NIPPON EXPRESSホールディングスの現地法人NXベトナムの茂木拓史社長は、南部ホーチミン市近郊など都市部で倉庫の需給が逼迫(ひっぱく)していると指摘し、内需の取り込みに向けて、2023年中にも倉庫面積を1.5倍に増やす方針を明らかにした。物流業界では海運会社が海上輸送の枠を超えて、陸上輸送や航空輸送にも事業を拡大し競争が激しくなっているとして、警戒する構えを見せた。
ベトナムの物流業界の状況を説明するNXベトナムの茂木拓史社長
■供給網、物量減で回復
——コロナウイルス禍によるサプライチェーン(供給網)の混乱は22年中にどこまで回復したか。
21年からの混乱は異常な状況だったが、22年4月以降に改善し始め、かなりスムーズに動いている。海上輸送については輸送日数や運賃がコロナ前の水準に戻りつつある。航空輸送では、ゼロコロナ政策を実施していた中国路線などで便数が戻っておらず一部運賃が高止まりしているものの、多くの路線で回復が進んでいる。
——供給網が改善した要因は。
欧米市場の購買力低下を受けて、物量が減ったことが大きい。本来であればクリスマスや年末年始の需要で8月頃から海上輸送、10~11月から航空輸送がアジアから欧米に向けて増えていくところだが、22年は逆に減少傾向にあった。
このため、輸送に関してはスムーズになったが、調達、製造、販売のバランスは崩れてきている。ベトナムでは、部品・資材の主要調達先である中国から原材料が入ってこないことを警戒して、部品の在庫量が過剰になるケースや、製品を製造しても売り先がなく在庫が積みあがっているケースが出てきている。この状況は、欧米の景気が回復するにつれて解消するとみられるが、23年第1四半期までは続くと予想している。
——中国国境付近では、ゼロコロナ政策の影響で検疫が厳しくトラック滞留が問題になっていた。
現在はベトナム北部の国境付近での渋滞は発生していないと聞いているが、不安定で読めない部分もある。中国当局がゼロコロナ政策を緩和したことで、回復はさらに進むと考えられる。
当社は21年2月、中国・蘇州発ベトナム・ハノイ向け鉄道輸送サービスを開始した。中国の規制緩和に伴い、製造業向けの部品などの輸入増加が見込まれるほか、海上運賃の高騰、国境付近のトラック輸送で混乱が生じた場合などの代替輸送手段としても受注機会があるとみている。
■23年中に面積1.5倍を目指す
——22年は「ウィズコロナ」の1年となったが、業績は。
2021年第3四半期(7~9月)に実施していたロックダウン(都市封鎖)の反動で、21年10月から22年3月までは日本向けの自動車部品関連の輸出量が増加した。緊急出荷として輸送日数が短い航空輸送の利用が増えたことで売り上げが伸び、21年通年の業績は過去最高となった。22年も、4月以降は物流需要が落ち着き始めたが、前年並みというところだ。
——ベトナムでは内需も伸びてきている。
内需にはビジネスチャンスがあるとみている。特に大きいのが倉庫需要で、ホーチミン市近郊など都市部では供給不足が起きている。
倉庫は空きスペースがないと受注できないので、先行投資として都市部にスペースを確保して内需を取り込むための基盤を整えたい。現在、当社がベトナム国内で保有する倉庫面積は約10万平方メートルだが、これを23年中に15万平方メートルほどに拡大したいと考えている。好立地に倉庫を設け、梱包やラベル貼りなど付加価値のあるサービスを提供できれば、投資は回収できるとみている。
電子商取引(EC)物流についても、倉庫の提供や配送で関わっていく。ECに対応する倉庫では、同梱やラッピングなど通常よりも細かい作業が必要になるが、ノウハウ、実績があるためオペレーション面では問題ない。配送に関しては量が多いので現地の配送会社などと協業してサービスを提供する方針だ。
——ベトナムでは他にどのように事業拡大を図るか。
われわれの事業の中核である国際物流を23年以降もさらに伸ばしていきたい。当社の物流サービスは日系企業から高い評価を得ており、今後はグローバル企業や地場企業などへの展開、特に非日系企業とのビジネスを強化していく。産業別では、主力の自動車部品やアパレル、電子部品などの輸出に加えて、新たに半導体や生花、野菜、果物などの生鮮貨物の輸出にもチャレンジしていきたい。カンボジア、中国、ラオスなどとクロスボーダー(国境間)トラック輸送を中心とした取引を拡大、新事業領域としてコールドチェーン(低温物流)も強化する予定だ。
国内輸送では、現在もシャトル運行しているハノイ—ホーチミン間のトラック輸送を大きな導線としてベトナムの南北間輸送を拡大していく。
■提案力と柔軟性で対抗
——供給網の混乱と回復を経て、物流業界に変化はあったか。
最近は海運会社が陸上輸送・航空輸送にも事業を拡大するケースが出てきた。デンマークのコンテナ船世界最大手APモラー・マースクが電子商取引(EC)に強みを持つ物流企業を買収し、ベトナムのEC物流市場に参入しようとしていることが一例だ。
従来の競合は、船会社や航空会社から船や航空機のスペースを購入して、お客さまに「エンドトゥーエンド」で物流サービスを提供する、当社と同じ「フォワーダー」と呼ばれるビジネスモデルの事業体だった。しかし船会社が「ポートトゥーポート(港から港)」の領域を超えて、航空機を所有したり、フォワーダーと同様に陸上輸送・航空輸送のネットワークを持ったりすれば、当社にとっての競合となる。
特に大量輸送が可能な海上輸送は物流のメインストリームで、ここを握っている海運会社が事業を拡大すれば、非常に脅威になると感じている。
これまでに培ったNXグループの提案能力や有事の際の柔軟性を生かし、顧客と向き合って適切なコミュニケーションをとることで、脅威に対応していきたい。(聞き手=石黒咲紀)
<会社概要>
NIPPON EXPRESSホールディングスのベトナム事業
2000年に現地法人、ベトナム日本通運を設立。22年にNXベトナムに社名を変更した。陸上輸送にとどまらず、海上輸送・航空輸送のワンストップサービスを提供しているほか、クロスボーダー輸送、倉庫業務、海外・国内引っ越しも手がけている。21年には中国とベトナムを結ぶ国際鉄道を利用した中国・蘇州発ベトナム・ハノイ向け鉄道輸送サービスを開始した。
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■供給網、物量減で回復
——コロナウイルス禍によるサプライチェーン(供給網)の混乱は22年中にどこまで回復したか。
21年からの混乱は異常な状況だったが、22年4月以降に改善し始め、かなりスムーズに動いている。海上輸送については輸送日数や運賃がコロナ前の水準に戻りつつある。航空輸送では、ゼロコロナ政策を実施していた中国路線などで便数が戻っておらず一部運賃が高止まりしているものの、多くの路線で回復が進んでいる。
——供給網が改善した要因は。
欧米市場の購買力低下を受けて、物量が減ったことが大きい。本来であればクリスマスや年末年始の需要で8月頃から海上輸送、10~11月から航空輸送がアジアから欧米に向けて増えていくところだが、22年は逆に減少傾向にあった。
このため、輸送に関してはスムーズになったが、調達、製造、販売のバランスは崩れてきている。ベトナムでは、部品・資材の主要調達先である中国から原材料が入ってこないことを警戒して、部品の在庫量が過剰になるケースや、製品を製造しても売り先がなく在庫が積みあがっているケースが出てきている。この状況は、欧米の景気が回復するにつれて解消するとみられるが、23年第1四半期までは続くと予想している。
——中国国境付近では、ゼロコロナ政策の影響で検疫が厳しくトラック滞留が問題になっていた。
現在はベトナム北部の国境付近での渋滞は発生していないと聞いているが、不安定で読めない部分もある。中国当局がゼロコロナ政策を緩和したことで、回復はさらに進むと考えられる。
当社は21年2月、中国・蘇州発ベトナム・ハノイ向け鉄道輸送サービスを開始した。中国の規制緩和に伴い、製造業向けの部品などの輸入増加が見込まれるほか、海上運賃の高騰、国境付近のトラック輸送で混乱が生じた場合などの代替輸送手段としても受注機会があるとみている。
■23年中に面積1.5倍を目指す
——22年は「ウィズコロナ」の1年となったが、業績は。
2021年第3四半期(7~9月)に実施していたロックダウン(都市封鎖)の反動で、21年10月から22年3月までは日本向けの自動車部品関連の輸出量が増加した。緊急出荷として輸送日数が短い航空輸送の利用が増えたことで売り上げが伸び、21年通年の業績は過去最高となった。22年も、4月以降は物流需要が落ち着き始めたが、前年並みというところだ。
——ベトナムでは内需も伸びてきている。
内需にはビジネスチャンスがあるとみている。特に大きいのが倉庫需要で、ホーチミン市近郊など都市部では供給不足が起きている。
倉庫は空きスペースがないと受注できないので、先行投資として都市部にスペースを確保して内需を取り込むための基盤を整えたい。現在、当社がベトナム国内で保有する倉庫面積は約10万平方メートルだが、これを23年中に15万平方メートルほどに拡大したいと考えている。好立地に倉庫を設け、梱包やラベル貼りなど付加価値のあるサービスを提供できれば、投資は回収できるとみている。
電子商取引(EC)物流についても、倉庫の提供や配送で関わっていく。ECに対応する倉庫では、同梱やラッピングなど通常よりも細かい作業が必要になるが、ノウハウ、実績があるためオペレーション面では問題ない。配送に関しては量が多いので現地の配送会社などと協業してサービスを提供する方針だ。
——ベトナムでは他にどのように事業拡大を図るか。
われわれの事業の中核である国際物流を23年以降もさらに伸ばしていきたい。当社の物流サービスは日系企業から高い評価を得ており、今後はグローバル企業や地場企業などへの展開、特に非日系企業とのビジネスを強化していく。産業別では、主力の自動車部品やアパレル、電子部品などの輸出に加えて、新たに半導体や生花、野菜、果物などの生鮮貨物の輸出にもチャレンジしていきたい。カンボジア、中国、ラオスなどとクロスボーダー(国境間)トラック輸送を中心とした取引を拡大、新事業領域としてコールドチェーン(低温物流)も強化する予定だ。
国内輸送では、現在もシャトル運行しているハノイ—ホーチミン間のトラック輸送を大きな導線としてベトナムの南北間輸送を拡大していく。
■提案力と柔軟性で対抗
——供給網の混乱と回復を経て、物流業界に変化はあったか。
最近は海運会社が陸上輸送・航空輸送にも事業を拡大するケースが出てきた。デンマークのコンテナ船世界最大手APモラー・マースクが電子商取引(EC)に強みを持つ物流企業を買収し、ベトナムのEC物流市場に参入しようとしていることが一例だ。
従来の競合は、船会社や航空会社から船や航空機のスペースを購入して、お客さまに「エンドトゥーエンド」で物流サービスを提供する、当社と同じ「フォワーダー」と呼ばれるビジネスモデルの事業体だった。しかし船会社が「ポートトゥーポート(港から港)」の領域を超えて、航空機を所有したり、フォワーダーと同様に陸上輸送・航空輸送のネットワークを持ったりすれば、当社にとっての競合となる。
特に大量輸送が可能な海上輸送は物流のメインストリームで、ここを握っている海運会社が事業を拡大すれば、非常に脅威になると感じている。
これまでに培ったNXグループの提案能力や有事の際の柔軟性を生かし、顧客と向き合って適切なコミュニケーションをとることで、脅威に対応していきたい。(聞き手=石黒咲紀)
<会社概要>
NIPPON EXPRESSホールディングスのベトナム事業
2000年に現地法人、ベトナム日本通運を設立。22年にNXベトナムに社名を変更した。陸上輸送にとどまらず、海上輸送・航空輸送のワンストップサービスを提供しているほか、クロスボーダー輸送、倉庫業務、海外・国内引っ越しも手がけている。21年には中国とベトナムを結ぶ国際鉄道を利用した中国・蘇州発ベトナム・ハノイ向け鉄道輸送サービスを開始した。"
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