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二輪の電動化「可能性あり」タイホンダ、実証で未来を手探り

四輪車市場の電動化が進むタイだが、二輪車では電動が早急にガソリンバイクに取って代わる気配は今のところない。耐久性と走破性に優れた日系のバイクが半世紀にわたり「庶民の足」となってきたからで、消費者は、電動バイクの速度や性能はガソリン車と比較すると不十分と感じている。だが業界首位のホンダは、タイでも中国のように電動バイク市場が大きくなる可能性があると指摘。電動バイクを企業に貸し出す実証実験を通じて、普及の可能性を模索している。【天野友紀子】

食事宅配のフードパンダなどで利用されている電動バイク「ベンリィe:」。バッテリーは交換式だ(タイ・ホンダ提供)

ホンダの二輪生産・販売子会社タイ・ホンダの木村滋利社長がNNAの単独取材に応じた。ホンダはタイの二輪車市場で約8割のシェアを占めるマーケットリーダーだ。
タイ工業連盟(FTI)などの統計によると、四輪車市場ではハイブリッドを含む電動車が新車販売全体に占める割合が10%に達している。電動バイク(バッテリー式EVタイプ)はというと、ここ1年(2022年5月~23年4月)で新規登録された台数は1万4,200台余り。年間180万台超の二輪車市場に占める割合は1%以下にとどまっている。
■根強い「カブ」人気
木村氏はタイを含む東南アジアの二輪車市場について「モーターサイクルが主流のインドとは違い、遠心クラッチを採用したアンダーボーン型(ホンダの商標は「カブ」)で日本のメーカーが作ってきた歴史がある」と説明する。欧州系のスクーターも早くから市場に持ち込まれていたものの、タイヤが大きく耐久性・走破性に優れたカブが悪路の多い東南アジアで市民の生活にマッチし、二輪車市場を拡大させてきた。
ただ都市化の進行に伴い、複数の国でスクーターの比率が上昇。インドネシアでは市場の9割、ベトナムも8割をスクーターが占めるようになった。だがタイでは、ホンダが「ウェーブ」の名称で販売するカブが、現在も市場の50%以上を占めている。
ホンダは「クリック」などの大径タイヤのスクーターをラインアップし、売れ筋となっているものの、それでもスクーターの割合は45%程度。タイでは二輪車の価値を考える上で耐久性に重きを置く人がまだまだ多く、「カブ人気が根強い」(木村氏)という。

大径タイヤを採用した“カブライク”なスクーター「クリック」=5月、タイ・バンコク(NNA撮影)

■電動普及の中国は「特殊」
では電動はどうなのか。電動二輪が普及している国といえば中国だが、木村氏は「中国は特殊」だと語る。
中国は年1,500万台を超えるガソリン二輪車市場だったが、10年以上前に広州、上海、北京などで市内へのガソリン二輪車の乗り入れが続々と禁止され、市場が消滅。バイクや自動車が普及する前は自転車天国だった中国の道路にはもともと自転車用レーンが整備されていたことから、ガソリンバイクの代わりに低速の電動自転車や電動スクーターが一気に普及した。
中国製の低速電動スクーターはその後、東南アジアにも入ってきたが「浸透はしていない」と木村氏。値段は手頃ではあるものの、最高時速が基本的に50キロメートル以下と遅く、自動車と同じ道路を走行することが困難なためだ。
だがそれでも木村氏は、タイでも低速電動バイクの市場が生まれる可能性はあるとの見方を示す。配達などの目的で、タイ語で「ソイ」と呼ばれる脇道だけを走行するのであれば、時速20~30キロでも問題ない可能性があるためだ。
そういった可能性を探るため、タイ・ホンダは2020年から電動バイクの実証を始めた。直近ではビジネスユース向けの電動スクーター「BENLY(ベンリィ)e:」をバッテリー交換方式で、ドイツ系食事宅配サービス「フードパンダ」や国営郵便タイランド・ポスト(タイポスト)などに貸し出している。現在は約110台が稼働。リース先から使い勝手や燃費などに関するデータを収集し、開発に役立てている。
ガソリンバイクに乗り慣れた運転手からは、時速65キロでも「遅い」「危ない」との声が上がる。だが木村氏は「実際は加速感が重要なものの時速70キロ程度出れば(バンコクの大通りの走行も)問題はないはず。またガソリン車からの乗り換えが100%ではなく、初めて乗る二輪車が電動バイクだった場合、電動の性能が消費者のスタンダードになることも念頭に置く必要がある」と指摘。安全性などを追求しつつ、さまざまな検証と開発を進めていく考えを示した。
ベンリィe:は、日本郵政で活用されているビジネス向け電動スクーター。ホンダが中国に持つ合弁会社、五羊—本田摩托(広州)(五羊ホンダ)から部品を輸入し、タイ・ホンダの工場で組み立てている。
■電動化は「第二の創業」
タイでは地場企業による中国製電動スクーターのレンタルサービスも増え始めている。
電動スクーターはバッテリーのコストが非常に高く、月々のリース料金はガソリンバイクを購入する際の月々の支払額に比べまだまだ割高だ。だがガソリン代と充電コストを比較した場合、電動バイクの燃費はガソリン車の2分の1以下となる。
エンジン製造をなりわいとしてきたホンダにとって、電動化は全く異なるフィールドへの移行を意味する。技術面でも、消費者の経済性と利便性に見合った製品を打ち出すという点でも難しいかじ取りを迫られているが、「カーボンニュートラルを目指す上での一つの選択肢」としての電動バイク事業を「消費者のニーズに沿える前提でできるだけ早く」形にしていきたいと木村氏。全社的にも電動化は「第二の創業」だと捉えて、組織改編や開発に取り組んでいると説明した。

年間約170万台を生産するタイ・ホンダの工場=5月、タイ・バンコク(NNA撮影)

<メモ>
タイ・ホンダ
1965年に二輪車生産を開始。タイ運輸省陸運局の統計によると、昨年の国内販売台数(登録ベース)は前年比11.6%増の137万9,001台。市場シェアは76.5%だった。このほか、年間約30万台を輸出。500~650ccの大型バイクやその他の付加価値バイクもタイ・ホンダで生産し、全世界に供給している。

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■根強い「カブ」人気
木村氏はタイを含む東南アジアの二輪車市場について「モーターサイクルが主流のインドとは違い、遠心クラッチを採用したアンダーボーン型(ホンダの商標は「カブ」)で日本のメーカーが作ってきた歴史がある」と説明する。欧州系のスクーターも早くから市場に持ち込まれていたものの、タイヤが大きく耐久性・走破性に優れたカブが悪路の多い東南アジアで市民の生活にマッチし、二輪車市場を拡大させてきた。
ただ都市化の進行に伴い、複数の国でスクーターの比率が上昇。インドネシアでは市場の9割、ベトナムも8割をスクーターが占めるようになった。だがタイでは、ホンダが「ウェーブ」の名称で販売するカブが、現在も市場の50%以上を占めている。
ホンダは「クリック」などの大径タイヤのスクーターをラインアップし、売れ筋となっているものの、それでもスクーターの割合は45%程度。タイでは二輪車の価値を考える上で耐久性に重きを置く人がまだまだ多く、「カブ人気が根強い」(木村氏)という。
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■電動普及の中国は「特殊」
では電動はどうなのか。電動二輪が普及している国といえば中国だが、木村氏は「中国は特殊」だと語る。
中国は年1,500万台を超えるガソリン二輪車市場だったが、10年以上前に広州、上海、北京などで市内へのガソリン二輪車の乗り入れが続々と禁止され、市場が消滅。バイクや自動車が普及する前は自転車天国だった中国の道路にはもともと自転車用レーンが整備されていたことから、ガソリンバイクの代わりに低速の電動自転車や電動スクーターが一気に普及した。
中国製の低速電動スクーターはその後、東南アジアにも入ってきたが「浸透はしていない」と木村氏。値段は手頃ではあるものの、最高時速が基本的に50キロメートル以下と遅く、自動車と同じ道路を走行することが困難なためだ。
だがそれでも木村氏は、タイでも低速電動バイクの市場が生まれる可能性はあるとの見方を示す。配達などの目的で、タイ語で「ソイ」と呼ばれる脇道だけを走行するのであれば、時速20~30キロでも問題ない可能性があるためだ。
そういった可能性を探るため、タイ・ホンダは2020年から電動バイクの実証を始めた。直近ではビジネスユース向けの電動スクーター「BENLY(ベンリィ)e:」をバッテリー交換方式で、ドイツ系食事宅配サービス「フードパンダ」や国営郵便タイランド・ポスト(タイポスト)などに貸し出している。現在は約110台が稼働。リース先から使い勝手や燃費などに関するデータを収集し、開発に役立てている。
ガソリンバイクに乗り慣れた運転手からは、時速65キロでも「遅い」「危ない」との声が上がる。だが木村氏は「実際は加速感が重要なものの時速70キロ程度出れば(バンコクの大通りの走行も)問題はないはず。またガソリン車からの乗り換えが100%ではなく、初めて乗る二輪車が電動バイクだった場合、電動の性能が消費者のスタンダードになることも念頭に置く必要がある」と指摘。安全性などを追求しつつ、さまざまな検証と開発を進めていく考えを示した。
ベンリィe:は、日本郵政で活用されているビジネス向け電動スクーター。ホンダが中国に持つ合弁会社、五羊—本田摩托(広州)(五羊ホンダ)から部品を輸入し、タイ・ホンダの工場で組み立てている。
■電動化は「第二の創業」
タイでは地場企業による中国製電動スクーターのレンタルサービスも増え始めている。
電動スクーターはバッテリーのコストが非常に高く、月々のリース料金はガソリンバイクを購入する際の月々の支払額に比べまだまだ割高だ。だがガソリン代と充電コストを比較した場合、電動バイクの燃費はガソリン車の2分の1以下となる。
エンジン製造をなりわいとしてきたホンダにとって、電動化は全く異なるフィールドへの移行を意味する。技術面でも、消費者の経済性と利便性に見合った製品を打ち出すという点でも難しいかじ取りを迫られているが、「カーボンニュートラルを目指す上での一つの選択肢」としての電動バイク事業を「消費者のニーズに沿える前提でできるだけ早く」形にしていきたいと木村氏。全社的にも電動化は「第二の創業」だと捉えて、組織改編や開発に取り組んでいると説明した。
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タイ・ホンダ
1965年に二輪車生産を開始。タイ運輸省陸運局の統計によると、昨年の国内販売台数(登録ベース)は前年比11.6%増の137万9,001台。市場シェアは76.5%だった。このほか、年間約30万台を輸出。500~650ccの大型バイクやその他の付加価値バイクもタイ・ホンダで生産し、全世界に供給している。" ["post_title"]=> string(84) "二輪の電動化「可能性あり」タイホンダ、実証で未来を手探り" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(198) "%e4%ba%8c%e8%bc%aa%e3%81%ae%e9%9b%bb%e5%8b%95%e5%8c%96%e3%80%8c%e5%8f%af%e8%83%bd%e6%80%a7%e3%81%82%e3%82%8a%e3%80%8d%e3%82%bf%e3%82%a4%e3%83%9b%e3%83%b3%e3%83%80%e3%80%81%e5%ae%9f%e8%a8%bc%e3%81%a7" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2023-06-21 04:00:04" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2023-06-20 19:00:04" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=14018" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
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