韓国現代自動車グループが、東南アジア市場の開拓意欲を高めている。グループ傘下の起亜がタイに完成車工場を設立する方向で検討に入ったことがNNAの取材で分かった。現代自は今年初めに稼働させたインドネシア工場を拠点に東南アジアでのシェア拡大を狙う。日本車が独走する市場で、電気自動車(EV)を武器に新たな需要を開拓する。【タイ・坂部哲生、韓国・中村公、インドネシア編集部、ベトナム編集部】
タイでは日本車に対する信頼感は絶大だ=バンコク、11日(NNA撮影)
起亜のタイ工場新設について、現代自グループ系列会社のタイ現地法人トップは「現在検討中だが、実現すればEVと内燃機関車の生産工場となりそうだ」と話した。タイで自動車業界に携わる複数の関係者も、検討の事実を明らかにしている。
現代自グループの広報は「計画はない」と否定しているものの、「グローバル企業として海外事業の新たな可能性をいつも模索している」とコメントに含みを持たせた。
起亜を含めた現代自グループは、タイでは現地の代理店を通じた輸出販売をしているだけで、自前の製造・販売拠点を持っていない。同国での完成車工場となればグループ初であり、起亜としても東南アジア初の完成車生産拠点となる。
■タイ市場ではシェア1%未満
タイの自動車市場は日本車メーカーの存在感が強く、そのシェアは9割近くに上る。各メーカーが生産拠点を構える日本車に対する信頼感は絶大で、現状では現代自グループのシェアは1%にも満たない。
ただタイ政府は、2030年までに国内で生産する自動車の3割をEVとする目標を掲げている。日本勢がEV化の対応に遅れる中、起亜としては「EV市場なら後発でもチャンスがある」と考えているようだ。
韓国の大林大学自動車学科の金必洙(キム・ピルス)教授は「タイ市場の重要性を考慮すれば、新たな拠点設置は十分にありえる話だ」との見方を示した。
東南アジア諸国連合(ASEAN)自由貿易地域(AFTA)の枠組みから、現地に生産拠点を構えて部品調達率が40%を超えれば、域内への完成車の無関税輸出が可能になる。起亜の新工場が建設されれば、ASEAN諸国への重要な輸出拠点にもなる。
タイ政府はEVのバリューチェーンの構築にも積極的だ。基幹部品であるバッテリーの韓国大手メーカーなど同時進出をうかがう韓国企業も増えそうだ。
■インドネシアを進出モデルに
進出モデルとなるのは現代自のインドネシア工場だ。現代自は今年1月、同社にとっては東南アジア初の完成車工場を同国に立ち上げた。年産能力は15万台で、その半分を輸出に充てているもよう。将来的には年産能力を25万台まで拡大する予定で、需要が伸びればさらなる増強も見込まれる。
インドネシアも日本車メーカーがシェア9割を占める牙城だが、工場新設を機に現代自が販売を伸ばしつつある。
インドネシア自動車製造業者協会(ガイキンド)によると、現代自の販売台数は今年1~10月に2万7,875台と前年同期の約10倍以上に増えた。市場シェアも同期間、0.3%から3.3%に伸び、ようやく日本車メーカーに対抗できる体制が整ったといえる。
インドネシアの日系メーカー関係者は「現代自の小型多目的車(MPV)『スターゲイザー』が8月に正式投入されたことで、各社の価格競争を促して市場が活性化している」と話す。
新工場では同国初となるEVも生産した。現在は8月に現地生産を開始した中国・上汽通用五菱汽車とEV市場をほぼ独占する。EV普及に向け充電施設の整備も進め、全国に設置した充電施設は180カ所以上(今年3月時点)に上る。日本勢に先駆けた事業戦略でEV市場を取り込む構えだ。
■中国販売は7割急減
一方、現代自グループの中国での販売低迷は深刻だ。17年の中韓関係悪化による不買運動や地場メーカーの台頭などで、現代自中国法人の年間販売台数は、ピークだった16年の114万台から昨年は36万台と約7割も急減している。
主力市場の1つで失速する今、東南アジアへの本格進出は最重要課題となっている。ベトナムでは、今年1~9月の販売台数でシェア首位のトヨタに次ぎ、現代自が2位、起亜が3位と存在感を示す。
ベトナムでは消費者の間で「韓国車の品質は以前より上がっている」との認識が広がっており、日系ベトナム法人トップの社用車も起亜のミニバン「カーニバル」に乗り換えるケースが増えてきている。現代自グループはこの成功事例を他国でも生かす形で攻略を狙う。
しかし、長年培ったビジネス基盤を持つ日本勢や、価格競争力で攻勢をかける中国勢も、東南アジアでの投資を拡大させる方針を示している。競争が激化する中、現代自がどこまで販売を伸ばせるかは未知数な段階だ。
前出の金教授は「現代自グループの東南アジアへのシフトは遅過ぎた戦略転換で、出遅れを挽回するにはEVを武器に開拓する以外にない」と指摘。その上で「ASEAN各国政府からEVへの補助金政策をどれだけ引き出せるかも成功の鍵となる」と助言している。
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起亜を含めた現代自グループは、タイでは現地の代理店を通じた輸出販売をしているだけで、自前の製造・販売拠点を持っていない。同国での完成車工場となればグループ初であり、起亜としても東南アジア初の完成車生産拠点となる。
■タイ市場ではシェア1%未満
タイの自動車市場は日本車メーカーの存在感が強く、そのシェアは9割近くに上る。各メーカーが生産拠点を構える日本車に対する信頼感は絶大で、現状では現代自グループのシェアは1%にも満たない。
ただタイ政府は、2030年までに国内で生産する自動車の3割をEVとする目標を掲げている。日本勢がEV化の対応に遅れる中、起亜としては「EV市場なら後発でもチャンスがある」と考えているようだ。
韓国の大林大学自動車学科の金必洙(キム・ピルス)教授は「タイ市場の重要性を考慮すれば、新たな拠点設置は十分にありえる話だ」との見方を示した。
東南アジア諸国連合(ASEAN)自由貿易地域(AFTA)の枠組みから、現地に生産拠点を構えて部品調達率が40%を超えれば、域内への完成車の無関税輸出が可能になる。起亜の新工場が建設されれば、ASEAN諸国への重要な輸出拠点にもなる。
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進出モデルとなるのは現代自のインドネシア工場だ。現代自は今年1月、同社にとっては東南アジア初の完成車工場を同国に立ち上げた。年産能力は15万台で、その半分を輸出に充てているもよう。将来的には年産能力を25万台まで拡大する予定で、需要が伸びればさらなる増強も見込まれる。
インドネシアも日本車メーカーがシェア9割を占める牙城だが、工場新設を機に現代自が販売を伸ばしつつある。
インドネシア自動車製造業者協会(ガイキンド)によると、現代自の販売台数は今年1~10月に2万7,875台と前年同期の約10倍以上に増えた。市場シェアも同期間、0.3%から3.3%に伸び、ようやく日本車メーカーに対抗できる体制が整ったといえる。
インドネシアの日系メーカー関係者は「現代自の小型多目的車(MPV)『スターゲイザー』が8月に正式投入されたことで、各社の価格競争を促して市場が活性化している」と話す。
新工場では同国初となるEVも生産した。現在は8月に現地生産を開始した中国・上汽通用五菱汽車とEV市場をほぼ独占する。EV普及に向け充電施設の整備も進め、全国に設置した充電施設は180カ所以上(今年3月時点)に上る。日本勢に先駆けた事業戦略でEV市場を取り込む構えだ。
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一方、現代自グループの中国での販売低迷は深刻だ。17年の中韓関係悪化による不買運動や地場メーカーの台頭などで、現代自中国法人の年間販売台数は、ピークだった16年の114万台から昨年は36万台と約7割も急減している。
主力市場の1つで失速する今、東南アジアへの本格進出は最重要課題となっている。ベトナムでは、今年1~9月の販売台数でシェア首位のトヨタに次ぎ、現代自が2位、起亜が3位と存在感を示す。
ベトナムでは消費者の間で「韓国車の品質は以前より上がっている」との認識が広がっており、日系ベトナム法人トップの社用車も起亜のミニバン「カーニバル」に乗り換えるケースが増えてきている。現代自グループはこの成功事例を他国でも生かす形で攻略を狙う。
しかし、長年培ったビジネス基盤を持つ日本勢や、価格競争力で攻勢をかける中国勢も、東南アジアでの投資を拡大させる方針を示している。競争が激化する中、現代自がどこまで販売を伸ばせるかは未知数な段階だ。
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