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「日本は変わらず重要」投資省次官、高付加価値化で協力

インドネシアへの海外直接投資(FDI)で、日本は2024年に国・地域別で6位となり、長年維持してきたトップ5から転落した。NNAの単独インタビューに応じた、投資・下流化省のティルタ・ヌグラハ・ムルシタマ次官(投資協力担当)は「日本は変わらず重要な存在だ」と述べ、インドネシアで築いた産業基盤を生かした投資に期待を示した。一方、コモディティーの高付加価値化を目指す「下流化」などインドネシア政府の方向性は明確で、両国が戦略的産業で一致点を見いだす重要性や「人間関係」強化の必要性を強調した。

投資・下流化省/投資調整庁(BKPM)のティルタ次官。日本で修士号と博士号を取得した経歴を持つ。インタビューでは2国間関係を深めるキーワードとして、日本語で「人間関係」を挙げた=2月、ジャカルタ特別州(NNA撮影)

——24年の国・地域別投資額で日本は6位に後退した。
確かに日本はランキングのトップ5から外れたが、日本国内外の経済状況、インドネシアの税制などさまざま要因があるのだろう。ただ、ここで強調しておきたいのは、日本による多くのプロジェクトがインドネシアには残っているということだ。インフラでいえば、都市高速鉄道(MRT)ジャカルタの延伸やパティンバン港開発であり、継続的に自動車、電機などの分野に投資がなされている。長年にわたる友好関係から、インドネシアに日本企業が築いた資本は大きく、基盤が強固だからこそ、現在の落ち込みからまた上昇することが期待される。
日本企業は自信を失わず、インドネシアに残り続けてもらいたいということを伝えたい。中国企業がインドネシアを含めてさまざまな国に進出している競争環境にある中で、私は日本の投資には「ソウル(魂)」があると信じている。投資実行には単なる目先の利益にとらわれない背景や理由があり、インドネシアへの貢献や人材育成についても考えてくれていると思う。
——省の名称にも「下流化」が追加されたように、プラボウォ政権は産業の下流化を重視している。
プラボウォ政権は産業の下流化を継続することに非常に真剣に取り組んでいる。下流化を通じて産業の強化を目指すという明確なコンセプトがあり、ここでの日本の役割に期待している。
下流化では8つのセクターから成り立つ28のコモディティーを指定しており非常に広範囲にわたる。コモディティーに応じて、その加工品の生産拠点がインドネシアに存在するかどうかや、国内で不足している製造能力などが分かるように行程表を作成しており、日本企業が関心のある投資分野を選ぶことができる。

——日本のインドネシアへの投資の特徴は。
過去5年間の直接投資を見ると、上位5州はすべてジャワ島内でその割合は95%以上だ。また、自動車が全体の29%で産業別で最も多い。論理的にはインドネシアの自動車産業を強化することが、日本が投資面で存在感を高めるための方策になる。加えて、インフラ開発や再生可能エネルギー分野も重要になるだろう。
インドネシアの自動車産業における日本の貢献の大きさは誰もが認め、信頼できる品質でインドネシア人のニーズをつかんだ製品も作ってきた。ただ、私が伝えたいのは現在の自動車市場には中国メーカーも、韓国メーカーもいて、彼らの製品は大きく変わってきたということだ。日本はシェアを奪われないよう守る立場にあり、日本メーカーにとって課題といえるだろう。

——中国が投資で存在感を増しているが、その背景をどう見るか。
(投資額が最大の)シンガポールはさまざまな国の投資の経由地となっていることを考慮すれば、公式ではないが国・地域別では香港を含む中国からが最も多いと理解している。豊富な資金力を背景に、ニッケル製錬など産業の下流化の資金として入ってきている。ジョコ・ウィドド前政権時代のジャカルタ—バンドン高速鉄道プロジェクトのように、企業間取引(BtoB)で事業を進めたいというインドネシア政府側の意向などニーズをくみ取ってきた。
有力な政治家同士の関係性が良好なことも、経済面の存在感の大きさにつながっていると考えられるだろう。ただ、インドネシアが一国のみと近い関係を持つということはないと強調しておきたい。
——今後の日本との経済協力については。
現在、日本は再エネやグリーン投資に特に関心を持っているように見える。二酸化炭素(CO2)の回収・貯留(CCS)技術もあるだろう。いずれの場合も、日本が定めた戦略的な産業から代表的なプロジェクトをいくつか選び、そしてそれをインドネシアが進めるコモディティーの下流化と関連させる。こうすることで、両国が共に発展することができると思う。
私の意見では、例えば食料安全保障など、プラボウォ政権が推進するミッション「アスタ・チタ」にある方針に沿って投資を考えるのが最善であり、大きな流れに乗ることができると思う。

——インドネシアでは許認可取得に長い期間がかかるというケースも聞く。
中央政府では、オンライン投資手続きシステム「オンライン・シングル・サブミッション(OSS)」の導入などで環境を整備してきた。ただ、地方やほかの省庁に関連する許認可の取得に時間がかかるなど課題があることは承知している。投資関連の許認可の権限を投資・下流化省に集約する案もある。
投資・下流化省は地方事務所とも密にコミュニケーションを取っている。もし問題や障害が発生した場合には、ぜひ私たちに連絡してほしい。

——パートナーとしての日本の重要性は。
これは非常に個人的な意見となってしまうが、インドネシアと日本の関係というのは何にも代えがたいものだと思っている。日本の大学を卒業した多くの先輩たちがいて、投資調整庁(BKPM)の長官だったギナンジャール氏、国会議員のラフマット・ゴーベル氏のような人もいる。日本語でいう「人間関係」をもっと戦略的に、体系的に活用してほしいと思う。
今はこうした人間関係の強さを復活させようとしている時期かもしれない。インドネシアにいる日本人、日本の大学を卒業後に重要な地位に就いている卒業生たちが熱心に動くことで、もう一度、人間関係を強化できるだろう。日本は依然として重要だと私は信じており、日本政府や企業も中長期的な投資に自信を持ってほしい。
既存の対話のチャンネルを強化したり、新しい方法で日本の企業に近づいたりすることも考える必要がある。ただ、形式や規模にこだわらず、人が集まって会話し交流することで、必ず人間関係は進展していくだろう。(聞き手=和田純一、Anita Fildzah)

<プロフィル>
ティルタ・ヌグラハ・ムルシタマ(Tirta Nugraha Mursitama)
私立ビナ・ヌサンタラ(BINUS、ビヌス)大学で2018年~23年に副学長(研究・技術移転担当)を務め、23~24年に副学長(協力・グローバル連携担当)を歴任。投資調整庁(BKPM、当時)で、20年から経済・国際ビジネス部門の顧問を務める。24年6月より現職。
インドネシア大学卒、学習院大学大学院経営学研究科で修士号と博士号を取得。パジャジャラン大学で国際関係学の博士号を取得。

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——日本のインドネシアへの投資の特徴は。
過去5年間の直接投資を見ると、上位5州はすべてジャワ島内でその割合は95%以上だ。また、自動車が全体の29%で産業別で最も多い。論理的にはインドネシアの自動車産業を強化することが、日本が投資面で存在感を高めるための方策になる。加えて、インフラ開発や再生可能エネルギー分野も重要になるだろう。
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——中国が投資で存在感を増しているが、その背景をどう見るか。
(投資額が最大の)シンガポールはさまざまな国の投資の経由地となっていることを考慮すれば、公式ではないが国・地域別では香港を含む中国からが最も多いと理解している。豊富な資金力を背景に、ニッケル製錬など産業の下流化の資金として入ってきている。ジョコ・ウィドド前政権時代のジャカルタ—バンドン高速鉄道プロジェクトのように、企業間取引(BtoB)で事業を進めたいというインドネシア政府側の意向などニーズをくみ取ってきた。
有力な政治家同士の関係性が良好なことも、経済面の存在感の大きさにつながっていると考えられるだろう。ただ、インドネシアが一国のみと近い関係を持つということはないと強調しておきたい。
——今後の日本との経済協力については。
現在、日本は再エネやグリーン投資に特に関心を持っているように見える。二酸化炭素(CO2)の回収・貯留(CCS)技術もあるだろう。いずれの場合も、日本が定めた戦略的な産業から代表的なプロジェクトをいくつか選び、そしてそれをインドネシアが進めるコモディティーの下流化と関連させる。こうすることで、両国が共に発展することができると思う。
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——インドネシアでは許認可取得に長い期間がかかるというケースも聞く。
中央政府では、オンライン投資手続きシステム「オンライン・シングル・サブミッション(OSS)」の導入などで環境を整備してきた。ただ、地方やほかの省庁に関連する許認可の取得に時間がかかるなど課題があることは承知している。投資関連の許認可の権限を投資・下流化省に集約する案もある。
投資・下流化省は地方事務所とも密にコミュニケーションを取っている。もし問題や障害が発生した場合には、ぜひ私たちに連絡してほしい。

——パートナーとしての日本の重要性は。
これは非常に個人的な意見となってしまうが、インドネシアと日本の関係というのは何にも代えがたいものだと思っている。日本の大学を卒業した多くの先輩たちがいて、投資調整庁(BKPM)の長官だったギナンジャール氏、国会議員のラフマット・ゴーベル氏のような人もいる。日本語でいう「人間関係」をもっと戦略的に、体系的に活用してほしいと思う。
今はこうした人間関係の強さを復活させようとしている時期かもしれない。インドネシアにいる日本人、日本の大学を卒業後に重要な地位に就いている卒業生たちが熱心に動くことで、もう一度、人間関係を強化できるだろう。日本は依然として重要だと私は信じており、日本政府や企業も中長期的な投資に自信を持ってほしい。
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