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タイのツナ缶業界、輸出好調22年2割増、収益源も多角化

タイの主要産業の1つであるツナ缶の輸出が好調だ。輸出額では世界トップ。新型コロナウイルス感染症の流行で落ち込んでいた観光業や加工工場の稼働率の回復などもあり、2022年は前年比で2割増と、例年並みの水準に戻った。一方で、業界各社は収益源の多角化に向け、ペットフードなど付加価値の高い事業にも力を入れている。

タイのスーパーマーケットで販売されているツナ缶=16日、タイ・バンコク(NNA撮影)

タイでは、ツナ缶はイワシやサバ、サケなどを合わせた同国の水産加工食品輸出全体の約9割を占める稼ぎ頭だ。西太平洋やインド洋といった近海からカツオなどの原料を安く調達できるのが強みで、加工したツナ缶の7割以上は米国や日本などの海外に輸出されている。
タイのツナ缶メーカー26社が加盟している業界団体、タイ・マグロ産業協会(TTIA)によると、タイのツナ缶の22年の輸出額は、前年比19%増の22億8,400万米ドル(約3,110億5,000万円)だった。仕向け地は、米国向けが22%で最も多く、以下、エジプト(11%)、日本、オーストラリア(ともに8%)が続いた。
輸出が好調だった反動による在庫のだぶつきも解消に向かっている。最大手タイ・ユニオン・グループ(TU)の23年第1四半期(1~3月)の連結決算は、売上高が前年同期比10.0%減の326億5,200万バーツ(約1,298億6,000万円)、純利益が41.5%減の10億2,200万バーツの減収減益となった。しかし、第2四半期(4~6月)以降は、業績は回復に向かう見通しだという。
TTIAのチャニン会長によると、タイでツナ缶が産業として発展してきた背景には、近海からツナの原料を安く輸入できるという地理的な好条件があったという。タイでは輸入税が免除されるため、結果として製品の価格競争力が高まった。技術のある労働者が多く、輸出相手国のニーズに合わせた商品を製造できる点も強みだという。
チャニン会長は、9月にも再開するとみられる欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)交渉の行方にも強い関心を持っている。FTA締結・発効され、EUがタイ産のツナ缶に課している24%の関税が撤廃されれば、さらなる輸出拡大が見込める。
タイでは、コールドチェーン(低温物流)も整備されつつある。タイ商務省によると21年基準で、輸入したツナの原料を加工工場まで輸送する冷凍業者は計197社で、前年と比べて21%増えた。
業界関係者によると、人権問題に対する欧米の視線もかつての厳しさがなくなっているという。外国人労働者の労働環境改善に向け、官民による取り組みが奏功したようだ。

■原材料の価格高騰
一方で、輸出額が増えている背景には、ツナの輸入原料全体の8割近くを占めるカツオの価格が急騰しているというやむにやまれぬ事情もある。TUによると、23年3月基準の冷凍カツオの1トン当たりの価格は1,980米ドルと、17年11月以降64カ月ぶりに最高価格を記録した。漁獲量の減少が背景にあるという。
タイはツナ缶の輸出が増えれば増えるほど、原料となるカツオの輸入も拡大するという構図になっている。TTIAによると、22年は8.5%増の54万458トンを輸入した。
金額ベースでの伸びも顕著だ。貿易統計グローバル・トレード・アトラス(GTA)によると、22年のカツオのタイの輸入額は9億310万米ドルと前年比3割増。23年に入っても拡大傾向は続いており、1~2月は1億5,783万米ドルと前年同期比で47.0%の増加だ。調達先の上位3国・地域は、台湾、モルディブ、韓国が占める。
原材料の上昇に加え、ツナ缶の「コモディティー化」(業界関係者)も業界の悩みだ。ツナ缶は大型マートなどで安売りの対象となりやすく、利幅が薄い。国内では、大型スーパーなどで165~185グラムの重さの缶詰1個あたり35~50バーツで販売されている。
■収益源を多角化
業界各社は収益源の多角化に力を入れ、ツナ缶への依存度を減らそうという動きをみせる。マルハニチロ傘下のキングフィッシャー・ホールディングスは、ツナ缶を生産する常温食品の製造の95%を、より付加価値の高く、製造工程も似ているペットフードに切り替えた。
TUは欧州で一部のツナ缶製品の高級化を進める一方、「脱ツナ缶依存」に拍車をかける。年内をめどに、首都バンコク西郊のサムットサコン県に加工食品・ベーカリー、プロテイン・コラーゲン、ペットフードの3工場を年内に稼働させる。完成後の加工食品・ベーカリーとペットフードの生産能力は、それぞれ38%、19%拡大する。3工場の建設費用は44億バーツ。
「ノーチラス」ブランドのツナ缶を製造・販売しているパタヤフード・グループ(PFG)は、ドリアン、マンゴスチンなどの果物とサラダ用野菜を栽培する有機農場を東部ラヨーン県で経営。飲食店やホテル、スーパーといったBtoB(企業間取引)顧客に供給している。養鶏場も所有しており、有機卵の卸売りをまもなく開始するという。
TTIAも業界各社の動きに理解を示している様子だ。チャニン会長は、ペットフードの原料にはツナ缶の原料の残りが使われるケースが多いことから、ツナ缶産業への打撃は限定的とみていると話した。

タイのツナ缶産業について説明するTTIAの職員=11日、タイ・バンコク(NNA撮影)
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タイのツナ缶メーカー26社が加盟している業界団体、タイ・マグロ産業協会(TTIA)によると、タイのツナ缶の22年の輸出額は、前年比19%増の22億8,400万米ドル(約3,110億5,000万円)だった。仕向け地は、米国向けが22%で最も多く、以下、エジプト(11%)、日本、オーストラリア(ともに8%)が続いた。
輸出が好調だった反動による在庫のだぶつきも解消に向かっている。最大手タイ・ユニオン・グループ(TU)の23年第1四半期(1~3月)の連結決算は、売上高が前年同期比10.0%減の326億5,200万バーツ(約1,298億6,000万円)、純利益が41.5%減の10億2,200万バーツの減収減益となった。しかし、第2四半期(4~6月)以降は、業績は回復に向かう見通しだという。
TTIAのチャニン会長によると、タイでツナ缶が産業として発展してきた背景には、近海からツナの原料を安く輸入できるという地理的な好条件があったという。タイでは輸入税が免除されるため、結果として製品の価格競争力が高まった。技術のある労働者が多く、輸出相手国のニーズに合わせた商品を製造できる点も強みだという。
チャニン会長は、9月にも再開するとみられる欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)交渉の行方にも強い関心を持っている。FTA締結・発効され、EUがタイ産のツナ缶に課している24%の関税が撤廃されれば、さらなる輸出拡大が見込める。
タイでは、コールドチェーン(低温物流)も整備されつつある。タイ商務省によると21年基準で、輸入したツナの原料を加工工場まで輸送する冷凍業者は計197社で、前年と比べて21%増えた。
業界関係者によると、人権問題に対する欧米の視線もかつての厳しさがなくなっているという。外国人労働者の労働環境改善に向け、官民による取り組みが奏功したようだ。

■原材料の価格高騰
一方で、輸出額が増えている背景には、ツナの輸入原料全体の8割近くを占めるカツオの価格が急騰しているというやむにやまれぬ事情もある。TUによると、23年3月基準の冷凍カツオの1トン当たりの価格は1,980米ドルと、17年11月以降64カ月ぶりに最高価格を記録した。漁獲量の減少が背景にあるという。
タイはツナ缶の輸出が増えれば増えるほど、原料となるカツオの輸入も拡大するという構図になっている。TTIAによると、22年は8.5%増の54万458トンを輸入した。
金額ベースでの伸びも顕著だ。貿易統計グローバル・トレード・アトラス(GTA)によると、22年のカツオのタイの輸入額は9億310万米ドルと前年比3割増。23年に入っても拡大傾向は続いており、1~2月は1億5,783万米ドルと前年同期比で47.0%の増加だ。調達先の上位3国・地域は、台湾、モルディブ、韓国が占める。
原材料の上昇に加え、ツナ缶の「コモディティー化」(業界関係者)も業界の悩みだ。ツナ缶は大型マートなどで安売りの対象となりやすく、利幅が薄い。国内では、大型スーパーなどで165~185グラムの重さの缶詰1個あたり35~50バーツで販売されている。
■収益源を多角化
業界各社は収益源の多角化に力を入れ、ツナ缶への依存度を減らそうという動きをみせる。マルハニチロ傘下のキングフィッシャー・ホールディングスは、ツナ缶を生産する常温食品の製造の95%を、より付加価値の高く、製造工程も似ているペットフードに切り替えた。
TUは欧州で一部のツナ缶製品の高級化を進める一方、「脱ツナ缶依存」に拍車をかける。年内をめどに、首都バンコク西郊のサムットサコン県に加工食品・ベーカリー、プロテイン・コラーゲン、ペットフードの3工場を年内に稼働させる。完成後の加工食品・ベーカリーとペットフードの生産能力は、それぞれ38%、19%拡大する。3工場の建設費用は44億バーツ。
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