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各国の社会保障に関する法制度の概要

1. 日本

社会保障制度は、(1)医療保険、年金、介護保険、雇用保険及び労災保険からなる社会保険、(2)社会的弱者に対する公的支援である児童福祉を含む社会福祉、(3)生活困窮者に対する生活保護制度を軸とする公的扶助、(4)予防衛生に主眼を置いた保健医療・公衆衛生からなります。1958年の国民健康保険法(昭和33年法律第192号)改正と1959年の国民年金法(昭和34年法律第141号)制定により、国民皆保険・皆年金が導入されていること、社会保険方式をとるものの、その財源の約3割を公費で賄っていること、被用者と自営業者等で別個の健康保険と年金の制度が用意されていること等に特徴があります。以下では、介護保険を除く社会保険について、概観します。

(1) 医療保険制度
医療保険は、その職種によって、①公務員が加入する共済組合保険、②大企業の被用者が加入する健康保険組合、③中小企業の被用者の加入する協会けんぽ、④その他の自営業者や非正規雇用者が加入する国民健康保険の4つのグループに分かれます。保険料は、①~③の被用者保険では、毎月の給与と賞与に保険料率を掛けて計算され、事業主と被保険者とが半分ずつ負担しますが、④の国民健康保険では、世帯毎に賦課される平等割、世帯の被保険者数に応じた均等割り、被保険者の所得に応じる所得割と固定資産税額に応じる資産割から計算して世帯単位で定められます。少子高齢化に対応すべく、75歳以上の高齢者を対象とする後期高齢者医療制度が2008年に制定され、高齢者からも保険料が徴収されています。
被用者保険は、常時1名以上使用される者がいる法人事業所及び常時5名以上使用される者がいる法定16業種に該当する個人の事業所について強制適用され、これら以外については労使合意により任意に適用事業所となることができます。
2020年に被用者保険の適用を拡大する各法律改正がなされました。具体的には、2022年10月以降は、弁護士・税理士等の法律・会計事務を取り扱う士業が被用者保険の強制適用対象となりました。また、保険対象は所定労働時間週30時間以上ですが、2016年10月に従業員500人超の企業に義務化された、①週20時間以上で、②月額賃金8.8万円以上、③1年以上の勤務の見込みがある短時間労働者に対する被用者保険の適用の義務化が、2022年10月からは100人超、2024年10月からは50人超の企業まで段階的に拡大されることとなり、同時に、被用者の勤務期間の要件③が撤廃されました。

(2) 年金制度
全員が国民年金の被保険者となり、20歳から60歳まで保険料を納付する義務があります。一定の被用者と公務員については、保険料を雇用者とで折半する厚生年金保険にも加入することとなり、年金受給時には、報酬比例年金が基礎年金に上乗せされます。また、公的年金の他に、国民年金基金や個人型確定拠出年金(iDeCo)等に任意で加入することで上乗せした年金を受給することも可能です。

年金の受給は、60歳から75歳の間で自由に選択することができ、65歳よりも早く繰上げ受給するときは年金額が1月当たり0.4%減額(最大30%減)され、65歳以降に繰下げ受給するときには1月当たり0.7%増額(最大84%増)となります。

(3) 雇用保険制度
雇用保険制度では、雇用保険法(昭和49年法律第116号)に基づき、労働者が失業したときに生活を支える基本手当や就業に資する教育訓練を受けた際の就業促進手当を含む失業等給付及び子の養育のために休業した場合の育児休業給付がなされます。
1週間の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込がある場合、雇用形態や労使の希望の有無にかかわらず、雇用者に加入が義務付けられます。雇用保険料は、原則として、労働者に支払う賃金総額に保険料率を乗じて計算され、被保険者負担額が控除される形で、雇用者と労働者で負担します。
失業した場合の雇用保険(基本手当)の受給には要件があり、就業を希望しているにもかかわらず失業状況にある場合で、離職時の年齢、雇用期間の加入期間(原則、離職前2年間に被保険者期間が12か月以上)、離職の理由等により、給付期間が90日~360日と異なる他、給付開始が自己都合退職の時には届出から数か月後になる等、失業者の状況に応じて差異があります。給付される基本手当は給与の総支給額に基づき定められます。

(4) 労災保険制度
労災保険制度は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に基づき、労働者の業務上の事由または通勤による労働者の疾病等に対して必要な保険給付を行い、被災労働者の社会復帰の促進等の事業を行う制度です。原則として、雇用形態に関係なく賃金を支給される労働者を一人でも使用する事業は、その規模を問わずすべてに適用され、雇用者が事業の種類により定められた保険率によって算出される労働保険料を全額負担します。被災労働者に対しての給付は、療養(補償)給付、介護(補償)給付、休業(補償)給付、傷害(補償)給付、遺族(補償)給付があり、それぞれの給付金額が定められています。

2.タイ

(1) 社会保障法に基づく被保険者
タイでは、社会保障を規定する法令として、社会保障法(Social Security Act B.E. 2533 (1990))があります。
同法に基づき、15歳以上60歳未満の被雇用者は被保険者として、社会保障制度の強制加入の対象となります。また、60歳に達した後も引き続き被雇用者である場合は被保険者となります(社会保障法33条)。なお、この被保険者は外国人も対象となります。また、同法33条に基づく被保険者が被雇用者ではなくなり被保険者の資格を喪失した場合でも、12か月以上保険料を納付している者は、被保険者の資格喪失日(退職日)から6か月以内に社会保障事務所において手続きを行うことにより引き続き被保険者となることができます(同法39条)。

さらに、同法33条に基づく被雇用者でない者であっても、社会保障事務所において手続きを行うことにより被保険者となることができます(同法40条)。

(2) 社会保障料
社会保障料は、毎月の給与を基準として算出され、以下のとおり被保険者本人、使用者および政府がそれぞれ負担します。基準となる給与額は最低1,650バーツから最高15,000バーツで、現在は被保険者本人及び使用者の保険料負担率が5%となっています。
なお、新型コロナの影響による生活費の上昇に対応するため、2022年10月から同年12月までの期間について、本人および使用者の負担率がそれぞれ3%(保険料は450バーツ未満)となっています。

(3) 使用者の義務
15歳以上60歳未満の被雇用者が1人以上いる会社は、被雇用者が被保険者となった日から30日以内に、定められた様式による申請書を社会保障事務所に提出しなければなりません(同法34条)。

また、提出した内容に関する事実に変更があった場合には、使用者は変更があった月の翌月の15日までに書面により申請しなければなりません(同法44条)。
使用者は、賃金の支払いごとに被保険者の負担分の保険料を控除し、被保険者および使用者の負担分を翌月の15日までに社会保障事務所に支払わなければなりません(同法47条)。

(4) 社会保障の内容
社会保障制度の内容としては、①傷病手当(injury or sickness benefits)、②出産手当(maternity benefits)、③障害給付(invalidity benefits)、④死亡給付(death benefits)、⑤児童手当(child benefits)、⑥老齢給付(old-age benefits)、⑦失業手当(unemployment benefits)があります(同法54条)。

3.マレーシア

マレーシアでは、労働者に対する社会保障制度として、以下の制度が設けられています。
 従業員積立基金(EPF:Employees Provident Fund)
 従業員社会保障制度(SOCSO:Social Security Organization)
 雇用保険制度(EIS:Employment Insurance System)

(1) 従業員積立基金(EPF:Employees Provident Fund)
EPFは労働者の老後の生活資金の確保等を目的とした強制貯蓄制度であり、同制度は、従業員積立基金法(Employees Provident Fund Act 1991)に基づき運用されます。

① 加入対象者
全ての使用者及び労働者は労働者の月々の給与額に応じた年金保険料を納付しなければなりません(従業員積立基金法45条)。「労働者」とは、使用者のために就労するため雇用契約又は見習契約に基づき雇用された者をいいます(同条)。期間の定めの有無や勤務時間は問われませんが、家事労働者や外国人労働者等は除外されています。もっとも、家事労働者や外国人労働者も加入を選択することはできます。

② 年金保険料
年金保険料の額は、労働者の賃金額に基づいて決定されます。ここにいう賃金には、基本給だけでなく、賞与、報酬又は手当等も含まれます(従業員積立基金法2条)。60歳未満のマレーシア人、永住者、又は1998年8月1日より前から任意加入を選択している者には、従業員積立基金法Third ScheduleのPart Aの表が適用され、使用者の負担分は賃金の12%(賃金がRM5,000以下の場合13%)、労働者の負担分は11%となります。前記以外の者の負担率についてもScheduleで細かく定められています。

(2) 従業員社会保障制度(SOCSO:Social Security Organization)
従業員社会保障法は、怪我等の理由で就労ができなくなった場合の収入の填補について規定しています。同法に基づく従業員社会保障制度は、SOCSO(Social Security Organisation)によって運用されています。
同法は、以下の2つの制度を提供しています。
 雇用傷害(Employment Injury)保険制度:業務上の負傷及び疾病に対する給付
 障害年金(Invalidity Pension)制度:業務と関係のない負傷及び疾病に対する給付

① 加入対象者
使用者は同法に基づき自身とその労働者(雇用契約又は見習契約に基づき就労する全ての者)の登録を行わなければなりません(従業員社会保障法11条)。外国人労働者も加入義務の対象となります。

② 社会保険料
社会保険料は従業員社会保障法Third Scheduleが定めるところに従い、労働者の賃金に応じて定められます(従業員社会保障法6条3項)。賃金には、基本給のほか、時間外手当、報酬、食事手当、住宅手当、シフト手当、妊娠手当、病気休暇中の賃金、年次有給休暇中の賃金及び休日手当を含みます(従業員社会保障法2条24項)。

使用者は、EPFの場合同様、労働者の負担分を賃金から徴収し(第一カテゴリーの場合)、自身の負担分と併せて毎月15日までにSOCSOに納付しなければなりません(従業員社会保障法7条、8条、9条、10条)。

(3) 雇用保険制度(EIS:Employment Insurance System)
2017年に雇用保険法(Employment Insurance System Act 2017)が制定され、雇用保険制度が導入されています。雇用保険法は、求職手当、早期再雇用手当、賃金減少手当、及び訓練手当の労働者への給付を定めています。

① 加入義務者
この法律は1名以上の労働者を雇用している全ての事業について適用されます(雇用保険法2条1項)。雇用保険法が適用される全ての労働者は、使用者によって登録され、保険に加入するものとされます(雇用保険法16条1項)。日雇労働者、家事労働者、外国人労働者(永住権を保有しない者)等は除外されています。

② 雇用保険料
使用者及び労働者の双方が、労働者の月給額に応じて雇用保険法のSchedule2で定められた保険料率に従い拠出することになります(雇用保険法18条2項)。使用者は、労働者の負担分を賃金から徴収し、自身の負担分と併せて毎月15日までにSOCSOに納付しなければなりません。

4.ミャンマー

(1) 社会保障法の加入対象
2012年に新たな社会保障法(The Social Security Law, 2012)が制定されました。同法は2014年4月1日に施行され、同月2日に施行細則が制定されました。施設において5名以上の労働者を雇用している会社は社会保障制度に加入しなければなりません。強制加入の対象外の業種は非営利組織等に限定されており、使用者の家族以外の労働者は原則として社会保障制度の強制加入の対象となります。日本と同様に、強制加入義務のない業種の使用者及び労働者であっても、任意に社会保保障制度に加入することは可能です。

(2) 社会保障料
社会保障に関する使用者及び労働者の社会保障料は以下のとおりであり、いずれの負担率も対象労働者の月給に基づきます。但し、現在は月給の上限を30万チャットとして運用されており、30万チャット以上の月給労働者は一律30万チャットを基準として社会保障料の計算がなされることとなります。


使用者は、労働者が負担する社会保障料を労働者の給与から控除し、使用者が負担する社会保障料とともに、社会保障事務所に対して支払わなければなりません。上記のうち、②乃至④については、現時点においては運用されていません。
支払期限について、使用者は、当該月の終了後15日以内に負担を支払わなければなりません。支払を遅延した場合、使用者は、保障料の10%(継続して保障料を支払わなかった場合には、未払い保障料総額の10%)を制裁金として支払わなければなりません。

(3) 使用者の義務
使用者は、社会保障料や給付金の支払記録を、規定に従って保管しなければなりません。また、使用者は、規定に従い、①労働者の出勤記録、②新規雇用者、労働者の労務の変更、雇用の停止・退職・解雇、③報酬の増額及び支払、④労働者、支配人、代表者及びそれらの変更についての記録を正確に保管し、所定のタウンシップ社会保障事務所に提出しなければなりません。当該届出は、いずれも各事由が生じた日から10日以内に行う必要があります。

(4) 社会保障の内容
社会保障制度の内容としては、主に①健康社会医療制度、②障害給付、老齢退職年金、遺族年金保険制度、③失業保険制度、④労災保険が存在します。なお、労災保険に加入している労働者は社会保障法のみ適用され、労働者災害補償法は適用されません。

5.メキシコ

(1) 社会保障に関する法律
メキシコにおける社会保障を規律する法律としては、社会保障法(Ley del Seguro Social)、国立労働者住宅基金機構に関する法律(Ley del Instituto del Fondo Nacional de La Vivienda para Los Trabajadores)、退職積立金制度に関する法律(Ley de Los Sistemas de Ahorro para el Retiro)が挙げられます。

(2) 管轄機関
社会保険については社会保険庁(IMSS、Instituto Mexicano del Seguro Social)が、労働者住宅基金については労働者住宅基金機構(INFONAVIT、Instituto del Fondo Nacional de La Vivienda para Los Trabajadores)が、年金については全国退職積立金制度委員会(Comisión Nacional del Sistema de Ahorro para el Retiro)が管理を行っています。
ただし、運用においてはIMSSが一括管理を行っているため、社会保障費の支払先はIMSSのみとなります。

(3) 社会保険の加入義務
労働者を雇用した場合、使用者は労働者をこれらの社会保障に加入させる義務を負い、その雇用から5営業日以内に使用者は当該労働者をIMSSに登録しなければならず、その労働者の給与額やその他登録情報の変更等も5営業日以内に行わなければならないとされています。
なお、労働者はIMSSに登録されると、INFONAVITおよび年金にも登録されることとなります。

(4) 社会保障の種類および負担率
以下の表は、社会保障ごとに本ニュースレター発行時点の使用者および労働者の負担の割合をまとめた表となります。SBCとは、Salario Base de Cotizaciónの略称であり、給与、賞与、休暇手当、食事手当、住居手当等の諸手当、現物給付、およびその他労働者に対して支払われるその他の金額を含めた額から算出される日額の算定基準給与額を指します。UMAとはUnidad de Medida y Actualizaciónの略称であり、罰金や制裁金、社会保障費の支払い額算出など様々に使用される単位であり、2022年度の日額は96.22ペソです。


なお、上記老齢失業保険の使用者負担率は、2020年の社会保障法改正に基づき、2023年より労働者の給与額に応じた負担に変更されます。使用者負担率は、2023年から2030年にかけて段階的に引き上げられることとなり、最終的には、労働者の給与額に応じ3.15%~11.875%の負担となります。

6.バングラデシュ

バングラデシュでは、労働法および労働規則にて、社会保障について規定されています。

1. 民間企業の労働者のための積立基金(Provident Fund)
労働法264条に積立基金について定められています。民間セクターの企業は、労働者の利益のために、積立基金を設立することができます。積立基金の設立は、使用者の義務でないものの、全労働者の4分の3以上の書面による要望を受けた場合は、設立しなければなりません。また、要望を受けた日から6か月以内に同基金の規約を定め、開始しなければならないと規定されており、会社独自の規約を定めることが出来ますが、法律より労働者に不利な規定は定めることができません。
積立基金が設立されている場合、別段の合意がない限り、勤務期間が1年以上の無期雇用労働者は加入しなければならず、同基金への積立金は、労働者の基本給月額の7~8%相当額と規定されており、使用者は、労働者と同額を積み立てるほか、同基金の維持管理費を負担しなければなりません(同条(13))。積立基金に加入している労働者は、退職の理由に関わらず、使用者の負担分を含む給付金を受け取る権利があり(労働法第29条)、使用者の義務である同基金の積立金の支払いや手数料のために、労働者の賃金や手当を減額することはできません(労働法第272条)。

2. 労働者企業利益参加基金(Workers Participation Fund)および労働者福祉基金(Workers Welfare Fund)

(1) 概要
労働法234条に労働者企業利益参加基金および労働者福祉基金(以下、両基金をあわせて「基金」という)について定められています。同基金は、会社の利益を労働者に還元するために設置されるもので、労働法にて定められる要件を満たした会社は、基金の設置義務が生じます(労働法234 条(1)(a))。基金の設置義務がある会社は、前年度の純利益(net profit)の5%を、基金に支払わなければなりません。

(2) 適用範囲(労働法232 条)
a) 会計年度最終日に払込資本額が1,000 万タカ以上、または、b) 会計年度最終日に固定資産価値が2,000 万タカ以上のいずれかを満たす会社または事業場に適用されます。
なお、政府は規則にて、100%輸出志向産業及び100%外資企業について、基金の規約、基金管理委員会の規約、助成金額の決定、集金の方法、基金の利用及び関連するその他の付随事項に必要な規定を定めなければならないとされています。

(3) 経済特区
経済特区では、バングラデシュ経済特区(労働者福祉基金)政策((Bangladesh Economic (Workers Welfare Fund)Policies, 2017)にて、経済特区庁は、同区の労働者の福祉のために福祉基金を設立しなければならない旨が規定されています。掛金は、雇用人数によって異なり、企業が支払います。

3. 特別社会保障基金(Special Security Fund)の設置
2022年の労働規則の改正で、請負業者(派遣会社)に「特別社会保障基金」の設置が義務付けられました(17条)。すべての請負業者は、ライセンスを取得してから 6 か月以内に、会社名で銀行口座を開設し「労働者社会保障基金」の名称で、全労働者の基本給 1 か月分に相当する額を当該銀行に預金しなければなりません。翌年からは、毎年、2年目以降の労働者は基本給の15%、新規採用の労働者は基本給1か月分を預金します。

4. 団体保険
現行の保険法に従い、100人以上の無期雇用労働者を雇用している事業所は、団体保険に加入しなければなりません。団体保険は永久労働不能および死亡の場合に給付金が支払われます(労働規則98条(1))。保険料は使用者が支払う必要があり、労働者の賃金から控除することはできません(同条(4))。労働者が死亡した場合は、会社が保険金受給の手続きを行い、受取人に直接支払われるよう手配しなければならないと規定されています(労働法99条(2))。なお、中央基金が設立されている場合は、団体保険の設置義務はない。

7.フィリピン

(1) フィリピンにおける社会保障制度の概要
フィリピンにおいては、通称「Philhealth (フィルヘルス)」と呼ばれる政府機関において提供される国民皆保険制度が存在します。また、民間企業の全従業員と自営業者を対象とした保険制度として社会保障制度(SSS)が整えられており、公務員にあたるフィリピン政府職員のための社会保険制度として政府職員保険制度(GSIS)が存在します。

(2) 国民健康保険制度
フィリピンの国民健康保険制度は、Philhealtによって運営されています。共和国法第11223号に基づいて、フィリピンのすべての国民がこの制度を利用することができる仕組みとなっています。
フィリピンにおける国民健康保険制度は、制度を利用するすべての国民に、医療サービスを経済的に利用できる仕組みを提供することを目的としています。また、この制度は、原則として強制加入の制度になっています。
国民健康保険制度の具体的な内容としては、入院医療(部屋代、食事代、医療専門家のサービス、処方薬、生物学的製剤など)に関するサービス、外来医療(診断、検査、診察など)に関するサービス、救急搬送のサービスなどが盛り込まれています。
国民健康保険制度の利用には、登録を行ったうえで保険料を支払う必要があります。保険料を支払う能力のある者、有給で雇用関係にある者、自営業者、専門職、移住労働者などに分類される加入者は、法令において規定された料率に従って保険料を支払うことになります。保険料を支払うことが困難な者については、政府からの援助制度が適用される場合があります。

(3) 国民年金保険制度
国民年金制度は、民間従業員を対象とする制度(以下「SSS」といいます。)と、公務員を対象とする制度(以下「GSIS」といいます。)の2種類が存在します。
SSSへの加入は、60歳を超えないすべての被雇用者とその雇用者に義務付けられています。また、共同経営者や個人事業主、俳優、監督、脚本家、報道関係者、プロのスポーツ選手、個人農家や漁師などの自営業者にも加入が義務付けられています。一方、家事や育児に専念している労働者の配偶者や別居しているSSS加入者は任意加入とされています。雇用主は、従業員のために、雇用期間中は毎月SSSの制度利用のために拠出金を支払う必要があります。また、一般的に、従業員の月給から保険料を差し引く運用がなされています。SSSが提供する給付は、病気給付、出産給付、障害給付、退職給付、死亡給付、葬儀給付、失業給付の7種類です。
一部の例外を除き、政府から報酬を受けるすべての職員には、GSISへの加入が義務付けられています。
GSISの給付には、生命保険、退職金、その他すべての社会保障給付(障害給付、遺族給付、離職給付、失業給付など)が含まれます。加入者は、政府職員の月給から保険料を差し引かれる運用がなされています。

8.ベトナム

(1) 社会保障制度の概要
ベトナムでは、強制加入の社会保障制度として、①疾病手当、産休手当、労災・職業病手当、退職年金、遺族給付などを保障する社会保険、②医療費を保障する健康保険、③失業時の生活保障、職業訓練を保障する失業保険という3つの制度があります。これらに加え、退職・遺族保険を別途追加する任意加入の社会保険もあります。
対象となる労働者は、ベトナム人については、無期雇用又は1か月以上の有期雇用の労働者は全て強制加入保険の対象となります。一方、外国人労働者については、ベトナムにおいて発行された労働許可証、実務証明書又は実務許可書に基づき、ベトナムでの就労期間が1年以上の労働契約を締結している外国人が強制加入の対象となります。但し、外国人労働者については、失業保険は対象外です。

(2) 各保険の料率
各保険の料率は、次のとおりです。
(3) 強制加入の例外となる外国人労働者
企業内異動者(日本の親会社からベトナムの子会社へ出向している日本人駐在員の多くはこの企業内異動者に該当するかと思います。)と、ベトナムの法令に規定する定年退職年齢に達した外国人労働者は、強制加入の対象外となります。ベトナムの定年退職年齢は、男性は60歳、女性は55歳でしたが、2019年に改正された労働法により、男性については2021年から2028年まで毎年3か月ずつ、女性については2021年から2035年まで毎年4か月ずつ延長されます。2022年時点での定年退職年齢は、男性60歳6か月、女性55歳8か月です。

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1. 日本

社会保障制度は、(1)医療保険、年金、介護保険、雇用保険及び労災保険からなる社会保険、(2)社会的弱者に対する公的支援である児童福祉を含む社会福祉、(3)生活困窮者に対する生活保護制度を軸とする公的扶助、(4)予防衛生に主眼を置いた保健医療・公衆衛生からなります。1958年の国民健康保険法(昭和33年法律第192号)改正と1959年の国民年金法(昭和34年法律第141号)制定により、国民皆保険・皆年金が導入されていること、社会保険方式をとるものの、その財源の約3割を公費で賄っていること、被用者と自営業者等で別個の健康保険と年金の制度が用意されていること等に特徴があります。以下では、介護保険を除く社会保険について、概観します。 (1) 医療保険制度 医療保険は、その職種によって、①公務員が加入する共済組合保険、②大企業の被用者が加入する健康保険組合、③中小企業の被用者の加入する協会けんぽ、④その他の自営業者や非正規雇用者が加入する国民健康保険の4つのグループに分かれます。保険料は、①~③の被用者保険では、毎月の給与と賞与に保険料率を掛けて計算され、事業主と被保険者とが半分ずつ負担しますが、④の国民健康保険では、世帯毎に賦課される平等割、世帯の被保険者数に応じた均等割り、被保険者の所得に応じる所得割と固定資産税額に応じる資産割から計算して世帯単位で定められます。少子高齢化に対応すべく、75歳以上の高齢者を対象とする後期高齢者医療制度が2008年に制定され、高齢者からも保険料が徴収されています。 被用者保険は、常時1名以上使用される者がいる法人事業所及び常時5名以上使用される者がいる法定16業種に該当する個人の事業所について強制適用され、これら以外については労使合意により任意に適用事業所となることができます。 2020年に被用者保険の適用を拡大する各法律改正がなされました。具体的には、2022年10月以降は、弁護士・税理士等の法律・会計事務を取り扱う士業が被用者保険の強制適用対象となりました。また、保険対象は所定労働時間週30時間以上ですが、2016年10月に従業員500人超の企業に義務化された、①週20時間以上で、②月額賃金8.8万円以上、③1年以上の勤務の見込みがある短時間労働者に対する被用者保険の適用の義務化が、2022年10月からは100人超、2024年10月からは50人超の企業まで段階的に拡大されることとなり、同時に、被用者の勤務期間の要件③が撤廃されました。 (2) 年金制度 全員が国民年金の被保険者となり、20歳から60歳まで保険料を納付する義務があります。一定の被用者と公務員については、保険料を雇用者とで折半する厚生年金保険にも加入することとなり、年金受給時には、報酬比例年金が基礎年金に上乗せされます。また、公的年金の他に、国民年金基金や個人型確定拠出年金(iDeCo)等に任意で加入することで上乗せした年金を受給することも可能です。 年金の受給は、60歳から75歳の間で自由に選択することができ、65歳よりも早く繰上げ受給するときは年金額が1月当たり0.4%減額(最大30%減)され、65歳以降に繰下げ受給するときには1月当たり0.7%増額(最大84%増)となります。 (3) 雇用保険制度 雇用保険制度では、雇用保険法(昭和49年法律第116号)に基づき、労働者が失業したときに生活を支える基本手当や就業に資する教育訓練を受けた際の就業促進手当を含む失業等給付及び子の養育のために休業した場合の育児休業給付がなされます。 1週間の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込がある場合、雇用形態や労使の希望の有無にかかわらず、雇用者に加入が義務付けられます。雇用保険料は、原則として、労働者に支払う賃金総額に保険料率を乗じて計算され、被保険者負担額が控除される形で、雇用者と労働者で負担します。 失業した場合の雇用保険(基本手当)の受給には要件があり、就業を希望しているにもかかわらず失業状況にある場合で、離職時の年齢、雇用期間の加入期間(原則、離職前2年間に被保険者期間が12か月以上)、離職の理由等により、給付期間が90日~360日と異なる他、給付開始が自己都合退職の時には届出から数か月後になる等、失業者の状況に応じて差異があります。給付される基本手当は給与の総支給額に基づき定められます。 (4) 労災保険制度 労災保険制度は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に基づき、労働者の業務上の事由または通勤による労働者の疾病等に対して必要な保険給付を行い、被災労働者の社会復帰の促進等の事業を行う制度です。原則として、雇用形態に関係なく賃金を支給される労働者を一人でも使用する事業は、その規模を問わずすべてに適用され、雇用者が事業の種類により定められた保険率によって算出される労働保険料を全額負担します。被災労働者に対しての給付は、療養(補償)給付、介護(補償)給付、休業(補償)給付、傷害(補償)給付、遺族(補償)給付があり、それぞれの給付金額が定められています。

2.タイ

(1) 社会保障法に基づく被保険者 タイでは、社会保障を規定する法令として、社会保障法(Social Security Act B.E. 2533 (1990))があります。 同法に基づき、15歳以上60歳未満の被雇用者は被保険者として、社会保障制度の強制加入の対象となります。また、60歳に達した後も引き続き被雇用者である場合は被保険者となります(社会保障法33条)。なお、この被保険者は外国人も対象となります。また、同法33条に基づく被保険者が被雇用者ではなくなり被保険者の資格を喪失した場合でも、12か月以上保険料を納付している者は、被保険者の資格喪失日(退職日)から6か月以内に社会保障事務所において手続きを行うことにより引き続き被保険者となることができます(同法39条)。 さらに、同法33条に基づく被雇用者でない者であっても、社会保障事務所において手続きを行うことにより被保険者となることができます(同法40条)。 (2) 社会保障料 社会保障料は、毎月の給与を基準として算出され、以下のとおり被保険者本人、使用者および政府がそれぞれ負担します。基準となる給与額は最低1,650バーツから最高15,000バーツで、現在は被保険者本人及び使用者の保険料負担率が5%となっています。 なお、新型コロナの影響による生活費の上昇に対応するため、2022年10月から同年12月までの期間について、本人および使用者の負担率がそれぞれ3%(保険料は450バーツ未満)となっています。 (3) 使用者の義務 15歳以上60歳未満の被雇用者が1人以上いる会社は、被雇用者が被保険者となった日から30日以内に、定められた様式による申請書を社会保障事務所に提出しなければなりません(同法34条)。 また、提出した内容に関する事実に変更があった場合には、使用者は変更があった月の翌月の15日までに書面により申請しなければなりません(同法44条)。 使用者は、賃金の支払いごとに被保険者の負担分の保険料を控除し、被保険者および使用者の負担分を翌月の15日までに社会保障事務所に支払わなければなりません(同法47条)。 (4) 社会保障の内容 社会保障制度の内容としては、①傷病手当(injury or sickness benefits)、②出産手当(maternity benefits)、③障害給付(invalidity benefits)、④死亡給付(death benefits)、⑤児童手当(child benefits)、⑥老齢給付(old-age benefits)、⑦失業手当(unemployment benefits)があります(同法54条)。

3.マレーシア

マレーシアでは、労働者に対する社会保障制度として、以下の制度が設けられています。  従業員積立基金(EPF:Employees Provident Fund)  従業員社会保障制度(SOCSO:Social Security Organization)  雇用保険制度(EIS:Employment Insurance System) (1) 従業員積立基金(EPF:Employees Provident Fund) EPFは労働者の老後の生活資金の確保等を目的とした強制貯蓄制度であり、同制度は、従業員積立基金法(Employees Provident Fund Act 1991)に基づき運用されます。 ① 加入対象者 全ての使用者及び労働者は労働者の月々の給与額に応じた年金保険料を納付しなければなりません(従業員積立基金法45条)。「労働者」とは、使用者のために就労するため雇用契約又は見習契約に基づき雇用された者をいいます(同条)。期間の定めの有無や勤務時間は問われませんが、家事労働者や外国人労働者等は除外されています。もっとも、家事労働者や外国人労働者も加入を選択することはできます。 ② 年金保険料 年金保険料の額は、労働者の賃金額に基づいて決定されます。ここにいう賃金には、基本給だけでなく、賞与、報酬又は手当等も含まれます(従業員積立基金法2条)。60歳未満のマレーシア人、永住者、又は1998年8月1日より前から任意加入を選択している者には、従業員積立基金法Third ScheduleのPart Aの表が適用され、使用者の負担分は賃金の12%(賃金がRM5,000以下の場合13%)、労働者の負担分は11%となります。前記以外の者の負担率についてもScheduleで細かく定められています。 (2) 従業員社会保障制度(SOCSO:Social Security Organization) 従業員社会保障法は、怪我等の理由で就労ができなくなった場合の収入の填補について規定しています。同法に基づく従業員社会保障制度は、SOCSO(Social Security Organisation)によって運用されています。 同法は、以下の2つの制度を提供しています。  雇用傷害(Employment Injury)保険制度:業務上の負傷及び疾病に対する給付  障害年金(Invalidity Pension)制度:業務と関係のない負傷及び疾病に対する給付 ① 加入対象者 使用者は同法に基づき自身とその労働者(雇用契約又は見習契約に基づき就労する全ての者)の登録を行わなければなりません(従業員社会保障法11条)。外国人労働者も加入義務の対象となります。 ② 社会保険料 社会保険料は従業員社会保障法Third Scheduleが定めるところに従い、労働者の賃金に応じて定められます(従業員社会保障法6条3項)。賃金には、基本給のほか、時間外手当、報酬、食事手当、住宅手当、シフト手当、妊娠手当、病気休暇中の賃金、年次有給休暇中の賃金及び休日手当を含みます(従業員社会保障法2条24項)。 使用者は、EPFの場合同様、労働者の負担分を賃金から徴収し(第一カテゴリーの場合)、自身の負担分と併せて毎月15日までにSOCSOに納付しなければなりません(従業員社会保障法7条、8条、9条、10条)。 (3) 雇用保険制度(EIS:Employment Insurance System) 2017年に雇用保険法(Employment Insurance System Act 2017)が制定され、雇用保険制度が導入されています。雇用保険法は、求職手当、早期再雇用手当、賃金減少手当、及び訓練手当の労働者への給付を定めています。 ① 加入義務者 この法律は1名以上の労働者を雇用している全ての事業について適用されます(雇用保険法2条1項)。雇用保険法が適用される全ての労働者は、使用者によって登録され、保険に加入するものとされます(雇用保険法16条1項)。日雇労働者、家事労働者、外国人労働者(永住権を保有しない者)等は除外されています。 ② 雇用保険料 使用者及び労働者の双方が、労働者の月給額に応じて雇用保険法のSchedule2で定められた保険料率に従い拠出することになります(雇用保険法18条2項)。使用者は、労働者の負担分を賃金から徴収し、自身の負担分と併せて毎月15日までにSOCSOに納付しなければなりません。

4.ミャンマー

(1) 社会保障法の加入対象 2012年に新たな社会保障法(The Social Security Law, 2012)が制定されました。同法は2014年4月1日に施行され、同月2日に施行細則が制定されました。施設において5名以上の労働者を雇用している会社は社会保障制度に加入しなければなりません。強制加入の対象外の業種は非営利組織等に限定されており、使用者の家族以外の労働者は原則として社会保障制度の強制加入の対象となります。日本と同様に、強制加入義務のない業種の使用者及び労働者であっても、任意に社会保保障制度に加入することは可能です。 (2) 社会保障料 社会保障に関する使用者及び労働者の社会保障料は以下のとおりであり、いずれの負担率も対象労働者の月給に基づきます。但し、現在は月給の上限を30万チャットとして運用されており、30万チャット以上の月給労働者は一律30万チャットを基準として社会保障料の計算がなされることとなります。 使用者は、労働者が負担する社会保障料を労働者の給与から控除し、使用者が負担する社会保障料とともに、社会保障事務所に対して支払わなければなりません。上記のうち、②乃至④については、現時点においては運用されていません。 支払期限について、使用者は、当該月の終了後15日以内に負担を支払わなければなりません。支払を遅延した場合、使用者は、保障料の10%(継続して保障料を支払わなかった場合には、未払い保障料総額の10%)を制裁金として支払わなければなりません。 (3) 使用者の義務 使用者は、社会保障料や給付金の支払記録を、規定に従って保管しなければなりません。また、使用者は、規定に従い、①労働者の出勤記録、②新規雇用者、労働者の労務の変更、雇用の停止・退職・解雇、③報酬の増額及び支払、④労働者、支配人、代表者及びそれらの変更についての記録を正確に保管し、所定のタウンシップ社会保障事務所に提出しなければなりません。当該届出は、いずれも各事由が生じた日から10日以内に行う必要があります。 (4) 社会保障の内容 社会保障制度の内容としては、主に①健康社会医療制度、②障害給付、老齢退職年金、遺族年金保険制度、③失業保険制度、④労災保険が存在します。なお、労災保険に加入している労働者は社会保障法のみ適用され、労働者災害補償法は適用されません。

5.メキシコ

(1) 社会保障に関する法律 メキシコにおける社会保障を規律する法律としては、社会保障法(Ley del Seguro Social)、国立労働者住宅基金機構に関する法律(Ley del Instituto del Fondo Nacional de La Vivienda para Los Trabajadores)、退職積立金制度に関する法律(Ley de Los Sistemas de Ahorro para el Retiro)が挙げられます。 (2) 管轄機関 社会保険については社会保険庁(IMSS、Instituto Mexicano del Seguro Social)が、労働者住宅基金については労働者住宅基金機構(INFONAVIT、Instituto del Fondo Nacional de La Vivienda para Los Trabajadores)が、年金については全国退職積立金制度委員会(Comisión Nacional del Sistema de Ahorro para el Retiro)が管理を行っています。 ただし、運用においてはIMSSが一括管理を行っているため、社会保障費の支払先はIMSSのみとなります。 (3) 社会保険の加入義務 労働者を雇用した場合、使用者は労働者をこれらの社会保障に加入させる義務を負い、その雇用から5営業日以内に使用者は当該労働者をIMSSに登録しなければならず、その労働者の給与額やその他登録情報の変更等も5営業日以内に行わなければならないとされています。 なお、労働者はIMSSに登録されると、INFONAVITおよび年金にも登録されることとなります。 (4) 社会保障の種類および負担率 以下の表は、社会保障ごとに本ニュースレター発行時点の使用者および労働者の負担の割合をまとめた表となります。SBCとは、Salario Base de Cotizaciónの略称であり、給与、賞与、休暇手当、食事手当、住居手当等の諸手当、現物給付、およびその他労働者に対して支払われるその他の金額を含めた額から算出される日額の算定基準給与額を指します。UMAとはUnidad de Medida y Actualizaciónの略称であり、罰金や制裁金、社会保障費の支払い額算出など様々に使用される単位であり、2022年度の日額は96.22ペソです。 なお、上記老齢失業保険の使用者負担率は、2020年の社会保障法改正に基づき、2023年より労働者の給与額に応じた負担に変更されます。使用者負担率は、2023年から2030年にかけて段階的に引き上げられることとなり、最終的には、労働者の給与額に応じ3.15%~11.875%の負担となります。

6.バングラデシュ

バングラデシュでは、労働法および労働規則にて、社会保障について規定されています。 1. 民間企業の労働者のための積立基金(Provident Fund) 労働法264条に積立基金について定められています。民間セクターの企業は、労働者の利益のために、積立基金を設立することができます。積立基金の設立は、使用者の義務でないものの、全労働者の4分の3以上の書面による要望を受けた場合は、設立しなければなりません。また、要望を受けた日から6か月以内に同基金の規約を定め、開始しなければならないと規定されており、会社独自の規約を定めることが出来ますが、法律より労働者に不利な規定は定めることができません。 積立基金が設立されている場合、別段の合意がない限り、勤務期間が1年以上の無期雇用労働者は加入しなければならず、同基金への積立金は、労働者の基本給月額の7~8%相当額と規定されており、使用者は、労働者と同額を積み立てるほか、同基金の維持管理費を負担しなければなりません(同条(13))。積立基金に加入している労働者は、退職の理由に関わらず、使用者の負担分を含む給付金を受け取る権利があり(労働法第29条)、使用者の義務である同基金の積立金の支払いや手数料のために、労働者の賃金や手当を減額することはできません(労働法第272条)。 2. 労働者企業利益参加基金(Workers Participation Fund)および労働者福祉基金(Workers Welfare Fund) (1) 概要 労働法234条に労働者企業利益参加基金および労働者福祉基金(以下、両基金をあわせて「基金」という)について定められています。同基金は、会社の利益を労働者に還元するために設置されるもので、労働法にて定められる要件を満たした会社は、基金の設置義務が生じます(労働法234 条(1)(a))。基金の設置義務がある会社は、前年度の純利益(net profit)の5%を、基金に支払わなければなりません。 (2) 適用範囲(労働法232 条) a) 会計年度最終日に払込資本額が1,000 万タカ以上、または、b) 会計年度最終日に固定資産価値が2,000 万タカ以上のいずれかを満たす会社または事業場に適用されます。 なお、政府は規則にて、100%輸出志向産業及び100%外資企業について、基金の規約、基金管理委員会の規約、助成金額の決定、集金の方法、基金の利用及び関連するその他の付随事項に必要な規定を定めなければならないとされています。 (3) 経済特区 経済特区では、バングラデシュ経済特区(労働者福祉基金)政策((Bangladesh Economic (Workers Welfare Fund)Policies, 2017)にて、経済特区庁は、同区の労働者の福祉のために福祉基金を設立しなければならない旨が規定されています。掛金は、雇用人数によって異なり、企業が支払います。 3. 特別社会保障基金(Special Security Fund)の設置 2022年の労働規則の改正で、請負業者(派遣会社)に「特別社会保障基金」の設置が義務付けられました(17条)。すべての請負業者は、ライセンスを取得してから 6 か月以内に、会社名で銀行口座を開設し「労働者社会保障基金」の名称で、全労働者の基本給 1 か月分に相当する額を当該銀行に預金しなければなりません。翌年からは、毎年、2年目以降の労働者は基本給の15%、新規採用の労働者は基本給1か月分を預金します。 4. 団体保険 現行の保険法に従い、100人以上の無期雇用労働者を雇用している事業所は、団体保険に加入しなければなりません。団体保険は永久労働不能および死亡の場合に給付金が支払われます(労働規則98条(1))。保険料は使用者が支払う必要があり、労働者の賃金から控除することはできません(同条(4))。労働者が死亡した場合は、会社が保険金受給の手続きを行い、受取人に直接支払われるよう手配しなければならないと規定されています(労働法99条(2))。なお、中央基金が設立されている場合は、団体保険の設置義務はない。

7.フィリピン

(1) フィリピンにおける社会保障制度の概要 フィリピンにおいては、通称「Philhealth (フィルヘルス)」と呼ばれる政府機関において提供される国民皆保険制度が存在します。また、民間企業の全従業員と自営業者を対象とした保険制度として社会保障制度(SSS)が整えられており、公務員にあたるフィリピン政府職員のための社会保険制度として政府職員保険制度(GSIS)が存在します。 (2) 国民健康保険制度 フィリピンの国民健康保険制度は、Philhealtによって運営されています。共和国法第11223号に基づいて、フィリピンのすべての国民がこの制度を利用することができる仕組みとなっています。 フィリピンにおける国民健康保険制度は、制度を利用するすべての国民に、医療サービスを経済的に利用できる仕組みを提供することを目的としています。また、この制度は、原則として強制加入の制度になっています。 国民健康保険制度の具体的な内容としては、入院医療(部屋代、食事代、医療専門家のサービス、処方薬、生物学的製剤など)に関するサービス、外来医療(診断、検査、診察など)に関するサービス、救急搬送のサービスなどが盛り込まれています。 国民健康保険制度の利用には、登録を行ったうえで保険料を支払う必要があります。保険料を支払う能力のある者、有給で雇用関係にある者、自営業者、専門職、移住労働者などに分類される加入者は、法令において規定された料率に従って保険料を支払うことになります。保険料を支払うことが困難な者については、政府からの援助制度が適用される場合があります。 (3) 国民年金保険制度 国民年金制度は、民間従業員を対象とする制度(以下「SSS」といいます。)と、公務員を対象とする制度(以下「GSIS」といいます。)の2種類が存在します。 SSSへの加入は、60歳を超えないすべての被雇用者とその雇用者に義務付けられています。また、共同経営者や個人事業主、俳優、監督、脚本家、報道関係者、プロのスポーツ選手、個人農家や漁師などの自営業者にも加入が義務付けられています。一方、家事や育児に専念している労働者の配偶者や別居しているSSS加入者は任意加入とされています。雇用主は、従業員のために、雇用期間中は毎月SSSの制度利用のために拠出金を支払う必要があります。また、一般的に、従業員の月給から保険料を差し引く運用がなされています。SSSが提供する給付は、病気給付、出産給付、障害給付、退職給付、死亡給付、葬儀給付、失業給付の7種類です。 一部の例外を除き、政府から報酬を受けるすべての職員には、GSISへの加入が義務付けられています。 GSISの給付には、生命保険、退職金、その他すべての社会保障給付(障害給付、遺族給付、離職給付、失業給付など)が含まれます。加入者は、政府職員の月給から保険料を差し引かれる運用がなされています。

8.ベトナム

(1) 社会保障制度の概要 ベトナムでは、強制加入の社会保障制度として、①疾病手当、産休手当、労災・職業病手当、退職年金、遺族給付などを保障する社会保険、②医療費を保障する健康保険、③失業時の生活保障、職業訓練を保障する失業保険という3つの制度があります。これらに加え、退職・遺族保険を別途追加する任意加入の社会保険もあります。 対象となる労働者は、ベトナム人については、無期雇用又は1か月以上の有期雇用の労働者は全て強制加入保険の対象となります。一方、外国人労働者については、ベトナムにおいて発行された労働許可証、実務証明書又は実務許可書に基づき、ベトナムでの就労期間が1年以上の労働契約を締結している外国人が強制加入の対象となります。但し、外国人労働者については、失業保険は対象外です。 (2) 各保険の料率 各保険の料率は、次のとおりです。 (3) 強制加入の例外となる外国人労働者 企業内異動者(日本の親会社からベトナムの子会社へ出向している日本人駐在員の多くはこの企業内異動者に該当するかと思います。)と、ベトナムの法令に規定する定年退職年齢に達した外国人労働者は、強制加入の対象外となります。ベトナムの定年退職年齢は、男性は60歳、女性は55歳でしたが、2019年に改正された労働法により、男性については2021年から2028年まで毎年3か月ずつ、女性については2021年から2035年まで毎年4か月ずつ延長されます。2022年時点での定年退職年齢は、男性60歳6か月、女性55歳8か月です。" ["post_title"]=> string(51) "各国の社会保障に関する法制度の概要" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(153) "%e5%90%84%e5%9b%bd%e3%81%ae%e7%a4%be%e4%bc%9a%e4%bf%9d%e9%9a%9c%e3%81%ab%e9%96%a2%e3%81%99%e3%82%8b%e6%b3%95%e5%88%b6%e5%ba%a6%e3%81%ae%e6%a6%82%e8%a6%81" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2022-12-04 19:54:33" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2022-12-04 10:54:33" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=10519" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
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ティエヌワイコクサイホウリツジムショ TNY国際法律事務所
世界11か国13拠点で日系企業の進出及び進出後のサポート

世界11か国13拠点(東京、大阪、佐賀、ミャンマー、タイ、マレーシア、メキシコ、エストニア、フィリピン、イスラエル、バングラデシュ、ベトナム、イギリス)で日系企業の進出及び進出後のサポートを行っている。具体的には、法規制調査、会社設立、合弁契約書及び雇用契約書等の各種契約書の作成、M&A、紛争解決、商標登記等の知財等各種法務サービスを提供している。

堤雄史(TNYグループ共同代表・日本国弁護士)、永田貴久(TNYグループ共同代表・日本国弁護士)

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