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【人口減少時代】少子高齢化の流れ止まらず成長率は5年後に2~3%か

【第1回】マクロ経済編(上)
中国の少子高齢化は既に歯止めがきかない大きな流れとなった。近年の出生数は急減ぶりが際立ち、昨年はついに死亡数を下回り、人口減少局面に突入した。人口減少は需要の減少、働き手の減少という需給両面での課題を生み、経済成長の大きな足かせとなる。識者によると、国内総生産(GDP)成長率は5年後に2~3%に落ち込む可能性がある。

中国政府は1970年代後半から食糧危機防止を主な目的に一人っ子政策を導入。80年代のベビーブームの拡大を抑制し、90年代以降は出生数を低い水準にとどめた。
ただ、政府は10年前に方針を変更した。2013年から出産制限の緩和に着手し、現在までに1組の夫婦が3人の子どもを持てるようにしたほか、出産制限違反に対する罰金を廃止。近年は子育て支援を拡充する方針をたびたび発表しており、事実上多産を奨励する方向にかじを切った。経済発展とともに食糧危機のリスクが減ったほか、出産制限に起因する少子高齢化が深刻化してきたためだ。
■出生数は5年で約5割減少
ただ、出生数は増えるどころか減っているのが実情。22年の出生数は956万人で、17年の1,723万人からわずか5年で45%減った。
東京財団政策研究所の柯隆首席研究員は、中国の出生数が既に負のサイクルに突入しているとの考え。過去の出産制限で出産適齢期の女性が減少してきており、出生数を増やすことが困難になっている上、人口の少ない現在の子どもが大人になれば出生数の増加がさらに困難になるという悪循環に陥っている格好だ。
柯氏はこうした悪循環を踏まえ、人口動態は一度崩れたら元に戻すのに「50~100年かかる」と強調した。
さらに、中国の若者を取り巻く状況が子どもを持つ意欲を抑制しているとみる。介護保険制度が未整備な状況にある中、1組の夫婦は自分たちの親4人の老後を世話しなければならないと説明。住宅価格の高騰が家計を圧迫していることなども、夫婦から複数の子どもを育て上げる余裕を奪っているとの見方を示した。
一方で、死亡者は増え続ける方向にある。一人っ子政策導入前に生まれた人口の多い世代が今後続々と高齢者になるためで、人口の自然増減(出生数から死亡数を引いた数値)をプラスにするのは極めて困難な状況。今年から来年にかけては新型コロナウイルス流行の影響消失で一時的に出生数が増える可能性があるものの、長期的には自然減が続くことがほぼ確実だ。
中国は移民の受け入れに消極的なため、社会増減(人の流入数から流出数を引いた数値)のプラスを期待できず、自然減は人口減少に直結。欧米諸国が出生数の減少に直面しても移民の受け入れで人口を増やし続けられるのとは異なる。
既に14年から減少し続けている生産年齢人口(15~64歳)も今後、減少ペースが速まる可能性が高い。

中国の22年末時点の人口は14億1,175万人だった。国連が22年年央に発表した世界人口推計によると、中国は一般的なシナリオで35年に14億人未満、52年に13億人未満となり、今世紀末には約7億7,000万人となる。悲観的なシナリオでは、29年に14億人を、43年に13億人をそれぞれ割り込み、今世紀末には約5億人にまで減る。米国やインドといった他の大国が少なくとも今世紀中盤まで順調に人口を増やす見通しにあるのとは対照的だ。
■新品経済から中古品経済に
人口減少は経済に大きな影響を与える。
往々にして人々の懸念が集まるのは供給側の影響。働き手の減少が企業活動の拡大を阻害し、良質なモノやサービスを生み出しにくくする。
岡三証券の久保和貴シニアエコノミストは、中国よりひと足早く人口減少局面に入った日本が人手不足に苦しんでいることに触れた上で、働き手の減少が経済に一定の悪影響を与えることは間違いないとの見解を示した。
ただ働き手の減少に関しては、ハイテク技術の導入や高齢者の就労促進といった打つ手が残されているとも指摘。対策を見いだしにくいという意味では、むしろ需要側への影響が「やっかいになる」とみる。
久保氏は需要側に起きる問題を「新品経済から中古品経済への移行」と表現。例として、人口増加に伴って企業の人員が増えていく状況とそうでない状況を比較。「人員が増えていく中では企業はデスクやパソコンといったオフィス用品をどんどん買い足していき、オフィス用品の新品需要を生み出す。一方、人員が減っていく中では、オフィス用品を買い足す必要性が低下し、人が入れ替わっても既存のもの、つまり中古品で間に合わせる傾向が強まる」と説明した。
こうした新品経済の縮小がさまざまな分野で発生するようになると指摘。オフィスを拡張する必要がなくなるためオフィスビルの新規開発需要が減る、新たに家庭を持つ人が減るため住宅の新規開発需要が減る、オフィスビルや住宅の開発が減るため新しい電機設備の需要が減る——といった具合で、経済のダイナミズムが失われていく。

こうした影響が蓄積していくことで、中国のGDP成長率は一層鈍化していく見通し。
柯氏は、成長率が5年後に2~3%に低下すると予測。実際に2~3%となれば、新型コロナの影響が強かった20年(2.2%)と22年(3.0%)以外では改革開放(1970年代後半の市場主義導入)以後の最低となり、いよいよ本格的に低成長時代に突入する。
早い段階で2~3%まで低下する場合は、米中の将来的な経済規模を再考する必要が出てくる。米国議会予算局(CBO)によると、米国の潜在成長率(労働力・資本・生産性の供給3要素から導き出される成長率)は今後もおよそ2%を維持し続ける見通し。2~3%程度の成長率では、中国は米国との差をなかなか詰められず、以前はほぼ確実とされていた米国超えに不透明感が漂い始める。
日本経済研究センターは22年12月、中国が米国を超えるのは困難だとする予測を発表。20年に発表した予測では29年に、21年に発表した予測では33年に米国を上回るとしていたが、22年の予測では35年以前の米国超えはなく、36年以降も「労働力の差から中国が米国を超えることは難しい」と見通した。中国の2022年のGDPは米国の約7割の水準だった。
※「世界最多の人口」。それは長年、中国の最大の魅力であり、中国の力強い経済成長にはかり知れない貢献を果たしてきた。だが、中国の人口は2022年、約60年ぶりに減少。今後も減少が続く見通しで、世界最多の座は既にインドに譲り渡したとみられている。中国社会は人口が減っていく中、どのように変貌し、またどのように変貌する必要があるのか。特集「人口減少時代」では、人口減少時代の中国社会の姿を占う。掲載は不定期。

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中国政府は1970年代後半から食糧危機防止を主な目的に一人っ子政策を導入。80年代のベビーブームの拡大を抑制し、90年代以降は出生数を低い水準にとどめた。
ただ、政府は10年前に方針を変更した。2013年から出産制限の緩和に着手し、現在までに1組の夫婦が3人の子どもを持てるようにしたほか、出産制限違反に対する罰金を廃止。近年は子育て支援を拡充する方針をたびたび発表しており、事実上多産を奨励する方向にかじを切った。経済発展とともに食糧危機のリスクが減ったほか、出産制限に起因する少子高齢化が深刻化してきたためだ。
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ただ、出生数は増えるどころか減っているのが実情。22年の出生数は956万人で、17年の1,723万人からわずか5年で45%減った。
東京財団政策研究所の柯隆首席研究員は、中国の出生数が既に負のサイクルに突入しているとの考え。過去の出産制限で出産適齢期の女性が減少してきており、出生数を増やすことが困難になっている上、人口の少ない現在の子どもが大人になれば出生数の増加がさらに困難になるという悪循環に陥っている格好だ。
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さらに、中国の若者を取り巻く状況が子どもを持つ意欲を抑制しているとみる。介護保険制度が未整備な状況にある中、1組の夫婦は自分たちの親4人の老後を世話しなければならないと説明。住宅価格の高騰が家計を圧迫していることなども、夫婦から複数の子どもを育て上げる余裕を奪っているとの見方を示した。
一方で、死亡者は増え続ける方向にある。一人っ子政策導入前に生まれた人口の多い世代が今後続々と高齢者になるためで、人口の自然増減(出生数から死亡数を引いた数値)をプラスにするのは極めて困難な状況。今年から来年にかけては新型コロナウイルス流行の影響消失で一時的に出生数が増える可能性があるものの、長期的には自然減が続くことがほぼ確実だ。
中国は移民の受け入れに消極的なため、社会増減(人の流入数から流出数を引いた数値)のプラスを期待できず、自然減は人口減少に直結。欧米諸国が出生数の減少に直面しても移民の受け入れで人口を増やし続けられるのとは異なる。
既に14年から減少し続けている生産年齢人口(15~64歳)も今後、減少ペースが速まる可能性が高い。

中国の22年末時点の人口は14億1,175万人だった。国連が22年年央に発表した世界人口推計によると、中国は一般的なシナリオで35年に14億人未満、52年に13億人未満となり、今世紀末には約7億7,000万人となる。悲観的なシナリオでは、29年に14億人を、43年に13億人をそれぞれ割り込み、今世紀末には約5億人にまで減る。米国やインドといった他の大国が少なくとも今世紀中盤まで順調に人口を増やす見通しにあるのとは対照的だ。
■新品経済から中古品経済に
人口減少は経済に大きな影響を与える。
往々にして人々の懸念が集まるのは供給側の影響。働き手の減少が企業活動の拡大を阻害し、良質なモノやサービスを生み出しにくくする。
岡三証券の久保和貴シニアエコノミストは、中国よりひと足早く人口減少局面に入った日本が人手不足に苦しんでいることに触れた上で、働き手の減少が経済に一定の悪影響を与えることは間違いないとの見解を示した。
ただ働き手の減少に関しては、ハイテク技術の導入や高齢者の就労促進といった打つ手が残されているとも指摘。対策を見いだしにくいという意味では、むしろ需要側への影響が「やっかいになる」とみる。
久保氏は需要側に起きる問題を「新品経済から中古品経済への移行」と表現。例として、人口増加に伴って企業の人員が増えていく状況とそうでない状況を比較。「人員が増えていく中では企業はデスクやパソコンといったオフィス用品をどんどん買い足していき、オフィス用品の新品需要を生み出す。一方、人員が減っていく中では、オフィス用品を買い足す必要性が低下し、人が入れ替わっても既存のもの、つまり中古品で間に合わせる傾向が強まる」と説明した。
こうした新品経済の縮小がさまざまな分野で発生するようになると指摘。オフィスを拡張する必要がなくなるためオフィスビルの新規開発需要が減る、新たに家庭を持つ人が減るため住宅の新規開発需要が減る、オフィスビルや住宅の開発が減るため新しい電機設備の需要が減る——といった具合で、経済のダイナミズムが失われていく。

こうした影響が蓄積していくことで、中国のGDP成長率は一層鈍化していく見通し。
柯氏は、成長率が5年後に2~3%に低下すると予測。実際に2~3%となれば、新型コロナの影響が強かった20年(2.2%)と22年(3.0%)以外では改革開放(1970年代後半の市場主義導入)以後の最低となり、いよいよ本格的に低成長時代に突入する。
早い段階で2~3%まで低下する場合は、米中の将来的な経済規模を再考する必要が出てくる。米国議会予算局(CBO)によると、米国の潜在成長率(労働力・資本・生産性の供給3要素から導き出される成長率)は今後もおよそ2%を維持し続ける見通し。2~3%程度の成長率では、中国は米国との差をなかなか詰められず、以前はほぼ確実とされていた米国超えに不透明感が漂い始める。
日本経済研究センターは22年12月、中国が米国を超えるのは困難だとする予測を発表。20年に発表した予測では29年に、21年に発表した予測では33年に米国を上回るとしていたが、22年の予測では35年以前の米国超えはなく、36年以降も「労働力の差から中国が米国を超えることは難しい」と見通した。中国の2022年のGDPは米国の約7割の水準だった。
※「世界最多の人口」。それは長年、中国の最大の魅力であり、中国の力強い経済成長にはかり知れない貢献を果たしてきた。だが、中国の人口は2022年、約60年ぶりに減少。今後も減少が続く見通しで、世界最多の座は既にインドに譲り渡したとみられている。中国社会は人口が減っていく中、どのように変貌し、またどのように変貌する必要があるのか。特集「人口減少時代」では、人口減少時代の中国社会の姿を占う。掲載は不定期。
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