インドネシアで近年、1人当たりの食品への支出額が増す中、地場のアグリテック(先端農業技術)企業の成長潜在性が高まっている。エデンファームは、専用アプリを使い農家への生産指導から農産物の仕入れ、飲食事業者への販売まで包括的に農業を支援。先ごろ国営通信テレコムニカシ・インドネシア(テルコム)グループが主導した投資ラウンドで1,350万米ドル(約18億9,000万円)を調達した。今後はテルコムのグループ企業と協力し、作物の生育管理に気象条件を自動で把握する気象センサーの導入を目指すなど、農業の効率化を加速させる。
パートナー農家と畑で対話をするエデンファームのダフィット創業者兼CEO(同社提供)
インドネシア中央統計局によると、2022年の1人当たりの食品支出額(たばこ類を含む)は月額平均66万5,757ルピア(約6,280円)と、前年比で7%増加。支出額は年々増加している。
需要が増す中、17年に設立したエデンファームは、専用アプリなどを通して、◇パートナー農家たちへの農業指導による生産性向上支援◇農家から収穫物を直接購入◇飲食事業者や伝統市場へ販売する企業間取引(BtoB)——を主に手がけている。
現在は、ジャワ島を中心とする約6,000の野菜などの小規模農家と契約しており、エデンファームのアグロノミスト(土壌・農作物管理の専門家)が、農家向けの専用アプリを通して、種まきから収穫に至るまでの必要な作業を指示している。
このアプリを通じて農業指導を受けている農家たちは、収穫物を西ジャワ州チパナスや東ジャワ州マランなどジャワ島の9カ所にあるエデンファームの施設へと持ち込み、買い取ってもらう。また、同施設内には畑が併設されており、農家たちは新しい農作技術を試したり、定期的に技術研修を受けたり、アプリ内だけでなくリアルな場でも学ぶことができる。
エデンファームが買い取った野菜は、当初はカフェを中心に販売していたが、現在はレストランや伝統市場へも販路を広げている。収益の割合はカフェ・レストランが50%、伝統市場が40%、残りは電子商取引(EC)部門となっている。EC部門は自社のアプリで販売するほか、生鮮食品を扱う地場ECアプリ「サユールボックス」やEC大手「ショッピー」などとも協業している。現在の顧客数は約5万社に上る。
取り扱う食材は約200種類で9割が野菜。最も売れているのは、トウガラシとエシャロット、ジャガイモだという。
現在取り扱う食材は、野菜を中心に約200種類=ジャカルタ特別州(NNA撮影)
21年からは飲食事業者の代わりに野菜の皮むきや種取り、魚をさばくなどといった下準備を行うサービスも開始した。現在は顧客の約2割がこのサービスを利用しており、エデンファームのダフィット・スティヤディ・グナワン創業者兼最高経営責任者(CEO)によると下準備にかかる人件費や材料費面など、平均で約30%のコスト削減に寄与できるという。
■資金調達は順調
設立以来、資金調達は順調だ。18年に「プレシード」で地場のベンチャーキャピタル(VC)から2万米ドル(約280万円)を調達した後、19年に「シードラウンド」でスタートアップ支援の米国企業Yコンビネーターから170万米ドル、20年の「プレシリーズA」で28万米ドル、21年の「シリーズA」では1,900万米ドルを調達した。
直近では、携帯電話サービス最大手テルコムセル傘下の通信やITなどのスタートアップ企業を専門に投資するテルコムセル・ミトラ・イノファシ(TMI)などが主導する「プレシリーズB」ラウンドで1,350万米ドルを調達。調達総額は3,450万米ドルとなった。
現在、TMI傘下のデジタル会社テルコムセル・エコシステム・デジタル(インディコ)との協業で、テルコムセルのモノのインターネット(IoT)技術を活用した農業の構築に向けて試験プロジェクトを進めている。
具体的には、農家向けのアプリで使用する生育管理に関する情報は、天候や土壌の状態に応じてエデンファームのアグロノミストが手動で更新しているが、気象条件を自動で把握できる気象センサーなどを導入することで、土壌中のカリウムが不足しているなどといった情報を自動更新できる仕様にすることを目指している。
農家向けの専用アプリと顧客向けのアプリの2種を運営する。写真は顧客向けのアプリ画面=ジャカルタ特別州(NNA撮影)
■米国をモデルケースに
創業者のダフィット氏は、もともと物流会社を経営しており、アグリテックはパイロットプロジェクトとして、西ジャワ州ボゴールで作物を育てたことから始まった。ダフィット氏は、「収穫した野菜は非常に簡単に飲食事業者へ販売できた。食の需要は高く、食材の販売は容易なのに、なぜインドネシアの農家は貧しいのかと疑問を抱いた」と振り返る。
農家たちと対話を重ねていく中で、情報や知識が少なく、インドネシアの広大な土地や気候をうまく活用できていないと感じたという。先端技術の活用で農業を効率化させる現在のビジネスにつながった。
ダフィット氏によると、設立以来、純利益は年平均約5倍のペースで伸びている。
アグリテックビジネスを加速させ、米国のような大規模で効率化された農業を、広大な土地を持つインドネシアでも目指していきたいと意気込んだ。
米国のような大規模で効率化された農業をインドネシアでも目指していきたいと意気込んだダフィット創業者兼CEO=ジャカルタ特別州(NNA撮影)
<会社概要>
エデンファーム:正式社名はエデン・パンガン・インドネシア。17年8月に設立。本社は西ジャカルタにあり、西ジャワ州バンドン、東ジャワ州スラバヤ、中ジャワ州スマランに支店がある。従業員総数は約650人。社名には、エデンという楽園のような場所から全ての国民へ食を供給していきたいという思いが込められている。
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インドネシア中央統計局によると、2022年の1人当たりの食品支出額(たばこ類を含む)は月額平均66万5,757ルピア(約6,280円)と、前年比で7%増加。支出額は年々増加している。
需要が増す中、17年に設立したエデンファームは、専用アプリなどを通して、◇パートナー農家たちへの農業指導による生産性向上支援◇農家から収穫物を直接購入◇飲食事業者や伝統市場へ販売する企業間取引(BtoB)——を主に手がけている。
現在は、ジャワ島を中心とする約6,000の野菜などの小規模農家と契約しており、エデンファームのアグロノミスト(土壌・農作物管理の専門家)が、農家向けの専用アプリを通して、種まきから収穫に至るまでの必要な作業を指示している。
このアプリを通じて農業指導を受けている農家たちは、収穫物を西ジャワ州チパナスや東ジャワ州マランなどジャワ島の9カ所にあるエデンファームの施設へと持ち込み、買い取ってもらう。また、同施設内には畑が併設されており、農家たちは新しい農作技術を試したり、定期的に技術研修を受けたり、アプリ内だけでなくリアルな場でも学ぶことができる。
エデンファームが買い取った野菜は、当初はカフェを中心に販売していたが、現在はレストランや伝統市場へも販路を広げている。収益の割合はカフェ・レストランが50%、伝統市場が40%、残りは電子商取引(EC)部門となっている。EC部門は自社のアプリで販売するほか、生鮮食品を扱う地場ECアプリ「サユールボックス」やEC大手「ショッピー」などとも協業している。現在の顧客数は約5万社に上る。
取り扱う食材は約200種類で9割が野菜。最も売れているのは、トウガラシとエシャロット、ジャガイモだという。[caption id="attachment_14723" align="aligncenter" width="620"]現在取り扱う食材は、野菜を中心に約200種類=ジャカルタ特別州(NNA撮影)[/caption]
21年からは飲食事業者の代わりに野菜の皮むきや種取り、魚をさばくなどといった下準備を行うサービスも開始した。現在は顧客の約2割がこのサービスを利用しており、エデンファームのダフィット・スティヤディ・グナワン創業者兼最高経営責任者(CEO)によると下準備にかかる人件費や材料費面など、平均で約30%のコスト削減に寄与できるという。
■資金調達は順調
設立以来、資金調達は順調だ。18年に「プレシード」で地場のベンチャーキャピタル(VC)から2万米ドル(約280万円)を調達した後、19年に「シードラウンド」でスタートアップ支援の米国企業Yコンビネーターから170万米ドル、20年の「プレシリーズA」で28万米ドル、21年の「シリーズA」では1,900万米ドルを調達した。
直近では、携帯電話サービス最大手テルコムセル傘下の通信やITなどのスタートアップ企業を専門に投資するテルコムセル・ミトラ・イノファシ(TMI)などが主導する「プレシリーズB」ラウンドで1,350万米ドルを調達。調達総額は3,450万米ドルとなった。
現在、TMI傘下のデジタル会社テルコムセル・エコシステム・デジタル(インディコ)との協業で、テルコムセルのモノのインターネット(IoT)技術を活用した農業の構築に向けて試験プロジェクトを進めている。
具体的には、農家向けのアプリで使用する生育管理に関する情報は、天候や土壌の状態に応じてエデンファームのアグロノミストが手動で更新しているが、気象条件を自動で把握できる気象センサーなどを導入することで、土壌中のカリウムが不足しているなどといった情報を自動更新できる仕様にすることを目指している。
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■米国をモデルケースに
創業者のダフィット氏は、もともと物流会社を経営しており、アグリテックはパイロットプロジェクトとして、西ジャワ州ボゴールで作物を育てたことから始まった。ダフィット氏は、「収穫した野菜は非常に簡単に飲食事業者へ販売できた。食の需要は高く、食材の販売は容易なのに、なぜインドネシアの農家は貧しいのかと疑問を抱いた」と振り返る。
農家たちと対話を重ねていく中で、情報や知識が少なく、インドネシアの広大な土地や気候をうまく活用できていないと感じたという。先端技術の活用で農業を効率化させる現在のビジネスにつながった。
ダフィット氏によると、設立以来、純利益は年平均約5倍のペースで伸びている。
アグリテックビジネスを加速させ、米国のような大規模で効率化された農業を、広大な土地を持つインドネシアでも目指していきたいと意気込んだ。
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エデンファーム:正式社名はエデン・パンガン・インドネシア。17年8月に設立。本社は西ジャカルタにあり、西ジャワ州バンドン、東ジャワ州スラバヤ、中ジャワ州スマランに支店がある。従業員総数は約650人。社名には、エデンという楽園のような場所から全ての国民へ食を供給していきたいという思いが込められている。"
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