>
int(0)
["guid"]=>
string(33) "https://nnaglobalnavi.com/?p=5183"
["menu_order"]=>
int(0)
["post_type"]=>
string(4) "post"
["post_mime_type"]=>
string(0) ""
["comment_count"]=>
string(1) "0"
["filter"]=>
string(3) "raw"
}
- 国・地域別
-
香港・マカオ情報
- 内容別
-
ビジネス全般人事労務