NNAグローバルナビ アジア専門情報ブログ

ウナギなど希少魚の培養肉開発現地社、日本企業とも提携模索

シンガポールのフードテック(先端食品技術)企業ウマミ・ミーツは、ニホンウナギなど希少で養殖が難しい魚類の培養肉の開発に力を入れている。魚の細胞から組成し3Dプリント技術を活用して作る培養シーフードで、日本企業と生産や販売に向けた話し合いを進めている。2024年末にも試験出荷を開始し、その数年後には商業ベースに乗せる考えだ。ウマミ・ミーツの創業者であるミヒル・ペルシャド最高経営責任者(CEO)に事業戦略などを聞いた。【Celine Chen】

「ニホンウナギなど希少な魚の培養肉の開発に力を入れている」と話すウマミ・ミーツのペルシャドCEO(左、同社提供)

——培養シーフード市場に参入しようと思ったきっかけは。
乱獲されている天然魚に対する消費者の嗜好(しこう)を変えることは、文化に根付く食習慣などを考慮すると非常に難しい。培養シーフードであれば、乱獲を防ぎながら天然魚と同様の味や食感を持ち、調理方法も変わらない商品を提供できる。魚から採取した細胞を使う培養シーフードは、今後数年で食用魚供給のサステナビリティー(持続可能性)を高める上で重要になるだろう。
——ウナギ、レッドスナッパー(フエダイの一種)、サラサハタの3種類の魚の培養肉開発技術について、ナンヤン・ポリテクニック(国立技術高等専門学校)からライセンスを付与されている。
ナンヤン・ポリテクニックから入手した魚の細胞株を活用して、培養肉を開発している。培養肉関連事業を拡大し、生産を最適化できるようにするのが目標だ。
この3種類に注目したのは、需要が拡大している一方で供給量が減少傾向にあるためだ。養殖が難しいとされ、絶滅の危機にあるような希少な魚の培養肉を開発することで、需給ギャップの解消に貢献できる。

ウマミ・ミーツは形状や食感が本物に近いウナギの培養肉の開発を進めている(写真は本物のウナギ、NNA撮影)

——魚の身を培養する上で、細胞の成長促進や、栄養価、食感の向上に向けた取り組みの進捗(しんちょく)は。
ウナギとサラサハタでは細胞の成長促進の最適化に成功しており、現在は培養肉の生産工程を開発中だ。併せて栄養価、食感の向上も進めている。
ウナギについては、日本から取り寄せられた「アンギラジャポニカ」種、いわゆるニホンウナギの培養肉の開発に取り組んでいる。
——ウナギをはじめとする培養食用魚の開発、生産、販売計画は。
年内には試作品を完成させたい。現在は生産事業やブランド力、販売網の構築に向け、日本の漁業事業者や食品メーカーなどと提携関係の構築を進めている。24年末にはまず小規模でレストラン向けに試験出荷を開始し、その後2~3年でキロ単位での量産の実現を目指す。
最初はシンガポールや日本、米国に出荷したい。こうした取り組みを進める上で、シンガポール企業庁が提携先の候補探しを支援してくれている。
魚の切り身商品についてはアジアのほか、欧米でも発売に向けた準備を進めている。今年は培養肉の切り身を使った料理などを試してもらうため、デモンストレーション・イベントや試食会を多く開催する予定だ。マグロの培養肉の開発も目指している。
——ウナギの培養肉で飲食店や消費者の需要をとらえるための戦略は。
当社の培養肉は3Dプリンターで成形しており、本物に近い形状となっている。ウナギは焼いたときに皮がぱりっとした食感を楽しんでもらえるような商品作りを目指している。
水産資源保護や消費者の健康増進に対する意識が高いシェフには、水銀汚染やマイクロプラスチック汚染(海洋生物が微粒のプラスチックを飲み込むことで発生する汚染)の心配がない当社の商品を選んでもらえると自負している。
販売開始直後の価格は、既存のウナギと同水準に設定する。その後生産が商業ベースに乗れば、販売開始から4~5年で既存のウナギよりも低価格で提供できると見込んでいる。

ウマミ・ミーツが開発した魚の切り身を使った料理(同社提供)

<プロフィル>
ウマミ・ミーツのミヒル・ペルシャドCEO
培養シーフードの生産を目指して2020年にウマミ・ミーツを設立。これまでにシンガポールのベンチャーキャピタル(VC)であるベターバイト・ベンチャーズやジェネダントなどから計350万米ドル(約4億6,300万円)を調達した。
シンガポールとオランダに拠点を持ち従業員数は13人。年内には25~30人にまで増員する予定。シンガポール拠点は中央部ワンノースのハイテク工業団地「シンガポール・サイエンスパーク」内にあり研究開発機能を備える。
ペルシャド氏は米VCのアーリーチャーム・ベンチャーズのパートナーを務めるほか、大学の研究者らと共同でスタートアップによる製品の商業化も支援。支援先の一つで魚介類の餌になる昆虫を開発する企業では18~19年にCEOを務めた。

object(WP_Post)#9816 (24) {
  ["ID"]=>
  int(11833)
  ["post_author"]=>
  string(1) "3"
  ["post_date"]=>
  string(19) "2023-02-17 00:00:00"
  ["post_date_gmt"]=>
  string(19) "2023-02-16 15:00:00"
  ["post_content"]=>
  string(6944) "シンガポールのフードテック(先端食品技術)企業ウマミ・ミーツは、ニホンウナギなど希少で養殖が難しい魚類の培養肉の開発に力を入れている。魚の細胞から組成し3Dプリント技術を活用して作る培養シーフードで、日本企業と生産や販売に向けた話し合いを進めている。2024年末にも試験出荷を開始し、その数年後には商業ベースに乗せる考えだ。ウマミ・ミーツの創業者であるミヒル・ペルシャド最高経営責任者(CEO)に事業戦略などを聞いた。【Celine Chen】[caption id="attachment_11834" align="aligncenter" width="620"]「ニホンウナギなど希少な魚の培養肉の開発に力を入れている」と話すウマミ・ミーツのペルシャドCEO(左、同社提供)[/caption]
——培養シーフード市場に参入しようと思ったきっかけは。
乱獲されている天然魚に対する消費者の嗜好(しこう)を変えることは、文化に根付く食習慣などを考慮すると非常に難しい。培養シーフードであれば、乱獲を防ぎながら天然魚と同様の味や食感を持ち、調理方法も変わらない商品を提供できる。魚から採取した細胞を使う培養シーフードは、今後数年で食用魚供給のサステナビリティー(持続可能性)を高める上で重要になるだろう。
——ウナギ、レッドスナッパー(フエダイの一種)、サラサハタの3種類の魚の培養肉開発技術について、ナンヤン・ポリテクニック(国立技術高等専門学校)からライセンスを付与されている。
ナンヤン・ポリテクニックから入手した魚の細胞株を活用して、培養肉を開発している。培養肉関連事業を拡大し、生産を最適化できるようにするのが目標だ。
この3種類に注目したのは、需要が拡大している一方で供給量が減少傾向にあるためだ。養殖が難しいとされ、絶滅の危機にあるような希少な魚の培養肉を開発することで、需給ギャップの解消に貢献できる。
[caption id="attachment_11835" align="aligncenter" width="620"]ウマミ・ミーツは形状や食感が本物に近いウナギの培養肉の開発を進めている(写真は本物のウナギ、NNA撮影)[/caption]
——魚の身を培養する上で、細胞の成長促進や、栄養価、食感の向上に向けた取り組みの進捗(しんちょく)は。
ウナギとサラサハタでは細胞の成長促進の最適化に成功しており、現在は培養肉の生産工程を開発中だ。併せて栄養価、食感の向上も進めている。
ウナギについては、日本から取り寄せられた「アンギラジャポニカ」種、いわゆるニホンウナギの培養肉の開発に取り組んでいる。
——ウナギをはじめとする培養食用魚の開発、生産、販売計画は。
年内には試作品を完成させたい。現在は生産事業やブランド力、販売網の構築に向け、日本の漁業事業者や食品メーカーなどと提携関係の構築を進めている。24年末にはまず小規模でレストラン向けに試験出荷を開始し、その後2~3年でキロ単位での量産の実現を目指す。
最初はシンガポールや日本、米国に出荷したい。こうした取り組みを進める上で、シンガポール企業庁が提携先の候補探しを支援してくれている。
魚の切り身商品についてはアジアのほか、欧米でも発売に向けた準備を進めている。今年は培養肉の切り身を使った料理などを試してもらうため、デモンストレーション・イベントや試食会を多く開催する予定だ。マグロの培養肉の開発も目指している。
——ウナギの培養肉で飲食店や消費者の需要をとらえるための戦略は。
当社の培養肉は3Dプリンターで成形しており、本物に近い形状となっている。ウナギは焼いたときに皮がぱりっとした食感を楽しんでもらえるような商品作りを目指している。
水産資源保護や消費者の健康増進に対する意識が高いシェフには、水銀汚染やマイクロプラスチック汚染(海洋生物が微粒のプラスチックを飲み込むことで発生する汚染)の心配がない当社の商品を選んでもらえると自負している。
販売開始直後の価格は、既存のウナギと同水準に設定する。その後生産が商業ベースに乗れば、販売開始から4~5年で既存のウナギよりも低価格で提供できると見込んでいる。
[caption id="attachment_11836" align="aligncenter" width="620"]ウマミ・ミーツが開発した魚の切り身を使った料理(同社提供)[/caption]
<プロフィル>
ウマミ・ミーツのミヒル・ペルシャドCEO
培養シーフードの生産を目指して2020年にウマミ・ミーツを設立。これまでにシンガポールのベンチャーキャピタル(VC)であるベターバイト・ベンチャーズやジェネダントなどから計350万米ドル(約4億6,300万円)を調達した。
シンガポールとオランダに拠点を持ち従業員数は13人。年内には25~30人にまで増員する予定。シンガポール拠点は中央部ワンノースのハイテク工業団地「シンガポール・サイエンスパーク」内にあり研究開発機能を備える。
ペルシャド氏は米VCのアーリーチャーム・ベンチャーズのパートナーを務めるほか、大学の研究者らと共同でスタートアップによる製品の商業化も支援。支援先の一つで魚介類の餌になる昆虫を開発する企業では18~19年にCEOを務めた。" ["post_title"]=> string(84) "ウナギなど希少魚の培養肉開発現地社、日本企業とも提携模索" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(198) "%e3%82%a6%e3%83%8a%e3%82%ae%e3%81%aa%e3%81%a9%e5%b8%8c%e5%b0%91%e9%ad%9a%e3%81%ae%e5%9f%b9%e9%a4%8a%e8%82%89%e9%96%8b%e7%99%ba%e7%8f%be%e5%9c%b0%e7%a4%be%e3%80%81%e6%97%a5%e6%9c%ac%e4%bc%81%e6%a5%ad" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2023-02-17 04:00:04" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2023-02-16 19:00:04" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=11833" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
 NNA
エヌエヌエー NNA
アジアの経済ニュース・ビジネス情報 - NNA ASIA

アジア経済の詳細やビジネスに直結する新着ニュースを掲載。
現地の最新動向を一目で把握できます。
法律、会計、労務などの特集も多数掲載しています。

【東京本社】
105-7209 東京都港区東新橋1丁目7番1号汐留メディアタワー9階
Tel:81-3-6218-4330
Fax:81-3-6218-4337
E-mail:sales_jp@nna.asia
HP:https://www.nna.jp/

国・地域別
シンガポール情報
内容別
ビジネス全般人事労務

コメントを書く

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

※がついている欄は必須項目です。

コメント※:

お名前:

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください