マレーシアからシンガポールへの頭脳流出が止まらない。対米ドルで26年前のアジア通貨危機以来の水準まで下落している通貨リンギは、対シンガポールドルでも低迷。高所得国入りに向けてアクセルを踏むマレーシア政府はシンガポール移住者の帰還を促すが、両国の給与格差や国内の政治問題も相まって、スキルのある労働者を中心に将来を悲観した人々の移住が続いている。複雑に絡み合った両国の歴史的経緯や経済的な背景から、人的資源を含むマレーシアからの資本流出が長期的に両国の発展を阻む可能性があるとの指摘も出ている。
高給と強い通貨を背景に、マレーシアからシンガポールへの移住は後を絶たない=シンガポール中心部(NNA撮影)
マレーシア統計局が先月公表したシンガポールとブルネイに住むマレーシア人を対象とした調査結果では、シンガポールに移住したマレーシア人労働者の38%が現地企業に雇用され、残る62%は起業、教育・研究などの活動に従事しているか、シンガポール人と結婚している。
年齢別では、20歳未満が20%、25~39歳が48%、40歳以上が32%。民族別では、華人系が46.2%、マレー系が40.2%、インド系が11.3%だった。出身地では、シンガポールと国境を接するジョホール州が最多の38.3%を占めた。
シンガポールに住むマレーシア人労働者の74%は高技能もしくは中技能労働者。職種は事務職が最も多い24%、専門職が20%、工場・機械オペレーターや組み立て作業員が15%だった。
全体の66.7%は1カ月当たり1,500~3,599シンガポールドル(Sドル、約16万8,000~40万3,000円)を稼ぎ、18.5%は3,600~9,999Sドルを稼いでいる。
マレーシアの正規雇用者(フォーマルセクター)の月給中央値が昨年9月時点で2,600リンギ(約8万2,700円)であることを勘案すれば、同じスキルでもシンガポールに行けば2~3倍稼げるとみることもできる。回答者の最高給与額は、1万8,000Sドルだった。
両国間の生活コストの差はあるものの、統計局は「(シンガポールとブルネイに住む)マレーシア人労働者は雇用の見通し、労働条件、高給、為替レート、生活環境の良さに魅力を感じている」と指摘している。
調査では、62%が今後もシンガポールで働き続ける予定とする一方、20%にはそうした意思はなく、18%は将来は未定とした。
■移民増が両国のリスクにも
シンガポール側としては、出生率が下げ止まらない中、社会を維持するために移民の受け入れは欠かせない。特に、両国の歴史的経緯から言語や生活習慣、文化面でのあつれきが少ないマレーシア人はうってつけだ。
ただ、移民政策によってマレーシアをはじめとする域内他国から優秀な人材を獲得したシンガポールが独り勝ちするかといえば、必ずしもそうではないとの見方もある。
都市国家で人口や国土の面積に限りがあり、事業コストがうなぎ上りとなっているシンガポールは、東南アジアの事業ハブとなっても市場にはなりにくい。人材流出によって競争力を失ったマレーシアをはじめとする東南アジア域内の成長が停滞した場合、対外貿易に大きく依存するシンガポールも打撃を受ける可能性があるとの指摘もある。
■資本流出で通貨安加速
マレーシアからの頭脳流出は昨今始まった問題ではない。給与水準の低さと民族間のあつれきから、長年にわたって優秀な人材がより良い待遇を求めてシンガポールやオーストラリア、欧米に移住することが社会問題となってきた。新型コロナウイルス禍で、海外で職を失った人々が帰国する流れが一時的に強まったものの、再び海外に移住しようという動きが出ているようだ。
特に、足元のリンギ安は米国との金利差や地政学的懸念、世界経済の先行き不透明感など外部環境によるものではなく、国内の構造的問題だとの指摘も出ている。将来への悲観が海外移住や対外投資を加速させ、人的資本の流出や通貨の持ち出しを招いているとする見方だ。
アンワル・イブラヒム首相率いる与党・人民正義党(PKR)に所属するウォン・チェン下院議員は先に、中間層からの信頼低下、国内にはびこる縁故資本主義が資本流出を招き、リンギを下落させていると主張している。
一方、統計局は、頭脳流出による国力の低下に警鐘を鳴らしつつ、マレーシアの地元教育機関による教育が世界に通用するレベルであることや、海外から帰国した人材が新たな知識やスキルを国内に持ち込む可能性に着目すべきだとも提言。その上で、政府には海外経験者が専門知識を生かせるよう労働市場を刷新し、次世代産業育成で質の高い雇用を生み出すよう呼びかけた。こうした対応が、ひいては自国通貨の価値向上や給与水準に寄与するとしている。
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年齢別では、20歳未満が20%、25~39歳が48%、40歳以上が32%。民族別では、華人系が46.2%、マレー系が40.2%、インド系が11.3%だった。出身地では、シンガポールと国境を接するジョホール州が最多の38.3%を占めた。
シンガポールに住むマレーシア人労働者の74%は高技能もしくは中技能労働者。職種は事務職が最も多い24%、専門職が20%、工場・機械オペレーターや組み立て作業員が15%だった。
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マレーシアの正規雇用者(フォーマルセクター)の月給中央値が昨年9月時点で2,600リンギ(約8万2,700円)であることを勘案すれば、同じスキルでもシンガポールに行けば2~3倍稼げるとみることもできる。回答者の最高給与額は、1万8,000Sドルだった。
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調査では、62%が今後もシンガポールで働き続ける予定とする一方、20%にはそうした意思はなく、18%は将来は未定とした。
■移民増が両国のリスクにも
シンガポール側としては、出生率が下げ止まらない中、社会を維持するために移民の受け入れは欠かせない。特に、両国の歴史的経緯から言語や生活習慣、文化面でのあつれきが少ないマレーシア人はうってつけだ。
ただ、移民政策によってマレーシアをはじめとする域内他国から優秀な人材を獲得したシンガポールが独り勝ちするかといえば、必ずしもそうではないとの見方もある。
都市国家で人口や国土の面積に限りがあり、事業コストがうなぎ上りとなっているシンガポールは、東南アジアの事業ハブとなっても市場にはなりにくい。人材流出によって競争力を失ったマレーシアをはじめとする東南アジア域内の成長が停滞した場合、対外貿易に大きく依存するシンガポールも打撃を受ける可能性があるとの指摘もある。
■資本流出で通貨安加速
マレーシアからの頭脳流出は昨今始まった問題ではない。給与水準の低さと民族間のあつれきから、長年にわたって優秀な人材がより良い待遇を求めてシンガポールやオーストラリア、欧米に移住することが社会問題となってきた。新型コロナウイルス禍で、海外で職を失った人々が帰国する流れが一時的に強まったものの、再び海外に移住しようという動きが出ているようだ。
特に、足元のリンギ安は米国との金利差や地政学的懸念、世界経済の先行き不透明感など外部環境によるものではなく、国内の構造的問題だとの指摘も出ている。将来への悲観が海外移住や対外投資を加速させ、人的資本の流出や通貨の持ち出しを招いているとする見方だ。
アンワル・イブラヒム首相率いる与党・人民正義党(PKR)に所属するウォン・チェン下院議員は先に、中間層からの信頼低下、国内にはびこる縁故資本主義が資本流出を招き、リンギを下落させていると主張している。
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