タイ中央銀行(BOT)は10日、金融政策委員会(MPC)を開き、政策金利(翌日物レポ金利)を0.25%引き上げ、0.75%とすることを決めた。2020年5月以降、16会合連続で政策金利を据え置いてきたが、消費者物価指数(CPI)が今年5月から3カ月連続で7%を超えており、物価上昇が景気回復の足かせになりかねない状況が続いている。このため、約2年にわたって続けてきた過去最低水準の政策金利の引き上げを全員一致で決めた。利上げは18年12月以来となり、3年8カ月ぶり。[2374832_2.png]
10日のMPCでは、7人の委員全員が利上げで一致し、6人が0.25%、1人が0.50%の引き上げを主張した。中銀のピティ総裁補(金融政策担当)は声明で、新型コロナウイルス感染症対策の行動制限が緩和され、タイ経済は順調に回復しているとの認識を表明。今年末までに新型コロナウイルス感染症の流行前の水準まで回復するとの見込みを示した。
一方で、5~7月のCPI上昇率は3カ月連続で7%を超えるなど、足元の物価上昇が景気回復の重しになりかねないと指摘。タイ政府の目標レンジである1~3%に戻るのは23年以降になるとの見通しを示した上で、足元のインフレを抑えるため、政策金利の引き上げを決めたと説明している。
■利上げは市場の予想通り
三井住友銀行の市場営業統括部エコノミスト、鈴木浩史氏は、中銀が政策金利を0.75%に引き上げたことについて、「金融市場参加者の間で広く予想されていたことであり、サプライズではない」と指摘した。7月のCPI上昇率が7.61%で、食品やエネルギーを除いたコア・ベースで見ても2.99%上昇と、高い伸びを記録。また、中央賃金委員会が最低賃金を5~8%引き上げる見通しを示しており、鈴木氏は「インフレの伸びを考えれば、賃金上昇もやむなしというところだが、中銀にとってはインフレ加速、賃金上昇がスパイラル的に続くことには利上げにより歯止めをかける必要があるということだろう」との見解を示した。
利上げによるタイ経済の影響については、住宅ローン金利やオートローン金利の上昇が見込まれると指摘。ただし、既に金融市場では相応に利上げを織り込んできたこともあり、「経済に大きな影響が出るとは見ていない」とした。
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中銀は今後、9月28日と11月30日に、年内に2回のMPCを予定している。鈴木氏は、今後の政策金利の見遠しについて「中銀は『金利正常化は、ゆっくりとしたペースで行われるべきだ』としている。年末にかけても、タイ中銀の利上げは続く見込みだが、ペースはゆっくりとしたものにとどまるだろう。年末までに、さらに0.25%の利上げが実施され、政策金利は1%になると予想している」とコメントした。
■産業界からは不安の声も
3年8カ月ぶりとなる利上げに対して、不安と救済策を求める声も目立つ。バンコクポストによると、タイ中小企業連盟のサンチャイ会長は、利上げによって中小企業の資金調達が上昇し、競争力低下や雇用の抑制につながることに懸念を示す。「利上げの目的が物価上昇の抑制であれば、中小企業への影響を最小限にすべく適切な政策を伴うべきだ」と訴えている。具体的には金融機関に対して、利上げ後も中小企業向けの貸出金利の引き上げを遅らせ、債務返済に対する猶予期間にも余裕を持たせるべきだと主張している。中小企業の債務が不良債権と評価されないよう、金融機関は、まずは3カ月程度の支払期間の延長を実施。場合によっては再延長も考慮すべきだと訴えている。
タイ観光評議会(TCT)のチャムナン会長も、利上げによる家計債務の増大が消費者心理を冷え込ませ、回復途上にある観光業に冷や水をかける可能性があるとの懸念を示した。
■商銀各行、当面の金利据え置き表明
こうした声に対して、主要な商業銀行各行は、貸出金利の当面の据え置きを表明している。
バンコクポストによると、カシコン銀のカティヤ最高経営責任者(CEO)は、タイ経済は現在も回復途上であり、ロシアのウクライナ侵攻などを背景とした物価上昇が続く中、銀行は企業や消費者の資金需要に対して適切に対応する責任があると表明。今回の利上げによって、直ちに貸出金利を引き上げることはないと明言した。一方で、年内に予定されているMPCで追加の利上げが決定された場合は、同行も利上げに踏み切る可能性を示唆した。
クルンタイ銀行のパヨン頭取、サイアム商業銀行のクリスCEO、バンコク銀のチャートシリ頭取は、いずれも政策金利の引き上げが企業などの資金需要を停滞させることがないよう、当面の金利据え置きを明言。追加利上げが行われた場合は柔軟に対応するとして、貸出金利の引き上げに含みを持たせた。
アーコム財務相も景気回復の腰折れを回避するため、市中銀行は当面、現行の金利を据え置くことが妥当との考えを示した。
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一方で、5~7月のCPI上昇率は3カ月連続で7%を超えるなど、足元の物価上昇が景気回復の重しになりかねないと指摘。タイ政府の目標レンジである1~3%に戻るのは23年以降になるとの見通しを示した上で、足元のインフレを抑えるため、政策金利の引き上げを決めたと説明している。
■利上げは市場の予想通り
三井住友銀行の市場営業統括部エコノミスト、鈴木浩史氏は、中銀が政策金利を0.75%に引き上げたことについて、「金融市場参加者の間で広く予想されていたことであり、サプライズではない」と指摘した。7月のCPI上昇率が7.61%で、食品やエネルギーを除いたコア・ベースで見ても2.99%上昇と、高い伸びを記録。また、中央賃金委員会が最低賃金を5~8%引き上げる見通しを示しており、鈴木氏は「インフレの伸びを考えれば、賃金上昇もやむなしというところだが、中銀にとってはインフレ加速、賃金上昇がスパイラル的に続くことには利上げにより歯止めをかける必要があるということだろう」との見解を示した。
利上げによるタイ経済の影響については、住宅ローン金利やオートローン金利の上昇が見込まれると指摘。ただし、既に金融市場では相応に利上げを織り込んできたこともあり、「経済に大きな影響が出るとは見ていない」とした。
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■産業界からは不安の声も
3年8カ月ぶりとなる利上げに対して、不安と救済策を求める声も目立つ。バンコクポストによると、タイ中小企業連盟のサンチャイ会長は、利上げによって中小企業の資金調達が上昇し、競争力低下や雇用の抑制につながることに懸念を示す。「利上げの目的が物価上昇の抑制であれば、中小企業への影響を最小限にすべく適切な政策を伴うべきだ」と訴えている。具体的には金融機関に対して、利上げ後も中小企業向けの貸出金利の引き上げを遅らせ、債務返済に対する猶予期間にも余裕を持たせるべきだと主張している。中小企業の債務が不良債権と評価されないよう、金融機関は、まずは3カ月程度の支払期間の延長を実施。場合によっては再延長も考慮すべきだと訴えている。
タイ観光評議会(TCT)のチャムナン会長も、利上げによる家計債務の増大が消費者心理を冷え込ませ、回復途上にある観光業に冷や水をかける可能性があるとの懸念を示した。
■商銀各行、当面の金利据え置き表明
こうした声に対して、主要な商業銀行各行は、貸出金利の当面の据え置きを表明している。
バンコクポストによると、カシコン銀のカティヤ最高経営責任者(CEO)は、タイ経済は現在も回復途上であり、ロシアのウクライナ侵攻などを背景とした物価上昇が続く中、銀行は企業や消費者の資金需要に対して適切に対応する責任があると表明。今回の利上げによって、直ちに貸出金利を引き上げることはないと明言した。一方で、年内に予定されているMPCで追加の利上げが決定された場合は、同行も利上げに踏み切る可能性を示唆した。
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