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【現場で語る2023年】ヤマト、越境陸路輸送に注力倉庫活用、企業の在庫適正化

物流大手ヤマトホールディングス(HD)の現地法人、ヤマトロジスティクスベトナムの大島尚人社長(※インタビュー当時、2月1日付で異動)は、中国など周辺国との越境トラック輸送サービスを強化する。物流需要にとどまらず、総合的に顧客のサプライチェーン(供給網)強化に貢献することを掲げており、陸路輸送や倉庫を活用した在庫適正化により、「部材を必要なときに必要な分だけ調達できる」輸送サービスをさらに拡充させていく方針だ。

ヤマトロジスティクスベトナムの大島尚人社長(※インタビュー当時、2月1日付で異動)

——2022年の業績はどうだったか。
21年から海上輸送の混乱、ベトナム国内のロックダウン(都市封鎖)による各メーカーの生産遅延が続いており、22年はそこからの挽回・緊急需要としての航空輸送が特に上半期(1~6月)に増えて、業績を大きく押し上げる要因になった。ただ下半期(7~12月)は各社の生産が安定してきた一方で、消費が停滞して在庫が増える状況となり、輸送需要の伸びが減速した。通年で見れば、上半期の伸びが全体をけん引し、業績は好調だった。
■混乱は正常化も、需要が低迷
——物流網の現況をどのように見ているか。
海上輸送に関しては、22年上半期までは混乱が続いていたが、下半期は落ち着いてきた印象だ。各国のコロナ規制も緩和されてきたことで、航空輸送もコロナ以前の状況に戻ってきた。海上・航空ともに物流の容量は回復してきたが、輸送需要はコロナ前と比べてやや落ち込んでいる。インフレの影響で消費が落ち込んだことや、デジタル家電の買い替え需要が一巡したことなど多くの要因が重なり、さまざまな商品の荷動きが停滞している。
一方、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、欧州向けの鉄道輸送が中央アジアを迂回(うかい)するルートしか利用できなくなったなど、一部では新たな問題が生じている。中国のコロナ対策緩和に伴う感染再拡大の懸念なども含めて、局地的な輸送遅延といった問題がいつ発生するかが読みづらい状況になっている。
■倉庫不足が深刻化
——国内物流市場の現況は。
22年上半期は高いコストがかかっても早く輸送したいという需要が多かったが、下半期以降は輸送量も落ち着いてきた。
国内では、倉庫不足の問題が深刻化している。もともと供給が十分ではなかったが、各メーカーの在庫が増えたことで、倉庫需要がさらに高まっている。特に22年10月以降、「倉庫を探している」との要望が増えてきたが、なかなか顧客の希望に沿った倉庫の手配が難しい状況だ。新規倉庫の建設も消防法への細かな対応が求められており、なかなか進んでいない。
——ベトナムが物流網の改善や効率化に向けて取り組むべき課題は何か。
倉庫問題の話にもつながるが、事業ライセンスや通関など各種許認可のルールが不明瞭なことが大きな問題だ。法規制に関する解釈が突然変わるなど一定しないので、予期しないリードタイムやコストが発生する原因になっている。長年言われ続けているルールの明確化や一定した運用が必要だ。
渋滞が常態化しているなど、交通インフラの問題も引き続きボトルネックになっている。国の競争力をさらに上げていくためには、継続的に交通インフラの整備を進めていく必要があるだろう。
■「随時供給」のサービス強化
——23年以降のベトナム事業戦略は。
ヤマトグループの全体戦略として、21年に組織を大きく改変し、顧客のサプライチェーンにより深く関わり、ビジネスの川上から川下まで「End to End」で総合的な価値を提供していく方針を掲げた。物流ニーズに応えるだけではなく、さまざまなソリューションを顧客と一緒に考えながら提案していくことを進めている。ベトナムでは顧客のサプライチェーン全体を最適化する方策として、越境トラック輸送サービスを特に強化していく方針だ。
ベトナムは重要な製造拠点になっている一方で、裾野産業が十分に育っておらず、部品などの材料は引き続き海外から輸入している場合が多い。特に中国や香港から生産を移管した企業は、コア部品は従来のサプライヤーから航空便を使って小ロットで輸入している例が目立つ。ここにわれわれが手がける越境トラック輸送サービスを生かせる需要があると考えている。
——越境トラック輸送の利点は何か。
越境トラックは、中国からベトナム方面が週3便、ベトナムから中国方面が週2便で定期運行しており、少量から利用可能だ。輸送にかかるリードタイムは船便の半分ほどに減らすことができる。コストは船便よりは高いものの、航空便と比べれば半分以下に抑えることができる。工場の在庫が積み上がっている状況では、まとめて大量に部材を輸入した場合は在庫管理にかかるコストが増えてしまう。当社の越境トラック輸送サービスであれば、小ロット多品目の輸送を実現し、必要なときに必要な分だけ調達することができる。
在庫の適正化に向け、当社の倉庫から必要な部材を必要に合わせて「ジャストインタイム」で随時供給していくというサービスもさらに強化していきたい。(聞き手=濱田慎平)
<会社概要>
ヤマトHDのベトナム事業
2015年に、主に企業間物流を請け負う現地法人ヤマトロジスティクスベトナムを設立。このほか、マレーシアに本拠を置く陸上幹線輸送事業会社OTL社のベトナム法人(16年に買収)がある。

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——2022年の業績はどうだったか。
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■混乱は正常化も、需要が低迷
——物流網の現況をどのように見ているか。
海上輸送に関しては、22年上半期までは混乱が続いていたが、下半期は落ち着いてきた印象だ。各国のコロナ規制も緩和されてきたことで、航空輸送もコロナ以前の状況に戻ってきた。海上・航空ともに物流の容量は回復してきたが、輸送需要はコロナ前と比べてやや落ち込んでいる。インフレの影響で消費が落ち込んだことや、デジタル家電の買い替え需要が一巡したことなど多くの要因が重なり、さまざまな商品の荷動きが停滞している。
一方、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で、欧州向けの鉄道輸送が中央アジアを迂回(うかい)するルートしか利用できなくなったなど、一部では新たな問題が生じている。中国のコロナ対策緩和に伴う感染再拡大の懸念なども含めて、局地的な輸送遅延といった問題がいつ発生するかが読みづらい状況になっている。
■倉庫不足が深刻化
——国内物流市場の現況は。
22年上半期は高いコストがかかっても早く輸送したいという需要が多かったが、下半期以降は輸送量も落ち着いてきた。
国内では、倉庫不足の問題が深刻化している。もともと供給が十分ではなかったが、各メーカーの在庫が増えたことで、倉庫需要がさらに高まっている。特に22年10月以降、「倉庫を探している」との要望が増えてきたが、なかなか顧客の希望に沿った倉庫の手配が難しい状況だ。新規倉庫の建設も消防法への細かな対応が求められており、なかなか進んでいない。
——ベトナムが物流網の改善や効率化に向けて取り組むべき課題は何か。
倉庫問題の話にもつながるが、事業ライセンスや通関など各種許認可のルールが不明瞭なことが大きな問題だ。法規制に関する解釈が突然変わるなど一定しないので、予期しないリードタイムやコストが発生する原因になっている。長年言われ続けているルールの明確化や一定した運用が必要だ。
渋滞が常態化しているなど、交通インフラの問題も引き続きボトルネックになっている。国の競争力をさらに上げていくためには、継続的に交通インフラの整備を進めていく必要があるだろう。
■「随時供給」のサービス強化
——23年以降のベトナム事業戦略は。
ヤマトグループの全体戦略として、21年に組織を大きく改変し、顧客のサプライチェーンにより深く関わり、ビジネスの川上から川下まで「End to End」で総合的な価値を提供していく方針を掲げた。物流ニーズに応えるだけではなく、さまざまなソリューションを顧客と一緒に考えながら提案していくことを進めている。ベトナムでは顧客のサプライチェーン全体を最適化する方策として、越境トラック輸送サービスを特に強化していく方針だ。
ベトナムは重要な製造拠点になっている一方で、裾野産業が十分に育っておらず、部品などの材料は引き続き海外から輸入している場合が多い。特に中国や香港から生産を移管した企業は、コア部品は従来のサプライヤーから航空便を使って小ロットで輸入している例が目立つ。ここにわれわれが手がける越境トラック輸送サービスを生かせる需要があると考えている。
——越境トラック輸送の利点は何か。
越境トラックは、中国からベトナム方面が週3便、ベトナムから中国方面が週2便で定期運行しており、少量から利用可能だ。輸送にかかるリードタイムは船便の半分ほどに減らすことができる。コストは船便よりは高いものの、航空便と比べれば半分以下に抑えることができる。工場の在庫が積み上がっている状況では、まとめて大量に部材を輸入した場合は在庫管理にかかるコストが増えてしまう。当社の越境トラック輸送サービスであれば、小ロット多品目の輸送を実現し、必要なときに必要な分だけ調達することができる。
在庫の適正化に向け、当社の倉庫から必要な部材を必要に合わせて「ジャストインタイム」で随時供給していくというサービスもさらに強化していきたい。(聞き手=濱田慎平)
<会社概要>
ヤマトHDのベトナム事業
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