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「インバーター競争」が激化普及進む省エネ型エアコン(下)

省エネタイプのインバーター式エアコンの需要拡大が見込まれるタイ。市場では、ダイキンや三菱電機などの日系やサムスン電子やLG電子などの韓国勢がしのぎを削り合う。タイからのエアコンの輸出でも、富士通ゼネラルなどインバーター式が主力になっている。

富士通ゼネラルのタイ工場で製造中のエアコンの室外機。右上の部分はインバーターを搭載した制御盤=7日、タイ・チョンブリ県(NNA撮影)

タイでのエアコンの製造・販売を手がけるメーカー各社は「今後インバーターの需要が高まるため、生産台数に占めるインバーターの割合が拡大する」という点で見方が一致している。
ダイキンはタイで、住宅用や業務用のエアコンのほか、コンプレッサー(圧縮機)などの主要部品を生産している。同社はアジアではタイのほか、インドやベトナム、マレーシアにもエアコンの生産工場を持つが、タイの工場はマザー拠点としての位置付けだ。
同社が現在、タイ国内で販売しているエアコンの半数以上がインバーター式。今後はインバーター式の比率をさらに高めて、需要増に対応していく考え。同社の広報担当者は「専業メーカーとして培ってきたノウハウを元にモーターの制御技術を高め、より省エネなモーターの開発に努めていく」とコメントした。
半導体やコネクターなどの電子部品が世界的に不足する中、ダイキンは世界各地にある生産拠点が連携し、部品の在庫や生産状況を把握して不足している部分があれば融通し合うという「アロケーション(配分)」を徹底。さらに、温度センサーの信号を読み取る機能を持つマイコンなどの部品が不足する恐れがある場合には、代替品の開発を実施することで調達難を乗り切ってきた。調達先の変更や内製化なども検討した。
三菱電機はコンプレッサーの生産能力を引き上げて、旺盛なインバーター式エアコン需要を取り込む考えだ。グループで98%を出資するサイアム・コンプレッサー・インダストリー(SCI)はスクロール圧縮機の年産能力を現行の74万5,000台から87万台への拡大に向け、現在東部チョンブリ県のレムチャバン工場で増強工事を進めている。
コンプレッサーは「エアコンの心臓」と位置づけられ、その性能が電力消費の約8割を決定づけると言われる。コンプレッサーを巡っては一時期、中国産がタイ市場に流入することで供給過多が懸念されたが、「タイ国内で高シェアを持つ空調メーカーはほぼ自社製のコンプレッサーを使用しているため、実際の影響はほとんどみられない」(三菱電機の広報担当者)という。

三菱電機のタイ向けルームエアコン(形名:MSY−AW、同社提供)

■輸出もインバーターが中心
アイルランドの調査会社リサーチ・アンド・マーケッツによると、タイはエアコンの年産能力が約1,500万台と、中国に次いで世界2位。世界全体のエアコンの7~10%はタイで製造されていると試算する。
タイ商務省によると、2022年1~9月のタイのエアコンの輸出額は1,370億バーツ(約5,400億円)と前年同期比で27%増加した。
海外向けもインバーター式が主力だ。富士通ゼネラルは、タイの子会社、富士通ゼネラル(タイランド)を通じて東部チョンブリ県レムチャバンにある工場で業務用・家庭用エアコンを製造している。年産規模は室外機と室内機を合わせて340万台。うち7割がインバーターを搭載している。富士通ゼネラル(タイランド)の副社長で、経営管理などを担当している佐々木雅俊氏は「電子部品の調達難はかなり解消され、工場の稼働率は現在100%に近い状態」と話す。工場はフリーゾーン(保税地域)に位置しており、生産した製品のほとんどは海外に輸出される。工場の敷地内にある研究開発センター(R&D)では仕向け地別に製品の企画・開発を行っている。
■韓国勢も注力
韓国勢もインバーター式に力を入れている。タイ・サムスン電子(TSE)は今年、人に直接風を当てずに冷却する「ウインドフリー」シリーズの「PRM+」「PREMIUM」「PLUS」「Lite」の4モデルから17製品を市場に投入した。全てインバーター搭載だ。
LG電子のタイ法人、LG電子(タイランド)は2月に、冷媒を圧縮する装置であるシリンダーを2つに増やした「デュアルインバーターコンプレッサー」を搭載した「LGデュアル・クール」シリーズの新製品を発表した。一度により多くの冷媒を圧縮することで、性能とエネルギー効率を高められるという。LG電子(タイランド)は年初に、自社の住宅用エアコンの今年の売上高を前年比35%増の32億バーツと予測した。
各社による「インバーター競争」が激化する中、東芝ブランドの家電を販売する東芝タイのアレックス・マ副社長は「インバーター搭載だけでは他社とは差別化できなくなった。空気清浄やセルフクリーニング、Wi—Fi機能などどれだけ付加価値を創造できるかが勝負になるだろう」と話す。
一方、タイの地場メーカーもエアコンを製造しているものの、エアコン業界関係者によると、インバーター式では日系企業との技術格差が大きいという。(本企画は、坂部哲生が担当しました)

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同社が現在、タイ国内で販売しているエアコンの半数以上がインバーター式。今後はインバーター式の比率をさらに高めて、需要増に対応していく考え。同社の広報担当者は「専業メーカーとして培ってきたノウハウを元にモーターの制御技術を高め、より省エネなモーターの開発に努めていく」とコメントした。
半導体やコネクターなどの電子部品が世界的に不足する中、ダイキンは世界各地にある生産拠点が連携し、部品の在庫や生産状況を把握して不足している部分があれば融通し合うという「アロケーション(配分)」を徹底。さらに、温度センサーの信号を読み取る機能を持つマイコンなどの部品が不足する恐れがある場合には、代替品の開発を実施することで調達難を乗り切ってきた。調達先の変更や内製化なども検討した。
三菱電機はコンプレッサーの生産能力を引き上げて、旺盛なインバーター式エアコン需要を取り込む考えだ。グループで98%を出資するサイアム・コンプレッサー・インダストリー(SCI)はスクロール圧縮機の年産能力を現行の74万5,000台から87万台への拡大に向け、現在東部チョンブリ県のレムチャバン工場で増強工事を進めている。
コンプレッサーは「エアコンの心臓」と位置づけられ、その性能が電力消費の約8割を決定づけると言われる。コンプレッサーを巡っては一時期、中国産がタイ市場に流入することで供給過多が懸念されたが、「タイ国内で高シェアを持つ空調メーカーはほぼ自社製のコンプレッサーを使用しているため、実際の影響はほとんどみられない」(三菱電機の広報担当者)という。
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■輸出もインバーターが中心
アイルランドの調査会社リサーチ・アンド・マーケッツによると、タイはエアコンの年産能力が約1,500万台と、中国に次いで世界2位。世界全体のエアコンの7~10%はタイで製造されていると試算する。
タイ商務省によると、2022年1~9月のタイのエアコンの輸出額は1,370億バーツ(約5,400億円)と前年同期比で27%増加した。
海外向けもインバーター式が主力だ。富士通ゼネラルは、タイの子会社、富士通ゼネラル(タイランド)を通じて東部チョンブリ県レムチャバンにある工場で業務用・家庭用エアコンを製造している。年産規模は室外機と室内機を合わせて340万台。うち7割がインバーターを搭載している。富士通ゼネラル(タイランド)の副社長で、経営管理などを担当している佐々木雅俊氏は「電子部品の調達難はかなり解消され、工場の稼働率は現在100%に近い状態」と話す。工場はフリーゾーン(保税地域)に位置しており、生産した製品のほとんどは海外に輸出される。工場の敷地内にある研究開発センター(R&D)では仕向け地別に製品の企画・開発を行っている。
■韓国勢も注力
韓国勢もインバーター式に力を入れている。タイ・サムスン電子(TSE)は今年、人に直接風を当てずに冷却する「ウインドフリー」シリーズの「PRM+」「PREMIUM」「PLUS」「Lite」の4モデルから17製品を市場に投入した。全てインバーター搭載だ。
LG電子のタイ法人、LG電子(タイランド)は2月に、冷媒を圧縮する装置であるシリンダーを2つに増やした「デュアルインバーターコンプレッサー」を搭載した「LGデュアル・クール」シリーズの新製品を発表した。一度により多くの冷媒を圧縮することで、性能とエネルギー効率を高められるという。LG電子(タイランド)は年初に、自社の住宅用エアコンの今年の売上高を前年比35%増の32億バーツと予測した。
各社による「インバーター競争」が激化する中、東芝ブランドの家電を販売する東芝タイのアレックス・マ副社長は「インバーター搭載だけでは他社とは差別化できなくなった。空気清浄やセルフクリーニング、Wi—Fi機能などどれだけ付加価値を創造できるかが勝負になるだろう」と話す。
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