アイリスオーヤマが、タイで家電販売に力を入れている。カーペット用の掃除機や扇風機といった消費者向けや、掃除ロボットなどの法人向け商品の需要が大きいと見込む。コロナ禍で同社のマスクはタイ国内で最も高い評価を受けており、向上した知名度を家電の販売にも生かしていきたい考え。将来的には、タイを東南アジアの中核的な市場に育てていくことを目指す。[2380839_1.jpg]
アイリスグループとって、ベトナムが中国に集中する生産を分散させる可能性を探る拠点であるのに対し、タイは消費者向けと法人向け商材を販売していくマーケットとなる。国民1人当たりの国内総生産(GDP)は7,200米ドル(約99万円)で、首都バンコクを中心に中間所得層以上のボリュームも大きい。タイで流通している製品の3~4割は輸入品とされ、消費者にとって外国の品物に対する抵抗感は少ない。周辺国からの旅行者も多いことからアイリスオーヤマ(タイランド)の森俊樹社長は、「タイは、マレーシアやシンガポールをはじめとする周辺国に対しても商品情報を発信していく東南アジアの中核市場」になると話す。
タイ法人が立ち上げられたのは2020年と発足して日が浅いものの、森氏はいくつかの分野では今後に向けて手応えを感じていると自信を見せる。タイ国内でアイリスオーヤマのブランドを訴求する突破口になっているのが、マスクだ。新型コロナウイルス感染症が広がった影響で、タイ国内でも多くのブランドのマスクが販売されるようになった。国内ではマスクは生産されておらず、ほとんどが中国などからの輸入品とされる。多くのマスクが店頭に並び、品質は玉石混交といえる状況の中、タイ消費者会議(TCC)は21年12月に品質の抜き打ち検査を実施。一般向け部門でアイリスオーヤマのマスクが最高評価を得た。[2380839_2.jpg]
検査では、着け心地や耐久性などに加え、バクテリアや粉じんの侵入を防ぐ機能は、発表している数値と差がないかといった点も精査された。結果は会員制交流サイト(SNS)でも話題となり、「それまで接点がなかった小売店から、入荷したいという連絡が増えた」(森氏)。家電などの営業に行く際も、「マスクで有名なアイリスオーヤマ」と言われるようになった。タイではマスクの価格統制がされ、事業をめぐる環境は厳しい。また、コンテナが不足したことや燃料費の上昇で、輸送費もかさんでいるのが実情だ。コストが上がる中でも中国の工場と協力し、「良いものをリーズナブルな価格で提供する」(同)という方針を貫いた。
■業務用の掃除ロボットに期待
タイで販売が好調な家電のひとつに、カーペットを掃除する「リンサークリーナー」がある。21年7月にタイ市場に投入されたこの商品の価格は、3,000バーツ(約1万1,400円)前後。「タイではカーペットを掃除するという考え自体がそれほど根付いておらず、消費者に驚きを与えた」ことで、「ショッピー」や「ラザダ」といった電子商取引(EC)サイトの消費者向け家電部門では販売トップの人気商品となった。車の内装やコンドミニアム(分譲マンション)のソファの掃除に加え、タイで根付きつつあるペットを飼っている世帯からも需要があった。アイリスオーヤマ(タイランド)は「サーキュレーター(扇風機)」の販売にも力を入れており、「売れ筋となる1,000~2,500バーツの価格帯の商品を中心に投入していく」方針だ。マスクの評判がきっかけで開拓したスーパーや量販店からも前向きな反応を得ており、今後の期待は大きい。
法人向けの商材では、発光ダイオード(LED)照明のほか、業務用の掃除ロボットへの需要は期待できると森氏は話す。「多くのメーカーがタイの市場に参入しているが、各社が人件費の上昇に悩む状況にあって、需要は確実にある」。現在は大規模な病院や商業施設からの引き合いが多く、ロボットに広告を載せて店内のPRに活用するほか、カメラを設置することで防犯効果を強化するなど、掃除の自動化にとどまらない役割が期待されている。リースなどのプランも提案することで、政府系などを含めた幅広い顧客層を獲得していきたい考えだ。
近年、タイで販路として伸びているのは「ショッピー」や「ラザダ」といったECの専門サイトに加え、小売り業者が自社で運営するECサイトという。タイでの売上高のうち、ECが占める割合は小さい。森氏は「この割合をどれだけ伸ばしていくかが重要な課題」と話す。同社ではインフルエンサーに働きかけ、フェイスブックを中心に商品情報の発信にも力を入れる。タイでも新型コロナの脅威が薄れていくなか、マスクの売り上げはいずれ落ちていくことが予想される。マスクで得た自社ブランドへの信頼感を足がかりに、リアルの店舗やEC、SNSを活用したオムニチャンネル戦略を強化していく。
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■業務用の掃除ロボットに期待
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