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各国の消費者保護に関する法規制の概要

1. 日本

消費者保護関連法は多岐にわたり、消費生活に関する基本的な政策や環境づくりを行う消費者庁が所管する法律だけでも37に上ります。このうち代表的な法律の概要を以下に紹介します。

(1) 消費者の生命・身体の安全に関する法律
損害の発生の予防として、一般消費者の生活の用に用いられる製品の製造及び販売を規制する消費生活用製品安全法(昭和48年法律第31号)、飲食による健康被害の発生を防止する食品衛生法(昭和22年法律第233号)等、対象品目に応じた法律が整備されています。
発生した損害について、製造物責任法(平成6年法律第85号)が、製造物の欠陥を原因とする生命・身体・財産への被害に対する製造業者等への損害賠償を規定しています。

(2) 消費者との取引に関する法律
消費者契約法(平成12年法律第61号)は、消費者が事業者と契約をする際にある両者間の情報の質・量や交渉力の格差から消費者の利益を守ることを目的として、不当な勧誘のあった契約の取消し、不当な契約条項の無効等を規定しています。
消費者保護を目的とした業者に対する規制として、特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号「特定商取引法」)が、トラブルが生じやすい、訪問販売、通信販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提供勧誘販売取引、訪問購入、の7取引類型について、事業者が遵守すべき規定と、クーリングオフ等の消費者を保護する規定を定め、不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号「景品表示法」)が、偽装表示や誇大広告等、商品やサービスについての不当な表示を規制し、過大な景品類の提供を防止する制限を設けています。
取引に伴い事業者に開示される消費者の個人情報については、個人情報保護法(平成15年法律第57号)(ただし、所管は2016年に消費者庁から総務省個人情報保護委員会に移管)が規制しています。

(3) 消費者団体訴訟制度
個々の消費者による個別救済の限界に対処するため、消費者の損害の発生や拡大の防止するための適格消費者団体による差止請求が、平成18年以降、法改正によって、消費者契約法、景品表示法、特定商取引法、食品表示法に順次導入され、消費者の財産的被害の集団的な回復のための裁判手続きの特例に関する法律(平成25年法律第96号)の制定によって、平成28年からは、適格消費者団体による集団的な損害回復の手続が設けられています。

2.タイ

タイ消費者保護法は、消費者・事業者間の商品・サービスの広告、安全性、表示(ラベル)及び契約に関する規定を設けています。

(1)消費者の基本的権利
以下の消費者の基本的権利を規定しています(同法4 条)。
・ 商品またはサービスの品質に関する正確かつ適切な情報及び説明を受ける権利
・ 商品またはサービスの選択の自由を享受する権利
・ 商品の使用またはサービスを利用するにあたって安全性が与えられる権利
・ 公正に契約を締結する権利
・ 損害に対する補償を受ける権利
ただし、特定の法律に特別の規定がある場合には、その事項に関する法律の規定に準拠するものとされます(同法21条)。例えば、食品医薬品法、保険法などが挙げられます。

(2)広告に関する規制
広告には、①消費者にとって不公平な内容、または②社会全体に悪影響を与える可能性のある内容を含めてはならないことが規定されています(同法22条)。
また、以下の表現については、①または②に該当する広告とみなされ禁止されます。
・ 虚偽又は誇張した表現
・ 商品またはサービスに関する重要な部分について誤解を生じさせる表現
・ 法律または道徳に反する行為を直接的または間接的に支持する、または国家の文化的価値の低下を助長する表現
・ 不和を生じさせたり、民衆の団結を阻害させたりする表現
・ その他省令に定める表現

(3)安全性に関する規制
事業者が販売、生産、輸入、宣伝する商品は、リスクを防止または排除する措置を講じた安全な商品でなければならないと規定されています(同法29条の2)。また、危険な商品(別に法律に定める場合を除き、生命、身体、健康、精神状態および財産に危害を与えるまたは与えるおそれのあるものをいう。)を販売するためにタイ国内において生産、注文、または輸入してはならず、そのような危険な商品を推奨または宣伝してはならないと規定されています(同法29条の3)。

(4)表示(ラベル)に関する規制
工場に関する法律に基づいて工場が製造した販売用の商品、および販売用にタイ国内において注文または輸入された商品、または表示委員会が官報において指定した商品は、表示(ラベル)が規制されます(同法30条)。表示(ラベル)が規制された商品は、表示委員会が定める規則等に基づき表示(ラベル)をしなければならないとされています(同法31条)。

(5)契約に関する規制
契約委員会は、法律により契約が書面で作成される必要がある場合、または慣習上、契約が書面で作成される必要がある場合には、契約管理業種として指定する権限を有します。
契約管理業種に指定された事業を営むにあたっては、必ず書面により契約を締結しなければなりません。契約には、消費者に不利益を生じさせることを避けるために必要な契約条件が規定されていなければならず、消費者にとって不公平な契約条件を規定してはならないとされています(同法35条の 2)。

(6)救済手続きに関する規定
消費者保護委員会は、消費者の権利を侵害する紛争を解決するために、訴訟を追行する権限があります。同委員会が適切と判断した場合、または同法39条に基づいて申立てがなされた場合には、消費者の権利の侵害に対して訴訟手続を行う権限が定められています(同法10条7号) 。

3.マレーシア

マレーシアにおいては、消費者保護を規定する法令として、消費者保護法(Consumer Protection Act 1999)が存在します。消費者保護法では、第2部で誤解を招く、不実・虚偽等の表示に関する規制、第3部で製品及びサービスの安全性に関する規制、第3a部で不当な契約条件に関する規制、第3b部でクレジットでの販売取引に関する規制、第4部でこれら規制の違反に対する罰則を定めています。以下では、消費者保護法の規定を一部紹介します。

(1) 表示規制
消費者保護法9条は、商品に関して商品の性質、製造プロセス、特性、目的への適合性、有効性、又は数量に関して誤解を招く若しくは欺く、又は誤解を招く若しくは欺く可能性のある表示を行ってはならないと規定しています。
そして、同法10条では、以下のような虚偽又は誤解を招く表示を行ってはならないと規定しています。
① 商品が特定の種類、基準、品質、等級、数量、構成、スタイル、又はモデルであること
② 商品に特定の履歴又は使用歴があったこと
③ サービスが特定の種類、標準、品質、又は数量のものであること
④ サービスが、特定の人物又は特定の職業、資格、又は技術スキルを持つ人物によって提供されること
⑤ 特定の人物が商品又はサービスを取得することに同意したこと
⑥ 商品が新品又は再生品であること
⑦ 商品が特定の時期に製造、生産、処理、又は再調整されたこと
⑧ 商品又はサービスに、スポンサーシップ、認証、推奨、性能特性、付属品、効用、又は利点があること
⑨ その者がスポンサー、承認、支持、又は提携を持っていること
⑩ 商品又はサービスの需要について
⑪ 条件、保証、権利、又は救済の存在、免責、又は効果について
⑫ 商品の原産地について
また、同法8条では、虚偽、誤解を招く、又は欺瞞的な表現等には、消費者を誤解させる可能性のある表現等が含まれるものと定めています。
上記に加えて、上記表示規制以外にも土地に関する虚偽表示(消費者保護法11条)、価格に関する誤解を招く表示(同12条)、ギフト・賞品・無料提供の表示に関する規制(同14条)等が設けられています。

(2) 安全性に関する規制
消費者保護法19条では、大臣が商品やサービスに関しての安全基準を定めることができると規定しています。大臣が定めた安全基準が存在しない商品やサービスについては、当該商品やサービスの性質を考慮して、合理的な消費者が期待する合理的な安全基準を採用して遵守しなければならないと規定しています。

(3) 不当な契約条件に関する規制
消費者保護法24a条では、全ての状況に照らして、契約に基づいて発生する当事者の権利と義務に重大な不均衡をもたらし、消費者に非利益をもたらす消費者契約を不当な条件と規定しています。

そして、同法24c上では、供給者の行為や契約の条件により供給者に不当に利益又は消費者に不当に不利益をもたらす場合、契約の締結手続が不当であると規定しています。この手続上不当かどうかの判断には、消費者の知識、契約当事者の交渉力の比較等の様々な事情を基に判断します。また、同法24d条では、契約条件又は契約期間が厳しい、抑圧的である、良心的でない、過失責任を除外する等の事情がある場合は実質的に不公平な契約と規定しています。
契約の手続が不当である場合や実質的に不公平である契約と判断された場合、裁判所は契約の条件を執行不能又は無効と宣言することができます。

4.ミャンマー

(1) 消費者保護法の概要
消費者保護法は2014年3月14日に公布されました。この中で、「消費者」とは、取引目的でなく、商品やサービスを受け取る人を意味すると定義されています。本法のうち、特に企業の義務規定を紹介します。

(2) 企業家の責務
企業家の責務は以下のとおりです。
(i) ビジネス倫理に基づきビジネスを行うこと
(ii) 商品やサービスに関し明確かつ適切な情報を提供すること
(iii) 消費者に対し、差別なく忠実かつ適切に対応すること
(iv) 規定された基準及び品質に基づき、商品、サービスが取引、生産されることを保証すること
(v) 購買前の品質検査を必要とする商品又はサービスに対し検査する機会を提供すること
(vi) 保証期間中に商品の消費又はサービスの使用による損害に関して保証された責任を負うこと
(vii) 消費者によって受け取られ使用された商品が合意と一致するものだった場合、合意されている内容及び条件に従って責任を負うこと
(viii) 合意された合意又はサービス事業を行う上での合意の約束に正確に従うこと
(ix) 関係者が消費者紛争を解決している間に、メディア又は他の手段によって関係する消費者に不利益な言動、執筆を控えること

(3)企業家に対する禁止事項
① 企業家は、以下の生産及び取引を行うことが禁止されています。
(a) ラベルに記載されている情報、条件、関連商品の保証、特長、効果、重量、総量、品質、グレード、位置、モード、スタイルに適合しない商品
(b) ラベル又は広告及び販売促進の成分に含まれる表記に適合しない商品
(c) 名称、サイズ、重量、総量、組成、指示、製造日及びバッチナンバー、有効期限、副作用、有毒な材料、製造会社の名前、住所、流通名、商標が記載されていない商品
(d) ミャンマー語で、又はミャンマーと他の言語で共同して記載されていない商品、又は、中央委員会によって決められた日付からの使用に際する、情報や取扱説明がない商品
(e) 産出場所、生産場所に関して不適切に言及された商品
(f) 内外の承認された部門又は組織の勧告又は、規定の基準に適合しない商品
(g) 権威ある組織の科学的研究結果を参照することなく、健康や栄養についての保証が記載されている商品
(h) 規定された基準及び規範に準拠していない商品
(i) 該当するサービスの記載された条件、保証、特長、期間、効果に適合しないサービス
(j) 広告及び販売プロ―モーションに含まれる内容に準拠していないサービス

② 企業家は、以下の条件にある購入者や使用者の誤解を意図的に招く販売、販売促進又は宣伝を行うことが禁止されています。
(a) 参照された品質基準、スタイル又はモード、明確な特性、用途に適合しない、割引された又は、固定特別価格の商品であること
(b) 新鮮、良好な状態ではない商品であること
(c) 他の企業の商品やサービスに対するスポンサー及び承認になること
(d) 有用でなく利用不可能な商品又はサービスであること
(e) 欠陥や必要性が隠されている商品やサービスであること
(f) 他の商品やサービスを直接的又は間接的に誹謗すること
(g) 完全な情報によって認められていない誇張を使用すること
(h) 不確実な約束によって売却又は提供された商品又はサービス

③ 企業家は、売買に際し、以下のいずれかの条件で消費者を欺いたり誤解させることを禁止されています。
(a) 商品又はサービスが所定の基準、品質を満たしていると誤って述べていること
(b) 商品やサービスの必要性を隠して述べていること
(c) 提案されている商品ではなく他の商品を代替して販売すること
(d) 商品、サービスの販売プロモーションの前に、商品、サービスの価格を引き上げること
(e) 期限切れの商品を改装、混合した上で販売すること
(f) 類似した、品質が低い商品、異なった消費するのが安全でない商品を混合して販売すること

④ その他の企業家の禁止事項
企業家は、指定期間内に、又は提供、販売促進、宣伝された金額に基づいて、商品又はサービスを販売するための手配なしに、一定期間内に特別価格で販売を販売し、宣伝することを禁止されています。
また、企業家は、以下の種類の広告を宣伝することは認められません。
(a) 商品の品質、数量、商品中の成分、商品への使用形態、価格、物品、サービスの速度、及びサービスが可能な時間に関し、消費者を欺いた広告
(b) 商品又はサービスの補償に関し欺かれた広告
(c) 商品又はサービスに関する虚偽の情報を含む広告
(d) 商品又はサービスを使用するリスクを知らせていない広告
(e) 許可なしに、人物又は出来事を使用した広告
(f) 法律又は倫理規定に違反する広告

5.メキシコ

連邦消費者保護法(Ley Federal de Protección al Consumidor)は、メキシコにおける消費者を保護するための規制を定めています。連邦消費者保護法上、保護の対象となる「消費者」は、個人に限らず法人を含む点に特徴があります。
連邦消費者保護法には、消費者とサプライヤー(習慣的または定期的に商品、製品、およびサービスの利用や享受を提供、配布、販売、リース等行う連邦民法(Código Civil Federal)上の自然人または法人と定義されており、日本の消費者契約法における事業者に相当する概念となります。)間の取引に関する通則的な規定のほか、情報・広告、プロモーション、訪問販売、サービス提供、信用業務、不動産取引、製品保証、約款など個別的な場面における規制が設けられています。広告・情報に関する規制については、2021年6月1日付の本ニュースレターにおいて紹介しています。そのため、今回は、広告・情報規制以外の消費者保護に関する規制のうち主要なものを紹介します。

(1) 通則的な規制
サプライヤーは以下の事項を遵守しなければなりません。
・ 商品、製品またはサービスの価格、料金、保証、数量、品質、寸法、利息、料金、条件、制限、期限、日付、形式、予約およびその他の条件を通知し、その情報を提供すること。
・ 消費者に提供される商品、製品またはサービスに対して支払われるべき合計金額を、見やすい方法で通知すること。合計金額には、税金、手数料、利息、保険料、その他、消費者が負担しなければならない費用等が含まれること。
・ 商品またはサービスの提供において、強制的で不公正な商取引方法や慣行、不当な条項や条件を適用しないこと。同様に、消費者が書面または電子的手段により明示的に要求または承諾をしていない追加サービスを当初の契約に基づいて提供したり、消費者の事前の承諾なしに、契約に基づかない料金を適用したりしないこと。
・ 自然現象、気象現象、衛生上の不測の事態を理由として、不当に価格を引き上げてはならない。
・ 販売、提供されたサービスまたは実施された業務の具体的な内容を記載した請求書、領収書または証票を消費者に提供すること。

(2) 訪問販売等に関する規制
サプライヤーの店舗または営業所以外で提案または実施されるものであり、動産の賃貸およびサービスの提供を含むものとして、訪問販売、販売仲介、間接的販売(いわゆる通信販売)(以下、まとめて「訪問販売等」といいます。)が規定されています。
訪問販売等にあたっては、サプライヤーの名前と住所、取引と対象となる商品・サービスの識別情報、および製品保証に関する事項が記された書面が作成され、消費者に写しが提供される必要があります。通信販売のように、消費者と接触することなく売買が成立したときに書面を提供できない場合は、サプライヤーは、消費者を確実に認識し、商品やサービスの提供が消費者の住所で行われたことを確認し、販売時と同様の手段で、クレームや返品を受け付けなければなりません。なお、この場合の返品や修理に要する商品の輸送費は、別段の合意がない限り、サプライヤーの負担となります。
訪問販売等による取引や消費者の記録は、サプライヤーによって保持され、また、消費者に通知されなければなりません。
また、訪問販売等における契約は、商品の引渡しまたは契約書の締結のいずれか遅い方から5営業日後に正式に成立することになります。この期間中、消費者はいかなる責任も負うことなく契約を取り消すことができます。

(3) サービス提供に関する規制
すべてのサービス提供施設では、提供される主なサービスの料金表を、見える場所に、はっきりと読みやすい文字で表示しなければなりません。
サプライヤーは、サービスを提供する前に、見積書を交付する義務があります。

(4) 製品保証に関する規制
製品保証書は、少なくとも保証の範囲、期間、条件、保証を受けるための仕組み、請求先、サービス拠点等を記載の上、明確かつ正確な方法で、サプライヤーから書面で発行されなければなりません。

(5) 約款に関する規制
定款とは、製品の取得またはサービスの提供に適用される条件を統一的な形式で定めるためにサプライヤーが一方的に作成する文書を指します。メキシコ国内で締結された定款が有効であるためには、スペイン語で書かれ、その文字は肉眼で読み取れるものでなければならず、大きさやフォントも統一されていなければなりません。また、消費者に不利益、不公平または不当な義務、ならびに連邦消費者保護法に違反する条項を含んではなりません。

(6) 通報・リコール等
何人も連邦消費者保護法等の規定違反について、PROFECO(Procuraduría Federal del Consumidor:連邦消費者保護局)に通報をすることができます。
また、PROFECOは、消費者の生命、健康、安全または経済に影響を与える製品、商品またはサービスに関して、消費者への周知ための警告を発し、または商品回収を命じ、サプライヤーからの届出に応じてリコールを命じることができます。

(7) 紛争解決
連邦消費者保護法が適用される取引等に関する紛争については、民事訴訟を提起するほか、連邦消費者保護法に規定される紛争解決手段を活用することができます。
消費者は、PROFECOに対し、申立てを行うことができます。申し立てられた紛争は、明らかに不適切であるとして却下されない限り、PROFECOによる調停手続きまたは仲裁手続きにおいて解決が図られることとなります。
また、消費者の集団の権利・利益を侵害があった場合には、PROFECOや30名以上の利益を代表する者は、集団訴訟を提起することもできます。

6.バングラデシュ

バングラデシュでは、消費者保護を規定する法令として、消費者権利保護法(Consumer Rights Protection Act, 2009)及び消費者権利保護規則(Consumer Rights Protection Rules, 2020)が存在します。消費者権利保護法は、消費者の権利の保護及び権利侵害の防止を目的としており、同法に基づき設置される管轄機関の体制及び機能、権利侵害に対する申し立て及び罰則を定めています。消費者権利保護規則では、消費者権利保護法の規定を行使するための手続きを規定しており、申し立てに関する各種様式、申し立てや調査等の手続きを定めています。以下では、消費者権利保護法の規定を一部紹介します。

(1) 消費者権利保護の管轄機関
商務大臣を議長とする国家消費者権利保護委員会(以下「委員会」という)が設置され、その主な役割は、消費者保護に関する政策の策定、政策実施機関への指示とされています。委員会の上位機関として、国家消費者権利保護局の設置も規定されており、委員会の機能を支援し、委員会の決定の行使に対して責任を負います。消費者保護に対する違反行為が確認された場合、かかる店舗や商業施設の一時的な閉鎖命令を出すことができるほか、消費者の権利侵害があった場合、同局に申し立てをすることができ、違反行為に対して、聴聞、調査を通じて必要な決定を下します。

(2) 違反行為及び罰則
商品の容量、数量、原材料その他の項目の包装への記載について、法令により課された義務に違反した場合は、1年以下の禁固もしくは50,000タカ以下の罰金またはその両方が科せられます。サービスの価格表の保管や表示を怠った場合も、同様の罰則が科せられます。また、食品への禁止物質の混入、虚偽の申し立て又は訴権濫用その他の違反に対する罰則が定められています。
消費者権利保護法に基づき、消費者は行政措置を要求することができます。一方、国家消費者権利保護局長の承認がなければ、裁判所が申し立てを受理することはできないとされており、消費者は、消費者権利保護法に基づいて、裁判所に直接申し立てる権利が認められていないため、管轄機関が裁判所に訴訟を提起することとなります。

7.フィリピン

(1) フィリピンにおける消費者保護に関する法制概要
フィリピンにおいて、消費者保護の分野は、非常に重要な分野だと位置づけられており、憲法においても、国家は取引上の不正行為および規格外または危険な製品から消費者を保護しなければならない旨が規定されています。これをうけ、フィリピン消費者法(the Consumer Act of the Philippines, approved on 13 Apr 1992)が制定されています。この法律は、基準や罰則を課すことにより、消費者を保護するための主要な法律として位置づけられています。

(2) フィリピン政府の政策勧告
消費者保護について、フィリピン政府の消費者保護グループは、政策勧告第 22-01 号を発表し、以下の8つの権利を消費者基本権として列挙し、各権利の法根拠も併せて示しています。
① 基本的ニーズを満たす権利
② 安全への権利
③ 情報を得る権利
④ 選択する権利
⑤ 表示に関する権利
⑥ 救済を受ける権利
⑦ 消費者教育を受ける権利
⑧ 健康状態を守る権利
消費者の権利が侵害された場合、消費者は、その侵害について、管轄する司法機関に民事訴訟を起こすことができます。

(3) 行政措置
フィリピン消費者保護法について、違反事由があると判断された場合、政府は、違反者に対して行政措置を開始することができるとされています。行政措置に関する調査に先立ち、消費者仲裁人が選定され、和解することを試みる場合もあります。当事者が、行政措置の決定を不服とする場合は、法令の手続を経たうえで、最終的には、裁判所へ訴えを提起する場合もあります。
なお、苦情の申立て方法としては、ウェブサイト上で、苦情申立てフォームが開設されており、消費者がこれを利用することで、消費者保護法違反発見の端緒となる可能性があります。

8.ベトナム

消費者権利保護法の概要
ベトナムでは、消費者の権利を保護する基本法として、2020年に消費者権利保護法(59/2010/QH12)が制定され、2021年7月から施行されています。この法律の特徴として、次のような条項が置かれていることが挙げられます。
・ 消費者とは、消費・生活目的で商品・サービスを購入・利用する「個人・家族・組織」であると定義され、保護の対象は個人に限定さない(3条1.)
・ 消費者の権利保護は政府及び社会全体の共同責任であるとされている(4条1.)
・ 消費者が取引、商品・サービスの購入・利用をする際の消費者の情報(消費者情報)が保護され、事業者は、消費者情報の収集・使用目的を事前に明確に通知しなければならず、目的外利用が禁止され、消費者情報保護の安全性や正確性の確保義務が課されているなどしている(6条)
・ 消費者と書面で契約をする場合、明確で分かりやすい契約書を作成しなければならない(14条2.)
・ 紛争が起こった場合において契約書の内容の解釈に争いがあるときは、消費者を優先して解釈される(15条)
・ 契約書の条項のうち、消費者側に不利となる一定の条項については無効となる(16条)
・ 欠陥商品を製造・輸入した業者は、欠陥商品の流通を停止させるためにあらゆる可能な限りの方法を即時に実施しなければならず、回収していることを、最低限、新聞において連続5回、ラジオ・放送局において5日連続で公告しなければならない(22条)
・ 消費者が原告、消費者へ商品・サービスを直接提供した事業者が被告となる民事訴訟で、事件の状況が単純明快で証拠が明確であり、取引価格が1億ドン以下のときは、簡易迅速な手続で処理される(41条)
・ 消費者は、民事訴訟において事業者側の過失を証明する義務がなく、事業者側は、自らが消費者に損害を与えていないことを証明する義務がある(42条)

なお、消費者権利保護法が施行されて10年以上が経過し、その間、電子商取引の利用が拡大するなど消費者が当事者となる取引の環境は大きく変化しています。そこで、現在、消費者権利保護法の改正が検討されています。改正法の成立や施行時期は未定ですが、消費者保護に関する事業者の責任が厳格化されたり、事業者による禁止行為が拡大されるなどの改正が予定されており(日本でも規制が議論されているステマ(ステルスマーケティング)に関する規制も盛り込まれる予定です。)、今後の動向に注意する必要があります。

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1. 日本

消費者保護関連法は多岐にわたり、消費生活に関する基本的な政策や環境づくりを行う消費者庁が所管する法律だけでも37に上ります。このうち代表的な法律の概要を以下に紹介します。 (1) 消費者の生命・身体の安全に関する法律 損害の発生の予防として、一般消費者の生活の用に用いられる製品の製造及び販売を規制する消費生活用製品安全法(昭和48年法律第31号)、飲食による健康被害の発生を防止する食品衛生法(昭和22年法律第233号)等、対象品目に応じた法律が整備されています。 発生した損害について、製造物責任法(平成6年法律第85号)が、製造物の欠陥を原因とする生命・身体・財産への被害に対する製造業者等への損害賠償を規定しています。 (2) 消費者との取引に関する法律 消費者契約法(平成12年法律第61号)は、消費者が事業者と契約をする際にある両者間の情報の質・量や交渉力の格差から消費者の利益を守ることを目的として、不当な勧誘のあった契約の取消し、不当な契約条項の無効等を規定しています。 消費者保護を目的とした業者に対する規制として、特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号「特定商取引法」)が、トラブルが生じやすい、訪問販売、通信販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提供勧誘販売取引、訪問購入、の7取引類型について、事業者が遵守すべき規定と、クーリングオフ等の消費者を保護する規定を定め、不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号「景品表示法」)が、偽装表示や誇大広告等、商品やサービスについての不当な表示を規制し、過大な景品類の提供を防止する制限を設けています。 取引に伴い事業者に開示される消費者の個人情報については、個人情報保護法(平成15年法律第57号)(ただし、所管は2016年に消費者庁から総務省個人情報保護委員会に移管)が規制しています。 (3) 消費者団体訴訟制度 個々の消費者による個別救済の限界に対処するため、消費者の損害の発生や拡大の防止するための適格消費者団体による差止請求が、平成18年以降、法改正によって、消費者契約法、景品表示法、特定商取引法、食品表示法に順次導入され、消費者の財産的被害の集団的な回復のための裁判手続きの特例に関する法律(平成25年法律第96号)の制定によって、平成28年からは、適格消費者団体による集団的な損害回復の手続が設けられています。

2.タイ

タイ消費者保護法は、消費者・事業者間の商品・サービスの広告、安全性、表示(ラベル)及び契約に関する規定を設けています。 (1)消費者の基本的権利 以下の消費者の基本的権利を規定しています(同法4 条)。 ・ 商品またはサービスの品質に関する正確かつ適切な情報及び説明を受ける権利 ・ 商品またはサービスの選択の自由を享受する権利 ・ 商品の使用またはサービスを利用するにあたって安全性が与えられる権利 ・ 公正に契約を締結する権利 ・ 損害に対する補償を受ける権利 ただし、特定の法律に特別の規定がある場合には、その事項に関する法律の規定に準拠するものとされます(同法21条)。例えば、食品医薬品法、保険法などが挙げられます。 (2)広告に関する規制 広告には、①消費者にとって不公平な内容、または②社会全体に悪影響を与える可能性のある内容を含めてはならないことが規定されています(同法22条)。 また、以下の表現については、①または②に該当する広告とみなされ禁止されます。 ・ 虚偽又は誇張した表現 ・ 商品またはサービスに関する重要な部分について誤解を生じさせる表現 ・ 法律または道徳に反する行為を直接的または間接的に支持する、または国家の文化的価値の低下を助長する表現 ・ 不和を生じさせたり、民衆の団結を阻害させたりする表現 ・ その他省令に定める表現 (3)安全性に関する規制 事業者が販売、生産、輸入、宣伝する商品は、リスクを防止または排除する措置を講じた安全な商品でなければならないと規定されています(同法29条の2)。また、危険な商品(別に法律に定める場合を除き、生命、身体、健康、精神状態および財産に危害を与えるまたは与えるおそれのあるものをいう。)を販売するためにタイ国内において生産、注文、または輸入してはならず、そのような危険な商品を推奨または宣伝してはならないと規定されています(同法29条の3)。 (4)表示(ラベル)に関する規制 工場に関する法律に基づいて工場が製造した販売用の商品、および販売用にタイ国内において注文または輸入された商品、または表示委員会が官報において指定した商品は、表示(ラベル)が規制されます(同法30条)。表示(ラベル)が規制された商品は、表示委員会が定める規則等に基づき表示(ラベル)をしなければならないとされています(同法31条)。 (5)契約に関する規制 契約委員会は、法律により契約が書面で作成される必要がある場合、または慣習上、契約が書面で作成される必要がある場合には、契約管理業種として指定する権限を有します。 契約管理業種に指定された事業を営むにあたっては、必ず書面により契約を締結しなければなりません。契約には、消費者に不利益を生じさせることを避けるために必要な契約条件が規定されていなければならず、消費者にとって不公平な契約条件を規定してはならないとされています(同法35条の 2)。 (6)救済手続きに関する規定 消費者保護委員会は、消費者の権利を侵害する紛争を解決するために、訴訟を追行する権限があります。同委員会が適切と判断した場合、または同法39条に基づいて申立てがなされた場合には、消費者の権利の侵害に対して訴訟手続を行う権限が定められています(同法10条7号) 。

3.マレーシア

マレーシアにおいては、消費者保護を規定する法令として、消費者保護法(Consumer Protection Act 1999)が存在します。消費者保護法では、第2部で誤解を招く、不実・虚偽等の表示に関する規制、第3部で製品及びサービスの安全性に関する規制、第3a部で不当な契約条件に関する規制、第3b部でクレジットでの販売取引に関する規制、第4部でこれら規制の違反に対する罰則を定めています。以下では、消費者保護法の規定を一部紹介します。 (1) 表示規制 消費者保護法9条は、商品に関して商品の性質、製造プロセス、特性、目的への適合性、有効性、又は数量に関して誤解を招く若しくは欺く、又は誤解を招く若しくは欺く可能性のある表示を行ってはならないと規定しています。 そして、同法10条では、以下のような虚偽又は誤解を招く表示を行ってはならないと規定しています。 ① 商品が特定の種類、基準、品質、等級、数量、構成、スタイル、又はモデルであること ② 商品に特定の履歴又は使用歴があったこと ③ サービスが特定の種類、標準、品質、又は数量のものであること ④ サービスが、特定の人物又は特定の職業、資格、又は技術スキルを持つ人物によって提供されること ⑤ 特定の人物が商品又はサービスを取得することに同意したこと ⑥ 商品が新品又は再生品であること ⑦ 商品が特定の時期に製造、生産、処理、又は再調整されたこと ⑧ 商品又はサービスに、スポンサーシップ、認証、推奨、性能特性、付属品、効用、又は利点があること ⑨ その者がスポンサー、承認、支持、又は提携を持っていること ⑩ 商品又はサービスの需要について ⑪ 条件、保証、権利、又は救済の存在、免責、又は効果について ⑫ 商品の原産地について また、同法8条では、虚偽、誤解を招く、又は欺瞞的な表現等には、消費者を誤解させる可能性のある表現等が含まれるものと定めています。 上記に加えて、上記表示規制以外にも土地に関する虚偽表示(消費者保護法11条)、価格に関する誤解を招く表示(同12条)、ギフト・賞品・無料提供の表示に関する規制(同14条)等が設けられています。 (2) 安全性に関する規制 消費者保護法19条では、大臣が商品やサービスに関しての安全基準を定めることができると規定しています。大臣が定めた安全基準が存在しない商品やサービスについては、当該商品やサービスの性質を考慮して、合理的な消費者が期待する合理的な安全基準を採用して遵守しなければならないと規定しています。 (3) 不当な契約条件に関する規制 消費者保護法24a条では、全ての状況に照らして、契約に基づいて発生する当事者の権利と義務に重大な不均衡をもたらし、消費者に非利益をもたらす消費者契約を不当な条件と規定しています。 そして、同法24c上では、供給者の行為や契約の条件により供給者に不当に利益又は消費者に不当に不利益をもたらす場合、契約の締結手続が不当であると規定しています。この手続上不当かどうかの判断には、消費者の知識、契約当事者の交渉力の比較等の様々な事情を基に判断します。また、同法24d条では、契約条件又は契約期間が厳しい、抑圧的である、良心的でない、過失責任を除外する等の事情がある場合は実質的に不公平な契約と規定しています。 契約の手続が不当である場合や実質的に不公平である契約と判断された場合、裁判所は契約の条件を執行不能又は無効と宣言することができます。

4.ミャンマー

(1) 消費者保護法の概要 消費者保護法は2014年3月14日に公布されました。この中で、「消費者」とは、取引目的でなく、商品やサービスを受け取る人を意味すると定義されています。本法のうち、特に企業の義務規定を紹介します。 (2) 企業家の責務 企業家の責務は以下のとおりです。 (i) ビジネス倫理に基づきビジネスを行うこと (ii) 商品やサービスに関し明確かつ適切な情報を提供すること (iii) 消費者に対し、差別なく忠実かつ適切に対応すること (iv) 規定された基準及び品質に基づき、商品、サービスが取引、生産されることを保証すること (v) 購買前の品質検査を必要とする商品又はサービスに対し検査する機会を提供すること (vi) 保証期間中に商品の消費又はサービスの使用による損害に関して保証された責任を負うこと (vii) 消費者によって受け取られ使用された商品が合意と一致するものだった場合、合意されている内容及び条件に従って責任を負うこと (viii) 合意された合意又はサービス事業を行う上での合意の約束に正確に従うこと (ix) 関係者が消費者紛争を解決している間に、メディア又は他の手段によって関係する消費者に不利益な言動、執筆を控えること (3)企業家に対する禁止事項 ① 企業家は、以下の生産及び取引を行うことが禁止されています。 (a) ラベルに記載されている情報、条件、関連商品の保証、特長、効果、重量、総量、品質、グレード、位置、モード、スタイルに適合しない商品 (b) ラベル又は広告及び販売促進の成分に含まれる表記に適合しない商品 (c) 名称、サイズ、重量、総量、組成、指示、製造日及びバッチナンバー、有効期限、副作用、有毒な材料、製造会社の名前、住所、流通名、商標が記載されていない商品 (d) ミャンマー語で、又はミャンマーと他の言語で共同して記載されていない商品、又は、中央委員会によって決められた日付からの使用に際する、情報や取扱説明がない商品 (e) 産出場所、生産場所に関して不適切に言及された商品 (f) 内外の承認された部門又は組織の勧告又は、規定の基準に適合しない商品 (g) 権威ある組織の科学的研究結果を参照することなく、健康や栄養についての保証が記載されている商品 (h) 規定された基準及び規範に準拠していない商品 (i) 該当するサービスの記載された条件、保証、特長、期間、効果に適合しないサービス (j) 広告及び販売プロ―モーションに含まれる内容に準拠していないサービス ② 企業家は、以下の条件にある購入者や使用者の誤解を意図的に招く販売、販売促進又は宣伝を行うことが禁止されています。 (a) 参照された品質基準、スタイル又はモード、明確な特性、用途に適合しない、割引された又は、固定特別価格の商品であること (b) 新鮮、良好な状態ではない商品であること (c) 他の企業の商品やサービスに対するスポンサー及び承認になること (d) 有用でなく利用不可能な商品又はサービスであること (e) 欠陥や必要性が隠されている商品やサービスであること (f) 他の商品やサービスを直接的又は間接的に誹謗すること (g) 完全な情報によって認められていない誇張を使用すること (h) 不確実な約束によって売却又は提供された商品又はサービス ③ 企業家は、売買に際し、以下のいずれかの条件で消費者を欺いたり誤解させることを禁止されています。 (a) 商品又はサービスが所定の基準、品質を満たしていると誤って述べていること (b) 商品やサービスの必要性を隠して述べていること (c) 提案されている商品ではなく他の商品を代替して販売すること (d) 商品、サービスの販売プロモーションの前に、商品、サービスの価格を引き上げること (e) 期限切れの商品を改装、混合した上で販売すること (f) 類似した、品質が低い商品、異なった消費するのが安全でない商品を混合して販売すること ④ その他の企業家の禁止事項 企業家は、指定期間内に、又は提供、販売促進、宣伝された金額に基づいて、商品又はサービスを販売するための手配なしに、一定期間内に特別価格で販売を販売し、宣伝することを禁止されています。 また、企業家は、以下の種類の広告を宣伝することは認められません。 (a) 商品の品質、数量、商品中の成分、商品への使用形態、価格、物品、サービスの速度、及びサービスが可能な時間に関し、消費者を欺いた広告 (b) 商品又はサービスの補償に関し欺かれた広告 (c) 商品又はサービスに関する虚偽の情報を含む広告 (d) 商品又はサービスを使用するリスクを知らせていない広告 (e) 許可なしに、人物又は出来事を使用した広告 (f) 法律又は倫理規定に違反する広告

5.メキシコ

連邦消費者保護法(Ley Federal de Protección al Consumidor)は、メキシコにおける消費者を保護するための規制を定めています。連邦消費者保護法上、保護の対象となる「消費者」は、個人に限らず法人を含む点に特徴があります。 連邦消費者保護法には、消費者とサプライヤー(習慣的または定期的に商品、製品、およびサービスの利用や享受を提供、配布、販売、リース等行う連邦民法(Código Civil Federal)上の自然人または法人と定義されており、日本の消費者契約法における事業者に相当する概念となります。)間の取引に関する通則的な規定のほか、情報・広告、プロモーション、訪問販売、サービス提供、信用業務、不動産取引、製品保証、約款など個別的な場面における規制が設けられています。広告・情報に関する規制については、2021年6月1日付の本ニュースレターにおいて紹介しています。そのため、今回は、広告・情報規制以外の消費者保護に関する規制のうち主要なものを紹介します。 (1) 通則的な規制 サプライヤーは以下の事項を遵守しなければなりません。 ・ 商品、製品またはサービスの価格、料金、保証、数量、品質、寸法、利息、料金、条件、制限、期限、日付、形式、予約およびその他の条件を通知し、その情報を提供すること。 ・ 消費者に提供される商品、製品またはサービスに対して支払われるべき合計金額を、見やすい方法で通知すること。合計金額には、税金、手数料、利息、保険料、その他、消費者が負担しなければならない費用等が含まれること。 ・ 商品またはサービスの提供において、強制的で不公正な商取引方法や慣行、不当な条項や条件を適用しないこと。同様に、消費者が書面または電子的手段により明示的に要求または承諾をしていない追加サービスを当初の契約に基づいて提供したり、消費者の事前の承諾なしに、契約に基づかない料金を適用したりしないこと。 ・ 自然現象、気象現象、衛生上の不測の事態を理由として、不当に価格を引き上げてはならない。 ・ 販売、提供されたサービスまたは実施された業務の具体的な内容を記載した請求書、領収書または証票を消費者に提供すること。 (2) 訪問販売等に関する規制 サプライヤーの店舗または営業所以外で提案または実施されるものであり、動産の賃貸およびサービスの提供を含むものとして、訪問販売、販売仲介、間接的販売(いわゆる通信販売)(以下、まとめて「訪問販売等」といいます。)が規定されています。 訪問販売等にあたっては、サプライヤーの名前と住所、取引と対象となる商品・サービスの識別情報、および製品保証に関する事項が記された書面が作成され、消費者に写しが提供される必要があります。通信販売のように、消費者と接触することなく売買が成立したときに書面を提供できない場合は、サプライヤーは、消費者を確実に認識し、商品やサービスの提供が消費者の住所で行われたことを確認し、販売時と同様の手段で、クレームや返品を受け付けなければなりません。なお、この場合の返品や修理に要する商品の輸送費は、別段の合意がない限り、サプライヤーの負担となります。 訪問販売等による取引や消費者の記録は、サプライヤーによって保持され、また、消費者に通知されなければなりません。 また、訪問販売等における契約は、商品の引渡しまたは契約書の締結のいずれか遅い方から5営業日後に正式に成立することになります。この期間中、消費者はいかなる責任も負うことなく契約を取り消すことができます。 (3) サービス提供に関する規制 すべてのサービス提供施設では、提供される主なサービスの料金表を、見える場所に、はっきりと読みやすい文字で表示しなければなりません。 サプライヤーは、サービスを提供する前に、見積書を交付する義務があります。 (4) 製品保証に関する規制 製品保証書は、少なくとも保証の範囲、期間、条件、保証を受けるための仕組み、請求先、サービス拠点等を記載の上、明確かつ正確な方法で、サプライヤーから書面で発行されなければなりません。 (5) 約款に関する規制 定款とは、製品の取得またはサービスの提供に適用される条件を統一的な形式で定めるためにサプライヤーが一方的に作成する文書を指します。メキシコ国内で締結された定款が有効であるためには、スペイン語で書かれ、その文字は肉眼で読み取れるものでなければならず、大きさやフォントも統一されていなければなりません。また、消費者に不利益、不公平または不当な義務、ならびに連邦消費者保護法に違反する条項を含んではなりません。 (6) 通報・リコール等 何人も連邦消費者保護法等の規定違反について、PROFECO(Procuraduría Federal del Consumidor:連邦消費者保護局)に通報をすることができます。 また、PROFECOは、消費者の生命、健康、安全または経済に影響を与える製品、商品またはサービスに関して、消費者への周知ための警告を発し、または商品回収を命じ、サプライヤーからの届出に応じてリコールを命じることができます。 (7) 紛争解決 連邦消費者保護法が適用される取引等に関する紛争については、民事訴訟を提起するほか、連邦消費者保護法に規定される紛争解決手段を活用することができます。 消費者は、PROFECOに対し、申立てを行うことができます。申し立てられた紛争は、明らかに不適切であるとして却下されない限り、PROFECOによる調停手続きまたは仲裁手続きにおいて解決が図られることとなります。 また、消費者の集団の権利・利益を侵害があった場合には、PROFECOや30名以上の利益を代表する者は、集団訴訟を提起することもできます。

6.バングラデシュ

バングラデシュでは、消費者保護を規定する法令として、消費者権利保護法(Consumer Rights Protection Act, 2009)及び消費者権利保護規則(Consumer Rights Protection Rules, 2020)が存在します。消費者権利保護法は、消費者の権利の保護及び権利侵害の防止を目的としており、同法に基づき設置される管轄機関の体制及び機能、権利侵害に対する申し立て及び罰則を定めています。消費者権利保護規則では、消費者権利保護法の規定を行使するための手続きを規定しており、申し立てに関する各種様式、申し立てや調査等の手続きを定めています。以下では、消費者権利保護法の規定を一部紹介します。 (1) 消費者権利保護の管轄機関 商務大臣を議長とする国家消費者権利保護委員会(以下「委員会」という)が設置され、その主な役割は、消費者保護に関する政策の策定、政策実施機関への指示とされています。委員会の上位機関として、国家消費者権利保護局の設置も規定されており、委員会の機能を支援し、委員会の決定の行使に対して責任を負います。消費者保護に対する違反行為が確認された場合、かかる店舗や商業施設の一時的な閉鎖命令を出すことができるほか、消費者の権利侵害があった場合、同局に申し立てをすることができ、違反行為に対して、聴聞、調査を通じて必要な決定を下します。 (2) 違反行為及び罰則 商品の容量、数量、原材料その他の項目の包装への記載について、法令により課された義務に違反した場合は、1年以下の禁固もしくは50,000タカ以下の罰金またはその両方が科せられます。サービスの価格表の保管や表示を怠った場合も、同様の罰則が科せられます。また、食品への禁止物質の混入、虚偽の申し立て又は訴権濫用その他の違反に対する罰則が定められています。 消費者権利保護法に基づき、消費者は行政措置を要求することができます。一方、国家消費者権利保護局長の承認がなければ、裁判所が申し立てを受理することはできないとされており、消費者は、消費者権利保護法に基づいて、裁判所に直接申し立てる権利が認められていないため、管轄機関が裁判所に訴訟を提起することとなります。

7.フィリピン

(1) フィリピンにおける消費者保護に関する法制概要 フィリピンにおいて、消費者保護の分野は、非常に重要な分野だと位置づけられており、憲法においても、国家は取引上の不正行為および規格外または危険な製品から消費者を保護しなければならない旨が規定されています。これをうけ、フィリピン消費者法(the Consumer Act of the Philippines, approved on 13 Apr 1992)が制定されています。この法律は、基準や罰則を課すことにより、消費者を保護するための主要な法律として位置づけられています。 (2) フィリピン政府の政策勧告 消費者保護について、フィリピン政府の消費者保護グループは、政策勧告第 22-01 号を発表し、以下の8つの権利を消費者基本権として列挙し、各権利の法根拠も併せて示しています。 ① 基本的ニーズを満たす権利 ② 安全への権利 ③ 情報を得る権利 ④ 選択する権利 ⑤ 表示に関する権利 ⑥ 救済を受ける権利 ⑦ 消費者教育を受ける権利 ⑧ 健康状態を守る権利 消費者の権利が侵害された場合、消費者は、その侵害について、管轄する司法機関に民事訴訟を起こすことができます。 (3) 行政措置 フィリピン消費者保護法について、違反事由があると判断された場合、政府は、違反者に対して行政措置を開始することができるとされています。行政措置に関する調査に先立ち、消費者仲裁人が選定され、和解することを試みる場合もあります。当事者が、行政措置の決定を不服とする場合は、法令の手続を経たうえで、最終的には、裁判所へ訴えを提起する場合もあります。 なお、苦情の申立て方法としては、ウェブサイト上で、苦情申立てフォームが開設されており、消費者がこれを利用することで、消費者保護法違反発見の端緒となる可能性があります。

8.ベトナム

消費者権利保護法の概要 ベトナムでは、消費者の権利を保護する基本法として、2020年に消費者権利保護法(59/2010/QH12)が制定され、2021年7月から施行されています。この法律の特徴として、次のような条項が置かれていることが挙げられます。 ・ 消費者とは、消費・生活目的で商品・サービスを購入・利用する「個人・家族・組織」であると定義され、保護の対象は個人に限定さない(3条1.) ・ 消費者の権利保護は政府及び社会全体の共同責任であるとされている(4条1.) ・ 消費者が取引、商品・サービスの購入・利用をする際の消費者の情報(消費者情報)が保護され、事業者は、消費者情報の収集・使用目的を事前に明確に通知しなければならず、目的外利用が禁止され、消費者情報保護の安全性や正確性の確保義務が課されているなどしている(6条) ・ 消費者と書面で契約をする場合、明確で分かりやすい契約書を作成しなければならない(14条2.) ・ 紛争が起こった場合において契約書の内容の解釈に争いがあるときは、消費者を優先して解釈される(15条) ・ 契約書の条項のうち、消費者側に不利となる一定の条項については無効となる(16条) ・ 欠陥商品を製造・輸入した業者は、欠陥商品の流通を停止させるためにあらゆる可能な限りの方法を即時に実施しなければならず、回収していることを、最低限、新聞において連続5回、ラジオ・放送局において5日連続で公告しなければならない(22条) ・ 消費者が原告、消費者へ商品・サービスを直接提供した事業者が被告となる民事訴訟で、事件の状況が単純明快で証拠が明確であり、取引価格が1億ドン以下のときは、簡易迅速な手続で処理される(41条) ・ 消費者は、民事訴訟において事業者側の過失を証明する義務がなく、事業者側は、自らが消費者に損害を与えていないことを証明する義務がある(42条) なお、消費者権利保護法が施行されて10年以上が経過し、その間、電子商取引の利用が拡大するなど消費者が当事者となる取引の環境は大きく変化しています。そこで、現在、消費者権利保護法の改正が検討されています。改正法の成立や施行時期は未定ですが、消費者保護に関する事業者の責任が厳格化されたり、事業者による禁止行為が拡大されるなどの改正が予定されており(日本でも規制が議論されているステマ(ステルスマーケティング)に関する規制も盛り込まれる予定です。)、今後の動向に注意する必要があります。" ["post_title"]=> string(54) "各国の消費者保護に関する法規制の概要" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(162) "%e5%90%84%e5%9b%bd%e3%81%ae%e6%b6%88%e8%b2%bb%e8%80%85%e4%bf%9d%e8%ad%b7%e3%81%ab%e9%96%a2%e3%81%99%e3%82%8b%e6%b3%95%e8%a6%8f%e5%88%b6%e3%81%ae%e6%a6%82%e8%a6%81" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2022-11-02 11:08:19" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2022-11-02 02:08:19" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(33) "https://nnaglobalnavi.com/?p=9924" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
 TNY国際法律事務所
ティエヌワイコクサイホウリツジムショ TNY国際法律事務所
世界11か国13拠点で日系企業の進出及び進出後のサポート

世界11か国13拠点(東京、大阪、佐賀、ミャンマー、タイ、マレーシア、メキシコ、エストニア、フィリピン、イスラエル、バングラデシュ、ベトナム、イギリス)で日系企業の進出及び進出後のサポートを行っている。具体的には、法規制調査、会社設立、合弁契約書及び雇用契約書等の各種契約書の作成、M&A、紛争解決、商標登記等の知財等各種法務サービスを提供している。

堤雄史(TNYグループ共同代表・日本国弁護士)、永田貴久(TNYグループ共同代表・日本国弁護士)

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