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うんちく魅力、市場規模拡大欧州大手も中国産ウイスキー着手

中国でウイスキー人気が高まっている。飲んで語れる「蘊蓄(うんちく)」の世界が魅力で、中国の愛好家が増加。市場規模は直近10年で4倍以上に拡大しており、欧州のウイスキー大手も中国産ウイスキーの生産に着手している。流行に敏感な若者世代が消費をけん引し、市場規模は今後も大きく広がることが見込まれている。【畠沢優子】
欧米発祥の酒とアジアの酒の違いはどこにあるか。日本産酒類の貿易業務などを手がける上海頌福実業の吉本哲平総経理は、「まずは色みだ」と説明する。白酒(パイチュウ、中国の蒸留酒)や日本酒、焼酎は無色透明が多い。一方、赤ワインやウイスキーは色がある。ウイスキーは樽(たる)で寝かせる熟成(貯蔵)工程で樽から色味や風味などが移り、琥珀(こはく)色で芳醇(ほうじゅん)な香りのする液体に変化する。
各蒸留所の熟成工程やその土地の風土などによって、生産されるシングルモルトウイスキー(単一蒸留所の原酒で造られるウイスキー)は強い個性を持つものが多い。そういった各ブランドが持つ物語、特長を語るという“うんちく”の世界は、趣味を極めることを重んじる中国の人にとって魅力的に映る。グラスで飲むさまも格好がいい。そうしたことから昔は中国の富裕層に好まれた。
近年は中産階級の拡大で、沿海部の大都市には気軽にウイスキーが楽しめるバーが急増し、需要を喚起している。
ウイスキーの需要は目立って増えている。中国税関総署によると、中国の2023年のウイスキー輸入量は3,200万リットルを超え、19年から5割以上増えた。

■外資が現地工場
21年は「中国ウイスキー元年」と指摘されている。ウイスキーの消費が伸びていることに加え、中国の未来の需要を見据えて、海外のウイスキー大手が中国での現地生産に乗り出したからだ。
フランスのペルノ・リカールは21年8月、四川省峨眉山市でモルトウイスキー工場を稼働した。増産などに向けて21年からの10年で10億元(約220億円)を投じる計画も示した。中国産ウイスキーのブランドを「畳川」と命名し、23年12月から正式に売り出した。現在の年産能力は約400万本という。
英ディアジオも21年11月、雲南省大理ペー族自治州ジ源県(ジ=さんずいに耳)で、5億元を投じてシングルモルトウイスキーを生産すると発表した。工場は今年3月に稼働し、年産能力は230万リットル。
英アンガス・ダンディーは今年4月、浙江省杭州市の千島湖でウイスキー工場を着工した。投資額は7億元。25年10月に稼働して、年産能力は300万リットルとなる見通しだ。
外資だけでなく、国内の酒類大手もウイスキーの生産に着手。白酒の安徽古井貢酒や瀘州老窖、四川郎酒、ビールメーカーの北京燕京ビールなど複数社がウイスキーの生産、開発に動いている。
業界団体の中国酒業協会によると、中国(中華圏含む)でウイスキーの生産資格を取得した法人は23年末時点で42社。うち稼働したのは26社だった。中国本土の年産能力は蒸留ベースで4万5,000キロリットル、製品ベースで約5万キロリットル。樽の保有量は前年比50%増の45万樽となった。
中国でウイスキー生産を手がける国内外の企業は今後も増えると予想され、生産能力は拡大に向かうと考えられる。

ペルノ・リカールが手がける中国産ウイスキー「畳川」(同社サイトより)

■若者が消費けん引
今後は流行に敏感な若者がウイスキーの消費を促すけん引役となりそうだ。
吉本氏は経済力のある大都市の上海市や北京市、広東省深セン市、広州市からウイスキーが飲めるバーが広がり、大都市での店舗数は現在までに飽和状態にあると指摘する。現在は2級、3級都市と呼ばれる地方都市でバーが増えており、ウイスキーの消費も全国的に拡大するとみている。
中国に30年以上滞在する日本人の酒類専門家も、「大都市圏にあるバーでは若者が普通にウイスキーを飲んでいる」と話す。最初はファッションとして手に取り、うんちくを覚えてウイスキーの愛好家となる人が多いという。
中国の若者はチャレンジ精神が旺盛で、自分のブランディングに熱心な人が目立つ。そうした若者がインフルエンサーとなることで、若年層全体がウイスキーの消費をけん引していくと指摘する声は多い。
お金に余裕がある熟年層も合わせ、中国ではウイスキー消費層の厚みが増す流れにある。ディアジオの幹部は21年、「ウイスキーが中国の酒類消費に占める割合はまだ小さいが、非常に大きな伸びしろが期待できる」との見方を示した。
市場も順調に育っている。中国酒業協会によると、中国ウイスキー市場の23年の規模は55億元となり、13年の12億8,800万元から4.3倍に拡大した。
市場は今後も伸び続ける見通しで、申港証券は25年の市場規模が22億5,000万米ドル(約3,600億円)を超えるとの見方を示した。23年から約3倍となる計算だ。米金融大手モルガン・スタンレーは中国の30年の市場規模を150億米ドルと予測し、ウイスキー消費量の半分以上を34歳以下の都市住民が占めるとみている。

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欧米発祥の酒とアジアの酒の違いはどこにあるか。日本産酒類の貿易業務などを手がける上海頌福実業の吉本哲平総経理は、「まずは色みだ」と説明する。白酒(パイチュウ、中国の蒸留酒)や日本酒、焼酎は無色透明が多い。一方、赤ワインやウイスキーは色がある。ウイスキーは樽(たる)で寝かせる熟成(貯蔵)工程で樽から色味や風味などが移り、琥珀(こはく)色で芳醇(ほうじゅん)な香りのする液体に変化する。
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近年は中産階級の拡大で、沿海部の大都市には気軽にウイスキーが楽しめるバーが急増し、需要を喚起している。
ウイスキーの需要は目立って増えている。中国税関総署によると、中国の2023年のウイスキー輸入量は3,200万リットルを超え、19年から5割以上増えた。

■外資が現地工場
21年は「中国ウイスキー元年」と指摘されている。ウイスキーの消費が伸びていることに加え、中国の未来の需要を見据えて、海外のウイスキー大手が中国での現地生産に乗り出したからだ。
フランスのペルノ・リカールは21年8月、四川省峨眉山市でモルトウイスキー工場を稼働した。増産などに向けて21年からの10年で10億元(約220億円)を投じる計画も示した。中国産ウイスキーのブランドを「畳川」と命名し、23年12月から正式に売り出した。現在の年産能力は約400万本という。
英ディアジオも21年11月、雲南省大理ペー族自治州ジ源県(ジ=さんずいに耳)で、5億元を投じてシングルモルトウイスキーを生産すると発表した。工場は今年3月に稼働し、年産能力は230万リットル。
英アンガス・ダンディーは今年4月、浙江省杭州市の千島湖でウイスキー工場を着工した。投資額は7億元。25年10月に稼働して、年産能力は300万リットルとなる見通しだ。
外資だけでなく、国内の酒類大手もウイスキーの生産に着手。白酒の安徽古井貢酒や瀘州老窖、四川郎酒、ビールメーカーの北京燕京ビールなど複数社がウイスキーの生産、開発に動いている。
業界団体の中国酒業協会によると、中国(中華圏含む)でウイスキーの生産資格を取得した法人は23年末時点で42社。うち稼働したのは26社だった。中国本土の年産能力は蒸留ベースで4万5,000キロリットル、製品ベースで約5万キロリットル。樽の保有量は前年比50%増の45万樽となった。
中国でウイスキー生産を手がける国内外の企業は今後も増えると予想され、生産能力は拡大に向かうと考えられる。
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■若者が消費けん引
今後は流行に敏感な若者がウイスキーの消費を促すけん引役となりそうだ。
吉本氏は経済力のある大都市の上海市や北京市、広東省深セン市、広州市からウイスキーが飲めるバーが広がり、大都市での店舗数は現在までに飽和状態にあると指摘する。現在は2級、3級都市と呼ばれる地方都市でバーが増えており、ウイスキーの消費も全国的に拡大するとみている。
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中国の若者はチャレンジ精神が旺盛で、自分のブランディングに熱心な人が目立つ。そうした若者がインフルエンサーとなることで、若年層全体がウイスキーの消費をけん引していくと指摘する声は多い。
お金に余裕がある熟年層も合わせ、中国ではウイスキー消費層の厚みが増す流れにある。ディアジオの幹部は21年、「ウイスキーが中国の酒類消費に占める割合はまだ小さいが、非常に大きな伸びしろが期待できる」との見方を示した。
市場も順調に育っている。中国酒業協会によると、中国ウイスキー市場の23年の規模は55億元となり、13年の12億8,800万元から4.3倍に拡大した。
市場は今後も伸び続ける見通しで、申港証券は25年の市場規模が22億5,000万米ドル(約3,600億円)を超えるとの見方を示した。23年から約3倍となる計算だ。米金融大手モルガン・スタンレーは中国の30年の市場規模を150億米ドルと予測し、ウイスキー消費量の半分以上を34歳以下の都市住民が占めるとみている。" ["post_title"]=> string(84) "うんちく魅力、市場規模拡大欧州大手も中国産ウイスキー着手" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(198) "%e3%81%86%e3%82%93%e3%81%a1%e3%81%8f%e9%ad%85%e5%8a%9b%e3%80%81%e5%b8%82%e5%a0%b4%e8%a6%8f%e6%a8%a1%e6%8b%a1%e5%a4%a7%e6%ac%a7%e5%b7%9e%e5%a4%a7%e6%89%8b%e3%82%82%e4%b8%ad%e5%9b%bd%e7%94%a3%e3%82%a6" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2024-07-23 04:00:03" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2024-07-22 19:00:03" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=21227" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
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