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香港の「強み」取り戻す1年日本人商工会議所の飯田会頭に聞く

香港日本人商工会議所の飯田剛司会頭はNNAのインタビューに応じ、2023年は香港が「本来の強み」を取り戻す1年になると強調した。ここ数年は政治的要因や新型コロナウイルスの影響でネガティブなイメージがつきまとっていたが、ようやくビジネス環境が正常化に向かう中で中国本土と世界をつなぐ香港の役割が改めて認識されるとの見方。商工会議所は香港と日本の双方向に積極的な情報発信を行い、香港の「再プロモート」を支援していきたいと語った。

「往来再開の元年」は新たなスタートライン。チャンスの1年に(NNA撮影)

——22年の商工会議所の取り組みを振り返って。
特に力を入れてきたのは香港政府への働きかけです。政府トップの行政長官や財政長官、商工会議所に対する政府の主な窓口である商務・経済発展局の局長らに直接、あるいはオンラインで意見を述べるさまざまな機会を通じ、日本企業が直面する課題について申し入れを行いました。
この1年の最大の課題はもちろんコロナ規制の緩和であり、特に海外との自由な往来を実現するよう香港政府に働きかけてきました。一方では日本政府に対しても、例えば香港—羽田の旅客便運航再開を巡る航空業界の要望を申し入れるといったこともしています。私たちが伝えた意見の多くが実際の政策に反映されたり、具体的な改善につながったりしており、手応えを感じています。
会員間のコミュニケーション促進にも重点を置きました。コロナ下では従来のような対面の会合が難しい状況が続いてきましたが、部会などはオンライン、あるいはオンラインと対面のハイブリッド方式を導入し、規制が緩和された今はなるべく対面による交流の機会を増やそうと取り組んでいます。
——現在の香港のビジネス環境について。
19年の反政府デモ、20年の香港国家安全維持法(国安法)施行を経て、香港のレピュテーション(評判)が非常に下がっていると認識しています。日本においてはいまだに当時のイメージが本社サイドで持たれているという現状があり、さらに米中の対立も加わって、香港に対する本社側の見方は厳しいものになっているといえるでしょう。これは日本企業に限らず、香港で活動している外国企業に共通の課題だと考えます。
いかに香港の実情を本社へ伝えるか、ということが香港駐在員のミッションの一つになっていますが、私は「一国二制度」が機能しているということを折に触れて説明しています。特に法の支配がきちんと維持されており、一般の生活やビジネス環境においては香港の強みが保たれているということを強調するようにしています。
アンケートの結果を見ても、在香港日系企業の4分の3以上が法の支配や生活環境、さらにはインターネットへのアクセスを含む情報の自由な流通について「変わっていない」との見方です。政治的な環境の変化とビジネス環境は分けて考える必要があります。
実際のところ、この2~3年で在香港の企業にとって最大の障害となっていたのはコロナ関連の規制です。私たちもこの改善を一貫して強く香港政府に働きかけてきました。
域外へ出張に出られず、出張者を受け入れることもできない状況が続いていましたし、本土との間の物流の混乱、人材の流出といった問題も派生しました。23年はコロナ規制の緩和に伴いさまざまなビジネス上の障害がようやく解消され、香港が本来の強みを取り戻す年になると期待しています。
——日本企業にとって香港拠点の役割とは。
市場の面から見れば香港の国際的ハブ、特に金融センターとしての位置づけはまだまだ変わりません。日本にとっては食品輸出の最重要市場でもあり続けています。
コロナ規制のためここ数年は十分に機能を発揮できませんでしたが、香港から本土市場を見る、あるいは香港を拠点に本土と東南アジア諸国連合(ASEAN)などの第三国・地域の市場を結ぶというのも引き続き香港の特殊な役割です。本土市場では「粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)」(広東省の珠江デルタ9市と香港、マカオで一大経済圏を形成する構想)が注目されており、商工会議所でも20年から大湾区委員会を設置して会員向けにさまざまな情報発信を行っています。
——商工会議所と香港政府との関係は。
日本人商工会議所が歴史とともに築き上げてきたレピュテーションの高さを折々に実感しています。22年は李家超(ジョン・リー)行政長官が率いる新しい政府が発足しましたが、日本人商工会議所との関係は従来と変わらず良好です。
政府が施政報告(施政方針演説に相当)や財政予算案を作成する際のヒアリングには必ず声が掛かりますし、8月に実施された財政長官によるヒアリングでは、さまざまな団体が参加する中で発言の機会を与えられた外国商工会は米英と日本だけでした。政府との間には直接対話の機会とパイプがきちんとあり、最大限に活用しています。
他方で現在力を注いでいるのが、ほかの商工会組織との連携強化です。香港米国商工会議所(アムチャム・ホンコン)など他国の組織、または香港総商会(香港商業会議所=HKGCC)のような地場経済団体と意見交換会やさまざまな交流の機会を持つようにし、政府への要望を多くの組織がワンボイスで発信できるネットワークの構築を進めています。
日本人商工会議所が政府に対して望んでいることの多くは他組織とも共通しており、だからこそワンボイスで届けることが重要だと考えます。22年はほとんどがコロナ規制の緩和に関する要望であり、それ以外では人材の流出をいかに食い止めるかということについても意見を発信しました。今後は「香港を再びプロモートする」というテーマを政府と一緒に考えていく必要があると思っています。

23年はぜひ日本から香港を訪れて実際の環境を見てほしいと話す飯田会頭(NNA撮影)

——23年に重視する取り組みについて。
23年は海外、さらには本土との正常な往来が再開します。「往来再開の元年」と位置付け、香港の本来の強みを再び取り戻すために必要な香港政府への提言を他組織とも協調して行うとともに、それに関連する情報をいち早くキャッチして会員に提供したいと考えています。コロナ下で中断していた本土の日系商工会組織との交流も再開を期待しています。
環境関連製品・サービスの見本市「国際環保博覧(エコ・エキスポ・アジア)」や高齢者向け製品・サービスの見本市「楽齢科技博覧(ジェロンテック・アンド・イノベーション・エキスポ)」といった、香港の国際見本市に商工会議所が主体となって日本パビリオンを出展する取り組みも成果を上げています。こうしたさまざまな機会をとらえ、日本の存在感を示す取り組みは今後も続けていきます。
一方で23年は、福島第1原子力発電所における多核種除去設備(ALPS)による処理水の海洋放出が予定されています。香港は日本の食品の一大市場であり、この問題を正しく理解してもらうことが極めて重要です。
22年9月にはまず、会員の理解を深めるためのセミナーを実施しました。商工会議所としては在香港日本国総領事館などと歩調を合わせ、香港に向けて正確な情報を伝えていくべく努めるとともに、われわれ会員レベルでも草の根で正しい説明が発信できるような環境を作りたいと考えています。
——NNAの読者にメッセージを。
日本の読者の皆さまにはぜひ23年は出張や観光で香港に来て、実際の生活環境とビジネス環境を再確認していただきたいと思います。22年の香港経済は確かに厳しい状況にありましたが、23年は香港、本土とも経済環境は正常化に向かうことが見込まれ、香港の役割が再び高まっていくであろうタイミングです。そうした目で改めて香港を見ていただき、お気づきの点があれば商工会議所にも意見をお寄せください。
23年は香港が本来の強みを取り戻す年です。香港の読者の皆さまには、新たなスタートラインに立ったという気持ちで、このチャンスを一緒につかんで良い1年にしていきましょう。(聞き手=福地大介)
<プロフィル>
飯田剛司
香港三菱商事会社社長兼深セン事務所長
53歳。早稲田大学卒。三菱商事入社後、マレーシア・インドネシア駐在、海外戦略部門・危機管理部門等を経て2022年4月から現職。22年6月に香港日本人商工会議所会頭に就任した。

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——22年の商工会議所の取り組みを振り返って。
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この1年の最大の課題はもちろんコロナ規制の緩和であり、特に海外との自由な往来を実現するよう香港政府に働きかけてきました。一方では日本政府に対しても、例えば香港—羽田の旅客便運航再開を巡る航空業界の要望を申し入れるといったこともしています。私たちが伝えた意見の多くが実際の政策に反映されたり、具体的な改善につながったりしており、手応えを感じています。
会員間のコミュニケーション促進にも重点を置きました。コロナ下では従来のような対面の会合が難しい状況が続いてきましたが、部会などはオンライン、あるいはオンラインと対面のハイブリッド方式を導入し、規制が緩和された今はなるべく対面による交流の機会を増やそうと取り組んでいます。
——現在の香港のビジネス環境について。
19年の反政府デモ、20年の香港国家安全維持法(国安法)施行を経て、香港のレピュテーション(評判)が非常に下がっていると認識しています。日本においてはいまだに当時のイメージが本社サイドで持たれているという現状があり、さらに米中の対立も加わって、香港に対する本社側の見方は厳しいものになっているといえるでしょう。これは日本企業に限らず、香港で活動している外国企業に共通の課題だと考えます。
いかに香港の実情を本社へ伝えるか、ということが香港駐在員のミッションの一つになっていますが、私は「一国二制度」が機能しているということを折に触れて説明しています。特に法の支配がきちんと維持されており、一般の生活やビジネス環境においては香港の強みが保たれているということを強調するようにしています。
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実際のところ、この2~3年で在香港の企業にとって最大の障害となっていたのはコロナ関連の規制です。私たちもこの改善を一貫して強く香港政府に働きかけてきました。
域外へ出張に出られず、出張者を受け入れることもできない状況が続いていましたし、本土との間の物流の混乱、人材の流出といった問題も派生しました。23年はコロナ規制の緩和に伴いさまざまなビジネス上の障害がようやく解消され、香港が本来の強みを取り戻す年になると期待しています。
——日本企業にとって香港拠点の役割とは。
市場の面から見れば香港の国際的ハブ、特に金融センターとしての位置づけはまだまだ変わりません。日本にとっては食品輸出の最重要市場でもあり続けています。
コロナ規制のためここ数年は十分に機能を発揮できませんでしたが、香港から本土市場を見る、あるいは香港を拠点に本土と東南アジア諸国連合(ASEAN)などの第三国・地域の市場を結ぶというのも引き続き香港の特殊な役割です。本土市場では「粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)」(広東省の珠江デルタ9市と香港、マカオで一大経済圏を形成する構想)が注目されており、商工会議所でも20年から大湾区委員会を設置して会員向けにさまざまな情報発信を行っています。
——商工会議所と香港政府との関係は。
日本人商工会議所が歴史とともに築き上げてきたレピュテーションの高さを折々に実感しています。22年は李家超(ジョン・リー)行政長官が率いる新しい政府が発足しましたが、日本人商工会議所との関係は従来と変わらず良好です。
政府が施政報告(施政方針演説に相当)や財政予算案を作成する際のヒアリングには必ず声が掛かりますし、8月に実施された財政長官によるヒアリングでは、さまざまな団体が参加する中で発言の機会を与えられた外国商工会は米英と日本だけでした。政府との間には直接対話の機会とパイプがきちんとあり、最大限に活用しています。
他方で現在力を注いでいるのが、ほかの商工会組織との連携強化です。香港米国商工会議所(アムチャム・ホンコン)など他国の組織、または香港総商会(香港商業会議所=HKGCC)のような地場経済団体と意見交換会やさまざまな交流の機会を持つようにし、政府への要望を多くの組織がワンボイスで発信できるネットワークの構築を進めています。
日本人商工会議所が政府に対して望んでいることの多くは他組織とも共通しており、だからこそワンボイスで届けることが重要だと考えます。22年はほとんどがコロナ規制の緩和に関する要望であり、それ以外では人材の流出をいかに食い止めるかということについても意見を発信しました。今後は「香港を再びプロモートする」というテーマを政府と一緒に考えていく必要があると思っています。
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——23年に重視する取り組みについて。
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環境関連製品・サービスの見本市「国際環保博覧(エコ・エキスポ・アジア)」や高齢者向け製品・サービスの見本市「楽齢科技博覧(ジェロンテック・アンド・イノベーション・エキスポ)」といった、香港の国際見本市に商工会議所が主体となって日本パビリオンを出展する取り組みも成果を上げています。こうしたさまざまな機会をとらえ、日本の存在感を示す取り組みは今後も続けていきます。
一方で23年は、福島第1原子力発電所における多核種除去設備(ALPS)による処理水の海洋放出が予定されています。香港は日本の食品の一大市場であり、この問題を正しく理解してもらうことが極めて重要です。
22年9月にはまず、会員の理解を深めるためのセミナーを実施しました。商工会議所としては在香港日本国総領事館などと歩調を合わせ、香港に向けて正確な情報を伝えていくべく努めるとともに、われわれ会員レベルでも草の根で正しい説明が発信できるような環境を作りたいと考えています。
——NNAの読者にメッセージを。
日本の読者の皆さまにはぜひ23年は出張や観光で香港に来て、実際の生活環境とビジネス環境を再確認していただきたいと思います。22年の香港経済は確かに厳しい状況にありましたが、23年は香港、本土とも経済環境は正常化に向かうことが見込まれ、香港の役割が再び高まっていくであろうタイミングです。そうした目で改めて香港を見ていただき、お気づきの点があれば商工会議所にも意見をお寄せください。
23年は香港が本来の強みを取り戻す年です。香港の読者の皆さまには、新たなスタートラインに立ったという気持ちで、このチャンスを一緒につかんで良い1年にしていきましょう。(聞き手=福地大介)
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飯田剛司
香港三菱商事会社社長兼深セン事務所長
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