近年、グローバル化経済市場の状況やコロナウィルス流行症の影響を受け、日系企業を含む多くの企業は中国拠点組織の改革や経営方針の変更を迫られており、我々も組織再編及びそれに伴う人員整理に関する多数の案件に携わっています。
今回は組織再編に伴う人員整理を行う時の経済補償金の支払要否について、主要な組織再編スキーム(①持分譲渡 ②合併・分割 ③規模縮小 ④事業譲渡 ⑤企業清算)に応じてそれぞれ説明します。
(本稿は隆安弁護士事務所より提供されたレポートとなります。)
主要な組織再編スキームに応じた経済補償金支払い義務
① 持分譲渡
持分譲渡は日系企業でも最も多く検討実施される組織再編スキームの一つです。
「労働契約法」第33 条「雇用者企業の名称、法定代表人、主要責任者或は投資者等変更などの事項は、労働契約の履行に影響しない」との規定により、持分譲渡の場合、現地法人が労働者と締結した労働契約は影響を受けず従来通りに履行されるものであり、法律上は、労働者に対して事前通知や経済補償金の支払いが不要です。
しかしながら、実務上、労働者は出資者の変更を理由として、勤務年数をリセットし経済補償金の支払いを要求することがあり、企業が上手く対処できない場合、ストライキやサボタージュなど集団性事件に発展するケースも少なくありません。
よって、持分譲渡の場合でも、従業員と関係ないと見込んで譲渡後に簡単な書面通知だけで済ませるということではなく、従業員とのコミュニケーションを重視し、持分譲渡に至った経緯や将来の労働条件などをよく説明するなどの誠実な対応が重要且つ必要不可欠なものと言えます。我々の実務経験上、意見聴取とコミュニケーションは集団事件の予防と処理に大切な役割を果たしていると言えます。
② 合併・分割
「労働契約法」第34 条「雇用者企業に合併或は分割等の状況が発生した場合、元の労働契約は継続して有効であり、労働契約はその権利と義務を引き継ぐ雇用者企業より継続して履行する」と定めています。即ち、合併又は分割の場合、持分譲渡スキームと同様、法的には従業員への経済補償金の支払義務がありません。但し、法律に定められた通りの対応だけをすれば十分であるという発想はやめ、状況に応じて、従業員に対してしっかりと事情を説明した方が良いと思われます。
③ 規模縮小
会社が経営状況悪化等に伴い規模を縮小しようとする場合、機構の簡素化と人員配置の最適化を図り、組織に不適格・不要な余剰人員を削減することになると思われます。この場合、規定に沿った労働契約の解除理由がないため、通常、労働契約法36 条に定める合意解除の適用を検討するケースが多いです。「労働契約法」
第36 条「使用者と労働者は協議合意した場合、労働契約を解除することができる」と定めており、即ち、解除条件や経済補償金などについて労使双方が協議のうえ合意した下で労働契約を解除することになります。合意解除時の経済補償金については、法律で定める経済補償金に一定金額を上乗せして合意に至るケースも見受けられます。
④ 事業譲渡
事業譲渡とは、会社の事業の全部又は一部を他社に譲渡することを指します。この場合、譲受側の企業が資産や事業だけを引き受け従業員を引き受けないことも多くみられます。仮に、譲受側の企業は必要に応じて一部の従業員を移籍しようとしても、法律上では従業員はまず譲渡側企業より労働契約が解除され、改めて労働契約を締結することになりますので、労働契約終了時に経済補償金の支払い義務が生じます。なお、グループ内の組織再編であれば、従業員との協議を経て合意に達した場合、前職の勤務年数を現職に累計して計算する前提で、経済補償金を譲渡時点で支払わないことを従業員と協議するという方法も考えられます。事業の一部を譲渡し、会社が存続する場合、譲渡対象となる事業の関連部門がなくなるため、配置転換や人員削減が必要となります。
「労働契約法」第40 条第(三)項に、「下記の状況のいずれかがある場合、使用者は30 日前までに書面により労働者本人に通知するか、又は労働者に対し1 ヶ月の賃金を余分に支給した後、労働契約を解除することができる。(三)労働契約の締結時に依拠した客観的な状況に重大な変化が起こり、労働契約の履行が不可能となり、使用者と労働者が協議を経ても労働契約の内容変更について合意できなかった場合」と規定しています。実務上、企業特定部門の再編、企業財産の移転などが企業客観的な状況の重大な変化に該当すると判断されますので、会社はこの第40 条に基づき、1 ヵ月前通知又は1 ヵ月分の賃金に相当する代通知金を支払う前提で労働契約を解除することができます。
一方、20 人以上又は20 人未満だが企業従業員総数の10%以上の人員を削減する場合、「労働契約法」第41 条の規定に従い、30 日前までに労働組合又は全従業員に対し状況を説明し、労働組合又は従業員の意見を聴取後に、人員削減方案を労働行政部門に報告したうえで人員削減を行うという法定なプロセスを経て人員削減をすることができます。但し、リストラとして労働行政部門に認められるのが非常に難しいため、法律上の定めはあるものの実務上幅広く採用される手法ではないようです。事業の全部を譲渡し、会社が清算する場合、次の企業清算をご参照ください。
⑤ 企業清算
「労働契約法」第44 条第(五)項「以下の事由の何れか一つに該当する場合、労働契約は終了する。(五)使用者が営業許可書を取り消され、閉鎖を命じられ、取り消された場合又は使用者が事前解散を決定した場合」によれば、会社が撤退を決定し、企業清算を行う場合、従業員との労働契約が法的に終了することになります。この場合、「労働契約法」第46 条の規定に基づき、法律通りに経済補償金を支払わなければなりません。経済補償金は労働者の当該雇用者における勤務年数に応じて計算し、1 年勤務毎に1 ヶ月の賃金標準で労働者に支払うものとし、6 か月以上1 年未満の場合1 年として計算し、6 か月未満の場合半月として計算します。
企業清算に伴う労働関係終了は法定事由であり、従業員に事前に説明したり協議したりする必要がありませんが、実務上、日系企業の清算は操業停止日から手続き実施までかなり時間がかかるケースがあります。清算プロセスに入るより大分早期に第44 条の規定に基づき従業員と労働関係を終了させる場合、企業清算を事由とすることには一定のリスクがあると思われます。このようなリスクを回避するため、会社は「労働契約法」第36 条に規定される合意解除条項を適用することがあります。合意解除は、労使双方の合意の下で労働関係を解除し、合意解除協議書に署名した後、違法内容がない限り、当該協議書の規定が労使双方に有効となるため、労働争議のリスクが低いというメリットがあります。この場合の経済補償金については、前述と同様に、法律で定める経済補償金に一定金額を上乗せして合意に至るケースもよく見受けられます。
(以上)
隆安弁護士事務所 方君婷弁護士
本稿に関するお問合せがありましたらお気軽に以下までご連絡ください。
北京市隆安(深セン)弁護士事務所
住所:深セン市福田区益田路6009 号新世界中心49 階
連絡先:方 君婷 弁護士
メール:jatty851@163.com
fangjunting@longanlaw.com
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お問合せはこちら:
NAC Meinan (China) Holdings Ltd.
TEL: (+86) 755-8629-0501
URL: http://cn.nacglobal.net/
E-mail: hamada@nac-meinan.net
(2021 年5 月作成)
※各地の運用状況が異なる場合があります。実際の状況につきましては各所在地にて再度ご確認ください。
※本レポートにつきましては、有料顧問顧客様のみに送付させていただいており、本メール受取人様限りとさせて頂きます。
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(本稿は隆安弁護士事務所より提供されたレポートとなります。)
主要な組織再編スキームに応じた経済補償金支払い義務
① 持分譲渡
持分譲渡は日系企業でも最も多く検討実施される組織再編スキームの一つです。
「労働契約法」第33 条「雇用者企業の名称、法定代表人、主要責任者或は投資者等変更などの事項は、労働契約の履行に影響しない」との規定により、持分譲渡の場合、現地法人が労働者と締結した労働契約は影響を受けず従来通りに履行されるものであり、法律上は、労働者に対して事前通知や経済補償金の支払いが不要です。
しかしながら、実務上、労働者は出資者の変更を理由として、勤務年数をリセットし経済補償金の支払いを要求することがあり、企業が上手く対処できない場合、ストライキやサボタージュなど集団性事件に発展するケースも少なくありません。
よって、持分譲渡の場合でも、従業員と関係ないと見込んで譲渡後に簡単な書面通知だけで済ませるということではなく、従業員とのコミュニケーションを重視し、持分譲渡に至った経緯や将来の労働条件などをよく説明するなどの誠実な対応が重要且つ必要不可欠なものと言えます。我々の実務経験上、意見聴取とコミュニケーションは集団事件の予防と処理に大切な役割を果たしていると言えます。
② 合併・分割
「労働契約法」第34 条「雇用者企業に合併或は分割等の状況が発生した場合、元の労働契約は継続して有効であり、労働契約はその権利と義務を引き継ぐ雇用者企業より継続して履行する」と定めています。即ち、合併又は分割の場合、持分譲渡スキームと同様、法的には従業員への経済補償金の支払義務がありません。但し、法律に定められた通りの対応だけをすれば十分であるという発想はやめ、状況に応じて、従業員に対してしっかりと事情を説明した方が良いと思われます。
③ 規模縮小
会社が経営状況悪化等に伴い規模を縮小しようとする場合、機構の簡素化と人員配置の最適化を図り、組織に不適格・不要な余剰人員を削減することになると思われます。この場合、規定に沿った労働契約の解除理由がないため、通常、労働契約法36 条に定める合意解除の適用を検討するケースが多いです。「労働契約法」
第36 条「使用者と労働者は協議合意した場合、労働契約を解除することができる」と定めており、即ち、解除条件や経済補償金などについて労使双方が協議のうえ合意した下で労働契約を解除することになります。合意解除時の経済補償金については、法律で定める経済補償金に一定金額を上乗せして合意に至るケースも見受けられます。
④ 事業譲渡
事業譲渡とは、会社の事業の全部又は一部を他社に譲渡することを指します。この場合、譲受側の企業が資産や事業だけを引き受け従業員を引き受けないことも多くみられます。仮に、譲受側の企業は必要に応じて一部の従業員を移籍しようとしても、法律上では従業員はまず譲渡側企業より労働契約が解除され、改めて労働契約を締結することになりますので、労働契約終了時に経済補償金の支払い義務が生じます。なお、グループ内の組織再編であれば、従業員との協議を経て合意に達した場合、前職の勤務年数を現職に累計して計算する前提で、経済補償金を譲渡時点で支払わないことを従業員と協議するという方法も考えられます。事業の一部を譲渡し、会社が存続する場合、譲渡対象となる事業の関連部門がなくなるため、配置転換や人員削減が必要となります。
「労働契約法」第40 条第(三)項に、「下記の状況のいずれかがある場合、使用者は30 日前までに書面により労働者本人に通知するか、又は労働者に対し1 ヶ月の賃金を余分に支給した後、労働契約を解除することができる。(三)労働契約の締結時に依拠した客観的な状況に重大な変化が起こり、労働契約の履行が不可能となり、使用者と労働者が協議を経ても労働契約の内容変更について合意できなかった場合」と規定しています。実務上、企業特定部門の再編、企業財産の移転などが企業客観的な状況の重大な変化に該当すると判断されますので、会社はこの第40 条に基づき、1 ヵ月前通知又は1 ヵ月分の賃金に相当する代通知金を支払う前提で労働契約を解除することができます。
一方、20 人以上又は20 人未満だが企業従業員総数の10%以上の人員を削減する場合、「労働契約法」第41 条の規定に従い、30 日前までに労働組合又は全従業員に対し状況を説明し、労働組合又は従業員の意見を聴取後に、人員削減方案を労働行政部門に報告したうえで人員削減を行うという法定なプロセスを経て人員削減をすることができます。但し、リストラとして労働行政部門に認められるのが非常に難しいため、法律上の定めはあるものの実務上幅広く採用される手法ではないようです。事業の全部を譲渡し、会社が清算する場合、次の企業清算をご参照ください。
⑤ 企業清算
「労働契約法」第44 条第(五)項「以下の事由の何れか一つに該当する場合、労働契約は終了する。(五)使用者が営業許可書を取り消され、閉鎖を命じられ、取り消された場合又は使用者が事前解散を決定した場合」によれば、会社が撤退を決定し、企業清算を行う場合、従業員との労働契約が法的に終了することになります。この場合、「労働契約法」第46 条の規定に基づき、法律通りに経済補償金を支払わなければなりません。経済補償金は労働者の当該雇用者における勤務年数に応じて計算し、1 年勤務毎に1 ヶ月の賃金標準で労働者に支払うものとし、6 か月以上1 年未満の場合1 年として計算し、6 か月未満の場合半月として計算します。
企業清算に伴う労働関係終了は法定事由であり、従業員に事前に説明したり協議したりする必要がありませんが、実務上、日系企業の清算は操業停止日から手続き実施までかなり時間がかかるケースがあります。清算プロセスに入るより大分早期に第44 条の規定に基づき従業員と労働関係を終了させる場合、企業清算を事由とすることには一定のリスクがあると思われます。このようなリスクを回避するため、会社は「労働契約法」第36 条に規定される合意解除条項を適用することがあります。合意解除は、労使双方の合意の下で労働関係を解除し、合意解除協議書に署名した後、違法内容がない限り、当該協議書の規定が労使双方に有効となるため、労働争議のリスクが低いというメリットがあります。この場合の経済補償金については、前述と同様に、法律で定める経済補償金に一定金額を上乗せして合意に至るケースもよく見受けられます。
(以上)
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