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仕事は自分軸、成長意欲強く台湾「Z世代」をひもとく(1)

1990年代中盤以降に生まれた「Z世代」が台湾の社会でも存在感を放ち始めている。仕事における彼らの価値観は、組織のために働く親世代とは一線を画す。「自分を持つ」ことを大切にし、成長のための学習意欲は高い一方、対面でのコミュニケーションが苦手な一面もある。Z世代と働くマネジメント層には、フラットな職場環境の構築や新たな学習機会の創出が求められている。【菅原真央】

Z世代は仕事でも「自分を持つ」ことを大切にし、フラットな職場環境や新たな学習機会を求めるという(NNA撮影)

「自分を養えて、好きなことをする時間があればそれでいい」。高雄市出身の男性、曽さん(23)は、雲林県の大学を中退した後、台北市の飲食店でアルバイトをしていたが、今年から水道・電気工事の設計士として正社員で働き始めた。給与は3万台湾元(約13万円)前後。台北市内の家賃8,000元の部屋で一人暮らしをしている。
趣味はバンド活動と読書。欧州文学や哲学の本を読むのが好きだ。楽器や機材にはお金を使うが、中古店も利用する。フードデリバリーは高いのであまり使わず、夜はスーパーで割り引きになったおにぎりなどを買う。
今の仕事の不満は残業が長すぎること。定時は午後6時だが、遅い時は8時半や9時になることもあり、転職も考えている。仕事を選ぶ際は自分の時間があるかどうかを重視する。給料は、食べていけるだけあればいいという。
曽さんのように、ワークライフバランスを重視するZ世代は多い。台湾の社会人向け雑誌「Cheers快楽工作人」(2022年1月から休刊、現在はウェブメディア)と交流サイト(SNS)「Dcard」は21年5月にZ世代(調査時点で26歳以下と定義)に関する調査を発表。最初に就く正社員の仕事で何が気になるか(複数回答)との問いに対し、Z世代は「勤務時間」と答えた人の割合が24.4%となり、Y世代(27~40歳、20.1%)とX世代(41~55歳、17.0%)を上回った。
人材サービス大手パソナグループの台湾法人、保聖那管理顧問(パソナ台湾)では、Z世代の台湾人求職者に日系企業を紹介する際、接待の有無や残業時間、残業代などを確認されることが多いという。パソナ台湾人材育成センターマネージャーの劉于涵氏は、「ワークライフバランスを重視するので、意味がないことはやりたくない。きちんと考えて計算し、納得できるならやるという賢さがある」と分析する。
■「学び」を重視
銀行の人事部門に勤める台北市在住のジェニファーさん(25)は、現在の仕事が2社目となる。1社目はホテルで、同様に人事部門で約2年勤めた。今は前職よりも給料が上がり、上司や同僚との関係も良いが、この先も同じ銀行で仕事を続けるかどうかは分からない。「仕事で重要なのは何かを学ぶ機会があるかどうかだ」とし、「人事部門に勤める若い人は大体1~2年、長くても3年で転職する。仕事をルーティンに感じてしまうと、新しい環境で学びたくなるためだ」と話す。
Cheersの調査では、向こう半年、現在の仕事を続けるかどうかについて「続ける」と答えたZ世代の割合は42.6%となり、Y世代(60.4%)、X世代(65.4%)を大きく下回った。一方、「続けるとは限らない」と「続けない」を選んだZ世代は合わせて57.4%となり、6割近い人が転職を視野に入れていることも分かった。
同調査をまとめた天下雑誌の天下学習事業群・内容産品部の呉佩旻氏は、「台湾人はすぐ転職すると言われるが、X世代では一つか二つの仕事を定年まで続ける人が多かった。1~2年で転職するようになったのはY世代以降」と指摘。給与が低かったり、学習や成長の機会がなくなったと考えると会社を離れてしまうという。
パソナ台湾の劉氏は「Z世代はハイテクに慣れているため、新しいことを勉強する際もネットで調べて簡単にできてしまう」と説明。一方、コミュニケーションが苦手で、上司に聞くよりネットで探した方が速いと考えているとの見方も示した。
■成長の過程で災難に直面
Z世代を管理するマネジメント層には、彼らの姿勢が一見、無気力に映ることもある。
劉氏は在台日系企業の社員または管理職に対する研修を担当する中で、日系企業の管理職から台湾人社員は主体性や上昇意欲が足りないという声をよく聞くという。ただ「Z世代は昇進に興味がないわけではなく、管理職が既にたくさんいるので自分にはチャンスがないという考えになっている」とし、「『言いたいことはいっぱいあるが言えない』という傾向が強いので、風通しのいい環境をつくることが大事だ」と強調する。
また「Z世代は親世代が08年の世界金融危機を経験しているため、突然仕事がなくなる可能性があるということを知っている。いくら努力しても失敗する場合もあると認識している」と、時代背景を絡めてZ世代の考え方の特徴を説明した。
呉氏は、Z世代は仕事に意義を求めるようになったと指摘。「昔より価値の追求が進んでいるため、入社後は『上司はなぜ自分にこの仕事をさせるのか』といった意義を考えるようになる。従来の権威的なマネジメントではZ世代の心を動かし、仕事への意欲を起こさせることはできない」として、従業員に権限を与え、挑戦させることができる上司や、フラットな組織が好まれるとした。
一方、東呉大学社会学系の劉維公専任副教授は、「Z世代はストレスに弱く、競争を嫌う『寝そべり族』であるといったレッテルを貼られているが、実際にはそうではなく、非常に大きなストレスを抱えている」とみる。Z世代は成長の過程で、異常気象や貧富の差、新型コロナウイルス感染症など多くの災難に直面してきた。「貧富の差はますます広がり、いじめなどの問題もある。このため、彼らは平等に、まじめに、しっかりと扱われることを望んでいる」と分析した。
■直近は安定志向か
直近の世界情勢が影響し、キャリアに関して保守的な考え方を持つZ世代も増えているようだ。台湾政府系シンクタンク、資訊工業策進会(資策会)傘下の産業情報研究所(MIC)が22年に実施したZ世代の就業・創業に関する調査では、正社員としての雇用を望む人が63.1%で最も多かった。創業を考えているまたは創業した人は14.1%にとどまり、安定を求める人が多いことが分かったという。
MICの張筱祺・シニア産業アナリストは「(今社会人として働いているZ世代は)大学や大学院を出てすぐに新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴うインフレに見舞われた。不安定な経済環境、高い生活コスト、ストレスにより、仕事に関して保守的になっている」と指摘した。

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曽さんのように、ワークライフバランスを重視するZ世代は多い。台湾の社会人向け雑誌「Cheers快楽工作人」(2022年1月から休刊、現在はウェブメディア)と交流サイト(SNS)「Dcard」は21年5月にZ世代(調査時点で26歳以下と定義)に関する調査を発表。最初に就く正社員の仕事で何が気になるか(複数回答)との問いに対し、Z世代は「勤務時間」と答えた人の割合が24.4%となり、Y世代(27~40歳、20.1%)とX世代(41~55歳、17.0%)を上回った。
人材サービス大手パソナグループの台湾法人、保聖那管理顧問(パソナ台湾)では、Z世代の台湾人求職者に日系企業を紹介する際、接待の有無や残業時間、残業代などを確認されることが多いという。パソナ台湾人材育成センターマネージャーの劉于涵氏は、「ワークライフバランスを重視するので、意味がないことはやりたくない。きちんと考えて計算し、納得できるならやるという賢さがある」と分析する。
■「学び」を重視
銀行の人事部門に勤める台北市在住のジェニファーさん(25)は、現在の仕事が2社目となる。1社目はホテルで、同様に人事部門で約2年勤めた。今は前職よりも給料が上がり、上司や同僚との関係も良いが、この先も同じ銀行で仕事を続けるかどうかは分からない。「仕事で重要なのは何かを学ぶ機会があるかどうかだ」とし、「人事部門に勤める若い人は大体1~2年、長くても3年で転職する。仕事をルーティンに感じてしまうと、新しい環境で学びたくなるためだ」と話す。
Cheersの調査では、向こう半年、現在の仕事を続けるかどうかについて「続ける」と答えたZ世代の割合は42.6%となり、Y世代(60.4%)、X世代(65.4%)を大きく下回った。一方、「続けるとは限らない」と「続けない」を選んだZ世代は合わせて57.4%となり、6割近い人が転職を視野に入れていることも分かった。
同調査をまとめた天下雑誌の天下学習事業群・内容産品部の呉佩旻氏は、「台湾人はすぐ転職すると言われるが、X世代では一つか二つの仕事を定年まで続ける人が多かった。1~2年で転職するようになったのはY世代以降」と指摘。給与が低かったり、学習や成長の機会がなくなったと考えると会社を離れてしまうという。
パソナ台湾の劉氏は「Z世代はハイテクに慣れているため、新しいことを勉強する際もネットで調べて簡単にできてしまう」と説明。一方、コミュニケーションが苦手で、上司に聞くよりネットで探した方が速いと考えているとの見方も示した。
■成長の過程で災難に直面
Z世代を管理するマネジメント層には、彼らの姿勢が一見、無気力に映ることもある。
劉氏は在台日系企業の社員または管理職に対する研修を担当する中で、日系企業の管理職から台湾人社員は主体性や上昇意欲が足りないという声をよく聞くという。ただ「Z世代は昇進に興味がないわけではなく、管理職が既にたくさんいるので自分にはチャンスがないという考えになっている」とし、「『言いたいことはいっぱいあるが言えない』という傾向が強いので、風通しのいい環境をつくることが大事だ」と強調する。
また「Z世代は親世代が08年の世界金融危機を経験しているため、突然仕事がなくなる可能性があるということを知っている。いくら努力しても失敗する場合もあると認識している」と、時代背景を絡めてZ世代の考え方の特徴を説明した。
呉氏は、Z世代は仕事に意義を求めるようになったと指摘。「昔より価値の追求が進んでいるため、入社後は『上司はなぜ自分にこの仕事をさせるのか』といった意義を考えるようになる。従来の権威的なマネジメントではZ世代の心を動かし、仕事への意欲を起こさせることはできない」として、従業員に権限を与え、挑戦させることができる上司や、フラットな組織が好まれるとした。
一方、東呉大学社会学系の劉維公専任副教授は、「Z世代はストレスに弱く、競争を嫌う『寝そべり族』であるといったレッテルを貼られているが、実際にはそうではなく、非常に大きなストレスを抱えている」とみる。Z世代は成長の過程で、異常気象や貧富の差、新型コロナウイルス感染症など多くの災難に直面してきた。「貧富の差はますます広がり、いじめなどの問題もある。このため、彼らは平等に、まじめに、しっかりと扱われることを望んでいる」と分析した。
■直近は安定志向か
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