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【ビジネスノート】台湾のハイテク支える アジアの外国人労働者

少子高齢化の進展を背景に、外国人労働者をいかに引き込むかは各国・地域の共通課題となっている。台湾の主要産業であるハイテク業を支えるのは、工場で働く東南アジアの外国人労働者だ。人材需要が拡大する一方で、確保のための競争激化、新型コロナウイルス感染症を巡る宿舎の環境や行動制限といった問題が浮上。労働災害も頻繁に報告されている。(NNA台湾 菅原真央)[2373037_1.jpg]
台湾の北西部、台北からは西に約40キロメートルの新竹県に位置する台湾鉄路の新豊(しんほう)駅。東側には、新竹工業区の工場群が広がる。その約2割は電子部品製造業で、多くの外国人労働者が働く。付近は東南アジアの商品を扱うスーパーやレストラン、人材派遣会社の支店が軒を連ね、仕事帰りの労働者でにぎわう。
フィリピン人のジャスティンさん(仮名、32)もここで働いている。2017年2月に来台し、3社目の職場はプリント基板(PCB)大手の工場で機械オペレーターを務める。
午前7時20分から午後7時20分まで、休憩2時間の12時間拘束。台湾に来てから長い休みを取れず、5年間一度も帰国していない。資金をためてフィリピンに自分の家を建てることが夢だ。
ジャスティンさんのように、ハイテク業などで働く外国人労働者は「産業移工」と呼ばれる。台湾人と同じ最低賃金(22年は月2万5,250台湾元=約11万5,200円)と労働基準法が適用されるが、多くは最低賃金水準での雇用だ。21年6月時点で製造業に従事する外国人労働者の経常性賃金(基本給に諸手当を加算)の平均は2万4,610元。21年の最低賃金は2万4,000元だった。
台湾人エンジニアなどにとっては給与が高いハイテク業も、外国人作業員は他の製造業と変わらない。一方で、産業が成長するほど人材は不足し、外国人労働者への依存度が高まるのが現状だ。
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労働部は外国人労働者について、台湾人の就業機会に影響しない前提で労働力を補充するものと位置付けている。同部の統計によると、今年5月末時点で台湾で働く外国人労働者のうち、ハイテク業に当たる「電子部品製造業」は10年前に比べて約1.8倍の7万2,094人。同じく、「パソコン・電子製品・光学製品製造業」は約2倍の1万8,092人に増え、両業種で製造業全体の2割を占める。
コロナ感染の拡大以降、外国人の入境が制限されて労働者の取り合いが激化した。台湾に工場を持つ日系ハイテク企業の幹部も「条件の良い企業があれば、他社に行ってしまう」と話す。
就業服務法は、外国人労働者の雇用を原則で最長3年とするが、満期の近い労働者には延長するよう説得しているという。「ハイテク業にはなくてはならない存在。今後は製造現場を外国人に任せる時代が来る」(同幹部)と強調する。
■外国人は労災2倍、「3K」対策急務
危険・きつい・汚い——いわゆる「3K」業務の現場では、労働災害が頻繁に報告されている。製造業の事故が多く、障害を負った外国人労働者の比率は台湾人の2倍に上る。発生後の対応も外国人は不利な立場に置かれやすい。
「機械に巻き込まれて指を失った。保険金は払えないと言われた」。桃園市の発電機工場で働くインドネシア人のモハマドさん(仮名、27)は、先がなくなった左手の薬指を見せた。
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モハマドさんによると、保険金を申請しようとしたが上司から支援を受けられなかったという。仲介会社などを通して根気強く交渉を続け、最終的に保険金は受け取ることができた。勤務先では毎年のように似た事例が起きているという。
外国人労働者を支援する台湾国際労工協会(TIWA)には、こうした相談が多く寄せられる。同協会の陳秀蓮研究員によると、機械への巻き込みやガラス工場など高温環境下でのやけど、化学薬品の吸引などの事故が発生している。
中でも問題なのが、事故後の保険金申請や職場復帰などへの雇用主の対応。「けがや病気をしても、雇用主が問題の処理をしてくれないケースが多い」と陳氏は指摘する。
台湾の行政監査機関である監察院は、16~20年に障害手当を受給した外国人労働者の半数近くが契約を打ち切られていたと発表。適切な治療や補償、仕事復帰へのサポートも受けられていないとして、労働部に是正を求めた。労働部は「補償を行わない雇用主や仲介会社は、罰金や業務停止など処分している」と説明する。
しかし、台湾大学の辛炳隆副教授は「外国人労働者は労災発生後の手続きで損をすることが多い」とみる。台湾人と違い、手続きを手伝う家族や友人がいない。仲介会社に頼らざるを得ないが、仲介会社にとって雇用主は取引先でもあり、必ずしも味方にはなってくれないとの見方だ。
■作業手順は多言語で、安全教育を徹底する
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監察院が19年に発表した調査では、製造業における外国人労働者1,000人当たりの労災での障害発生率は台湾人の2倍だった。労働部職業安全衛生署(職安署)は「雇用主が規定に合った安全・衛生設備を設けていない、教育や訓練を実施していないことなどが原因」と分析している。
同署は対策として、◇高リスクな事業所に対する優先的な安全衛生検査の実施◇法令に違反した雇用主の雇用許可の取り消し◇工業団地や中小事業所への労働環境の改善指導——などを講じている。
辛氏は「対策が厳格に執行されれば労災は減少するはずだが、徹底されていないのが問題」と指摘。見つからなければ良いと考える雇用主もおり、そうした事業者への厳罰化も検討すべきだとした。
台湾に工場を持つ日系ハイテク企業の幹部は「外国人労働者の労災は確かに多い」とした上で、業務の中で「すべきこと、してはいけないこと、誰かに聞くべきことを明確にすることが大事」と強調する。同社は過去、労働者が機械の不具合を処理しようとし、手指を切断する事故が発生。作業標準やメンテナンスの不徹底が原因だと分析した。
台湾人の管理者とのコミュニケーション不足も問題の一つとみて、作業に関する注意点について英語なども併記することを徹底したという。
また辛氏によると、外国人労働者は台湾入境後、空港で台湾の法令などについての短いビデオを見た後、よく理解しないまま仲介会社によって勤務地へと送られているのが現状だという。一方、韓国では入境後、まず政府が提供する場所で数日を過ごし、問題があった際の連絡方法などについて政府から説明を受けるとして、「台湾も同様の流れを検討すべきだ」との考えを示した。
■目的は金稼ぐこと、永住考えていない
台湾政府は4月30日、外国人労働者を中級技術が必要な仕事に従事させ、雇用期間の上限を条件付きで撤廃する制度「移工留才久用方案」の適用を始めた。長期的な労働力の確保につながると期待される一方、条件である高い給与水準を雇用主が受け入れるか懸念する声も出ている。
労働部は「より良い条件で外国人労働者を集め、優秀で安定した外国人技術人材で台湾の労働力不足を補うには(永久居留を前提とした)移民制度と結びつける必要がある」とし、外国人労働者を移民に転換する制度はシンガポールや日本、カナダなどが既に導入済みだと説明する。
これに対し、外国人労働者の支援団体である桃園市群衆服務協会の杜光宇理事は「家族を台湾に呼び寄せる環境が整っていないため、残り続けたい労働者はいないだろう」と指摘。労働者の多くは家族を母国に残してきており、台湾にはインドネシア人学校やフィリピン人学校もない。こうした問題を解決しなければ、効果は限定的だとの見方を示した。
台湾大学の辛副教授は最近、外国人労働者に対して移工留才久用方案に関する調査を実施した。すると、多くが同制度を前向きに受け止めている一方で、永久居留証の申請は望んでいないことが分かったという。物価や生活費が高いことや、現在滞在する労働者が来た際には同制度がなかったことから、そもそも永住を考えていないことなどが理由だ。
一方、滞在期間の制限がなくなることなどはプラスと見られている。「外国人労働者が台湾にいる最も大きな目的は金を稼ぐこと。彼らをより長く台湾に留めるためには、仲介会社へのサービス料などの負担をなくすこと、給与を増やせるかどうか検討することが最も重要だ」(辛氏)。
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■コロナ感染と「宿舎問題」
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最近、外国人労働者を雇うハイテク企業を悩ませるのが、工場内で発生するコロナの集団感染だ。今年4月には台湾EMS(電子機器の受託製造サービス)大手、和碩聯合科技(ペガトロン)の桃園市亀山区の工場で少なくとも全従業員の26.2%に当たる694人が感染。5日間の稼働停止となった。
日系ハイテク企業の幹部によると、自社でも累計で全従業員の十数%に当たる約150人が感染。現在は毎週月曜に全従業員の抗原検査を実施。陽性の場合はすぐに隔離部屋に引き離し、今のところ運営に大きな影響はない。「宿舎には外国人も台湾人もいる。集団感染が起きて工場全体が止まるのが一番怖い」と話す。
感染が広がる原因は宿舎環境にある。外国人労働者を支援するTIWAの陳研究員によると、宿舎は12~16人が相部屋のこともある。冷房がなく、通気性も悪いといい、「コロナに限らず、インフルエンザなどもすぐに広がる」と指摘する。
労働部はコロナに対応するためのガイドラインを制定し、違反した雇用主や仲介業者は罰金を科されるが、全ての措置が強制されているわけではない。TIWAは、宿舎の環境を改善できないなら一般企業と同じく分散勤務させるべきだと、労働部に呼びかけているという。
ハイテク業の宿舎は近年、電子業界の労働環境などを規定した国際基準「RBA行動規範」の順守が求められるようになった。宿舎が清潔・安全であること、適切な換気、妥当な広さの個人スペースの確保などが定められており、台湾のハイテク大企業の宿舎は整っている方だとみられている。
ただ、ある仲介会社の董事長によると、仲介会社にとってはRBAに準拠した宿舎を整備するためのコストが上がり続けている状態だという。外国人労働者の増加スピードに追い付いておらず、「われわれが今一番頭を抱えている問題だ」と強調する。
過剰な制限に不満
企業のコロナ対策を巡っては、外国人労働者から行動制限に対する不満の声が上がっている。
記事で紹介したモハマドさんは、休日の外出が禁止されている。勤務日は午後9時半に仕事を終えると、10時には宿舎にいなければならない。「罰金もある。余暇の時間がほとんどなく、生活は宿舎と工場の往復だ」と訴える。
ジャスティンさんは以前の職場が厳しく、行動制限のない工場に転職した。「上司の目を盗んで休日に同僚と海に行ったら、1人ずつ電話がかかってきた。あまりに厳し過ぎた」と振り返る。
ある企業の関係者は「買い物以外の外出を控えることを強く推奨する」と労働者に通達していると話す。ただ、企業により管理の度合いにばらつきがある中、労働者の確保も考慮し、休日の制限を緩和することも視野に入れているという。
(菅原真央)
※特集「ビジネスノート」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2022年8月号<https://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。

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危険・きつい・汚い——いわゆる「3K」業務の現場では、労働災害が頻繁に報告されている。製造業の事故が多く、障害を負った外国人労働者の比率は台湾人の2倍に上る。発生後の対応も外国人は不利な立場に置かれやすい。
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外国人労働者を支援する台湾国際労工協会(TIWA)には、こうした相談が多く寄せられる。同協会の陳秀蓮研究員によると、機械への巻き込みやガラス工場など高温環境下でのやけど、化学薬品の吸引などの事故が発生している。
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台湾大学の辛副教授は最近、外国人労働者に対して移工留才久用方案に関する調査を実施した。すると、多くが同制度を前向きに受け止めている一方で、永久居留証の申請は望んでいないことが分かったという。物価や生活費が高いことや、現在滞在する労働者が来た際には同制度がなかったことから、そもそも永住を考えていないことなどが理由だ。
一方、滞在期間の制限がなくなることなどはプラスと見られている。「外国人労働者が台湾にいる最も大きな目的は金を稼ぐこと。彼らをより長く台湾に留めるためには、仲介会社へのサービス料などの負担をなくすこと、給与を増やせるかどうか検討することが最も重要だ」(辛氏)。
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■コロナ感染と「宿舎問題」
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日系ハイテク企業の幹部によると、自社でも累計で全従業員の十数%に当たる約150人が感染。現在は毎週月曜に全従業員の抗原検査を実施。陽性の場合はすぐに隔離部屋に引き離し、今のところ運営に大きな影響はない。「宿舎には外国人も台湾人もいる。集団感染が起きて工場全体が止まるのが一番怖い」と話す。
感染が広がる原因は宿舎環境にある。外国人労働者を支援するTIWAの陳研究員によると、宿舎は12~16人が相部屋のこともある。冷房がなく、通気性も悪いといい、「コロナに限らず、インフルエンザなどもすぐに広がる」と指摘する。
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ハイテク業の宿舎は近年、電子業界の労働環境などを規定した国際基準「RBA行動規範」の順守が求められるようになった。宿舎が清潔・安全であること、適切な換気、妥当な広さの個人スペースの確保などが定められており、台湾のハイテク大企業の宿舎は整っている方だとみられている。
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