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コロナ禍で顧客との連携密に広島銀駐在員事務所、支援強化へ

広島銀行シンガポール駐在員事務所が、東南アジアで取引先企業との連携を強めている。新型コロナウイルス流行時に日本の取引先企業とオンライン会議を通じて直接やりとりする機会が増え、域内での商品販売につながった事例も多くある。今後は取引先の輸出、販路拡大の支援体制を強化するほか、瀬戸内産品の情報発信、シンガポール企業の日本への誘致などにも力を入れる。同事務所の大西弘城所長に現状や見通しを聞いた。

「コロナ禍中に域内での商品販売につながった事例も多くある」と語る大西弘城所長=シンガポール中心部(NNA撮影)

——シンガポール駐在員事務所の役割は。
当行は広島、岡山、山口、愛媛の4県を地元と位置付けている。その中心に位置する瀬戸内地域は古くから海運業や造船業が盛んなことから顧客には船主や造船会社が多い。シンガポール駐在員事務所は、海事産業の集積地であるシンガポールでの情報収集や、東南アジアに進出している取引先への支援を強化する目的で2013年に設立した。
管轄範囲はシンガポール、インドネシア、マレーシア、フィリピン、インド、バングラデシュ、ブルネイの7カ国だ。顧客との関係を強化するとともに、現地で入手した情報を日本にフィードバックする役目も果たしている。各国に進出している取引先企業の資金ニーズをくみ取りながら日本側での融資につなげている。
7月中旬には、取引先企業などに新たなビジネス機会を提供することを目的とした「第6回ひろぎんシンガポール広友会」を開催した。15年に第1回を開いて以来、シンガポールで毎年実施していたがコロナ禍での中断を挟み、今回は4年5カ月ぶりの開催となった。会場には約130人が集まった。
——国別の取引先企業の動向は。
シンガポールは海運、造船関連をはじめ、建設、医療関連、飲食、小売りなどのさまざまな企業が事業を展開している。海運業については、コロナ禍による物流の逼迫(ひっぱく)から改めてその重要性が社会で広く認識された。
次いで進出先が多いのはインドネシアだ。ジャカルタ東部郊外の工業団地には自動車関連を中心に多くの製造業が進出している。足元では水産加工や食品製造、再生可能エネルギー関連などの新規進出の相談が寄せられている。
——コロナ禍で取引先企業の動きに変化はあったのか。
渡航や行動の制限で経済活動が停滞する中、海外販路拡大に関する相談はむしろ増加した。要因は2つある。1つはコロナ禍を通じて中小企業をメインとする日本の取引先企業が抵抗なくオンライン会議を使うようになったことだ。これまでは訪問ベースの活動だったため、海外拠点から取引先企業に対して現地情報をダイレクトに伝えることが難しかった。その点、オンライン会議の活用で取引先企業との距離が縮まり情報提供が容易になった。
もう1つは自粛生活によって時間的な余裕が生まれたことだ。少子高齢化が進む日本市場に対して危機感を抱いていた経営者にとっては、自社の成長戦略をじっくりと考える機会になったのではないか。成長著しい東南アジア市場で可処分所得が高く、輸出規制も簡素なシンガポールに事業機会を求める取引先企業からの相談が増えた。
時間的な余裕が生まれた点は海外駐在員も同じだ。シンガポールでは厳格な行動制限で外訪や管轄国への出張ができない時期が長く続いた。空いた時間で日本の取引先企業に対して、仮説に基づく能動的なアプローチを行うなど、海外販路拡大のサポートに注力した。駐在で得られる現地の一次情報と取引先企業の商品やサービスをマッチングさせることによって、新たなビジネスチャンスを提供できると考えた。
こうした動きがシンガポール向けの輸出につながった事例も複数ある。シンガポールへの出店を見据え、市場調査などを進める飲食店も出てきている。調査費用については、海外展開に活用できる補助金の情報を提供し、申請書作成のサポートを実施した。
コロナ禍中にはこのほか、県産品の電子商取引(EC)サイトへの出品や現地食品卸大手を通じたライブコマース(動画のライブ配信と通信販売を同時に行う小売り形態)の実施、現地の日系デパートで瀬戸内の産品を販売するイベントの開催などの取り組みを積極的に行った。
——コロナ禍での体験を通じて感じた課題は。
ライブコマースやイベントの開催は一過性の取り組みになりがちで、継続的な取引につなげるのが難しい。またコロナ収束後の消費行動に「リアル」への揺り戻しの動きがある中、EC販売だけでは地方産品の魅力を伝えきれない。実際に見て触れて感じてもらい、地元の魅力を持続的に情報発信していくリアルの場が必要だと感じている。
広島には山川海の豊かな自然があり、カキやレモン、日本酒などの特産品も多くある。将来的には広島(瀬戸内)の産品、食材を扱う小売・飲食店のような形態のアンテナショップを作りたいとの思いがあり、パートナー企業と共に構想を練っている。
——シンガポール企業の日本への誘致についてはどうか。
これまでは取引先企業の海外進出支援が中心だったが、今後はシンガポール企業を日本に誘致したり、取引先企業とマッチングさせたりする取り組みを強化したい。シンガポールで最近増えているフィンテック(ITを活用した金融サービス)、フードテック(先端食品技術)関連のスタートアップをはじめ現地企業を広島に呼び込みたい。
——外国人旅行者の広島への誘客についてはどうか。
広島には厳島神社と原爆ドームという2つの世界遺産がある。また「サイクリストの聖地」として知られる瀬戸内しまなみ海道や「ラビットアイランド(うさぎ島)」として人気の大久野島など観光資源が豊富にあるが十分にPRしきれておらず、東南アジアの観光客の間では認知度がまだ低い。
訪日旅行者が多いシンガポールでは東京、大阪、京都といった「ゴールデンルート」を行きつくした人も少なくない。こうした層を中心に広島や瀬戸内の観光、食をアピールする活動にも力を入れたい。(聞き手=清水美雪)

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管轄範囲はシンガポール、インドネシア、マレーシア、フィリピン、インド、バングラデシュ、ブルネイの7カ国だ。顧客との関係を強化するとともに、現地で入手した情報を日本にフィードバックする役目も果たしている。各国に進出している取引先企業の資金ニーズをくみ取りながら日本側での融資につなげている。
7月中旬には、取引先企業などに新たなビジネス機会を提供することを目的とした「第6回ひろぎんシンガポール広友会」を開催した。15年に第1回を開いて以来、シンガポールで毎年実施していたがコロナ禍での中断を挟み、今回は4年5カ月ぶりの開催となった。会場には約130人が集まった。
——国別の取引先企業の動向は。
シンガポールは海運、造船関連をはじめ、建設、医療関連、飲食、小売りなどのさまざまな企業が事業を展開している。海運業については、コロナ禍による物流の逼迫(ひっぱく)から改めてその重要性が社会で広く認識された。
次いで進出先が多いのはインドネシアだ。ジャカルタ東部郊外の工業団地には自動車関連を中心に多くの製造業が進出している。足元では水産加工や食品製造、再生可能エネルギー関連などの新規進出の相談が寄せられている。
——コロナ禍で取引先企業の動きに変化はあったのか。
渡航や行動の制限で経済活動が停滞する中、海外販路拡大に関する相談はむしろ増加した。要因は2つある。1つはコロナ禍を通じて中小企業をメインとする日本の取引先企業が抵抗なくオンライン会議を使うようになったことだ。これまでは訪問ベースの活動だったため、海外拠点から取引先企業に対して現地情報をダイレクトに伝えることが難しかった。その点、オンライン会議の活用で取引先企業との距離が縮まり情報提供が容易になった。
もう1つは自粛生活によって時間的な余裕が生まれたことだ。少子高齢化が進む日本市場に対して危機感を抱いていた経営者にとっては、自社の成長戦略をじっくりと考える機会になったのではないか。成長著しい東南アジア市場で可処分所得が高く、輸出規制も簡素なシンガポールに事業機会を求める取引先企業からの相談が増えた。
時間的な余裕が生まれた点は海外駐在員も同じだ。シンガポールでは厳格な行動制限で外訪や管轄国への出張ができない時期が長く続いた。空いた時間で日本の取引先企業に対して、仮説に基づく能動的なアプローチを行うなど、海外販路拡大のサポートに注力した。駐在で得られる現地の一次情報と取引先企業の商品やサービスをマッチングさせることによって、新たなビジネスチャンスを提供できると考えた。
こうした動きがシンガポール向けの輸出につながった事例も複数ある。シンガポールへの出店を見据え、市場調査などを進める飲食店も出てきている。調査費用については、海外展開に活用できる補助金の情報を提供し、申請書作成のサポートを実施した。
コロナ禍中にはこのほか、県産品の電子商取引(EC)サイトへの出品や現地食品卸大手を通じたライブコマース(動画のライブ配信と通信販売を同時に行う小売り形態)の実施、現地の日系デパートで瀬戸内の産品を販売するイベントの開催などの取り組みを積極的に行った。
——コロナ禍での体験を通じて感じた課題は。
ライブコマースやイベントの開催は一過性の取り組みになりがちで、継続的な取引につなげるのが難しい。またコロナ収束後の消費行動に「リアル」への揺り戻しの動きがある中、EC販売だけでは地方産品の魅力を伝えきれない。実際に見て触れて感じてもらい、地元の魅力を持続的に情報発信していくリアルの場が必要だと感じている。
広島には山川海の豊かな自然があり、カキやレモン、日本酒などの特産品も多くある。将来的には広島(瀬戸内)の産品、食材を扱う小売・飲食店のような形態のアンテナショップを作りたいとの思いがあり、パートナー企業と共に構想を練っている。
——シンガポール企業の日本への誘致についてはどうか。
これまでは取引先企業の海外進出支援が中心だったが、今後はシンガポール企業を日本に誘致したり、取引先企業とマッチングさせたりする取り組みを強化したい。シンガポールで最近増えているフィンテック(ITを活用した金融サービス)、フードテック(先端食品技術)関連のスタートアップをはじめ現地企業を広島に呼び込みたい。
——外国人旅行者の広島への誘客についてはどうか。
広島には厳島神社と原爆ドームという2つの世界遺産がある。また「サイクリストの聖地」として知られる瀬戸内しまなみ海道や「ラビットアイランド(うさぎ島)」として人気の大久野島など観光資源が豊富にあるが十分にPRしきれておらず、東南アジアの観光客の間では認知度がまだ低い。
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