バンコクのショッピングモール「サイアム・パラゴン」で今月3日に起きた発砲事件は、タイで生活する人々に大きな衝撃を与えた。国内で断続的に発生する爆発事件や無差別の発砲事件に対し、在タイ企業は平常時にどのような対策を立て、緊急時にどのように対処するのか。8万人近い日本人が在留するタイで、従業員や家族の安全確保について日系企業が担う責任は大きく、対策は急務だ。
今月3日に発砲事件が起きた「サイアム・パラゴン」(写真)では警備体制が強化されたものの、その他の多くのモールでは以前と変わっておらず注意が必要だ=タイ・バンコク(NNA撮影)
日本の外務省の統計(2022年)によると、タイに在留する邦人は7万8,431人でこのうち首都バンコクは5万6,232人を占める。死者2人を出した3日の発砲事件はバンコクの中心部で起き、日本人も日常的に利用する商業施設での出来事だっただけに、衝撃は大きい。新型コロナウイルス感染症が収束し、タイを訪れる外国人旅行者は増加の一途をたどる。バンコク各地で人が密集することが常態化するなか、企業は従業員と家族が直面しうるリスクに向き合う必要がある。
タイでは11年以降に約1,000件のテロが起きており深南部が900件以上を占めるが、バンコクも例外ではない。15年にエラワン廟(びょう)前で起きた爆発事件では、20人が死亡。20年には、高架鉄道(BTS)戦勝記念塔駅近くの商業施設「センチュリー・ザ・ムービープラザ」の美容クリニックで男が銃を発砲し、女性従業員2人が死傷する事件があった。
タイのショッピングモールの入り口には金属探知機が置いてあることが多く、3日の発砲事件後には銃の持ち込みを防げなかったサイアム・パラゴンの警備体制に対して批判の声が上がった。タイ国東京海上火災保険でリスク対策の支援をする城野崇氏(シニアリスクコンサルタント)は、「今回の現場となったサイアム・パラゴンと近隣のセントラル・ワールドでは、入館者全員の手荷物の中を調べるようになった。サイアム・パラゴンでは駐車場に入る車に対してもチェックを実施していた」とし、事件前よりもセキュリティーのレベルが引き上げられたことを確認できたと話す。
一方で、「別の大型モールでは事件前とほぼ同じく形式的な検査をするにとどまり、セキュリティーが強化されたとはいえない」と指摘する。サイアム・パラゴンと近隣の施設で安全管理が強化されたとしても、「同じような施設であれば、警備が手薄な場所が標的になりやすく、注意が必要だ」との見方を示した。
タイでは銃の所有率が高く、乱射事件が起きやすい素地がある。22年に大麻が解禁されたことで一般人でも容易に入手できる状況にあるほか、違法薬物のメタンフェタミンの売買も横行している。22年に東北部ノンブアランプー県で起き子ども24人を含む37人が死亡した銃乱射事件の犯人は、メタンフェタミン所持で免職された元警察官だった。治安の悪化と違法薬物の関連性について明確なデータはないものの、銃の所持率の高さを考えれば潜在的なリスクは否定できない。
また、爆発物を使ったテロが多いのも、タイの特徴。城野氏は「爆弾テロは一度爆発させた後に、出入り口など逃げた人々が集まりそうな場所に仕掛けておいた別の爆弾で、まとめて殺傷する手口がオーソドックス」だと説明。このため、「爆発が起きた場所に興味本位で近づくことは避け、すみやかに周囲から離れるべきだ」と話した。
■危機管理サービスの提供も
従業員と家族の安全を確保する上で、在タイ企業の責任は大きい。企業の管理者は、平常時から連絡網を確立しておくことや、負傷者が出た場合の対応策を確認しておく必要がある。日系企業の場合、現地法人の幹部が全ての対策を立てるのは簡単ではないが、城野氏は「保険会社やセキュリティー企業が危機管理やリスク管理サービスを提供している」と話し、「タイを含む海外で危機が発生した場合に備えた、海外危機管理に関連する教育・訓練を提供している」と話す。
例えば東京海上グループでは、過去の事例に則してワークショップなどを通じて対応を学ぶセミナーを提供。避難や安否確認の要領を学ぶ訓練や、事業の継続が困難な状況に直面した場合を想定し、日本本社と現地法人の連携要領や役割分担などをシミュレーションする訓練なども提供しているという。
テロや銃撃のリスクとは異なるが、タイで日本人が巻き込まれている犯罪には、すりや置引、詐欺のほかに、ひったくりや強盗、睡眠薬強盗なども目立つという。城野氏は「深夜にひとりで出歩かない、歓楽街や繁華街、スラム街に近づかない」「夜間にひとりでタクシーや乗り合いタクシーに乗らない」「初対面の人と飲食するときは、飲食物に注意する」といった基本を守り、個人の危機管理としても常に心がけていく必要があると説明した。
関連記事:「タイ・リスク講座2023~24」(10月11日付「第2回 タイにおけるテロ・無差別攻撃」)
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タイでは11年以降に約1,000件のテロが起きており深南部が900件以上を占めるが、バンコクも例外ではない。15年にエラワン廟(びょう)前で起きた爆発事件では、20人が死亡。20年には、高架鉄道(BTS)戦勝記念塔駅近くの商業施設「センチュリー・ザ・ムービープラザ」の美容クリニックで男が銃を発砲し、女性従業員2人が死傷する事件があった。
タイのショッピングモールの入り口には金属探知機が置いてあることが多く、3日の発砲事件後には銃の持ち込みを防げなかったサイアム・パラゴンの警備体制に対して批判の声が上がった。タイ国東京海上火災保険でリスク対策の支援をする城野崇氏(シニアリスクコンサルタント)は、「今回の現場となったサイアム・パラゴンと近隣のセントラル・ワールドでは、入館者全員の手荷物の中を調べるようになった。サイアム・パラゴンでは駐車場に入る車に対してもチェックを実施していた」とし、事件前よりもセキュリティーのレベルが引き上げられたことを確認できたと話す。
一方で、「別の大型モールでは事件前とほぼ同じく形式的な検査をするにとどまり、セキュリティーが強化されたとはいえない」と指摘する。サイアム・パラゴンと近隣の施設で安全管理が強化されたとしても、「同じような施設であれば、警備が手薄な場所が標的になりやすく、注意が必要だ」との見方を示した。
タイでは銃の所有率が高く、乱射事件が起きやすい素地がある。22年に大麻が解禁されたことで一般人でも容易に入手できる状況にあるほか、違法薬物のメタンフェタミンの売買も横行している。22年に東北部ノンブアランプー県で起き子ども24人を含む37人が死亡した銃乱射事件の犯人は、メタンフェタミン所持で免職された元警察官だった。治安の悪化と違法薬物の関連性について明確なデータはないものの、銃の所持率の高さを考えれば潜在的なリスクは否定できない。
また、爆発物を使ったテロが多いのも、タイの特徴。城野氏は「爆弾テロは一度爆発させた後に、出入り口など逃げた人々が集まりそうな場所に仕掛けておいた別の爆弾で、まとめて殺傷する手口がオーソドックス」だと説明。このため、「爆発が起きた場所に興味本位で近づくことは避け、すみやかに周囲から離れるべきだ」と話した。
■危機管理サービスの提供も
従業員と家族の安全を確保する上で、在タイ企業の責任は大きい。企業の管理者は、平常時から連絡網を確立しておくことや、負傷者が出た場合の対応策を確認しておく必要がある。日系企業の場合、現地法人の幹部が全ての対策を立てるのは簡単ではないが、城野氏は「保険会社やセキュリティー企業が危機管理やリスク管理サービスを提供している」と話し、「タイを含む海外で危機が発生した場合に備えた、海外危機管理に関連する教育・訓練を提供している」と話す。
例えば東京海上グループでは、過去の事例に則してワークショップなどを通じて対応を学ぶセミナーを提供。避難や安否確認の要領を学ぶ訓練や、事業の継続が困難な状況に直面した場合を想定し、日本本社と現地法人の連携要領や役割分担などをシミュレーションする訓練なども提供しているという。
テロや銃撃のリスクとは異なるが、タイで日本人が巻き込まれている犯罪には、すりや置引、詐欺のほかに、ひったくりや強盗、睡眠薬強盗なども目立つという。城野氏は「深夜にひとりで出歩かない、歓楽街や繁華街、スラム街に近づかない」「夜間にひとりでタクシーや乗り合いタクシーに乗らない」「初対面の人と飲食するときは、飲食物に注意する」といった基本を守り、個人の危機管理としても常に心がけていく必要があると説明した。
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