知日派のジンゾーゾーマウン(ゾーゾー)さん(41)らが創業したイエローリンク(本社・ヤンゴン)が、ミャンマー人主導による日本への労働者送り出しに挑んでいる。移民労働者にとって日本はハイリスク・ハイリターンな国。多くの仲介業者が絡んで派遣に伴う費用がかさみやすく、しわ寄せは労働者に及ぶ。新型コロナウイルスの感染拡大で停滞していた日本渡航の再開ムードが高まる中、しがらみのない経営手法でコスト低減を図る。【小故島弘善】[2358167_1.jpg]
送り出し機関は労働者の募集、選定、日本語研修支援、渡航手続きなどを担う。移民労働者にとっては母国で最も身近な存在だ。日本の技能実習制度または在留資格「特定技能」でミャンマー人が働くには、送り出し機関を通じた派遣が必須。送り出し機関の健全性は、労働者の命運を大きく左右する。
ミャンマーには200以上の送り出し機関が存在し、「毎日のように中国系などのブローカーがやってきて送り出し機関に人材の紹介を持ちかけてくる」(ゾーゾーさん)。ブローカーは農村部などで集めた候補者を紹介し、取り分を要求する。これを受け入れれば多くの労働者を派遣できるが、「イエローリンクでは全て断っている」。
ミャンマーでは、送り出し機関が労働者から徴収できる金額の上限が2,800米ドル(約37万8,000円)と定められており、ブローカーに支払う金額が多いとコストが上昇し、採算が合わなくなるからだ。悪質な送り出し機関は、コスト上昇分を労働者に上乗せ請求することで利益を確保しようとする。これが、技能実習生らの借金問題の一因となっている。
■二人三脚の兄弟経営
外国人労働者を確保しようとする日本企業側に問題があるケースも多い。ゾーゾーさんは「『OB社会』の日本では、大企業に勤めていた日本人が紹介役を担うことがあり、ミャンマーを訪れる日本企業担当者への過剰接待が求められるケースもある」と指摘する。
イエローリンクの経営は、ミャンマー側をゾーゾーさんが最高経営責任者(CEO)として取り仕切り、日本側を弟のチョーウィンさん(38、イエローリンクジャパン=東京都板橋区=代表取締役)がまとめている。「弟が日本側の営業を担っているが、悪質な条件の場合はお断りする。ミャンマー人が安心して働けるようにしている」(同)。
兄弟はともに元日本留学生で、日本企業での勤務経験がある。イエローリンク設立は2015年。ミャンマーでの日本語学校運営から始め、通訳・翻訳、進出支援などに業務の幅を広げ、19年に送り出し機関としてのライセンスを取得した。
ゾーゾーさんは「送り出し機関としてがんばっていこうとして間もなく、新型コロナ感染症のパンデミック(世界的大流行)が発生してしまった」と話す。新型コロナ対策で事業が停滞する中、21年2月には国軍によるクーデターが発生し、政情不安がミャンマー経済に追い打ちをかけた。今年になってようやく移民労働者の日本渡航が再開する中、巻き返しを図る。
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■日本語能力が第一
「日本企業で働くからには、日本語を勉強しなくてはならない」——。ゾーゾーさんは自らの経験も踏まえ、このように語る。事前に一定のレベルに到達していなければ、渡航しても伸びしろが小さいという。
イエローリンクでは、日本語能力試験(JLPT)の「N5(基本的な日本語をある程度理解することができる)」または「N4(基本的な日本語を理解することができる)」の認定取得を、候補者が日本企業の面接を受けるための必要条件としている。また、合格者には渡航までの数カ月間にわたり、日本語での会話や日本の習慣を教えている。
ゾーゾーさんが、これほどまでに日本語能力にこだわるのは、日本で発生している外国人労働者への暴行などの問題の根源はミスコミュニケーションにあると考えているからだ。厚生労働省は技能実習生の入国時の日本語能力レベルを最低N4以上としているにもかかわらず、この基準を満たさないまま日本で働き始める人が多いという。
イエローリンクの創業事業の1つが、日本語学校「縁(えん)」だ。ゾーゾーさんの妻で元看護師の新井小百合さん(33)が教育責任者を務める。
新井さんは、「(生徒には)日本語を正しく理解し、返事ができ、分からないことは質問できるように教育している」と話す。ミャンマー人は先生の見解が正解だと思い込む傾向があるが、例えば看護・介護産業に従事する人には現場の状況に合わせた柔軟な対応が求められる。「どこでも通用するように、基本のみを念入りに教えている」。
■日本語学習、より必死に
ゾーゾーさんによると、過去2年でミャンマー人の日本語の学習意欲が急に高まった。コロナ前は日本語を習得する過程で諦めてしまう人が5割にも上ったが、今年は約2割に低下している。
変わったのは必死さだ。ミャンマーでは、新型コロナ禍と政情不安の二重苦で失業者が増え、雇用条件が悪化した。母国での就労が厳しくなり、日本語の習得を諦めないと考える人が増加した。
ゾーゾーさんは「面接に合格してビザ(査証)も取得して、コロナ禍でみんな、日本への渡航を待ち望んでいた」と語る。日本就労を目指すミャンマー人は今後、さらに増えていく。
「労働者をより多く派遣したいと、コストをかけてしまう送り出し機関は多い。人材不足が深刻化している業種の日本企業は人を欲しがる。その潮流に甘えるわけにはいかない」
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ミャンマーでは、送り出し機関が労働者から徴収できる金額の上限が2,800米ドル(約37万8,000円)と定められており、ブローカーに支払う金額が多いとコストが上昇し、採算が合わなくなるからだ。悪質な送り出し機関は、コスト上昇分を労働者に上乗せ請求することで利益を確保しようとする。これが、技能実習生らの借金問題の一因となっている。
■二人三脚の兄弟経営
外国人労働者を確保しようとする日本企業側に問題があるケースも多い。ゾーゾーさんは「『OB社会』の日本では、大企業に勤めていた日本人が紹介役を担うことがあり、ミャンマーを訪れる日本企業担当者への過剰接待が求められるケースもある」と指摘する。
イエローリンクの経営は、ミャンマー側をゾーゾーさんが最高経営責任者(CEO)として取り仕切り、日本側を弟のチョーウィンさん(38、イエローリンクジャパン=東京都板橋区=代表取締役)がまとめている。「弟が日本側の営業を担っているが、悪質な条件の場合はお断りする。ミャンマー人が安心して働けるようにしている」(同)。
兄弟はともに元日本留学生で、日本企業での勤務経験がある。イエローリンク設立は2015年。ミャンマーでの日本語学校運営から始め、通訳・翻訳、進出支援などに業務の幅を広げ、19年に送り出し機関としてのライセンスを取得した。
ゾーゾーさんは「送り出し機関としてがんばっていこうとして間もなく、新型コロナ感染症のパンデミック(世界的大流行)が発生してしまった」と話す。新型コロナ対策で事業が停滞する中、21年2月には国軍によるクーデターが発生し、政情不安がミャンマー経済に追い打ちをかけた。今年になってようやく移民労働者の日本渡航が再開する中、巻き返しを図る。
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「日本企業で働くからには、日本語を勉強しなくてはならない」——。ゾーゾーさんは自らの経験も踏まえ、このように語る。事前に一定のレベルに到達していなければ、渡航しても伸びしろが小さいという。
イエローリンクでは、日本語能力試験(JLPT)の「N5(基本的な日本語をある程度理解することができる)」または「N4(基本的な日本語を理解することができる)」の認定取得を、候補者が日本企業の面接を受けるための必要条件としている。また、合格者には渡航までの数カ月間にわたり、日本語での会話や日本の習慣を教えている。
ゾーゾーさんが、これほどまでに日本語能力にこだわるのは、日本で発生している外国人労働者への暴行などの問題の根源はミスコミュニケーションにあると考えているからだ。厚生労働省は技能実習生の入国時の日本語能力レベルを最低N4以上としているにもかかわらず、この基準を満たさないまま日本で働き始める人が多いという。
イエローリンクの創業事業の1つが、日本語学校「縁(えん)」だ。ゾーゾーさんの妻で元看護師の新井小百合さん(33)が教育責任者を務める。
新井さんは、「(生徒には)日本語を正しく理解し、返事ができ、分からないことは質問できるように教育している」と話す。ミャンマー人は先生の見解が正解だと思い込む傾向があるが、例えば看護・介護産業に従事する人には現場の状況に合わせた柔軟な対応が求められる。「どこでも通用するように、基本のみを念入りに教えている」。
■日本語学習、より必死に
ゾーゾーさんによると、過去2年でミャンマー人の日本語の学習意欲が急に高まった。コロナ前は日本語を習得する過程で諦めてしまう人が5割にも上ったが、今年は約2割に低下している。
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ミャンマー・ラオス・カンボジア情報
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ビジネス全般人事労務