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介護市場、「日本式」に商機千葉つばさ参入、制度整備に期待

ベトナムで日本企業による介護市場への参入が始まっている。同国では富裕層の高齢者向け介護施設やマンションの建設が増えてきており、千葉県君津市で特別養護老人ホームなどを展開するつばさグループは、2023年7月に首都ハノイでオープン予定の介護施設を運営する。ベトナムでは急速に高齢化社会が進んでおり、介護需要の拡大は確実視されるが、有償のサービスを普及させるには公的な介護保険の整備が課題となる。[2387137_1.jpg]
つばさグループが運営する施設は「フオンドンあさひ」。不動産開発会社インチャコムが北トゥーリエム区で建設中の7階建ての施設で、300人余りを受け入れる。インチャコムは8,000億ドン(3,400万米ドル、47億円)を投じてレストランや露天風呂、スパなどを併設し、「ハノイで最高の高齢者のコミュニティー」をつくる目標だ。
フオンドンあさひの管理にあたるつばさグループは現地で100人程度を雇い入れ、日本で培った介護のノウハウを持ち込む。君津市で特別養護老人ホームなどを運営するつばさがベトナムに進出する狙いの一つが、日越間での人材の循環を可能にすることだ。
つばさの天笠寛代表はフオンドンあさひを通じて「日本で働く若者をベトナムで育成し、日本で勤務後はベトナム側でリーダーになってもらう」と意欲を語る。君津の施設では技能実習生や特定技能資格などで約30人のベトナム人が働いている。ベトナムで介護事業を始めることで、帰国後に日本での経験を生かせる雇用の受け皿を作る。
天笠氏によれば、日本式介護の強みは「コミュニケーションの取り方」にある。日本で受け入れるベトナム人実習生にも高齢者の目線に合わせて会話するよう徹底している。インチャコムからの期待も大きく、同社が計画している介護学校の運営への参画も求められている。
つばさがベトナム市場に参入するもう一つの狙いが高齢化社会を見すえた先行投資だ。65歳以上の高齢者が人口に占める割合は現在の9%から2050年には20%と、日本の04年とほぼ同じ水準に達する。
高齢化とともに少子化も進むことを考えれば、家族以外による介護サービスの拡充は不可避だ。天笠氏は「今から準備しておけば、ベトナムでモデルケースになれる」と先行組に入るメリットを語る。インチャコム以外のベトナム企業からも協力を持ちかけられているという。
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■「市場は手つかず」
不動産サービス大手サヴィルズ・ベトナムによれば、全国63省市のうち高齢者専用の住宅があるのは32省市にとどまり「市場はほぼ手つかず」だが、関心を持つ企業は増えている。
都市開発大手エコパーク・グループは、北部フンイエン省のエコパーク都市区で日本式の高齢者向けタワーマンション「メラキ・レジデンシーズ」を建設すると発表した。高齢者向けマンションは国内初という。
老齢の親を施設に預けることへの抵抗感は、かつての日本と同様にベトナムでも根強いが、現役世代の意識は変わり始めている。南部ホーチミン市に住む40代の女性は、兄妹で親の世話をしているが「自分自身は老後、施設に住むことを考えている」と語る。女性は独身で子どもがいないためで、施設に入居するための貯蓄も進めているという。
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■公的保険の未整備、政府も問題意識
介護サービスを普及させる上で障壁になるのが費用だ。サヴィルズによれば、既存の民間老人ホームは1人部屋で月1,500万ドン程度かかる。公的老齢年金の平均支給額は月540万ドンとされるベトナムで、全額を自費でまかなえる一般家庭は限られる。サービス費用が中間層の手に届く水準に下がらなければ、市場の拡大は頭打ちになる。
ベトナムの高齢化問題に詳しい三菱総合研究所ハノイ駐在員事務所の緒方亮介所長は、「介護サービスの普及を目指すのなら介護保険が必要」と指摘する。日本では00年に介護保険制度が始まり、民間事業者の参入が進んだ。緒方氏は日本が介護保険制度を通じて培った経験がベトナムで生かせると考えている。
緒方氏によれば、ベトナム政府も介護保険の必要性を認識し始めているが、平均所得が日本を下回る経済状況で保険料の財源確保は容易ではない。老人ホームだけでなく、巡回や訪問型など多様な介護サービスを利用しやすくする必要があるという。

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