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マレーシア、高所得国入り目前東南ア2カ国の中進国の罠(上)

マレーシアが、2020年代後半に世界銀行が定める「高所得国」の基準に到達するのが確実な情勢だ。同国は長らく「中進国」にとどまっており、タイと同じく「中進国の罠」を抜け出すことが課題となっていた。産業の高度化に成功し旺盛な内需で、イスラム 教徒が多数を占める工業国で世界初となる高所得国入りを目前にするマレーシアと、中進国の壁を越える糸口が見えない隣国のタイ。両国の明暗を分けた要因を、専門家に聞いた。

マレーシアは2020年代後半に世銀が定める高所得国入りが確実視されている=クアラルンプール(NNA撮影)

世銀が定める「高所得国」の定義は、1人当たりの国民総所得(GNI)が1万4,005米ドル(約205万円)とされる。東南アジアでは、シンガポールが23年時点で7万590米ドル、マレーシアが1万1,970米ドル、タイは7,180米ドル、インドネシアは4,870米ドルなどとなる。
世銀は毎年、「高所得国」や「上位中所得国」「下位中所得国」「低所得国」の4つの分類に関する基準を改訂しているほか、基準に到達するには米ドルと自国通貨の為替レートの変動やインフレ率といった要素もからむ。これらの要因によって多少時期が前後する可能性があるものの、マレーシアは20年代後半には高所得国入りすると予想されている。イスラム教徒が多数を占める工業国では、トルコが一時高所得国入りに近づいたが実現しておらず、マレーシアが世界初になるといわれている。
マレーシアの1997~2023年の経済成長率は、平均で4.4%。通貨危機の影響を脱した1999~2008年は5.6%、リーマンショック後の10~19年は5.3%、コロナ後の21~23年は5.2%となる。日本や香港、台湾、中国、シンガポールといった成長期のアジア諸国・地域ほどの勢いはなかったものの、マレーシアは安定的に経済を拡大して来たといえる。同じ時期に隣国タイの成長率は通貨危機後が4.9%、リーマンショック後は3.6%、コロナ後は2%と減速を続けているのとは、対照的といえる。

■産業高度化の成否
「『中進国の罠』とは、端的に言えば産業高度化の失敗」。アジア経済研究所の熊谷聡氏(開発研究センター主任調査研究員)は、先に上梓した「マレーシアに学ぶ経済発展戦略」(同研究所の地域研究センター長、中村正志氏との共著)でこう指摘する。マレーシアは50年前から米国企業を中心に半導体産業への投資を誘致しており、パッケージングとテストを中心とする後工程に限定されているとはいえ高度化を実現している。熊谷氏は「現地の人材の層は着実に厚くなっており、米系企業の現地化が進んでいる」とし、「最先端のパッケージングに対応できるようになっているほか、そこから独立する地場企業も出始めている」と説明する。人件費の上昇に伴って一部の外資系企業はマレーシアからは撤退したものの、大きな流れにはなっていない。
他方、タイは産業高度化政策「タイランド4.0」を掲げ、「次世代自動車・部品」や「電気・電子」「石油化学・化学品」「医療」「バイオテクノロジー」「デジタル産業」「航空」「オートメーション・ロボット」といった分野を重点産業(「Sカーブ」「新Sカーブ」)に指定。投資誘致に力を入れている。みずほリサーチ&テクノロジーズの江頭勇太・上席主任エコノミストは「タイは自動車産業の高度化ではある程度現実味があるものの、半導体では現地人材の英語力や技術力でマレーシアに見劣りし、難しいのでは」との見方を示す。
自動車については中国の電気自動車(EV)メーカーがタイでの生産を開始し、新規の登録数も年間8万台近くになるなど、一定の成果を収めている。一方、電機については、「コロナ禍での家電特需や近年の半導体需要の拡大サイクルのなかでも、タイの輸出は他のアジア諸国と比較して回復ペースが非常に弱い」(江頭氏)のが現状。江頭氏は「豊富な農業資源があるので、強いて言えばバイオの分野ではチャンスがあるかもしれない」と見る。

■「資源の呪い」脱する
マレーシアにとって産業高度化の足かせになりかねなかったのが、産油国であるがゆえの「資源の呪い」だった。原油や資源を産出する国は輸出を通じて比較的容易に外貨を獲得し、国内経済を拡大できると見られがちだが、実際はそうならないケースが多い。熊谷氏はマレーシアについて「00年代に原油価格が上昇し資源部門が伸長したため、投資や人材といった経営資源がこの分野に集中した結果、生産性の向上や産業の高度化は停滞した」と分析する。
「中進国の罠」にはまりかけた状態だったと言えるが、マレーシアの場合は石油の輸出がそれほど大規模ではなく、依存の度合いが低かったことが幸いした。また、国営石油企業のペトロナスが政府との距離を適切に取ることで癒着を避け、利益を国外への投資に回したことで無駄な支出を抑えて持続的な成長を実現し、通貨リンギの為替が高くなることを回避できたことが大きいという。23年のマレーシアの輸出額に占める製造業の割合は85.4%、鉱業は7.4%、農業は6.6%。「1980年時点で、輸出に占める一次産品と関連製品の割合は80%を超えていた」(熊谷氏)が、方向転換を果たしたといえる。

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■産業高度化の成否
「『中進国の罠』とは、端的に言えば産業高度化の失敗」。アジア経済研究所の熊谷聡氏(開発研究センター主任調査研究員)は、先に上梓した「マレーシアに学ぶ経済発展戦略」(同研究所の地域研究センター長、中村正志氏との共著)でこう指摘する。マレーシアは50年前から米国企業を中心に半導体産業への投資を誘致しており、パッケージングとテストを中心とする後工程に限定されているとはいえ高度化を実現している。熊谷氏は「現地の人材の層は着実に厚くなっており、米系企業の現地化が進んでいる」とし、「最先端のパッケージングに対応できるようになっているほか、そこから独立する地場企業も出始めている」と説明する。人件費の上昇に伴って一部の外資系企業はマレーシアからは撤退したものの、大きな流れにはなっていない。
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自動車については中国の電気自動車(EV)メーカーがタイでの生産を開始し、新規の登録数も年間8万台近くになるなど、一定の成果を収めている。一方、電機については、「コロナ禍での家電特需や近年の半導体需要の拡大サイクルのなかでも、タイの輸出は他のアジア諸国と比較して回復ペースが非常に弱い」(江頭氏)のが現状。江頭氏は「豊富な農業資源があるので、強いて言えばバイオの分野ではチャンスがあるかもしれない」と見る。

■「資源の呪い」脱する
マレーシアにとって産業高度化の足かせになりかねなかったのが、産油国であるがゆえの「資源の呪い」だった。原油や資源を産出する国は輸出を通じて比較的容易に外貨を獲得し、国内経済を拡大できると見られがちだが、実際はそうならないケースが多い。熊谷氏はマレーシアについて「00年代に原油価格が上昇し資源部門が伸長したため、投資や人材といった経営資源がこの分野に集中した結果、生産性の向上や産業の高度化は停滞した」と分析する。
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