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日本の釣り具、若者つかむコロナ禍で人気上昇、性能に注目

中国の若者の間で、日本の釣り具の人気が高まっている。これまでの中心だった川釣りに加え、海釣りまでマルチにこなす人が増える中、日本ブランドの性能や品質の高さが若者の心をつかむ。新型コロナウイルス禍で密を避けて楽しめるレジャーとして釣りに関心が集まったことも追い風になった。市場拡大に向けて、日本企業も力を入れている。【北京・吉野あかね】

広州ダイワが開催する釣り大会は数分で満員になる=遼寧省瀋陽市(同社提供)

「釣りをするときの解放感がたまらない」。釣り歴10年の会社員、王さん(38)はこう話す。釣りに行く頻度は月に2回。「今月も上海周辺の海釣りでタイやスズキなど20匹を釣った」と笑顔だ。
中国では最近、若い世代を中心に釣りブームが起こっている。中国電子商取引(EC)最大手、阿里巴巴集団(アリババグループ)傘下の2大ECサイト「淘宝(タオバオ)」と「天猫(Tモール)」では昨年6月までの1年間で、1995年以降生まれの若者300万人が釣り用品を購入した。アリババジャパンによると、22年の中国インターネット通販最大の販促イベント「双十一」では、ルアー(疑似餌)など釣り関連商品の売上高が前年の3.2倍と急伸した。
中でも日本ブランドの製品が人気だ。王さんは、ルアーやガン玉(重り)などの消耗品を除く釣り具全般を日本ブランドでそろえている。「中国メーカーのロッド(釣りざお)やリールは日本の品質に及ばない。日本ブランドは価格と品質のバランスがよく、安定した品質が中国で受け入れられている」と話す。
釣り具ブランド「DAIWA(ダイワ)」で知られるグローブライド(東京都東久留米市)は、22年の双十一で3,600万元(約7億円)を売り上げた。前年の双十一で記録した売り上げ2,000万元を1時間で突破し、釣り具ブランド旗艦店別の売り上げでは、中国ローカルメーカーに次いで3位に入った。
ダイワブランドでは、日本で人気の最高級価格帯リール「EXIST」やルアーフィッシング用の「STEEZ」などの高級価格帯リールのほか、コイやフナなど向け餌釣り用の丸ざお「波紋」シリーズや、中国本土の魚を狙うルアー釣りに対応した「SALAMANDURA」ブランドのリールやロッドが売れているという。
グローブライドの中国子会社、広州達億瓦文体用品(広州ダイワ)の増山邦夫董事長は「高度な製造技術が必要なため大量生産が難しく、需要に対して供給量が追いつかないほどだ」と話す。
増山氏によると、中国ではこれまで内陸の川釣りや池釣りが中心で、海釣りが広がり始めたのはここ1~2年。新型コロナ流行をきっかけに需要は急激に伸びており、「釣り市場はまだまだ大きくできる」と力を込める。
競合の中国メーカーと手を組んでイベントの開催にも取り組んでいる。19年から開催しているルアー大会は、ルアーフィッシングを始めたばかりの中国人の「人と競いたい」「自分の実力が知りたい」というニーズにうまく合致し、「最近では1日の定員80人のイベントが数分で満員になる」(増山氏)。ルアー大会の開催は今年20回以上と、昨年の5回から大きく増やす計画だ。
釣り用アパレルの販売にも力を入れる。今年はファッション性と機能性を兼ね備えたアパレルのファッションショーも計画しており、「釣りの地味なイメージを明るくおしゃれなイメージに変えていきたい」と意気込む。
■越境ECでも注文殺到
越境ECを使った中国からの日本ブランド釣り具の注文も急増している。
日中の越境EC事業を手がけるインアゴーラ(東京都新宿区)によると、昨年4月以降に代理購入サービスを通じてリールやロッドの注文が増加。6月に「KOL(キーオピニオンリーダー)」と呼ばれる中国版ネットインフルエンサーが中国の動画投稿アプリ「抖音」で日本ブランドの釣り具の動画を投稿したことも追い風になり、一時期は日本のECサイトで釣り具が欠品に近い状態になったという。
インアゴーラの担当者は「日本の釣り具は品質が良く、円安のお買い得感もあって注文が殺到したようだ」と分析する。
アリババ傘下の越境EC「天猫国際(Tモールグローバル)」には、ダイワや「SHIMANO(シマノ)」、「バレーヒル」などの日本の釣り具ブランドの商品も多数出品されている。Tモールグローバルの董臻貞ゼネラルマネジャーは、中国消費者の海外商品購入の傾向について「消費者の個性が発揮される段階に入り、これまでより“自分らしい商品”の購入を目指して海外の変わった商品や珍しい商品を見つけることにより熱心になっている」とみる。
■1兆円市場へ
中国の釣り具市場は今後大きく伸びそうだ。
中国文教体育用品協会は、スポーツフィッシング用品の小売額が25年に20年比4割増の578億7,800万元になると予測する。日本円にして1兆円を超える巨大市場になる見通しだ。
政府系投資銀行の中国国際金融(CICC)は、新型コロナ流行後に35歳以下の若い世代を中心にアウトドア市場が急速に発展していると指摘。キャンプや釣り、スキーなどのアウトドアは「将来的に中国の消費者が日常的に楽しめる娯楽ツールになる」とみている。中国新聞社電によると、中国のスポーツフィッシング協会の統計では足元の中国の釣り人口(年間4回以上釣りをする人)は約1億4,000万人。年齢層別では25~44歳が全体の46%を占め、22歳以下も22%に上った。
「新型コロナ禍で釣り具の需要は世界的に高まったが、いまも追い風が続くのは中国市場だけ」と増山氏は話す。日本の釣り人口が減少傾向にある中、「中国は若い世代が中心で伸びしろがある」と手応えを感じている。

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中でも日本ブランドの製品が人気だ。王さんは、ルアーやガン玉(重り)などの消耗品を除く釣り具全般を日本ブランドでそろえている。「中国メーカーのロッド(釣りざお)やリールは日本の品質に及ばない。日本ブランドは価格と品質のバランスがよく、安定した品質が中国で受け入れられている」と話す。
釣り具ブランド「DAIWA(ダイワ)」で知られるグローブライド(東京都東久留米市)は、22年の双十一で3,600万元(約7億円)を売り上げた。前年の双十一で記録した売り上げ2,000万元を1時間で突破し、釣り具ブランド旗艦店別の売り上げでは、中国ローカルメーカーに次いで3位に入った。
ダイワブランドでは、日本で人気の最高級価格帯リール「EXIST」やルアーフィッシング用の「STEEZ」などの高級価格帯リールのほか、コイやフナなど向け餌釣り用の丸ざお「波紋」シリーズや、中国本土の魚を狙うルアー釣りに対応した「SALAMANDURA」ブランドのリールやロッドが売れているという。
グローブライドの中国子会社、広州達億瓦文体用品(広州ダイワ)の増山邦夫董事長は「高度な製造技術が必要なため大量生産が難しく、需要に対して供給量が追いつかないほどだ」と話す。
増山氏によると、中国ではこれまで内陸の川釣りや池釣りが中心で、海釣りが広がり始めたのはここ1~2年。新型コロナ流行をきっかけに需要は急激に伸びており、「釣り市場はまだまだ大きくできる」と力を込める。
競合の中国メーカーと手を組んでイベントの開催にも取り組んでいる。19年から開催しているルアー大会は、ルアーフィッシングを始めたばかりの中国人の「人と競いたい」「自分の実力が知りたい」というニーズにうまく合致し、「最近では1日の定員80人のイベントが数分で満員になる」(増山氏)。ルアー大会の開催は今年20回以上と、昨年の5回から大きく増やす計画だ。
釣り用アパレルの販売にも力を入れる。今年はファッション性と機能性を兼ね備えたアパレルのファッションショーも計画しており、「釣りの地味なイメージを明るくおしゃれなイメージに変えていきたい」と意気込む。
■越境ECでも注文殺到
越境ECを使った中国からの日本ブランド釣り具の注文も急増している。
日中の越境EC事業を手がけるインアゴーラ(東京都新宿区)によると、昨年4月以降に代理購入サービスを通じてリールやロッドの注文が増加。6月に「KOL(キーオピニオンリーダー)」と呼ばれる中国版ネットインフルエンサーが中国の動画投稿アプリ「抖音」で日本ブランドの釣り具の動画を投稿したことも追い風になり、一時期は日本のECサイトで釣り具が欠品に近い状態になったという。
インアゴーラの担当者は「日本の釣り具は品質が良く、円安のお買い得感もあって注文が殺到したようだ」と分析する。
アリババ傘下の越境EC「天猫国際(Tモールグローバル)」には、ダイワや「SHIMANO(シマノ)」、「バレーヒル」などの日本の釣り具ブランドの商品も多数出品されている。Tモールグローバルの董臻貞ゼネラルマネジャーは、中国消費者の海外商品購入の傾向について「消費者の個性が発揮される段階に入り、これまでより“自分らしい商品”の購入を目指して海外の変わった商品や珍しい商品を見つけることにより熱心になっている」とみる。
■1兆円市場へ
中国の釣り具市場は今後大きく伸びそうだ。
中国文教体育用品協会は、スポーツフィッシング用品の小売額が25年に20年比4割増の578億7,800万元になると予測する。日本円にして1兆円を超える巨大市場になる見通しだ。
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