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エアコン販売でシェア2桁目標ジョンソン日立、タイ市場を深耕

ジョンソンコントロールズ傘下のジョンソンコントロールズ日立空調がタイのエアコン市場で攻勢をかける。数年以内にシェアを2桁に押し上げ、トップ3入りが当面の目標だ。長らく自動車産業に携わってきた異色の経歴を持つ泉田金太郎バイスプレジデント兼日本・アジア地域ゼネラルマネジャーは、「エアコンは他に代替の効かない人々の生活に必要不可欠な家電。その意味で今や自動車以上の社会的インフラになっている」と強調する。

泉田金太郎バイスプレジデント兼日本・アジア地域ゼネラルマネジャー=15日、タイ・バンコク(NNA撮影)

——世界的なエアコンの市場環境について
エアコンの世界的な普及台数は現在、1億台余りだが、個人的にはこれが2~3倍に膨らんでもおかしくないと考えている。かつては欧州や米国ではエアコンを設置している家庭は少数派だったが、地球温暖化の影響で平均気温が世界的に上昇しており、記録的な猛暑に達することも増えている。加えて、昨年2月から1年余りにわたって続いているロシアのウクライナ侵攻によって、欧州を中心にエネルギー問題が顕在化し、ロシアからの天然ガスへの過度の依存を見直す動きが加速している。
一方、新興国に目を向ければ、例えばベトナムの現在のエアコン浸透率は10%程度だ。これから経済成長が見込まれるアフリカ諸国の普及率はさらに低い。現時点で1億台余りのエアコンが普及しているとはいえ、世界的にはまだまだこれから需要が伸びていく商品だ。さらには、成熟期を迎えた市場でも、集中冷暖房システムから部屋ごとのルームエアコンへの切り替えや買い替え需要の増加が増えられる。
かつて日本などの各家庭では、部屋ごとにテレビを置いていたが、スマートフォンやパソコンの普及でテレビを置かない部屋も増えている。その点で、今や部屋ごとに設置する必要がある家電というのはエアコンだけになってきている。新型コロナウイルス感染症の影響もあり、自宅で過ごす時間が増え、過去3年のエアコン稼働率はコロナ禍前に比べて2~3倍に上昇した。コロナ禍で自宅でペットを飼う家庭が増えたが、ペットのためにエアコンを24時間稼働させたいといったニーズも増えている。
一方、供給サイドでみれば、向こう30年のスパンでみれば、通販ネットモールが家電販売を席巻していくことが考えられる。ただし、エアコンだけはそうならない可能性がある。実際、通販ネットモールで最も売れていない家電がエアコンだ。エアコンは他の家電と異なり、製品販売だけでなく、自宅への据え付け工事までをフォローする必要があるためだ。

バンコク首都圏ではエアコンの買い替えや設置台数の追加といった需要が伸びていくと考えられている(ジョンソン日立空調提供)

■世界で最も競争の激しい市場
——タイのエアコン市場について
タイのエアコン市場では現在、日本や中国、米国、タイなどのメーカー数十社がしのぎを削っている状況だ。世界で「最も競争の激しい市場」のひとつと言える。現在のシェアトップが15%を握るが、われわれを含むそれ以外の多くのブランドのシェアは5%前後。競争は非常に激しいが、その分チャンスも多いと考えている。タイでの成功は、他の市場での成功につながるからだ。
タイは2019年にエアコンの販売台数が130万台ほどに達したが、22年には100万台まで減少した。新型コロナの流行による購買力の低下などが影響したと考えられるが、コロナ禍が収束したことで、数年以内に130万台規模に回復し、さらにそこから伸びていくことが期待される。日本市場がおよそ900万台ということを考えれば、現時点でもタイ市場は決して小さくない。さらに今後の伸びしろを考えると、タイのエアコン市場は非常に有望だ。
タイのエアコン市場の特徴は安定した成長が期待されることだ。経済が安定して成長し、政情も現在のところは安定している。エアコンの浸透率で言えば、バンコク首都圏はこれから成熟期に入っていく一方、地方はまだまだこれから伸びていく段階。成熟期を迎える都市部とこれから成長期を迎える地方が入り交じった状況だ。年間の伸び率で言えば、バンコク首都圏が3%前後、それ以外の地方が7~10%。地方に比べて、成熟期に入りつつある首都圏の伸び率は鈍化しているが、これからは買い替えや設置台数の追加といった需要が伸びていくと考えられる。
タイは賢い消費者が非常に多い。数あるエアコン商品を選ぶ場合でも、ブランドや性能、価格といった要素のバランスを考えて購入している印象だ。「日立ブランドだから売れる」とか「性能がいいから売れる」というものではなく、ブランド、性能、価格の3つの要素のバランスが良い商品が消費者に評価される市場だと考えている。タイ市場で選ばれる商品は、他の市場でも十分に通用する商品であることが多い。
■商品ラインアップを拡充
——タイを含むアジアでの今後の販売戦略について
ジョンソンコントロール日立空調は、数少ないエアコンの専門メーカーとして、グローバル市場に対応している。世界経済の大きなうねりの中、日本の日立製作所と米国のジョンソンコントロールという2つのバックグラウンドを持つことは大きな強みだと考えている。
現在は日本や台湾、香港などで高いシェアを有しているが、これらの市場は成熟期に達しつつある。そうした中、これからがニーズの拡大が見込まれるタイやベトナムなどの東南アジア市場にわれわれの成長の糧を求めていく。そのための投資や活動を積極的に進めていく方針だ。
タイでは現在、一般家庭向けのルームエアコンのほか、ホテルや病院、オフィスなどの業務用パッケージエアコンを展開している。タイにおけるわれわれのシェアは4%程度なので、まずは5%に引き上げることが当面の目標だ。向こう数年以内にシェア10%以上を確保し、トップ5からトップ3入りを目指していく。われわれの強みは高価格帯の高付加価値商品にあるが、10%以上のシェアを目指す上で、商品ラインアップにある程度の幅を持たせる必要あると考えている。エントリーモデルを含め、できるだけ多くの消費者に訴求できる商品群をそろえていく。
新たに導入した商品としては、筐体などのプラットフォームを統一した「airHome」という家庭用ルームエアコンがある。世界市場でボリュームを確保する一方、国・地域の条件に応じて、機能やデザインをカスタマイズできるグローバル商品として、競合他社と差別化できる商品となっている。
据え付けサービスの向上も強化する。商品の機能を十分に発揮させ、安全性という点で据え付け工事は重要だが、据え付け担当者が信頼できる人物であることが重要だ。据え付け工事は、各家庭の各部屋で行う作業であり、消費者が信頼できる人物でなければならない。実際、日本などでも多少価格が高くでも信頼できる人物に取り付けてもらいたいという声は非常に多い。顧客満足度という点では、信頼できる据え付け業者を味方につけることが非常に大事だと考えている。

ジョンソン日立空調はタイでエアコン据え付け業者の信頼性向上に向けた研修などに力を入れている(同社提供)

<プロフィル>
泉田金太郎(いずみだ・きんたろう):ジョンソンコントロールズ日立空調バイスプレジデント兼日本・アジア地域ゼネラルマネジャー。1999年~2002年ING生命保険、02~17年日産自動車でインドネシア法人のマネジメントディレクターなどを務める。19~20年ポラリスジャパンの日本代表として日本法人の立ち上げを行う。20年~22年日本電電で常務執行役員兼最高業績管理責任者を務める。22年5月から現職。

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——世界的なエアコンの市場環境について
エアコンの世界的な普及台数は現在、1億台余りだが、個人的にはこれが2~3倍に膨らんでもおかしくないと考えている。かつては欧州や米国ではエアコンを設置している家庭は少数派だったが、地球温暖化の影響で平均気温が世界的に上昇しており、記録的な猛暑に達することも増えている。加えて、昨年2月から1年余りにわたって続いているロシアのウクライナ侵攻によって、欧州を中心にエネルギー問題が顕在化し、ロシアからの天然ガスへの過度の依存を見直す動きが加速している。
一方、新興国に目を向ければ、例えばベトナムの現在のエアコン浸透率は10%程度だ。これから経済成長が見込まれるアフリカ諸国の普及率はさらに低い。現時点で1億台余りのエアコンが普及しているとはいえ、世界的にはまだまだこれから需要が伸びていく商品だ。さらには、成熟期を迎えた市場でも、集中冷暖房システムから部屋ごとのルームエアコンへの切り替えや買い替え需要の増加が増えられる。
かつて日本などの各家庭では、部屋ごとにテレビを置いていたが、スマートフォンやパソコンの普及でテレビを置かない部屋も増えている。その点で、今や部屋ごとに設置する必要がある家電というのはエアコンだけになってきている。新型コロナウイルス感染症の影響もあり、自宅で過ごす時間が増え、過去3年のエアコン稼働率はコロナ禍前に比べて2~3倍に上昇した。コロナ禍で自宅でペットを飼う家庭が増えたが、ペットのためにエアコンを24時間稼働させたいといったニーズも増えている。
一方、供給サイドでみれば、向こう30年のスパンでみれば、通販ネットモールが家電販売を席巻していくことが考えられる。ただし、エアコンだけはそうならない可能性がある。実際、通販ネットモールで最も売れていない家電がエアコンだ。エアコンは他の家電と異なり、製品販売だけでなく、自宅への据え付け工事までをフォローする必要があるためだ。[caption id="attachment_12565" align="aligncenter" width="620"]バンコク首都圏ではエアコンの買い替えや設置台数の追加といった需要が伸びていくと考えられている(ジョンソン日立空調提供)[/caption]
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タイのエアコン市場では現在、日本や中国、米国、タイなどのメーカー数十社がしのぎを削っている状況だ。世界で「最も競争の激しい市場」のひとつと言える。現在のシェアトップが15%を握るが、われわれを含むそれ以外の多くのブランドのシェアは5%前後。競争は非常に激しいが、その分チャンスも多いと考えている。タイでの成功は、他の市場での成功につながるからだ。
タイは2019年にエアコンの販売台数が130万台ほどに達したが、22年には100万台まで減少した。新型コロナの流行による購買力の低下などが影響したと考えられるが、コロナ禍が収束したことで、数年以内に130万台規模に回復し、さらにそこから伸びていくことが期待される。日本市場がおよそ900万台ということを考えれば、現時点でもタイ市場は決して小さくない。さらに今後の伸びしろを考えると、タイのエアコン市場は非常に有望だ。
タイのエアコン市場の特徴は安定した成長が期待されることだ。経済が安定して成長し、政情も現在のところは安定している。エアコンの浸透率で言えば、バンコク首都圏はこれから成熟期に入っていく一方、地方はまだまだこれから伸びていく段階。成熟期を迎える都市部とこれから成長期を迎える地方が入り交じった状況だ。年間の伸び率で言えば、バンコク首都圏が3%前後、それ以外の地方が7~10%。地方に比べて、成熟期に入りつつある首都圏の伸び率は鈍化しているが、これからは買い替えや設置台数の追加といった需要が伸びていくと考えられる。
タイは賢い消費者が非常に多い。数あるエアコン商品を選ぶ場合でも、ブランドや性能、価格といった要素のバランスを考えて購入している印象だ。「日立ブランドだから売れる」とか「性能がいいから売れる」というものではなく、ブランド、性能、価格の3つの要素のバランスが良い商品が消費者に評価される市場だと考えている。タイ市場で選ばれる商品は、他の市場でも十分に通用する商品であることが多い。
■商品ラインアップを拡充
——タイを含むアジアでの今後の販売戦略について
ジョンソンコントロール日立空調は、数少ないエアコンの専門メーカーとして、グローバル市場に対応している。世界経済の大きなうねりの中、日本の日立製作所と米国のジョンソンコントロールという2つのバックグラウンドを持つことは大きな強みだと考えている。
現在は日本や台湾、香港などで高いシェアを有しているが、これらの市場は成熟期に達しつつある。そうした中、これからがニーズの拡大が見込まれるタイやベトナムなどの東南アジア市場にわれわれの成長の糧を求めていく。そのための投資や活動を積極的に進めていく方針だ。
タイでは現在、一般家庭向けのルームエアコンのほか、ホテルや病院、オフィスなどの業務用パッケージエアコンを展開している。タイにおけるわれわれのシェアは4%程度なので、まずは5%に引き上げることが当面の目標だ。向こう数年以内にシェア10%以上を確保し、トップ5からトップ3入りを目指していく。われわれの強みは高価格帯の高付加価値商品にあるが、10%以上のシェアを目指す上で、商品ラインアップにある程度の幅を持たせる必要あると考えている。エントリーモデルを含め、できるだけ多くの消費者に訴求できる商品群をそろえていく。
新たに導入した商品としては、筐体などのプラットフォームを統一した「airHome」という家庭用ルームエアコンがある。世界市場でボリュームを確保する一方、国・地域の条件に応じて、機能やデザインをカスタマイズできるグローバル商品として、競合他社と差別化できる商品となっている。
据え付けサービスの向上も強化する。商品の機能を十分に発揮させ、安全性という点で据え付け工事は重要だが、据え付け担当者が信頼できる人物であることが重要だ。据え付け工事は、各家庭の各部屋で行う作業であり、消費者が信頼できる人物でなければならない。実際、日本などでも多少価格が高くでも信頼できる人物に取り付けてもらいたいという声は非常に多い。顧客満足度という点では、信頼できる据え付け業者を味方につけることが非常に大事だと考えている。
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