海外で最も日本食が浸透し、日本酒の人気が確立している香港で、新たに焼酎・泡盛のブームを巻き起こそうという動きが広まっている。産地である九州・沖縄の5県は今年、香港で連合を結成。カクテルで間口を広げて香港の消費者に焼酎・泡盛の存在を知ってもらうことを市場創出の第1歩ととらえ、バー業界を中心に売り込みを始めた。九州・沖縄連合と焼酎・泡盛を専門とする地場企業の取り組みを2回に分けて紹介する。【天野友紀子】
焼酎・泡盛分科会を構成する熊本、宮崎、鹿児島、福岡の九州4県と沖縄県のメンバー。「焼酎の日」である11月1日には、岡田総領事(右3)の公邸でレセプションを開いた(焼酎・泡盛分科会提供)
日本政府は焼酎・泡盛を「輸出拡大重点品目」に指定し、輸出拡大に力を入れている。酒類では、日本酒とウイスキーも重点品目。そして香港は、中国本土や米国に続く日本の酒類の主戦場の一つだ。
重点品目のうち、日本酒とウイスキーは揺るぎない人気が確立されている。昨年の香港への輸出額は日本酒が前年比1.5倍の93億1,000万円、ウイスキーが2.7倍の1億7,900万円と、ともにうなぎ上りだ。焼酎(泡盛含む)は11.1%減の8,000万円と苦戦しているが、九州・沖縄5県は、まだ知られていないだけで「普及のポテンシャルは高い」とみている。
熊本、宮崎、鹿児島、沖縄の4県は今年6月、在香港日本総領事館が事務局を務める「香港日本産食品等輸入拡大協議会」の下に「焼酎・泡盛分科会」を結成。10月までに福岡県も加入し、「日本酒に続け!」と普及に向けた取り組みを本格化した。
■まずカクテルで
分科会は、焼酎・泡盛を(1)知ってもらう(2)飲んでもらう(3)買ってもらう——という流れをつくることで輸出拡大を狙う。
分科会の代表代行を務める熊本県香港事務所の宮原智彦・共同代表は「今年はまず知ってもらいたい」と語り、そのためにバー・飲食業界関係者を巻き込み、間口を広めるためのカクテルを提案する方針だと説明した。
香港で焼酎・泡盛を輸入販売するソーシャル・アンリミテッドなどの協力を得て、既に3件の取り組みを実施した。第1弾は6月末から7月初旬に香港島で開催された「カクテル・フェスティバル」への出店で、泡盛と焼酎を使ったカクテルを販売。続く第2弾では10月5日から1カ月にわたり、香港島・湾仔の人気ホテル「The Hari(ザ・ハリ)香港」の日本食レストラン「族(ZOKU)」で九州・沖縄の食材を使った料理に焼酎・泡盛のカクテルをペアリングした特別コースのフェアを開催した。
カクテル・フェスティバルでは焼酎・泡盛のワークショップも開催=6月30日、香港島・太古坊(焼酎・泡盛分科会提供)
第2弾のフェアではバー・飲食業界関係者を招いた試食会も実施した。参加した香港島・中環(セントラル)の高級ホテル「香港文華東方酒店(マンダリン・オリエンタル香港)」のビバレッジ責任者でバーテンダーのデベンダー・セーガル氏は、2019年に九州を訪れて以来の焼酎ファン。特別コースでも使用された鳥飼酒造(熊本県人吉市)の米焼酎「吟香鳥飼」がお気に入りだという。
セーガル氏によると、マンダリンのバー「オーブリー」は焼酎カクテルを売りにしており「評判は上々」。「焼酎を知らない顧客でも、ウイスキーベースで焼酎も使ったカクテルだと紹介するとトライしてくれる」と説明し、分科会同様、カクテルを入り口として「焼酎は徐々に広まっていくだろう」と期待感を示した。
ザ・ハリ香港では、南九州・沖縄産の食材を使った料理と焼酎・泡盛カクテルをペアリング=10月5日、湾仔(NNA撮影)
■新たなアプローチに挑戦
これまで焼酎を使ったカクテルというアプローチは「あまりしてこなかった」と宮原氏。分科会では新たな試みとして、バーテンダーを中心とした飲食業界のプロに手伝ってもらい、一緒にブームを作りあげていく形を目指したいと意気込む。
そんなビジョンの実現に向け11月1日には、在香港日本総領事公邸でバー・飲食業界関係者ら30人を招いてレセプションを開いた。岡田健一総領事(大使)は「香港へ来る前に日本酒造組合中央会の会長から直々に、日本酒(市場)はだいぶ確立されたので次はぜひ焼酎の応援をと話をいただいた」と語り、分科会と協力してレセプションを開催できたことを喜んだ。
レセプションでは、ソーシャル・アンリミテッドのディレクター、チャンドラカント・モハンティ氏と中環の酒店・日本酒バー「サケ・セントラル」の共同創業者マッテオ・セラボロ氏が焼酎・泡盛の特長や製法を解説し、計6銘柄をテイスティング。焼酎・泡盛を使った5種類のカクテルと、それに合う料理も振る舞われた。
総領事公邸でのレセプションには香港の一流バー、レストラン関係者らが招かれた=11月1日(NNA撮影)
■多彩なフレーバーが高評価
焼酎・泡盛の魅力はなんといっても、50種類以上に及ぶ原材料と、熟成方法、熟成期間の違いによって生まれる香りと味わいの豊かさだ。レセプションに招待された高級ホテルや会員制クラブ、有名レストランの関係者らは、その豊かなフレーバーを高く評価。一流店を中心に、焼酎・泡盛の魅力が広まりつつある。
ミシュラン2つ星の北欧料理店「アーバー(Arbor)」のシェフ、エリック・ラティ氏は「料理に焼酎を取り入れている。例えばサーモンのマリネは、ウオッカの代わりに焼酎を使うことで香りが豊かになる」と語り、高級ホテル「香港瑞吉酒店(セントレジス香港)」のバーテンダー、タキ・リー氏は「焼酎を使うとカクテルの味わいに厚みが出る。多彩なフレーバーをプラスしてくれる」とコメント。既にそのとりことなり、焼酎・泡盛を店に取り入れているという関係者も多かった。
高級ホテル「香港瑰麗酒店(ローズウッド香港)」の会員制クラブ「カーライル&Co.」のバー責任者、ニコラ・マンジャカプラ氏は、試飲した比嘉酒造(沖縄県中頭郡読谷村)の泡盛「残波ホワイト」を「クリーミーでうまみがある」と絶賛。日本の酒・料理は世界中で愛されているので「常に新しいモノを探している」と話し、同クラブでは今のところウイスキーが一番人気だが「焼酎・泡盛もこれからブームになりそうだ」と笑顔を見せた。
分科会は来年には焼酎・泡盛の応援団となる「アンバサダー」の制度を始動する。トップバーテンダーら影響力のある人々を巻き込み、アンバサダーに任命することで、焼酎・泡盛ファンの輪を広げていけると期待する。
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日本政府は焼酎・泡盛を「輸出拡大重点品目」に指定し、輸出拡大に力を入れている。酒類では、日本酒とウイスキーも重点品目。そして香港は、中国本土や米国に続く日本の酒類の主戦場の一つだ。
重点品目のうち、日本酒とウイスキーは揺るぎない人気が確立されている。昨年の香港への輸出額は日本酒が前年比1.5倍の93億1,000万円、ウイスキーが2.7倍の1億7,900万円と、ともにうなぎ上りだ。焼酎(泡盛含む)は11.1%減の8,000万円と苦戦しているが、九州・沖縄5県は、まだ知られていないだけで「普及のポテンシャルは高い」とみている。
熊本、宮崎、鹿児島、沖縄の4県は今年6月、在香港日本総領事館が事務局を務める「香港日本産食品等輸入拡大協議会」の下に「焼酎・泡盛分科会」を結成。10月までに福岡県も加入し、「日本酒に続け!」と普及に向けた取り組みを本格化した。
■まずカクテルで
分科会は、焼酎・泡盛を(1)知ってもらう(2)飲んでもらう(3)買ってもらう——という流れをつくることで輸出拡大を狙う。
分科会の代表代行を務める熊本県香港事務所の宮原智彦・共同代表は「今年はまず知ってもらいたい」と語り、そのためにバー・飲食業界関係者を巻き込み、間口を広めるためのカクテルを提案する方針だと説明した。
香港で焼酎・泡盛を輸入販売するソーシャル・アンリミテッドなどの協力を得て、既に3件の取り組みを実施した。第1弾は6月末から7月初旬に香港島で開催された「カクテル・フェスティバル」への出店で、泡盛と焼酎を使ったカクテルを販売。続く第2弾では10月5日から1カ月にわたり、香港島・湾仔の人気ホテル「The Hari(ザ・ハリ)香港」の日本食レストラン「族(ZOKU)」で九州・沖縄の食材を使った料理に焼酎・泡盛のカクテルをペアリングした特別コースのフェアを開催した。
[caption id="attachment_10287" align="aligncenter" width="620"]カクテル・フェスティバルでは焼酎・泡盛のワークショップも開催=6月30日、香港島・太古坊(焼酎・泡盛分科会提供)[/caption]
第2弾のフェアではバー・飲食業界関係者を招いた試食会も実施した。参加した香港島・中環(セントラル)の高級ホテル「香港文華東方酒店(マンダリン・オリエンタル香港)」のビバレッジ責任者でバーテンダーのデベンダー・セーガル氏は、2019年に九州を訪れて以来の焼酎ファン。特別コースでも使用された鳥飼酒造(熊本県人吉市)の米焼酎「吟香鳥飼」がお気に入りだという。
セーガル氏によると、マンダリンのバー「オーブリー」は焼酎カクテルを売りにしており「評判は上々」。「焼酎を知らない顧客でも、ウイスキーベースで焼酎も使ったカクテルだと紹介するとトライしてくれる」と説明し、分科会同様、カクテルを入り口として「焼酎は徐々に広まっていくだろう」と期待感を示した。
[caption id="attachment_10288" align="aligncenter" width="620"]ザ・ハリ香港では、南九州・沖縄産の食材を使った料理と焼酎・泡盛カクテルをペアリング=10月5日、湾仔(NNA撮影)[/caption]
■新たなアプローチに挑戦
これまで焼酎を使ったカクテルというアプローチは「あまりしてこなかった」と宮原氏。分科会では新たな試みとして、バーテンダーを中心とした飲食業界のプロに手伝ってもらい、一緒にブームを作りあげていく形を目指したいと意気込む。
そんなビジョンの実現に向け11月1日には、在香港日本総領事公邸でバー・飲食業界関係者ら30人を招いてレセプションを開いた。岡田健一総領事(大使)は「香港へ来る前に日本酒造組合中央会の会長から直々に、日本酒(市場)はだいぶ確立されたので次はぜひ焼酎の応援をと話をいただいた」と語り、分科会と協力してレセプションを開催できたことを喜んだ。
レセプションでは、ソーシャル・アンリミテッドのディレクター、チャンドラカント・モハンティ氏と中環の酒店・日本酒バー「サケ・セントラル」の共同創業者マッテオ・セラボロ氏が焼酎・泡盛の特長や製法を解説し、計6銘柄をテイスティング。焼酎・泡盛を使った5種類のカクテルと、それに合う料理も振る舞われた。
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焼酎・泡盛の魅力はなんといっても、50種類以上に及ぶ原材料と、熟成方法、熟成期間の違いによって生まれる香りと味わいの豊かさだ。レセプションに招待された高級ホテルや会員制クラブ、有名レストランの関係者らは、その豊かなフレーバーを高く評価。一流店を中心に、焼酎・泡盛の魅力が広まりつつある。
ミシュラン2つ星の北欧料理店「アーバー(Arbor)」のシェフ、エリック・ラティ氏は「料理に焼酎を取り入れている。例えばサーモンのマリネは、ウオッカの代わりに焼酎を使うことで香りが豊かになる」と語り、高級ホテル「香港瑞吉酒店(セントレジス香港)」のバーテンダー、タキ・リー氏は「焼酎を使うとカクテルの味わいに厚みが出る。多彩なフレーバーをプラスしてくれる」とコメント。既にそのとりことなり、焼酎・泡盛を店に取り入れているという関係者も多かった。
高級ホテル「香港瑰麗酒店(ローズウッド香港)」の会員制クラブ「カーライル&Co.」のバー責任者、ニコラ・マンジャカプラ氏は、試飲した比嘉酒造(沖縄県中頭郡読谷村)の泡盛「残波ホワイト」を「クリーミーでうまみがある」と絶賛。日本の酒・料理は世界中で愛されているので「常に新しいモノを探している」と話し、同クラブでは今のところウイスキーが一番人気だが「焼酎・泡盛もこれからブームになりそうだ」と笑顔を見せた。
分科会は来年には焼酎・泡盛の応援団となる「アンバサダー」の制度を始動する。トップバーテンダーら影響力のある人々を巻き込み、アンバサダーに任命することで、焼酎・泡盛ファンの輪を広げていけると期待する。"
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