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日清オイリオ現法、2割増産へ欧州の規制強化も拡販にかじ

日清オイリオグループの現地法人でパーム付加価値油(スペシャリティーファット)の製造・販売を手がけるインターコンチネンタル・スペシャルティー・ファッツ(ISF)は、2027年までに年間の生産量を70万トンに引き上げることを目指す。現在から2割弱の増加となる。パーム関連品は主要顧客の欧州が、ESG(環境・社会・企業統治)の重視を受けて規制を強化。加えて世界的な景気低迷による需要減退も懸念されるが、トレーサビリティー(生産流通履歴)の徹底や品質改善を図り、販売拡大を狙う。【笹沼帆奈望】

インターコンチネンタル・スペシャルティー・ファッツは、年間の生産量を70万トンに引き上げることを目標に掲げる(同社提供)

ISFは、品質やESGの両面で付加価値の付いたパーム油やパーム核油、スペシャリティーファットの製造・販売を行える点を強みとしている。石神高最高経営責任者(CEO)は、「質の高い製品を生産することから、規制の厳しい欧州の顧客が多く、プレミアム(割増料金)での取引を実現している」と話す。
現在の年間生産量は60万トン前後。当初目標に掲げていた70万トンをやや下回る。石神氏によると、欧州ではパーム油の成分に関する基準が年々厳しくなっており、精製の回数を増やして対応しているため、既存設備の容量を減少させてしまい、計画の生産量を確保できていないという。
ISFは現在、生産の半分以上をイタリア、フランス、ドイツといった欧州のほか、カナダ、米国、日本、中国、トルコに輸出している。今後は顧客の需要に合わせて設備投資を行うほか、既存のパートナーへの委託販売を増やすことなどで拡販を図る方針だ。
ただ、欧州での規制は厳しさを増している。これまでも現地では、市民団体などが主導する「反パーム油キャンペーン」などが行われてきた。世界的に環境保護の機運が高まる中、欧州議会は4月、森林破壊に関係する農畜産物などの欧州連合(EU)域内への輸入を禁止する森林破壊防止法を可決した。パーム油も対象に含まれており、マレーシア政府は遺憾の意を表明するとともに、同じく主要生産国の隣国インドネシアと歩調を合わせ、EUへのパーム油輸出を停止することなども視野に入れている。

「今後は顧客の需要に合わせて設備投資を行うほか、既存のパートナーへの委託販売を増やすことなどで拡販を図る」と話す石神氏=2日、スランゴール州(NNA撮影)

パーム油の製造・販売では、トレーサビリティーの確保が重要視されている。ESGへの対応はプランテーションからつながっており、自社の労働問題や二酸化炭素(CO2)の排出量削減だけでなく、森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(NDPE、No Deforestation, No Peat, No Exploitation)の原則なども注視する必要がある。
森林破壊防止法の対象は2020年12月31日以降に開発された農地となっているため、ISFではトレースを行って対応する。どこからきたパームであるかの文書化を進めているが、石神氏は「影響は大きい。プランテーション側の協力が不可欠だ」と話す。
また、マレーシアの工場は日本などと比較し、二酸化炭素の排出量を下げにくいのも課題だ。国際的な認証制度であるISCCが定める算定に使用する係数が日本と比べマレーシアの方が大きいことから、排出量も日本の工場と比べマレーシアの工場の方が高くなってしまう。石神氏は「拡販するために精製の容量を増やしたいが、電気の使用量も増えることで二酸化炭素の排出量も増加するため、いたちごっこになってしまっている」と説明する。
ISFは先月、マレーシア三井住友銀行から9,500万リンギ(約28億8,230万円)の融資枠供与を受ける契約を締結した。持続可能性への取り組みと成果に応じたサステナビリティー・リンク・ローン(SLL)による融資となっている。石神氏は、「二酸化炭素の排出量削減につなげる設備投資などに充てる」と話す。
■品質面の要求も大きく
品質面の要求にも対応するため、ISFでは、自社で研究開発(R&D)を行っているほか、本社ビル内に日清オイリオ傘下の日清グローバル・リサーチ・センターを構える。これにより、顧客が求める品質のすり合わせをスムーズに行うことができる。
ただ、プランテーションの段階から品質が良くないとニーズに応えるのが難しいことも多い。石神氏は、高い品質が求められるチョコレート用油脂を売上高の3割に引き上げることを目標に掲げているが、到達には苦戦を強いられていると説明。「オレオケミカル(油脂化学)やバイオ燃料の需要も拡大している。要求が厳しくなるとパーム原油の売り手側が供給を渋ることがある」という。
パーム油の相場も懸念事項だ。石神氏は、今後について、世界的な景気低迷を受けて、需要が減退することでパーム油価格が下がる可能性があると指摘。「中国の経済回復も想定より遅れている印象で、パーム油に限らず他の植物油価格にも影響するかもしれない」と見通した。

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現在の年間生産量は60万トン前後。当初目標に掲げていた70万トンをやや下回る。石神氏によると、欧州ではパーム油の成分に関する基準が年々厳しくなっており、精製の回数を増やして対応しているため、既存設備の容量を減少させてしまい、計画の生産量を確保できていないという。
ISFは現在、生産の半分以上をイタリア、フランス、ドイツといった欧州のほか、カナダ、米国、日本、中国、トルコに輸出している。今後は顧客の需要に合わせて設備投資を行うほか、既存のパートナーへの委託販売を増やすことなどで拡販を図る方針だ。
ただ、欧州での規制は厳しさを増している。これまでも現地では、市民団体などが主導する「反パーム油キャンペーン」などが行われてきた。世界的に環境保護の機運が高まる中、欧州議会は4月、森林破壊に関係する農畜産物などの欧州連合(EU)域内への輸入を禁止する森林破壊防止法を可決した。パーム油も対象に含まれており、マレーシア政府は遺憾の意を表明するとともに、同じく主要生産国の隣国インドネシアと歩調を合わせ、EUへのパーム油輸出を停止することなども視野に入れている。
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森林破壊防止法の対象は2020年12月31日以降に開発された農地となっているため、ISFではトレースを行って対応する。どこからきたパームであるかの文書化を進めているが、石神氏は「影響は大きい。プランテーション側の協力が不可欠だ」と話す。
また、マレーシアの工場は日本などと比較し、二酸化炭素の排出量を下げにくいのも課題だ。国際的な認証制度であるISCCが定める算定に使用する係数が日本と比べマレーシアの方が大きいことから、排出量も日本の工場と比べマレーシアの工場の方が高くなってしまう。石神氏は「拡販するために精製の容量を増やしたいが、電気の使用量も増えることで二酸化炭素の排出量も増加するため、いたちごっこになってしまっている」と説明する。
ISFは先月、マレーシア三井住友銀行から9,500万リンギ(約28億8,230万円)の融資枠供与を受ける契約を締結した。持続可能性への取り組みと成果に応じたサステナビリティー・リンク・ローン(SLL)による融資となっている。石神氏は、「二酸化炭素の排出量削減につなげる設備投資などに充てる」と話す。
■品質面の要求も大きく
品質面の要求にも対応するため、ISFでは、自社で研究開発(R&D)を行っているほか、本社ビル内に日清オイリオ傘下の日清グローバル・リサーチ・センターを構える。これにより、顧客が求める品質のすり合わせをスムーズに行うことができる。
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