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最低賃金改定、13日に閣議決定生活支援へ10月から適用を開始

タイ政府は、国家賃金委員会が先月の会議で承認した全国9区分の最低賃金の引き上げ案について、10月1日からの適用開始に向けて、今月13日に閣議決定する見込みとなっている。物価高騰で国民の生活がひっ迫する中、賃上げを前倒しする。一方で、新型コロナウイルス感染症の流行から回復途上の企業には新たな負担増となる。賃上げによって物価上昇にさらに加速する可能性もあり、タイ経済の回復に吉と出るか、凶と出るか予断を許さない状況だ。[2392959_1.jpg]
タイ地元紙によると、スチャート労働相は6日、日額最低賃金の引き上げ案について、13日の閣議に提案する方針を明らかにした。10月1日付の適用開始に間に合うとみている。
最低賃金引き上げ案は国家賃金委員会が先月の会議で承認。328~354バーツ(約1,285~1,390円)の9区分に分け、現状から平均5.02%上昇し、中央値は337バーツとなる。実施されると、2020年1月以来で約3年ぶり。
9区分のうち、最も高い354バーツはチョンブリとラヨーンの東部2県と南部プーケット県に適用される。次いで、首都バンコクとパトゥムタニ、ナコンパトム、ノンタブリ、サムットプラカン、サムットサコンの近郊5県が353バーツとなっている。東部チャチュンサオ県は345バーツ、北部アユタヤ県は343バーツ。最も低い328バーツはヤラー、パッタニ、ナラティワートの深南部3県と東北部ウドンタニ県に適用される。
国家賃金委は、記録的な物価上昇を鑑みて賃上げを実施する一方、政府には企業の負担を軽減するための支援策を実施するよう提案。関係省に政策の検討を指示するよう提言している。国家賃金委員会の委員長を務めるブーンチョブ労働次官は、物価上昇が14年ぶりの水準で推移していることを踏まえ、国民の生活コストと企業側の負担の双方を考慮した上で、賃上げ率と実施時期を決めたと説明した。
最低賃金の引き上げの前倒しを巡っては、タイ工業連盟(FTI)やタイ貿易・産業雇用者連盟(ECONTHAI)などの経済団体が反対の声を上げていたが、国家賃金委員会は生活コストの上昇をより重視し、前倒しの提案を決めた。

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■来年以降の物価を押し上げ
タイで最後に最低賃金が引き上げられたのは20年1月。今年10月1日の実施が正式に決定すれば2年10カ月ぶりとなるが、上昇幅も過去10年で最大となる。12年に最低賃金が全国一律で300バーツに引き上げられた後、20年までに地域別に313~336バーツの範囲で引き上げた。
タイの商業銀行大手カシコン銀行傘下のシンクタンク、カシコン・リサーチセンターは、今回の最低賃金の引き上げは、タイ経済が過去10年で行ってきた条件とは大きく異なっていると指摘する。最低賃金を全国一律で300バーツに引き上げた12年当時のタイの経済成長率は6.4%、インフレ率は3.02%だった。これに対し、22年第2四半期(4~6月)の経済成長率は2.5%にとどまる一方、直近3カ月のインフレ率は7%台で推移している。
タイ経済は、新型コロナウイルス感染症から回復途上にある一方、原油高や世界的な供給不足を背景に、物価上昇は14年ぶりの高い水準で推移している。
最低賃金の前倒しによって企業のコストが上昇することで、物価上昇に拍車をかける可能性もある。カシコン・リサーチセンターは、企業は労務コストの上昇をただちに価格転嫁することはないため、年内に物価上昇が大きく加速することはないが、来年以降の物価上昇に影響するとみている。
■低所得層にも成長の果実を=識者
タイ国立タマサート大学経済学部のキリヤ准教授は、今回の最低賃金の引き上げについて、物価上昇で困窮する低所得層の当面の救済にはなるものの、国内総生産(GDP)の押し上げ効果は限定的にとどまるとみている。
キリヤ氏は、地元紙バンコクポストに対して、直近3カ月の物価上昇率が7%を超える高い水準で推移しており、低所得層の支出に占める食費の比率は45%を占めるため、賃上げが食品価格の上昇と相殺されると指摘。
過去10年で低所得層の1日当たりの賃金は318バーツから333バーツに、わずか15バーツしか上昇していないと説明した。年率換算の賃金上昇率は4.7%に過ぎず、過去10年のGDP成長率が20%ほどであることを考えると、低所得層がタイの経済成長の恩恵から取り残されていると話す。
年率5%に満たない賃金上昇は不十分として、より多くの国民が経済成長の恩恵を受けられる施策の必要性を強調した。

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最低賃金の引き上げの前倒しを巡っては、タイ工業連盟(FTI)やタイ貿易・産業雇用者連盟(ECONTHAI)などの経済団体が反対の声を上げていたが、国家賃金委員会は生活コストの上昇をより重視し、前倒しの提案を決めた。
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■来年以降の物価を押し上げ
タイで最後に最低賃金が引き上げられたのは20年1月。今年10月1日の実施が正式に決定すれば2年10カ月ぶりとなるが、上昇幅も過去10年で最大となる。12年に最低賃金が全国一律で300バーツに引き上げられた後、20年までに地域別に313~336バーツの範囲で引き上げた。
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■低所得層にも成長の果実を=識者
タイ国立タマサート大学経済学部のキリヤ准教授は、今回の最低賃金の引き上げについて、物価上昇で困窮する低所得層の当面の救済にはなるものの、国内総生産(GDP)の押し上げ効果は限定的にとどまるとみている。
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過去10年で低所得層の1日当たりの賃金は318バーツから333バーツに、わずか15バーツしか上昇していないと説明した。年率換算の賃金上昇率は4.7%に過ぎず、過去10年のGDP成長率が20%ほどであることを考えると、低所得層がタイの経済成長の恩恵から取り残されていると話す。
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