東南アジア諸国連合(ASEAN)事務局は9日に発表した「ASEAN投資報告書(AIR)」の最新版で、中国による海外直接投資(FDI、フロー)が増えていると指摘した。域外の投資主体としては昨年、少なくとも2010年以降で初めて日本を上回り米国に次ぐ2位に浮上。電気自動車(EV)など製造の進出ラッシュが背景にある。ASEANは、米中貿易摩擦に伴う「脱中国」の流れや自由貿易協定(FTA)による市場統合を追い風に中国企業のさらなる誘致を図る。
中国企業によるASEANへの直接投資は昨年、前年比19%増の約173億米ドル(約2兆5,800億円)だった。一方、日本は40%減の145億米ドルと急減し、香港(4%増の150億米ドル)にも抜かれて域外からの投資主体として4位に転落した。
昨年のドル高が影響した可能性もある。首位の米国は2.5倍の744億米ドルとなり、全体の3割以上を占めた。ASEAN域内(35%減の219億米ドル)、韓国(26%減の110億米ドル)、台湾(22%減の80億米ドル)などが落ち込む中で米国の増加が際立った。
世界からASEANへの直接投資総額(域内からの投資含む)は前年比微増の2,298億米ドル。受け入れ国では、金融ハブのシンガポールが7割近くを占め、以下インドネシア、ベトナム、フィリピン、マレーシア、タイなどと続いた。新興のASEANの中でも後発のカンボジア、ミャンマー、ラオスへの投資は限定的で、ブルネイは2年連続でマイナスとなった。
■中国の製造業進出で新たな波
ASEAN事務局は報告書で、中国からの投資の増加は10年代にも見られたが、「20年から新たな波が起きている」と指摘。主因の一つが、EVなど製造業において工場や販路を一から構築する「グリーンフィールド投資」だという。
中国による昨年のASEANへの直接投資を業種別に見ると、製造業が63億米ドルで最大。3年連続で増加し、先行する日本による製造業への投資を3年ぶりに上回った。
中国のEV最大手、比亜迪(BYD)はタイ工場建設を皮切りに、ベトナムの部品工場、インドネシアのEV工場などを相次ぎ発表。車載電池大手の寧徳時代新能源科技(CATL)をはじめとする各社による域内のEVバッテリー生産計画も進む。
報告書では、中国による昨年のASEANへのグリーンフィールド投資額(発表ベース)が製造業を中心に急増したとも指摘した。製造業向けは前年比5.5倍の391億米ドルに上ったという。
製造業以外では、中国電子商取引(EC)最大手の阿里巴巴集団(アリババグループ)やIT大手の騰訊控股(テンセント)、インターネット検索大手の百度(バイドゥ)などがASEAN域内で存在感が大きく、デジタル経済をリードしようとしている。
巨大経済圏構想「一帯一路」関連を中心に、中国企業は鉄道や資源、不動産などの建設事業にも食い込む。報告書によると、中国企業が関わる建設事業費(10~23年の累計)はインドネシアの案件が計301億米ドル。これに◇マレーシア=260億米ドル◇ベトナム=236億米ドル◇シンガポール=183億米ドル——などが続いた。
■FTAや経済共同体が後押し
中国の李強(り・きょう)首相とASEANの首脳は10日、ラオスの首都ビエンチャンで会談。同日に発表された議長声明には、ASEAN・中国FTA(ACFTA、05年発効)の改定に向けた交渉で「実質的な妥結を歓迎する」という文言を盛り込んだ。デジタル経済やグリーン経済、サプライチェーン(供給網)の連結性など新分野を含む「ACFTA 3.0」の高度化を図るものだ。
ASEAN投資報告書では、ACFTAや15カ国が署名する地域的な包括的経済連携(RCEP、22年発効)が中国企業の投資決定に寄与するとしている。15年のASEAN経済共同体(AEC)発足を区切りとすると、中国からの投資は年平均で3倍近くに増えており、伸び率は主要投資主体の中で最も高い。
日本は円高を背景とした過去の大規模投資などで、1980年代後半以降のASEANの発展を支えてきた。ただ、近年は中国などに勢いがあり、駐在員らからは日本の存在感を危ぶむ声が出ている。
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