米国のトランプ大統領が2日に、貿易相手国に対する「相互関税」を課すことを発表し、アジアに衝撃が走った。すべての国に導入される10%の関税を含め、アジア各国・地域に対して最大49%の関税が課されることになる(数値は発表時のもの。以下同)。メコン諸国ではベトナムやタイを筆頭に、カンボジアやラオス、ミャンマーにも40%を超える関税を課すなど、同盟国や「小国」にも厳しいトランプ政権のスタンスが鮮明になった。
米国のホワイトハウスは同日、トランプ氏の声明を発表。各国・地域の為替操作や輸入障壁などを踏まえ、「米国に対して実質的に課している関税」を算出し、カンボジアが97%、ベトナムが90%、中国が67%などと発表した。一例として、「米国は乗用車に2.5%の輸入関税を課しているが、欧州連合(EU)は10%、インドは70%、中国は15%の高関税を課している」と指摘している。米国はすべての国・地域に課す10%の関税を現地時間5日に、上乗せ分を9日に発動する。江戸川大学の酒向浩二教授(社会学部経営社会学科)はNNAに「事前の想定よりも非常に厳しく、国際ルールを完全に逸脱している」とし、「このまま実行されると世界的な混乱は不可避だ」と懸念を示した。
■中国は「主観的な評価」と反発
中国商務省は3日、トランプ米政権が相互関税の導入を表明したことに対し「断固として反対する」との報道官談話を発表し、「自国の権利と利益を守るため、対抗措置を取る」と強調した。談話では、米国が主観的かつ一方的な評価に基づいて相互関税を打ち出すことは、国際的な貿易ルールに合致しておらず、関係国の正当で合法な権利と利益を著しく損なうと訴えた。
その上で「関税の引き上げで米国の問題を解決できないことは歴史が証明している」と指摘。米国の利益を損なうだけでなく、世界経済の発展などを脅かすと懸念を表明した。「貿易戦争に勝者はいない」として、米国に対して関税措置をただちに取りやめることを求め、対等な対話を通じて解決を図ることを促すとした。米国は中国に対し、3月までに20%の追加関税を導入しており、今回発表された分と合わせると合計54%となる。
韓国メディアは「25%の相互関税で、韓国の産業界が危機に直面した」と危機感をあらわにした。特に、「先に発表された自動車向けの25%の関税により、米国での価格上昇は不可避で売り上げの減少が見込まれるだけでなく、米国への輸出比率が大きい現代自動車グループと韓国GMは経営に大きな打撃を受ける可能性が高い」と説明した。韓国GMは国内生産分の大部分が米国向け輸出となる。現代自動車グループは先に、25~28年に米国に210億米ドル(約3兆1,410億円)を投じて米国で現地生産を進める計画を発表。3月末に米ジョージア州の完成車工場が完工したことを発表したばかりだった。
台湾行政院(内閣)は3日、トランプ米政権が台湾に32%の相互関税を課すとしたことに「極めて不合理で、遺憾だ」と表明し、今後、米国側と交渉を行う方針を示した。 行政院の李慧芝報道官は、米国が示した関税率について、台湾と米国の経済貿易の実情を反映しておらず、台湾にとって不公平だと強調した。
その上で、相互関税の計算方法などは根拠が不明だと指摘。台湾の米国向け輸出額や貿易黒字が近年拡大している背景には、米国の顧客企業による台湾の半導体や人工知能(AI)関連製品への強い需要などがあるとし、「米国の経済および安全保障への台湾の貢献が大きいことを示している。高関税を課されることは道理に合わない」と強調した。 李氏は、行政院の卓栄泰院長(首相)が既に通商交渉当局に対し、米国側に交渉を申し入れるよう指示したと説明した。
トランプ氏は演説で、インドが設定する貿易障壁などを踏まえると52%の関税を米国に課していると名指しした。インドにとって米国は最大の輸出相手国で、対米貿易黒字は457億米ドル。インド輸出機関連合(FIEO)のアジャイ・サハイ事務局長は、「26%の関税が輸出企業にとってマイナスになるのは確実」としながらも、「ベトナムや中国、インドネシア、ミャンマーといった国に比べれば有利な位置にいる」との見方を示した。
■メコン諸国に打撃も
今回の発表では、米政権が小国に対しても厳しいスタンスをとる姿勢が浮き彫りになった。タイやベトナムに加え、カンボジアやラオス、ミャンマーといった国にも36~49%の関税を課した。第1次トランプ政権時には、中国などからの生産移管が相次ぎ「貿易戦争の最大の受益者」といわれたベトナムやその周辺国にとって、今後に大きな不安を残すことになった。酒向氏は「大国であれば対抗措置によるアンチ制裁関税が可能だが、特に東南アジア諸国連合(ASEAN)は厳しい対応を迫られることになりそうだ」と指摘。「緩やかな結束が原則のASEANが二国間重視のトランプ政権に突かれており、EUとは対応の格差が目立つ」との見方を示した。
■「最大の受益者」は中国か
トランプ政権の貿易政策には、国内からも懸念の声が上がっている。米国で履物の販売・流通を手がける企業で構成されるFDRAの幹部は、「歴史を振り返っても、高関税政策は消費者に高い政策コストを強いることになり産業に悪影響を与えるなど、よい結果を生むことはなかった」と指摘。第1次トランプ政権で18年に高関税政策が打ち出された際には、アパレルや履物といった品物の価格が上昇したと振り返っている。この業界ではナイキやアディダスをはじめ、ベトナムやカンボジアで生産を手がけている世界大手も多い。酒向氏は「米国で株価が下がり、物価が上昇するといった悪影響が出れば歯止めになると信じたいところだが、大統領の周囲に暴走を止めるブレーンが見当たらない」と話す。反対に、アジアには輸出依存度が高い国が多いことから、「自国通貨が売られると、輸出の不振や輸入インフレによる不況のリスクも抱え込むことになり、各中銀は神経質になっている状況」とみられる。
酒向氏はトランプ政権の一連の政策について「米国発のグローバル化が過度に進んだことで、現在は修正段階の混乱」の現れと見る。ただ、アジアで米国への信認が揺らぐことになれば、「最大の受益者は中国になる」可能性も否定できない。
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米国のホワイトハウスは同日、トランプ氏の声明を発表。各国・地域の為替操作や輸入障壁などを踏まえ、「米国に対して実質的に課している関税」を算出し、カンボジアが97%、ベトナムが90%、中国が67%などと発表した。一例として、「米国は乗用車に2.5%の輸入関税を課しているが、欧州連合(EU)は10%、インドは70%、中国は15%の高関税を課している」と指摘している。米国はすべての国・地域に課す10%の関税を現地時間5日に、上乗せ分を9日に発動する。江戸川大学の酒向浩二教授(社会学部経営社会学科)はNNAに「事前の想定よりも非常に厳しく、国際ルールを完全に逸脱している」とし、「このまま実行されると世界的な混乱は不可避だ」と懸念を示した。
■中国は「主観的な評価」と反発
中国商務省は3日、トランプ米政権が相互関税の導入を表明したことに対し「断固として反対する」との報道官談話を発表し、「自国の権利と利益を守るため、対抗措置を取る」と強調した。談話では、米国が主観的かつ一方的な評価に基づいて相互関税を打ち出すことは、国際的な貿易ルールに合致しておらず、関係国の正当で合法な権利と利益を著しく損なうと訴えた。
その上で「関税の引き上げで米国の問題を解決できないことは歴史が証明している」と指摘。米国の利益を損なうだけでなく、世界経済の発展などを脅かすと懸念を表明した。「貿易戦争に勝者はいない」として、米国に対して関税措置をただちに取りやめることを求め、対等な対話を通じて解決を図ることを促すとした。米国は中国に対し、3月までに20%の追加関税を導入しており、今回発表された分と合わせると合計54%となる。
韓国メディアは「25%の相互関税で、韓国の産業界が危機に直面した」と危機感をあらわにした。特に、「先に発表された自動車向けの25%の関税により、米国での価格上昇は不可避で売り上げの減少が見込まれるだけでなく、米国への輸出比率が大きい現代自動車グループと韓国GMは経営に大きな打撃を受ける可能性が高い」と説明した。韓国GMは国内生産分の大部分が米国向け輸出となる。現代自動車グループは先に、25~28年に米国に210億米ドル(約3兆1,410億円)を投じて米国で現地生産を進める計画を発表。3月末に米ジョージア州の完成車工場が完工したことを発表したばかりだった。
台湾行政院(内閣)は3日、トランプ米政権が台湾に32%の相互関税を課すとしたことに「極めて不合理で、遺憾だ」と表明し、今後、米国側と交渉を行う方針を示した。 行政院の李慧芝報道官は、米国が示した関税率について、台湾と米国の経済貿易の実情を反映しておらず、台湾にとって不公平だと強調した。
その上で、相互関税の計算方法などは根拠が不明だと指摘。台湾の米国向け輸出額や貿易黒字が近年拡大している背景には、米国の顧客企業による台湾の半導体や人工知能(AI)関連製品への強い需要などがあるとし、「米国の経済および安全保障への台湾の貢献が大きいことを示している。高関税を課されることは道理に合わない」と強調した。 李氏は、行政院の卓栄泰院長(首相)が既に通商交渉当局に対し、米国側に交渉を申し入れるよう指示したと説明した。
トランプ氏は演説で、インドが設定する貿易障壁などを踏まえると52%の関税を米国に課していると名指しした。インドにとって米国は最大の輸出相手国で、対米貿易黒字は457億米ドル。インド輸出機関連合(FIEO)のアジャイ・サハイ事務局長は、「26%の関税が輸出企業にとってマイナスになるのは確実」としながらも、「ベトナムや中国、インドネシア、ミャンマーといった国に比べれば有利な位置にいる」との見方を示した。
■メコン諸国に打撃も
今回の発表では、米政権が小国に対しても厳しいスタンスをとる姿勢が浮き彫りになった。タイやベトナムに加え、カンボジアやラオス、ミャンマーといった国にも36~49%の関税を課した。第1次トランプ政権時には、中国などからの生産移管が相次ぎ「貿易戦争の最大の受益者」といわれたベトナムやその周辺国にとって、今後に大きな不安を残すことになった。酒向氏は「大国であれば対抗措置によるアンチ制裁関税が可能だが、特に東南アジア諸国連合(ASEAN)は厳しい対応を迫られることになりそうだ」と指摘。「緩やかな結束が原則のASEANが二国間重視のトランプ政権に突かれており、EUとは対応の格差が目立つ」との見方を示した。
■「最大の受益者」は中国か
トランプ政権の貿易政策には、国内からも懸念の声が上がっている。米国で履物の販売・流通を手がける企業で構成されるFDRAの幹部は、「歴史を振り返っても、高関税政策は消費者に高い政策コストを強いることになり産業に悪影響を与えるなど、よい結果を生むことはなかった」と指摘。第1次トランプ政権で18年に高関税政策が打ち出された際には、アパレルや履物といった品物の価格が上昇したと振り返っている。この業界ではナイキやアディダスをはじめ、ベトナムやカンボジアで生産を手がけている世界大手も多い。酒向氏は「米国で株価が下がり、物価が上昇するといった悪影響が出れば歯止めになると信じたいところだが、大統領の周囲に暴走を止めるブレーンが見当たらない」と話す。反対に、アジアには輸出依存度が高い国が多いことから、「自国通貨が売られると、輸出の不振や輸入インフレによる不況のリスクも抱え込むことになり、各中銀は神経質になっている状況」とみられる。
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